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2016年08月07日

第316回 コミンテルン(一)






文●ツルシカズヒコ




 一九二〇年八月十七日、「社会改造運動の闘将養成」を目的にした、山崎今朝弥主催の平民大学夏期講習会が大杉宅で開催され、受講生二十人ばかりがやって来た(『日録・大杉栄伝』)。

 開始してすぐに解散を命じられたので、鎌倉署の署長に向かって大杉が馬鹿だの野郎だのと抗議、鎌倉中の評判になり、家主からの立ち退き話にまでなった(「鎌倉の若衆」/『労働運動』一九二一年二月一日・二次二号/大杉栄全集刊行会『大杉栄全集 第四巻』/日本図書センター『大杉栄全集 第14巻』)。

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 このころ大杉は「新獄中記」を執筆していたが、その原稿に三月に出獄して以来、運動不足で太ってきたと書いている。


 出た当座の十四半のカラが今では十五半になり、九文七分の足袋が十文になり、六寸五分の着物が七寸三分になつた。

 目方も三貫近く増えて、十六になん/\としてゐる。


(「新獄中記」/『漫文漫画』・一九二二年十一月・アルス/大杉栄全集刊行会『大杉栄全集 第四巻』/日本図書センター『大杉栄全集 第14巻』)


 カラ(首回り)はオックスフォードシャツサイズのインチであろうから、十五半は三十九センチ、十文の足袋は二十四センチ、体重十六貫は六十キロである。





 この八月ごろ、大杉と和田久太郎と近藤憲二が大森の山川均宅を訪れた。

 菊栄は病気のために転地していて、均はひとりで自炊生活をしていたので、大杉たちが焼豚を手みやげに訪れたのである。

 三歳になった振作もいた。

 四人の話はいつのまにかロシア革命の批評になっていた。

 焼豚がつきたころ、大杉が思い出したようにこう言った。
 

『一たい、クロポトキンがパンの略取の中に描いたやうなあんな理想的の社会が、革命後にすぐに実現するものだらうか? 君はどう思ふ? すると思はれるかい。』

『無論、しないに極まつてゐるよ。』

『ウン、僕にもそんな気がするんだ。然し……。』


(山川均「大杉君と最後に会ふた時」/『改造』一九二三年十一月号)


 大杉のこの「然し」をきっかけに、もう一度話に花が咲いた。





 生産者のデイクテートル・シツプという思想は、早くからアナキストのうちにも唱へた者がある。

 地方々々に於けるソヴイエトの執政はよい。

 然し地方のソヴイエトの権力を集中して、中央政府を造つたのが悪るい。

 ボリセヰキは秩序の恢復を急いだために、もつと進展する筈の革命を縊びり殺したのだ。

 外国の武力干渉に対抗するためには、バルチザンで沢山だ。

 赤軍の必要はない。

 要するにロシアを革命状態のうちにおいたまゝ、もつと撹きまぜてをれば、クロポトキンの理想通りの社会が実現せぬまでも、もつと善い社会が其中から生まれてゐたに相違ない。

 これが大杉君の結論であった。

 四人は暫く黙つてゐた。


(同上)





「日本脱出記」と大杉豊『日録・大杉栄伝』によれば、二十三歳の朝鮮人の青年が鎌倉の大杉宅をふいに訪ねて来たのは、一九二〇(大正九)年八月の末ごろだった。

 青年は上海の朝鮮借政府の主要な地位にいる同志の使者として来た李増林だった。

 近く上海で開かれるコミンテルン極東社会主義者会議に、日本の代表者として大杉に出席してくれないかという要請だった。

 李は大杉に会う前に堺と山川に要請したが、断られたという。

 李をどこまで信用していいのか皆目わからないし、極秘性の高い案件なので社会主義同盟の同志に謀るわけにもいかず、堺と山川が断ったのも無理はなかった。

 しかし、大杉は快諾した。





 ……一二時間と話ししてゐるうちに、M(※李)が本物かどうか位の事は分る。

 そして本物とさへ分れば、其の持つて来た話しに、多少は乗つてもいい訳だ。

 しかも堺や山川は、当時既に、殆んど、或は全くと云つてもよかつたかも知れない、共産主義に傾いてゐたのだ。

 が、堺や山川の腹の中には、それよりももつと大きな、或物ものがあつたのだ。

 それは危険の感じだ。

 ……まかり間違ふと内乱罪にひつかけられる恐れがある。

 これは其の当時僕等が皆んな持つてゐた恐怖だ。

 そして此の恐怖が、堺や山川をして、上海の同志の提案にまるで乗らせなかつた、一番の原因なのだ。

 Mは其の事は十分に知つてゐたやうだつた。

 そして僕が……『よし行かう』と一言云つた時には、彼れは寧ろ自分の耳を疑つてゐるかのやうにすら見えた。


(「日本脱出記」/『改造』一九二三年七月号/『日本脱出記』・アルス・一九二三年十月/大杉栄全集刊行会『大杉栄全集 第三巻』/日本図書センター『大杉栄全集 第13巻』)


●あきらめない生き方 詳伝・伊藤野枝 index



posted by kazuhikotsurushi2 at 16:00| 本文
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1955年生まれ。早稲田大学法学部卒業。『週刊SPA!』などの編集をへてフリーランスに。著書は『「週刊SPA!」黄金伝説 1988〜1995 おたくの時代を作った男』(朝日新聞出版)など。
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