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2016年05月07日

第148回 新貞操論






文●ツルシカズヒコ



『新公論』四月号が「性欲問題(其壱)新貞操論」を特集したが、大杉は「処女と貞操と羞恥とーー野枝さんに与えて傍らバ華山を罵る」という原稿を書いた。

 大杉は貞操に関する持論を展開、生田花世、原田皐月、野枝、らいてうらの貞操論に参入したが、それは野枝に話しかけるスタイルの公開状だった。

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 野枝さん。

 僕はまだ、あなたとお互いに友人とよび得るほどに、少なくとも外的には親しくなっていませぬ。

 もっともどれほど内的に親しいのかということもはっきりとは言えませぬ。

 けれども私の今つきあっている女の人の中で、もっとも親しく感ぜられるのは、やはりあなたなのです。

 そしてこのことは、僕が今貞操を論ずるに当って、ことにあなたに話しかけることが、もっとも僕の心を引きたたせる理由であろうと思われます。

 勿論貞操ということは、男の問題というよりも、むしろ女の問題です。

 したがって男に話しかけるよりも、女に話しかけるのが至当だと思われます。

 しかもその問題がきわめて困難なかつ微妙な問題であるだけ、それだけ僕は、自分がもっとも自分に親しいと感ぜられる人に、ことに話しかけたいと思うのです。

 なお僕は、公開状を書くことを少しも失礼と思っていませぬので、今ことにあなたに話しかけることについては、ただこれだけの理由を述べれば、外に言うことはありませぬ。


(「処女と貞操と羞恥とーー野枝さんに与えて傍らバ華山を罵る」/『新公論』1915年4月号/「羞恥と貞操と童貞」と改題『社会的個人主義』/日本図書センター『大杉栄全集 第3巻』_p206)






 という書き出しで始まり、花世、皐月、野枝、らいてうの「貞操論」を批評しつつ、大杉の筆は本題から外れてしまう。


 僕はらいちょう氏自身の議論には……ふだんから敬服しない多くのものをもっているのですが、氏の他人に対する批評には、ふだんからまったく敬服しています。

 ことにかつてあなたの「動揺」事件に対するらいちょう氏の批評を読んだ時には、僕はあんなに理解の細かいしかも同情に溢れた姉さんをもっているあなたが、つくづくと羨ましく思われたくらいでした。

 少し話がよこへそれますが、あの時のあなたは、まだずいぶん子供だったのですね。

 ……あの頃から今日に至る、きわめて短い間のあなたの生長は、恐らく何人にも驚異に値することと思われます。

 ……あなた自身の素質に大部を負うのでしょうが、同時に辻君によほど負うところあるとともに、またらいちょう氏の指導もはなはだ与って力あることと思われます。


(「処女と貞操と羞恥とーー野枝さんに与えて傍らバ華山を罵る」/『新公論』1915年4月号/「羞恥と貞操と童貞」と改題『社会的個人主義』/日本図書センター『大杉栄全集 第3巻』_p208)





 大杉の筆はさらに横道に外れ、「バ華山」こと茅原華山に罵声を浴びせている。


 野枝さん。

 男の、もっとも僕も男の一人ではありますが、女に対する態度ほど、どうかすると実に醜いものはありませぬ。

 例の茅原バ華山の『第三帝国』におけるあなに対する態度のごときは、あなた自身もずいぶん嗤っていましたが、あれは男という外にバカと野心とが手伝った仕業なのです。

 ……あのバ華山は、非常に巧妙な、お世辞屋です。

 そこで大概の人は、蔭ではバ華山バ華山と言いながらもせめては彼の空っぽを黙っていてやることになるのです。

 野枝さん。

 あなたの「貞操についての雑感」を批評するつもりなのが、ついとんでもない方に筆鋒が向かい(ママ)て来ました。


(「処女と貞操と羞恥とーー野枝さんに与えて傍らバ華山を罵る」/『新公論』1915年4月号/「羞恥と貞操と童貞」と改題『社会的個人主義』/日本図書センター『大杉栄全集 第3巻』_p210~211)





 大杉の筆はさらに中村狐月に言及している。


 けれども男の女に対する醜態は、多くはその助平根性から出ます。

 かの茅原バ華山を主盟と仰いでいる中村狐月氏の、あなたのあの文章に対する批評(『第三帝国』第三十四号所載)のごときも、恐らくこの助平根性から出たものと思われます。

 ……僕は助平根性そのものを非難するのではありませぬ。

 ただこの助平根性から出る醜態を、心にもない虚偽の言葉や行為に出ることを、非難したいのです。

 ……バ華山の部下として似合わない、聡明な人達がいます。

 中村狐月氏もその一人です。

 この中村狐月氏が、ただまったくの助平根性からあなたを激称したものとするのは、はなはだ酷評であるかも知れませぬ。

 ……あなたを理想的に見たてて、野枝さんはこうあらねばならぬと、煽てあげたのかも知れませぬ。

 恐らくはこの方が真に近いのでしょう。

 ……狐月氏のあの文も、理想的野枝さんのすき間もない解剖にはなるのですが、しかし理想的野枝さんと現実的野枝さんとはあまりにかけ離れています。

 野枝さん。

 たいぶ余計なおしゃべりをしたので、もう予定の枚数も残り少なくなりました。

 それにもうあけがたも近い三時を過ぎましたので、急いで本論にかかることにします。


(「処女と貞操と羞恥とーー野枝さんに与えて傍らバ華山を罵る」/『新公論』1915年4月号/「羞恥と貞操と童貞」と改題『社会的個人主義』/日本図書センター『大杉栄全集 第3巻』_p211~213)



★『大杉栄全集 第3巻』(日本図書センター・1995年1月25日)

★『社会的個人主義』(新潮社・1915年11月)



●あきらめない生き方 詳伝・伊藤野枝 index



posted by kazuhikotsurushi2 at 21:03| 本文
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1955年生まれ。早稲田大学法学部卒業。『週刊SPA!』などの編集をへてフリーランスに。著書は『「週刊SPA!」黄金伝説 1988〜1995 おたくの時代を作った男』(朝日新聞出版)『秩父事件再発見』(新日本出版社)など。
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