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2016年10月19日

扉シリーズ 第五章  『狂都』第ニ話  「魔道」

日中、まだ汗が流れる九月某日、気温が上がり始める午前九時過ぎ…
冨田武市宅前に、四人は集合した。
冨田武市、木林博喜、伊田源二、梳名翔子の、四名である。

「あれ?おい!翔子じゃねえか!」

翔子と対面した伊田の反応を見て、武市はそう言えば言ってなかったと、頭をかいた。

「お久しぶりです、源二さん…」

翔子は、特に何の感情も現さず、伊田に頭を下げた。

「何でお前がここにいるの?」

伊田は何故翔子がここにいるのか、状況を把握できずに少し焦りの色を見せる。
翔子は冷静な口調で、甲田福子が入院中である事、そして、呪詛に苦しむ武市を救うべく、福子の名代として来阪した事を告げた。
伊田は黙ってそれを聞いていたが、翔子が説明を終えると口を開いた。

「そうか…そういやお前、甲田に付いて、冨ちゃんとこにはしょっちゅう来てたんだよな…いや、びっくりしたよ。まあ、何が起こるかわらねえし、お前みたいな力のある霊能者が一緒に来てくれるなら心強いよ…ん?でもなんかお前…感じ変わった?」

伊田は、サングラス越しに翔子の全身に目を動かす。

「別に…」

翔子は、目も合わせず素っ気なく答えた。
伊田と翔子、二人の間に溝の存在を見とめた木林が複雑な表情をしている。
武市は知っている、翔子が伊田に対して心を閉ざす理由を…

『源さんは、何を考えてるかわからない、油断ならない人…』

それが翔子が伊田に心を閉ざす理由だ。
漠然とした理由だが、わからない事もないと武市は思う。

伊田は一見強面だが、親切で面倒見のよい『イイ人』である。

武市は伊田の事をそう認識しているが、その一方、それは伊田の人心掌握術なのではないか、という思いも抱いている。
しかし、翔子がここまで伊田さんを警戒しているとは思わなかった…
やはり、『あの事件』で翔子さんに何らかの変化が起こっているのかも知れないと、武市は思った。

「何か色っぽくなったように見えるな…ははっ!男でもできたか?」

伊田は笑いながら、軽い口調でそう言ったが、翔子はその答えとして冷たい視線を投げかけた。

「ふっ、相変わらずの朴念仁だね、お前さんは…」

伊田さんの言う通り、『あの事件』以来、翔子さんは美しさに磨きがかかった。
何やら、石鹸とは別のいい匂いもする…と武市も心の中で同意した。


「あの、そろそろ出発しませんか?」

険悪なムードに耐えかねたのか、木林が出発を促した。

狂都へは車で乗り込む事になった。
道中、何が起こるかわかったものではない。
ダイヤに縛られる電車より、小回りの効く車が最適であると、皆の意見がまとまったからだ。
もちろん、いつもの如く木林の親父さんの国産高級車を拝借し、ドライバーを買って出てくれた。

「ほな、出発します!」

木林は険悪ムードを打ち破ろうとしてか、声を張り君で車を発進させた…

発進してすぐ、武市は思った。
助手席に伊田さん、後部座席には武市と翔子が並んだ。
木林は黒いTシャツの上にダークグレーのベスト、ボトムスは黒のデニム、伊田さんは黒の長袖のワイシャツに黒のスラックス。
無論、二人共サングラス着用である。
国産高級車にその出で立ちは、反社会的勢力の兄貴分と弟分にしか見えないであろう。
後部座席には白Tシャツの上に薄手のオレンジのパーカーを羽織り、下はデニムの武市と、リクルートスーツ姿の翔子…
外から見れば武市は悲惨な末路を辿りそうな不運な青年にしか見えないだろう…

しばらく車を走らせた時、

「あ、キバちゃん…高速にのる前にコンビニ寄って貰えるかな?」

伊田が思い出したように、そう口にした。

「あ、はい、わかりました」

木林はそう答えると、ちょうど近くに見えたコンビニに車を乗り入れた。

四人はコンビニに入る。
伊田は買い物カゴを二つ取ると、飲み物や保存の効きそうな食料を大量に放り込み始めた。

「あの、伊田さん?片道二時間くらいっすよ?買い過ぎちゃいますか?」

木林が買い物カゴの中身に目をやりながら伊田に尋ねた。

「何が起こるかわからないだろ?命の糧は準備しておいた方がいい…なあ、翔子?」

伊田さんは木林にそう答えながら、翔子さんに話を振った。
翔子はまた、視線は合わせる事なく、

「…それは、肯定します。」

とだけ答えた。

「…そういう事だよ、キバちゃん…」

伊田さんはそう言いながら、まだ買い物カゴに食料品を放り込んでいた…

支払いは、伊田が全て受け持ってくれた。

「あの、ちょっと一服させてもらっていいすか?」

リモコンで車のロックを解除した後、木林がそう言った。

「あ、ああ…」

伊田はそう答え、翔子はただうなづいた。

「すんません!武市、来る〜!」

木林は武市の袖を掴んで喫煙コーナーへと歩き始める。
伊田と翔子は車に乗り込む。

喫煙コーナーにつくと、木林は早速タバコに火をつけた。
武市も木林に続いて、火をつける。

フーと紫煙を吐き出した後、木林が口を開いた。

「武市て?あの御二方、仲悪いんけ?」

武市も紫煙を吐き出しながら、

「あ、ああ…翔子さん、何か伊田さんに心許してないみたいや…オレもあそこまでと思わんかったけど…」

「何でやろなぁ…伊田さん男前やし、めっちゃええ人やと思うけどなあ…」

「う〜ん…ようわからんけど…伊田さんとは知りあったばっかりやからなぁ…」

「まあ、そうやのう…てか武市?お前、やってないよな?」

「えっ?何がよ?」

「伊田さんが言うてた通り、翔子さん、色っぽくなってる…お前、やってないよな?」

「ア、アホけ!?そんな大それた事できるか〜よ!」

木林はギロリと武市を見た後、口からプスプスと笑気を漏らした。

「そらそうやろな!お前みたいなゴリラにそんな大それた事できるわけないわ!」

「そうやよ!あんな美人に触れてええゴリラはキングコングだけやろ?」

「あ、あ〜ん!自虐にも程あるんよ〜!」

木林は煙を吐き出しながら爆笑した。
武市も自虐しておきながら、自分の言った事に対して爆笑した。
腹筋にストレスを感じた二人は笑いをおさめる。

「しかしよぉ武市、あの八龍軍団の襲撃の後に、何かあったんか?」

木林が急に声のトーンを落としてそう尋ねた。

確かに、あの後、それ以上の『事件』が起きた…

幽体離脱…、
都古井静馬…、
冬月カグヤと名乗る魔星のメンバー、
梳名家の祖神『梳名火明高彦命』という神格との合一…
何らかの神格の眷属となった翔子…

武市と翔子の間で、当事者自身が消化できていない事を無闇に語るべきではない、との翔子の考えにより、一連の出来事は伏せておく約束ができていた。
しかし…武市は木林に対しては嘘をつきたくないという思いがあった…

「うん…結構ヘビーな事件があった…でもな、今はそれで勘弁してくれ…時が来たらちゃんと話すからよ?」

木林は武市の性格を熟知している。
故に、

「そうか、またちゃんと話してくれや?」

と、武市の肩をポンポンとたたき、

「ほな、そろそろ行こうか…」

と、車に向かって歩き始めた。

車はコンビニを出て国道を走り、高速にのる…

週末の高速は交通量が多い。

途中渋滞に巻きこまれながらも、車は狂都方面へと向かう…

車が王阪府から出ようとした時だ。

「何か、暗なってきたっすね?」

不意に木林がそう口をにしたと同時に、

ズシン!!!

一瞬、時が止まったかのように感じる程の圧倒的な霊圧が四人に襲いかかった!

「おいでなすったか…」

伊田がボソリと呟いた。

武市が外を見ると、まだ十一時にもならないのに、夜のように真っ暗だ…

「今日、日食でしたっけ?」

木林が半分冗談のような口調で誰にでもなく、そう言った。

「キバちゃん…それより周りを見てみなよ…」

伊田の言葉に、皆、また外に意識を向けると、自分達の他、車が一台も走っていない…

「あれ?オレ等一台だけ…?」

木林の声が青ざめているのを、武市は感じた。

「武市君、アレ…」

ずっと黙っていた翔子が空を指指して武市に呟いた…
武市がそちらを見ると、暗黒の空に、ハッキリと浮かぶ大きな『虹』がかかっている…
武市は、そのあり得ぬ光景を目にして、

『虹って、夜にも見えるんやぁ…』

と、思った…

続く





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