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2016年10月23日
扉シリーズ第五章 『狂都』第六話 「異界2」
暗闇の中、四人はトランクから装備品を取り出す。
予め、各自最低限の装備として懐中電灯、水、携帯食料、絆創膏、電池くらいは用意しておこうという事になっていた。
武市と木林はリュックサック、伊田と翔子はキャリーバッグを用意していた。
高速にのる前に購入した水と食料は、各自のバッグの空きスペースへと分散した。
武市のリュックには水や電池などの重量物が集中している。
「ゴリラにはこの位楽勝やろ!」
と言いながら武市のリュックにそれらを詰め込んだのは木林である。
武市はズシリとくる重みを感じながら、最近木林を怒らせるような事をしたかな?と記憶を辿るが、そんな記憶はなかった。
確かに耐えられぬ重量ではない。
気になるのはリュック自身の耐久力だ。
どこか破れたり千切れたりしないように祈るのみだ。
伊田さんは懐中電灯ではなく、電気ランタンを用意してくれていたので、かなり広範囲を照らせる。
ランタンを中心に置き、四人はそれを囲んで座り込み、出発前のミーティングを始めた。
まず、携帯や時計が動いているかどうかのチェックから始まった。
各自携帯を取り出したが、一応起動しているようだが、画面はフリーズしている。
ディスプレイの時計表示が十一時十分でフリーズしている為、この異界に引きずり込まれたのがその時刻なのだとわかった。
時計は伊田さんの腕時計のみで、それも動いていない。
携帯はバッテリーを外してみたが、ディスプレイはフリーズしたまま点灯しているのが不気味だった。
さて、それより問題は車である。
木林が色々と試してみたが、
「武市て?異界にロードサービスはないのかい?」
と口元を引きつらせていたので、思いつく方法の全てが通用しなかったのであろうと、武市は思った。
動かない以上置いていく以外ないが、この車は木林本人の所有物ではない、あくまで木林の親父さんの所有物だ。
「ああ〜ん…こんな異界にいながらも親父の鉄拳に怯えなアカンこの気持ちよ〜」
木林はそう言いながら武市の右耳を引っ張る。
武市は耳の中で何か細いものがミチミチと音を立てるのを聞きながら、親父さんの鉄拳よりはマシだと思い、木林の気の済むまでそのままにしておいた…
なにより、木林が親父さんから鉄拳を受けられるよう、ここから脱出する事が先決である。
そして、出発前にただ一つルールが作られた。
『四人は運命共同体。何があっても四人でここから脱出する。』
伊田さんはこれを殊更に強調していた。
ずっと黙っていた伊田さんだったが、四人で力を結集しないと脱出は叶わない…それほど切迫した状況にあるのだろうと、武市は感じていた。
武市達は、車の進行方向、つまり前方に向かって歩き始めた。
木林は車に後ろ髪を引かれているようだったが、ここから抜け出たら、その罪を共に背負う事を武市は決意していた。
暗黒の世界…
幸い、地面は平坦でしっかりとしているが、四人も歩いているのに足音が一切聞こえないのは不可解である…
ランタンは周囲5メートル位を照らし出すので、懐中電灯は温存する事になった。
隊列は二人組の前後列にわけ、前列には武市と伊田、後列には木林と翔子。
できるだけ密集して歩くよう心がけた。
歩き始めて体感で十五分ほど経過すると、周囲の状況が少しずつわかり始めた。
ランタンは、前方はかなり前まで照らす事ができるようだが、右と左の両側は、光があまり先まで届かないようだ…
試しに上空に向かってランタンをかざしてみたが、上空に対しても光が止まる…
つまり、この暗黒の世界はトンネル状になっているという事になる…
「途方もなく広い空間じゃなくて助かったね…まあ、今の所は、だけどね…」
伊田が武市にそう声をかけた。
「はい…でも、閉じ込められた感はありますけどね…」
武市は高所恐怖症であるが、少し閉所恐怖症の気もある。
閉じられた空間には、圧迫感をおぼえるのだ。
暗黒のトンネルは果てなく続いているようだ…
歩き始めて一時間以上過ぎた頃であろうか、翔子が、
「ちょっと待って…」
と言い、スーツのポケットから十円玉を取り出した。
「武市君、悪いけど後の方を照らしてくれる?」
武市は翔子の言葉に従ってランタンを後方にかざした。
すると翔子は投擲体制に入り、十円玉を後方に向かって投げた。
十円玉は光の届かないところまで飛び、地面に落ちた感じがした。
翔子はしばし黙っていたが、
「ごめんね…何か後から闇がせまってきてるような気がして…ごめんね、先に進みましょう…」
翔子さんはそう言ったが、男三人はその言葉が気になった…
もし後方から闇が迫り、徐々に退路が絶たれ、更にその闇がただの闇ではなかったら…
人間は想像する生き物である。
想像するなと言う方が無理である。
タダでさえ不安な状況の中、またそれが増幅さされた。
出発して二時間ほど経過して、少し休憩をとる事になった。
四人はまたランタンを囲んで車座になった。
水と食料は温存する為、食事は少量短時間で済ませ、身体を休める事を優先した。
四人は地面に寝転ぶ。
真っ黒な地面に耳をつけると、何かが流れるような音がする…
地面の下を何かが流れているのか…?
しかし、足音がしないのに、なぜその下から音が聞こえるのか…?
不可解である…
四人は休憩を終え、また歩き始めた…
トンネルは遥か彼方まで続いている…
武市は都古井の静馬の言葉から、何らかの妨害があるのは覚悟はしていた…
そして静馬の、
『何があっても諦めるな』
という言葉を、常に心に留めておく事にした。
それから数度の休憩の後、一行は仮眠をとる事にした。
武市が見張りとして起きている事になった。
「武市君、大丈夫?私が起きてようか?」
翔子がそう言うが、武市は、
「いや、大丈夫ですわ。次、寝させてもらいます」
と、その申し出には応じなかった。
しかし、次とは言ったが、次はない方がよいに決まっている。
武市は失言したような気分になった…
皆が寝静まったと判断した武市は電池節約の為、ランタンの明かりを落とした…
こんな闇があるのか、と武市は思った。
真っ黒…いや、黒いという事すら判断できないような、まるで自分自身が闇に溶け、闇そのものになったような…
皆の寝息が聞こえなければ、正体を失いそうな、そんな気さえする…
そんな中、武市は敢えて目を凝らして闇を見続けていた。
すると、また瞳の辺りにチリチリと焦げるような感じがしてきた。
すると、闇の中に、何かが浮かび上がってくるような、そんな感じがする…
武市は、更に目を凝らす…
すると、視界の中心部のみ闇が薄まるように何か明るいものが見えてきた…
武市はその開けたごく小さな視界の中に、信じられない光景を見たのだった…
続く
予め、各自最低限の装備として懐中電灯、水、携帯食料、絆創膏、電池くらいは用意しておこうという事になっていた。
武市と木林はリュックサック、伊田と翔子はキャリーバッグを用意していた。
高速にのる前に購入した水と食料は、各自のバッグの空きスペースへと分散した。
武市のリュックには水や電池などの重量物が集中している。
「ゴリラにはこの位楽勝やろ!」
と言いながら武市のリュックにそれらを詰め込んだのは木林である。
武市はズシリとくる重みを感じながら、最近木林を怒らせるような事をしたかな?と記憶を辿るが、そんな記憶はなかった。
確かに耐えられぬ重量ではない。
気になるのはリュック自身の耐久力だ。
どこか破れたり千切れたりしないように祈るのみだ。
伊田さんは懐中電灯ではなく、電気ランタンを用意してくれていたので、かなり広範囲を照らせる。
ランタンを中心に置き、四人はそれを囲んで座り込み、出発前のミーティングを始めた。
まず、携帯や時計が動いているかどうかのチェックから始まった。
各自携帯を取り出したが、一応起動しているようだが、画面はフリーズしている。
ディスプレイの時計表示が十一時十分でフリーズしている為、この異界に引きずり込まれたのがその時刻なのだとわかった。
時計は伊田さんの腕時計のみで、それも動いていない。
携帯はバッテリーを外してみたが、ディスプレイはフリーズしたまま点灯しているのが不気味だった。
さて、それより問題は車である。
木林が色々と試してみたが、
「武市て?異界にロードサービスはないのかい?」
と口元を引きつらせていたので、思いつく方法の全てが通用しなかったのであろうと、武市は思った。
動かない以上置いていく以外ないが、この車は木林本人の所有物ではない、あくまで木林の親父さんの所有物だ。
「ああ〜ん…こんな異界にいながらも親父の鉄拳に怯えなアカンこの気持ちよ〜」
木林はそう言いながら武市の右耳を引っ張る。
武市は耳の中で何か細いものがミチミチと音を立てるのを聞きながら、親父さんの鉄拳よりはマシだと思い、木林の気の済むまでそのままにしておいた…
なにより、木林が親父さんから鉄拳を受けられるよう、ここから脱出する事が先決である。
そして、出発前にただ一つルールが作られた。
『四人は運命共同体。何があっても四人でここから脱出する。』
伊田さんはこれを殊更に強調していた。
ずっと黙っていた伊田さんだったが、四人で力を結集しないと脱出は叶わない…それほど切迫した状況にあるのだろうと、武市は感じていた。
武市達は、車の進行方向、つまり前方に向かって歩き始めた。
木林は車に後ろ髪を引かれているようだったが、ここから抜け出たら、その罪を共に背負う事を武市は決意していた。
暗黒の世界…
幸い、地面は平坦でしっかりとしているが、四人も歩いているのに足音が一切聞こえないのは不可解である…
ランタンは周囲5メートル位を照らし出すので、懐中電灯は温存する事になった。
隊列は二人組の前後列にわけ、前列には武市と伊田、後列には木林と翔子。
できるだけ密集して歩くよう心がけた。
歩き始めて体感で十五分ほど経過すると、周囲の状況が少しずつわかり始めた。
ランタンは、前方はかなり前まで照らす事ができるようだが、右と左の両側は、光があまり先まで届かないようだ…
試しに上空に向かってランタンをかざしてみたが、上空に対しても光が止まる…
つまり、この暗黒の世界はトンネル状になっているという事になる…
「途方もなく広い空間じゃなくて助かったね…まあ、今の所は、だけどね…」
伊田が武市にそう声をかけた。
「はい…でも、閉じ込められた感はありますけどね…」
武市は高所恐怖症であるが、少し閉所恐怖症の気もある。
閉じられた空間には、圧迫感をおぼえるのだ。
暗黒のトンネルは果てなく続いているようだ…
歩き始めて一時間以上過ぎた頃であろうか、翔子が、
「ちょっと待って…」
と言い、スーツのポケットから十円玉を取り出した。
「武市君、悪いけど後の方を照らしてくれる?」
武市は翔子の言葉に従ってランタンを後方にかざした。
すると翔子は投擲体制に入り、十円玉を後方に向かって投げた。
十円玉は光の届かないところまで飛び、地面に落ちた感じがした。
翔子はしばし黙っていたが、
「ごめんね…何か後から闇がせまってきてるような気がして…ごめんね、先に進みましょう…」
翔子さんはそう言ったが、男三人はその言葉が気になった…
もし後方から闇が迫り、徐々に退路が絶たれ、更にその闇がただの闇ではなかったら…
人間は想像する生き物である。
想像するなと言う方が無理である。
タダでさえ不安な状況の中、またそれが増幅さされた。
出発して二時間ほど経過して、少し休憩をとる事になった。
四人はまたランタンを囲んで車座になった。
水と食料は温存する為、食事は少量短時間で済ませ、身体を休める事を優先した。
四人は地面に寝転ぶ。
真っ黒な地面に耳をつけると、何かが流れるような音がする…
地面の下を何かが流れているのか…?
しかし、足音がしないのに、なぜその下から音が聞こえるのか…?
不可解である…
四人は休憩を終え、また歩き始めた…
トンネルは遥か彼方まで続いている…
武市は都古井の静馬の言葉から、何らかの妨害があるのは覚悟はしていた…
そして静馬の、
『何があっても諦めるな』
という言葉を、常に心に留めておく事にした。
それから数度の休憩の後、一行は仮眠をとる事にした。
武市が見張りとして起きている事になった。
「武市君、大丈夫?私が起きてようか?」
翔子がそう言うが、武市は、
「いや、大丈夫ですわ。次、寝させてもらいます」
と、その申し出には応じなかった。
しかし、次とは言ったが、次はない方がよいに決まっている。
武市は失言したような気分になった…
皆が寝静まったと判断した武市は電池節約の為、ランタンの明かりを落とした…
こんな闇があるのか、と武市は思った。
真っ黒…いや、黒いという事すら判断できないような、まるで自分自身が闇に溶け、闇そのものになったような…
皆の寝息が聞こえなければ、正体を失いそうな、そんな気さえする…
そんな中、武市は敢えて目を凝らして闇を見続けていた。
すると、また瞳の辺りにチリチリと焦げるような感じがしてきた。
すると、闇の中に、何かが浮かび上がってくるような、そんな感じがする…
武市は、更に目を凝らす…
すると、視界の中心部のみ闇が薄まるように何か明るいものが見えてきた…
武市はその開けたごく小さな視界の中に、信じられない光景を見たのだった…
続く