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2016年06月30日

第267回 米騒動






文●ツルシカズヒコ



 野枝は『婦人公論』一九一八年七月号(第三年第七号)に「喰ひ物にされる女」(大杉栄全集刊行会『大杉栄全集別冊 伊藤野枝全集』/『定本 伊藤野枝全集 第三巻』)を書き、売春問題を論じている。

 以下、要点をピックアップ。

●売春という「商売」が原始の時代から今日まで、人種を問わず、存在し続けているのは、それを必要とする何かの原因があるからである。

●野枝はシヤルル・ルトウルノ著『男女関係の進化』(大杉の匿名訳)やバーナード・ショーの戯曲『ウォーレン夫人の職業』(坪内逍遥訳)の一節を引き合いに出し、実際に自分が出逢った娘に売春をさせている婆さんや売春をやっている女性の実話にも言及している。

●近年、工場の女工から売春を「商売」にする例が増えていることに、野枝は注目している。

●女工は一日十時間以上の長時間労働なのに、月給は十円かそこらである。女工が売春を「商売」にするようになるのは、長時間低賃金労働に原因があるのではないか。

●婦人矯風会あたりが淫売問題にだいぶ力を入れているが、表面に表れた枝葉末節より、もう少し深い根本に遡ってほしい。

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 野枝は大石七分らが創刊した『民衆の芸術』創刊号に「再度の惑はし」を寄稿している。

「再度の惑はし」というタイトルは、『青鞜』時代に体験した世間やマスコミからの反感や迫害を、今また再び体験しているという意味らしい。

 かつて因習を目の敵にしていた「新しい女」たちも、今は因習の虜になっているではないかという世評に対して、自分は違うという反論を意図しているようだが、そのへんをあまり明確には書いていない。


A 此度の事は私達にとつては実はありがたい迫害ですよ。お互ひに、みつちり勉強して今に立派な仕事が出来るやうになりませうよ。もう十年もしたら、少しは私達の仕事だつて理解者が出て来るでせう。

B さうですね、でも私考へてゐると口惜しいと思ひますよ、今まで本当に立派な口をきいていた人達が……一生懸命に私達の悪口を云ひ出すんですもの。

A どうせ私達が世間の人からよく云はれるのは何時の事かわかりませんよ。私達は本当にいくら年を老(と)つても×××さんのように世間の偏見と妥協して活(い)きて行くやうな大家になんかなりたくないものですね。

 五六年前には、私達のつくつてゐたサアクルでは盛んに、こんな会話が交はされてゐた。

 私達はどんな困難に遇つても、手をつないで、一緒に、婦人解放の運動の為めに尽さうと云ふのだつた。

 真剣にさう思つてゐた。

 けれど、今はどうだらう?

 皆んなが皆、バラ/\に放れてしまつた。

 そして自分自分の生活をかばつて忙しがつてゐる。

 お互ひの間はもう知り合ひにならなかつた以前よりももつと遠くなつて了つてゐる。

 日本の婦人運動は枯れて仕舞つたのだらうか。

 曾つての皆んなの覚悟は根なし草だつたのだろうか。


(「再度の惑はし」/『民衆の芸術』1918年7月号・第1巻第1号/『定本 伊藤野枝全集 第三巻』_p59)


「×××さん」について、『定本 伊藤野枝全集 第三巻』解題は「与謝野晶子かとも思われるが不明」としている。





 八月一日、『労働新聞』第四号を発行するが発禁になり、同紙はこの号をもって終刊、和田と久板は新聞紙法違反で起訴された。

 大杉豊『日録・大杉栄伝』によれば、八月六日、大杉と野枝は今宿を発ち、この日は門司泊。

 八月七日、下関に渡り、門司に戻って宿泊。

 八月八日、大杉、野枝、魔子の三人は門司港から汽船で神戸に向かい、八月九日に神戸着、夜遅く阪神電車で大阪に向かい梅田駅前の池の屋旅館に宿泊した。

 八月十日、大杉は大阪毎日新聞社に勤務している和気律次郎と再会。

 大杉は宿泊中の池の屋旅館に大阪の同志を招き、野枝も交えて歓談した。

 八月十一日、大阪ではこのとき米騒動が起きていた。

 野枝は(魔子を連れて?)帰京の途につき、十二日に東京着。

 米騒動を視察した大杉が帰京したのは八月十六日だったが、米騒動の渦中だったので、板橋署に連行されて八月二十一日まで検束された。

 米騒動に関与する恐れがあるという、予防検束だった。

 意外に好待遇だった。





 何も僕が大阪で悪い事をしたと云ふ訳でもなく、又東京へ帰つて何にかやるだらうと云ふ疑ひからでもなく、ただ昔が昔だから暴徒と間違はれて巡査や兵隊のサアベルにかかつちや可哀相だと云ふお上の御深切からの事であつたさうだ。

 立派な座敷に通されて、三度三度署長が食事の註文をききに来て、そして毎日遊びに来る女(※野枝のこと)をつかまえて

「どうです、奥さん。こんなところで甚だ恐縮ですが、決して御心配はいりませんから、あなたも御一緒にお泊りなすつちや。」

 などと真顔に云つていた位だから……。


(「獄中記」/『新小説』1919年1月号/大杉栄全集刊行会『大杉栄全集 第三巻)


 村木、和田、久板、橋浦らも検束された。

 八月二十四日、下谷区上野桜木町の有吉三吉宅で「米騒動記念茶話会」が開かれた。

 同志例会となっていた「労働運動研究会」のスペシャルバージョンである。

 大杉が大阪での米騒動目撃談を話し、野枝も出席した。

 九月二十八日、東京地裁で久板、和田の判決公判があり、久板に禁固五ヶ月・罰金三十円、和田に禁固十ヶ月・罰金三十円の判決が下った。

 久板と和田が東京監獄に入獄したのは、十月五日だった。


★『大杉栄全集別冊 伊藤野枝全集』(大杉栄全集刊行会・1925年12月8日)

★『定本 伊藤野枝全集 第三巻』(學藝書林・2000年9月30日)

★大杉豊『日録・大杉栄伝』(社会評論社・2009年9月16日)

★『大杉栄全集 第三巻』(大杉栄全集刊行会・1925年7月15日)



●あきらめない生き方 詳伝・伊藤野枝 index



posted by kazuhikotsurushi2 at 10:10 | TrackBack(0) | 本文

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1955年生まれ。早稲田大学法学部卒業。『週刊SPA!』などの編集をへてフリーランスに。著書は『「週刊SPA!」黄金伝説 1988〜1995 おたくの時代を作った男』(朝日新聞出版)『秩父事件再発見』(新日本出版社)など。
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