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2018年03月29日

刑事訴訟法ポイント

当事者主義的訴訟構造(256条6項、298条1項、312条1項

必要な処分(222条1項本文前段、111条1項前段)
 必要な処分は捜査比例の原則(197条1項本文)が捜索処分にも適用されることから@捜索差し押さえの実効性を確保するために必要であり、かつA社会通念上相当な態様で行われるものをいうと解する。

222条1項本文前段、102条2項
被告人以外の者の身体、物又は住居その他の場所については、押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある場合に限り、捜索をすることができる。

職務質問における有形力行使
1 下線部@
(1)前提として、甲への職務質問開始が警職法2条1項の要件を満たすか検討する。(事実)という不審事由があるから「何らかの犯罪を犯し…たと疑うに足りる相当な理由」があると言える。よって甲への職務質問開始は適法である。
・職務質問開始要件の「理由」には犯罪の特定は不要であり、何らかの不審事由があれば足りる。
(2)「停止させて」に準じる行為としてなされたと考えられるが、職務質問に伴う有形力行使として適法か。
ア 強制手段を用いることはできない(警職法2条3項参照)。本件では…
イ 警察比例の原則(警職法1条2項)から、職務質問の必要性、緊急性を考慮し、具体的状況の下で相当と言
える場合には、職務質問における有形力行使が許されると考える。
本件では…
(3)以上より、適法である。

職務質問における所持品検査→米子(職務質問における有形力行使と区別
 所持品検査は、口頭による質問と密接に関連し、職務質問の効果を上げるうえで必要性、有用性が認められる行為だから、警職法2条1項に基づく職務質問に付随して行うことができる。もっとも、職務質問に付随する行為だから所持人の承諾を得て行うのが原則である。しかし、承諾のない所持品検査も捜索に至らない行為は強制にわたらない限り、必要性、緊急性、これにより害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡を考慮して具体的状況の下で相当と認められる限り許される。

違法収集証拠排除
設問〇
1 事実認定は証拠能力ある証拠に基づき適式に行わなければならない(317条)。
2 では、本件尿鑑定書は違法収集証拠排除法則により証拠能力が否定されないか。
(1)適正手続(憲法31条)、司法の廉潔性維持、将来の違法捜査抑止の観点から、@令状主義の精神を没却する違法の重大性、A将来の違法捜査抑止の観点からの排除相当性がいずれも認められる場合に証拠排除されると解する。そして、直接の証拠収集手続に違法がない場合であっても、先行手続と収集した証拠の間に密接関連性が認められる場合には、先行手続の違法性を考慮できると解する。
(2)ア(本件は直接の手続に違法はない。)
イ(以前の手続について、違法がある。)
(3)では、違法な以前の手続をもとに作成された本件尿鑑定書に証拠能力が認められるか。
ア(以前の手続と直接の手続の密接関連性の検討)
イ((3)の手続の証拠排除を検討)
(4)従って、本件尿鑑定書の証拠能力は否定される。
3 本件覚せい剤の証拠能力は否定されるか。
 確かに、甲宅の捜索は違法に収集された本件尿鑑定書に基づき行われているが、本件覚せい剤の差押えは司法審査を経て発布された捜索差押許可状によってなされているから、先行する違法性は希釈化されているといえる。また、別件の捜索差押許可状があわせて執行されていることから、別件の令状のみの捜索によっても覚せい剤が発見される可能性が高かったといえる。
 したがって、違法な先行手続との密接関連性は認められず、証拠能力が認められる。

訴因変更の可否
 訴因変更は「公訴事実の同一性」(312条)の範囲内で可能である。312条の趣旨は被告人の防御の利益保護であるから、「公訴事実の同一性」とは被告人の防御の利益を害さない範囲、すなわち基本的事実関係の同一性の認められる範囲を意味すると解する。基本的事実関係の同一性は、日時・場所等の事実的共通性を検討し、補充的に非両立性を考慮すべきと解する。

強制処分の論証
設問〇
1 甲の行為が「強制の処分」(198条1項但書)に当たるならば、強制処分法定主義に反し違法である。
 多様な捜査手法から可及的に人権保障を図るため、「強制の処分」か否かは被侵害利益に着目して判断すべきである。もっとも、程度を考慮しないと真実発見(1条)が害される。そこで、「強制の処分」とは意思に反し重要な権利利益の制約を伴う処分を言うと解する。なお、「身体、住居、財産等」という判例の文言は憲法上不可侵が保障された類型だから「重要な権利利益」と置換え可能と解する。

二重の危険 窃盗⇒常習窃盗
設問〇
1 「確定判決を得たとき」(337条1号)に当たり、免訴判決をすべきではないか。
2(1)一事不再理効の客観的範囲は公訴事実の単一性の範囲
 (2)公訴事実の単一性は基本的に訴因に従って判断すべき。
    本件では、常習性の発露は訴因として訴訟手続に上程されておらず、実体的に一罪を構成するかどうかにつき検討すべき契機が存在しないから、公訴事実の単一性を欠く。
3 従って、(結論)。

科学的証拠
 科学的証拠は判断過程が不透明であり、にもかかわらず結論を過大評価しがちであるから、証拠能力(法律的関連性)を慎重に吟味する必要がある。以前の判例は
@検査者の適格性、A検査機器の正確性、B対象資料採取・保管の適切性
のみを審査する傾向があったが、これらだけでは判断過程の不透明さを除去できないので、C基礎となる科学的原理の適切性、D用いた技術の適合性も審査すべきと解する。

自白法則
1 「任意にされたものでない」(319条1項)として証拠能力が否定されないか。
 自白法則(憲法38条2項、刑訴法319条1項)の趣旨は、虚偽の自白を排除すること及び被疑者の人権に配慮することである。そのため、「任意にされたものでない」とは、虚偽の自白を誘発するような類型的状況又は供述の自由を侵害する不当な圧迫の下でなされた自白を言うと解する。

逮捕の現場
・逃走経路は逮捕の現場に当たる。
・逃走経路でもなく、被逮捕者が掴んで投げ込んだ場所は逮捕の現場に当たらない⇒「必要な処分」を検討する。令状のない逮捕に伴う必要な処分

百選8
公道は、通常、人が他人から容貌等を観察されること自体は受忍せざるを得ない場所だから

接見交通権論証
@ノーマル
1 Pのした接見指定は「捜査のため必要があるとき」(39条3項)に当たらず違法ではないか。
 接見交通権は憲法34条前段に由来する重要な権利だから、「捜査のため必要があるとき」とは捜査の中断による支障が顕著な場合をいう。捜査の中断による支障が顕著な場合とは、現に取調べ中である場合のほか、間近いときに取調べをする確実な予定があって、接見を認めたのでは予定通りの取調べができない場合も含む。
 そのような場合である限り、被告人の防御の権利を不当に制限するとは言えない(39条3項)。

A初回接見
2 Pの措置は「被疑者が防御の準備をする権利を不当に制限」(39条3項但書)するものとして違法ではないか。
 初回接見は憲法34条前段の保障の出発点だから、被疑者の防御の準備のため特に重要である。そこで、捜査機関は初回接見に関して接見指定をする際に、弁護人と協議して即時又は近接した時点での接見を認める義務があり、これを怠った場合には39条3項違反となると解する。

取調受忍義務
 取調受忍義務を認めると黙秘権(憲法38条3項)行使が困難になるから、取調受忍義務はないと解する。198条1項但書は、出頭拒否・取調室からの退去を認めることが逮捕勾留の効力を否定するものではないことを注意的に規定したものと解する。
 したがって、身体拘束中の被疑者取調べは任意処分である。
 
余罪取調べの可否
(取調受忍義務否定)
 したがって、本罪の取調べも余罪取調べもともに任意処分であり、余罪取調べを行うこと自体に特別の制約はない。
 しかし、任意処分と言っても無制限ではなく、余罪取調べを行うことで本罪についての起訴不起訴の決定を不当に遅延させた場合には、余罪取調べは原則として違法と解する。

逮捕勾留の諸問題
1.逮捕前置主義
(1)趣旨
 逮捕前置主義の趣旨は、身体拘束の当初は逮捕の必要性の判断が流動的であるため、先に短期の身体拘束を先行させ、もって不必要に長期な身体拘束を避け、被疑者の利益を図ることである。
(2)逮捕に違法があった場合の勾留請求の却下
 法が逮捕を準抗告の対象に含めていないのは勾留請求に対する審査において逮捕の適否を判断すべきとされているからだと解されるから、逮捕に重大な違法がある場合にはそれを考慮して勾留請求を却下すべきである。

2.事件単位の原則
 逮捕・勾留は人単位ではなく事件単位で行われる。逮捕・勾留に関する刑事訴訟法の規定は被疑事実を単位としているからである。
(1)帰結@
 二重逮捕二重勾留は許される。
(2)帰結A
 逮捕・勾留の理由とされた被疑事実以外の犯罪事実を、当該逮捕勾留に関する手続上考慮することは許されない。 
 
3.一罪一逮捕一勾留の原則(分割禁止原則)
(1)原則 
 一罪について複数の逮捕・勾留を行うことは原則として許されない。ここで一罪とは実体法上の一罪である。そのため、上記原則は実体法上の一罪を分割することの原則禁止を意味している。理由は、実体法上の一罪の範囲で複数の逮捕・勾留を認めると身体拘束の不当な長期化につながる可能性があるからである。
(2)例外
・起訴後保釈中に実体法上一罪となる罪を犯した場合∵同時処理が論理的に不可能
・保釈後に以前の新事実が発見された場合は争いあり

4.再逮捕・再勾留の禁止
(1)原則と例外
 再逮捕・再勾留は、法が定めた時間制限(203条以下)を無意味にするから原則として違法である。もっとも、再逮捕・再勾留の必要性がある場合はあり、199条3項は再逮捕がありうることを前提にしているから、必要かつ相当な場合は例外的に再逮捕・再勾留が認められると解する。必要性の要件は厳格に解し、@事情変更が生じたこと、A必要やむを得ないという程度に加重されたものであること、B不当な蒸返しに当たらないと評価できることという条件を満たすものでなければならない。
・再逮捕再勾留を禁止した規定はない、勾留は逮捕と密接な関係にある、等も理由として使える。

(2)違法逮捕のため勾留請求が却下された場合の再逮捕
 前の逮捕の違法が著しい場合には再逮捕が認められないとして再逮捕を認める場合を想定する見解があるが、違法の著しさは既に勾留請求を却下する段階で考慮済みであるから、この場合の再逮捕は常に認められないと解する。

5.別件逮捕勾留
(1)逮捕・勾留の要件判断は別件を基準として行う。
(2)そうすると逮捕中の本件取調べは余罪取調べということになるが、余罪取調べは適法か。取調受忍義務を否定するならば適法と解する余地があるので取調受忍義務の有無が問題となる。
 …(取調受忍義務否定)…
 従って逮捕中の取調べは任意捜査だから本件と別件の区別はなく、どちらの取調べも行うことができる。
(3)もっとも、逮捕・勾留は、その理由(199条1項)とされた被疑事実(別件)についての捜査(起訴不起訴の判断)のために用いるものだから、取調べの時間等から判断して既に別件についての捜査が終了していると認められる場合には、その余の逮捕・勾留は違法となる。

2018年03月27日

刑事訴訟法判例フレーズ集

百選87
 刑訴法328条は、公判準備又は公判期日における被告人、証人、その他の者の供述が、別の機会にしたその者の供述と矛盾する場合に、矛盾する供述をしたこと自体の立証を許すことにより、公判準備又は公判期日におけるその者の供述の信用性の減殺を図ることを許容する趣旨のものであり、別の機会に矛盾する供述をしたという事実の立証については、刑訴法が定める厳格な証明を要する趣旨であると解するのが相当である。

百選72
 確かに、黙秘権の告知がなかったからといって、そのことから直ちに、その後の被疑者の供述のすべての任意性が否定されることにはならないが、被疑者の黙秘権は、憲法38条1項に由来する刑事訴訟法上の基本的かつ重要な権利だから(198条2項)、これを無視するような取り調べが許されないことも当然である。
 198条2項の趣旨は被疑者の心理的圧迫を解放し、また、取調官を自戒させることである。本件のように黙秘権告知が一度もされなかった事案においては、黙秘権不告知の事実は取り調べにあたる警察官に被疑者の黙秘権を尊重しようとする基本的態度がなかったことを象徴するものとして、また、黙秘権告知を受けることによる被疑者の心理的圧迫の解放がなかったことを推認させる事情として、供述の任意性判断に重大な影響を及ぼす。

百選62
 前科証拠は自然的関連性を有する。しかし、同種前科証拠は事実認定を誤らせるおそれや争点拡散のおそれがあるから、実証的根拠の乏しい人格評価によって誤った事実認定に至るおそれがないと認められるときに初めて証拠とすることが許される。
 特に前科証拠を被告人と犯人の同一性の証明に用いる場合には、前科の犯罪事実が顕著な特徴を有し、かつ、それが起訴に係る犯罪事実と相当程度類似することから、それ自体で両者の犯人が同一であることを合理的に推認させるようなものであって、初めて証拠として採用できる。

百選83
 本件両書証は、捜査官が、被害者や被疑者の供述内容を明確にすることを主たる目的にして、これらの者に被害・犯行状況について再現させた結果を記録したものと認められ、立証趣旨が『被害再現状況』、『犯行再現状況』とされていても、実質においては、再現されたとおりの犯罪事実の存在が要証事実になると解される。
 写真は撮影、現像等が機械的過程を経て証拠化されるため非供述証拠であり、再現者の署名・押印は不要である。

百選30
 強制の処分とは、個人の意思に反し重要な権利利益の制約を伴う処分を言う。
 憲法35条1項は列挙事由に準ずる私的領域に侵入されない権利も保障しているところ、個人のプライバシーの侵害を可能とする機器をその所持品に秘かに装着することによって合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法であるGPS捜査は、個人の意思を制圧して憲法の保障する重要な権利利益を侵害するものだから、強制の処分に当たる。

百選29
 本件エックス線検査は、荷物の内容物の形状や材質をうかがい知ることができるうえ、内容物によってはその品目等を相当程度具体的に特定することも可能であって、荷送人や荷受人の内容物に対するプライバシー等を大きく侵害するものであるから、検証としての性質を有する強制処分に当たる。

百選28
 身柄を拘束されていない被疑者を採尿場所へ任意に同行することが事実上不可能と認められる場合には、強制採尿令嬢の効力として、採尿に適する最寄りの場所まで被疑者を連行することができ、その際、必要最小限度の有形力行使ができると解する。なぜなら、@そのように解しないと捜査の目的を達成できないし、A裁判官は連行の当否を含めて審査したうえで令状を発布していると解されるからである。

百選25
 被疑者の名誉等を害し、被疑者らの抵抗による混乱を生じ、または現場付近の交通を妨げるおそれがあるといった事情のため、その場で直ちに捜索、差押えを実施することが適当でないときには、速やかに被疑者を捜索、差押えの実施に適する最寄りの場所まで連行した上、これらの処分を実施することも、同号にいう『逮捕の現場』における捜索、差押えと同視することができ、適法な処分と解する。

百選22
 令状により差し押さえようとするパソコン、フロッピーディスク等の中に被疑事実に関する情報が記録されている蓋然性が認められる場合において、そのような情報が実際に記録されているかをその場で確認していたのでは記録された情報を損壊される危険があるときは、内容を確認することなしに右パソコン、フロッピーディスク等を差し押さえることができると解する。

百選10
 おとり捜査は、捜査機関又はその協力者が、身分や意図を秘して犯罪を実行するよう働きかけ、相手方がこれに応じて犯罪の実行に出たところで現行犯逮捕等により検挙するものであるが、少なくとも、直接の被害者がいない薬物犯罪等の捜査において、通常の捜査方法のみでは当該犯罪の摘発が困難である場合に、機会があれば犯罪を行う意思があると疑われるものを対象におとり捜査を行うことは、刑訴法197条1項に基づく任意捜査として許容される。

百選9
 捜査機関が対話の相手方の知らないうちにその会話を録音することは、原則として違法であり、ただ録音の経緯、内容、目的、必要性、侵害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況の下で相当と認められる限度においてのみ、許容される。

百選6
 任意捜査においては、強制手段を用いることが許されないのはいうまでもないが、任意捜査の一環としての被疑者に対する取調べは、右のような強制手段によることができないというだけでなく、さらに、事案の性質、被疑者に対する容疑の程度、被疑者の態度等諸般の事情を勘案して、社会通念上相当と認められる方法ないし態様及び限度において許容される。

百選4 S53.6.20 米子強盗事件 所持品検査判例@ 凶器を用いた銀行強盗事件
 所持品検査は口頭による質問と密接に関連し、かつ、職務質問の効果をあげるうえで必要性、有効性の認められる行為であるから、同条項による職務質問に付随してこれを行うことができる場合があると解するのが相当である。
  所持品検査は、任意手段である職務質問の付随行為として許容されるのであるから、所持人の承諾を得て、その限度においてこれを行うのが原則であるしかし、職務質問ないし所持品検査は、犯罪の予防、鎮圧等を目的とする行政警察上の作用であって、流動する各般の警察事象に対応して迅速適正にこれを処理すべき行政警察の責務にかんがみるときは、所持人の承諾のない限り所持品検査は一切許容されないと解するのは相当でなく、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、所持品検査においても許容される場合があると解すべきである。
 もっとも、所持品検査には種々の態様のものがあるので、その許容限度を一般的に定めることは困難であるが、所持品について捜索及び押収を受けることのない権利は憲法35条の保障するところであり、捜索に至らない程度の行為であってもこれを受ける者の権利を害するものであるから、状況のいかんを問わず常にかかる行為が許容されるものと解すべきでないことはもちろんであって、かかる行為は、限定的な場合において、所持品検査の必要性、緊急性、これによって害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況の下で相当と認められる限度においてのみ、許容される

S53.9.7 所持品検査判例A 単なる覚せい剤事件
 不審車を停止させて職質開始したところ覚せい剤使用の兆候があった。ポケットを外側から触ったところ「刃物ではないが何か堅い物」が入っているようだったので出せと言ったが応じなかった。「出してみるぞ」といってポケット内手を入れて取り出した
 Pの行為は一般にプライバシー侵害の程度の高い行為であり、かつ、その態様において捜索に類するものであるから、上記のような本件の具体的な状況のもとにおいては、相当な行為とは認めがたいところであって、職務質問に付随する所持品検査の許容限度を逸脱したものと解するのが相当である。

百選2
 職務質問を開始した当時、被告人には覚せい剤使用の嫌疑があったほか、厳格の存在や周囲の状況を正しく認識する能力の減退など覚せい剤中毒をうかがわせる異常な言動が見受けられ、かつ、道路が積雪により滑りやすい状態にあったのに、被告人が自動車を発進させるおそれがあったから、前期の被告人運転車両のエンジンキーを取り上げた行為は、警察官職務執行法2条1項に基づく職務質問を行うため停止させる方法として必要かつ相当な行為であるのみならず、道路交通法67条3項に基づき交通の危険を防止するため取った必要な応急の措置に当たるということができる。
 これに対し、その後被告人の身体に対する捜索差押許可状の執行が開始されるまでの間、警察官が被告人による運転を阻止し、約6時間半以上も被告人を本件現場に留め置いた措置は、当初は前記の通り適法性を有しており、被告人の覚せい剤使用の嫌疑が濃厚になっていたことを考慮しても、被告人に対する任意同行を求めるための説得行為としてはその限度を超え、被告人の移動の自由を長時間にわたり奪った点において、任意捜査として許容される範囲を逸脱したものとして違法である。

百選27
 事件の重大性、嫌疑の存在、証拠の重要性とその取得の必要性、適当な代替手段の不存在等の事情に照らし、犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められる場合には、最終的手段として、適切な法律上の手続きを経てこれを行うことも許される。

2017年04月16日

刑事訴訟法 予備試験平成28年度

設問1
再逮捕再勾留は原則として許されないと解する。なぜなら、法が逮捕勾留について厳格な時間制限(202条以下)を設けた趣旨を没却し、身体拘束の不当な蒸返しになるからである(人身の自由、憲法33、34条)。
もっとも、逮捕して釈放後に逮捕の必要が生じる場合もあり、199条3項は再逮捕がありうることを前提にしているから、いかなる要件で再逮捕を認めるかが問題になる。上記再逮捕再勾留の原則禁止の趣旨から、新証拠発見等を理由とする再逮捕の高度の必要性と、身体拘束の不当な蒸返しとならないことに着目した相当性が要件となると解する。再勾留については、確かに、20日経過前に新証拠が見つかった場合には勾留延長ができないにもかかわらず20日経過後に再勾留するのは不当とも思えるが、逮捕は勾留の判断を慎重にするために行われるプレ勾留としての性格を有するから、再逮捕と同一の要件で判断すべきと解する。
 本件被疑事実は窃盗及び放火であるところ、甲が窃盗犯人であることの証拠がないまま20日間を経過した。しかし、甲の釈放後、甲が本件の盗品を売却していた新事実が発見された。その売却は事件発生から4日後に行われているが、このように短い期間に盗品が犯人以外の者の手に渡るのは考えにくいから、この新事実は、甲による「窃取」(刑法235条)を推認させる有力な間接事実と言える。このような有力な新証拠の発見によって、再逮捕の高度の必要性があると言える。相当性については、上記新証拠をもとにした取調べには10日も要さないと考えられるから、5日間の勾留状を発布することによって、相当性の要件を満たすと考える。
 したがって、勾留期間を5日以内とする限り、@の再逮捕再勾留は適法である。
設問2
 犯人性の証明のために類似行為を立証することは原則として許されないと解する。なぜなら、類似行為という推認力の弱い事実を立証することは事実認定を誤らせるおそれがあり、また、争点拡散の危険があるため、法律的関連性を欠くからである。もっとも、犯行態様に顕著な特徴があり、かつ、それが起訴にかかる犯罪事実と相当程度類似することから、それ自体で両者の犯人が同一であることを合理的に推認させるようなものである場合には、事実認定を誤らせるおそれも争点拡散のおそれもいずれも存在しないと言えるから、例外的に類似行為を被告人と犯人の同一性の証明に用いることができると解する。
 本件では、確かに美術品の彫刻を盗みウイスキー瓶にガソリンを入れた手製の火炎瓶を使用して放火したという犯行態様は相当程度類似するが、窃盗ののちに証拠隠滅のため放火に及ぶということ及び放火に手製の火炎瓶を使うということはそれほど特殊なこととは言い難い。また、かかる類似行為が行われたのは7年前という昔に1回だけであって、甲が特にその犯行態様を固着させていたと評価することもできない。このような前科を本件の立証に用いることは、結局、前科の事実から被告人に対して放火に及びやすいという人格的評価を与え、その人格的評価をもとに被告人が本件放火を行ったという合理的根拠に乏しい推論をすることになる。
 したがって、Aの判決書謄本を本件の証拠として用いることは許されない。  以上

2016年02月07日

刑事訴訟事実認定

☆強制処分(S51.3.16&米子強盗事件の当てはめ部分)
 「強制の処分」とは、個人の意思を制圧し、重要な権利利益の制約を伴う処分をいうと解する。(その判断は、@目的の正当性とA行為の程度の軽微性を指摘する。)
 K巡査の行為は、被告人を説得するために行われたものであり、その程度もさほど強いものではないから、「強制の処分」に当たらない。
 任意捜査であっても必要性・相当性を欠く場合には違法となる。必要性は@事件の性質・重大性、A嫌疑の程度、B証拠の価値・重要性、C捜査の進展状況を考慮して判断する。

B「強制処分のところはなんでカッコがついてるの?」
A「51年の判例から逆算すればこうなるってことだけど、正直学者は誰も言ってないし、規範と対応してないように思えるから、使いにくいわね。合格した人の答案とかを見ると、意思を制圧していないというところを事実を拾って1行程度で当てはめているわ。」
B「なるほど。下の必要性は?」
A「これはリークエよ。ただね、51年判例を見てほしいんだけど、あれは強制処分のところの当てはめを詳しくやってる感じなのね。要するに@目的の正当性をだらだら説明して、そのあとで『Aその程度もさほど強いものではないというのであるから』みたいな感じ。はっきり言ってこれ書いたら試験に落ちるでしょうね。だからリークエの基準を覚えて、模試で当てはめ練習すればいいわ。」
B「ほうほう。相当性は?」
A「これは必要性との比較じゃない?『一方、Kの行為は○○にとどまり程度の弱いものであるから、上記必要性に比して相当である。』みたいな。米子強盗事件の当てはめを見たらいいわ。」
B「えーっと米子強盗事件は、『所持品検査の態様は携行中の所持品であるバッグの施錠されていないチャックを回避し内部を一べつしたにすぎないものであるから、これによる法益の侵害はさほど大きいものではなく、上述の経緯に照らせば相当と認めうる』。なるほど、程度の軽さを言った後に『上述の経緯に照らせば』っていう『相対的に判断してますよアピール』を入れて、相当ですって言えばいいわけだね。了解了解。」
A「順番が前後するけど、米子の必要性の判断も見ておくわ。
『(@事件の重大性)銀行強盗という重大犯罪が発生し犯人の検挙が緊急の警察責務とされていた状況の下において、
(C捜査の進展状況)深夜に検問の現場を通りかかったY及びXの両名が、
(A嫌疑の程度)右犯人としての濃厚な容疑が存在し、かつ、兇器を所持している疑いもあったのに、警察官の職務質問に対し黙秘したうえ再三にわたる所持品の回避要求を拒否するなどの不審な挙動を取り続けたため、
(B証拠の重要性)両名の容疑を確かめる近習の必要上されたものであって、
…所持品検査の…必要性が強かった』。」
B「なるほど。リークエに書いてある考慮要素をすべて使ってるわけだね。」
A「米子はあてはめの模範として使える判例ね。」

☆宿泊を伴う取調べ(高輪グリーンマンション事件)
 任意捜査としての取調べは、強制手段によることができないだけではなく、さらに@事案の性質、A被疑者に対する容疑の程度、B被疑者の態度等諸般の事情を勘案して、社会通念上相当と認められる方法ないし態様及び限度において許容される。(以下ではT当初の任意同行とUXを4夜にわたり捜査官の手配した宿泊施設に宿泊させた上、前後5日間にわたって被疑者としての取調べを続行した点に分けて必要性・相当性を論じる。)
 T当初の任意同行は、容疑の程度、事案の性質、重大性等にかんがみると…必要性があったことは明らかであり、任意同行の手段・方法の点で相当性を欠くとはいえない。
 しかし、Uについては、
a(相当性を否定する間接事実)
 1⃣Xの寮はT署から遠くなく、帰宅できない特段の事情がないこと、2⃣同宿・張り込み等で捜査官がXの動静を監視していたこと、3⃣T署との往復には警察車両が使われ、捜査官が同乗したこと、4⃣宿泊費用を警察が払ったこと、5⃣1日中長時間、連日にわたり取調べが続けられたことから、Xは㋐取り調べに応じざるを得ない状況にあり、㋑その期間も長く、任意取調べの方法として妥当ではない。
b(相当性を肯定する間接事実)
他方、1⃣XはXが宿泊の答申書を出したこと、2⃣Xが宿泊や取調べを拒否し、退去や帰宅を申し出た証拠はないこと、3⃣捜査官が取り調べを強行した事実がないことを総合すると、Xがその意思により取調べを容認していたと認められる。
c AだがBであるばかりでなく、事案の性質上、Xを取り調べる必要性があったと認められることなど本件事情を総合すると、社会通念上相当と認められる。

B「これの当てはめってマジ難しいよね。っていうか当てはめの部分も覚えておかないと本番でセンスでやれって言っても無理だよねこれ。」
A「要は判例は自分で規範らしいものを立てているくせに当てはめになったらめちゃくちゃ大雑把に『a(相当性を肯定する事実)とb(相当性を否定する事実)を羅列してc(A+B+事案の性質からの必要性)を総合すると相当です!』って言ってるだけだわ。」
B「まあ、あえて規範と当てはめを対応させるように読めば、@事案の性質にはaの1⃣〜5⃣とbの3⃣が当てはまり、A被疑者に対する容疑の程度はcの必要性が当てはまり、B被疑者の態度にはbの1⃣2⃣が当てはまるということかな。」
A「aは全部が事案の性質だからね。こんなの判例をあてはめまでしっかり覚えた人でないと再現できないわ。しかもT任意同行の段階とU宿泊を含めた取調べ自体の段階を分けるからね。もうお手上げだわ。」
B「特にこの論点は当てはめまで覚えておかないと解けないね。」
A「あとついでに言いたいのは、『@事案の性質、A被疑者に対する容疑の程度、B被疑者の態度等諸般の事情を勘案して、社会通念上相当』っていうときの相当性はおそらく必要性を含む概念よね。@ABは任意捜査の必要性の判断の考慮要素とほぼ同じだもの。」
B「そうだね。実際後の当てはめでは必要性も検討してるからね。」

☆おとり捜査
1 本件のKの捜査は違法なおとり捜査であり、公訴棄却すべきではないか。おとり捜査とは、捜査機関又はその依頼を受けた捜査協力者が、その身分や意図を秘して犯罪を実行するように働き掛け、相手方がこれに応じて犯罪の実行に出でたところで現行犯逮捕等により検挙するものをいい、本件の捜査はこれに当たる。
(1)まず、「強制の処分」(197条1項但書)に当たり、強制処分法定主義、令状主義(憲35条、刑訴法218条)に反しないか。「強制の処分」とは、被処分者の意思を制圧し、重要な権利利益の制約を伴う処分をいう。
 本件は甲の意思を制圧しているとはいえず、「強制の処分」に当たらない。
(2)では、任意捜査として適法か。おとり捜査は国家が犯罪を作り出し、捜査の公正を害するから、厳格に必要性・相当性を満たすことが要件となる。(必要性は直接の被害者がいない薬物事犯であって通常の操作方法では摘発困難なこと、相当性は被疑者が捜査以前に覚せい剤の譲渡を企図していたことを認定する。)。
本件は直接の被害者がいない薬物犯罪であり、Kにおいて捜査協力者Xからの情報によっても甲の住居や覚せい剤の隠匿場所を把握することができなかったことから、ほかの捜査手法によっては摘発が困難である場合に当たり、必要性が認められる。一方、甲はすでに覚せい剤の有償譲渡を企図して買い手を求めていたことから、Kに取引の場に覚せい剤を持ってくるよう仕向けたとしても、国家が犯罪を作り出したり捜査の公正を害しているとはいえず、相当性が認められる。

B「これはフルスケールで書いてるね。」
A「おとり捜査は判例学説がいろいろ言っててややこしいから、書き方が適度にばらつくのよね。だから頻繁に出題されるわけだけど。で、今回はこれがおとり捜査のファイナルアンサーだというのを作ってみたわけ。」
B「学説がいろいろ言ってるけど、基本的には判例ベースでいいんだよね。」
A「もちろん。上の論証でもろに学説使ってるのはおとり捜査の効のところと(2)の規範のところだけよ。」
B「(2)の規範のところっていうのは『国家が犯罪を作り出し、捜査の公正を害する』ってところだね。」
A「そうそう。それに加えて人格的自立権を害するっていうのが学説上有名なおとり捜査への批判なんだけど、どこで書いていいかわからないから書かない人も多いのよね。ただ、有名だから配点はあると思うの。で、書くとしたらここかなって。」
B「ちゃっかり相当性の当てはめでも使ってるけどね。」
A「まあ、学説が言ってる内容の体系的位置づけとしたら相当性のところよね。」
B「範囲誘発型とか機会提供型ってのは無視していいの?」
A「それは平成16年の判例が出る前の学説だから気にしなくていいと思うわ。」
B「判例が『@直接の被害者がいない薬物事犯等の捜査において、A通常の捜査方法のみでは当該犯罪の摘発が困難である場合に、B機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者』を対象にするならOKって言ってる部分は使ってる?」
A「使ってるわよ。@Aは必要性の当てはめ、Bは相当性の当てはめよ。@っていうのは厳密には当てはめできないからAとセットの規範だと思うけど。」
B「学者によっては@が必要性、Aが緊急性、Bが相当性って言ってるよね。」
A「まあ、そういう理解でもいいと思うけど、必要性と緊急性を分けるのは、つまり緊急性というのを独立した項目として立てるのは共通認識ではないから、必須ではないわ。」
B「おとり捜査が違法だとして、効果は公訴棄却なの?」
A「これは免訴とか証拠排除という考えもあるから、どれでもいいわ。ただ、現行犯逮捕してるのに証拠排除っていうのはやや意味不明だと思うわ。」

☆準現行犯逮捕(和光大事件)
 甲の逮捕が純現行犯逮捕(212条2項)として適法か。要件は@212条2項各号該当性、A罪を行い終わってから間がないと明らかに認められること、B逮捕の必要性である。@については、…(会話参照)…。Aについては、㋐犯罪との時間的近接性の明白性の意味だが、場所的近接性も考慮する趣旨であり、㋑Aは@の要件との相関関係によって犯罪と犯人の明白性が認められる程度で足りる。
 本件では、@甲は着衣と靴に血がついているから「犯罪の顕著な証跡があるとき」(3号)に当たる。乙については同様の証跡は認められないが、以下に述べるように甲乙はWが認識した犯人と同一性が認められるため、行動を共にしている共犯者である甲に上記のように証跡が認められる場合に当たるから、乙も3号の要件を満たす。
 また、AP及びQが甲乙を発見したのは犯罪発生から20分後に犯罪現場から800メートル離れた地点であり、時間的場所的近接性が認められる。そして、犯罪と犯人を明確に認識しているWによる110番通報があり、その通報を受けてH県警警察本部が出した指令を受けたP及びQが、通報内容と身体的特徴が細部に至るまで一致する二人組を発見している。このように顕著に一致する特徴を有する二人組がほかにもいることは考え難いから、P及びQが発見した二人組はWが認識した二人組と同一と考えられる。そのため、@Aの相関関係から犯罪と犯人の明白性は認められるといえる。
さらに、本件は殺人事件という重大事件であるため甲乙には逃亡のおそれがあるから、B逮捕の必要性も認められる。
 したがって、甲乙の現行犯逮捕は適法である。
A「これは@〜Bを確実に書いたうえで、@212条2項各号の要件については解いてる問題に必要なものを補足して書く必要があると思うわ。1号だったら、『その者が犯人であることを明確に認識している者により、犯人として追われまたは呼ばれていることをいう。』。㋑『中断が短時間であればなお本号に当たる。』㋒『現認者から追尾を引き継いだ者でもよい。』」
B「2号であれば、㋐『物と犯罪の結びつきが客観的に明らかであるものをいう。』㋑『現行犯と認定した際に所持していれば足り、逮捕時に所持している必要はない。』」
A「『所持』の意味もなんとなく覚えといてね。『事実上の支配下にあればよい。』」
B「3号は『本人が着用している場合だけでなく、行動を共にしている共犯者の被覆に血痕が認められるような場合も本号に当たる。』。これは平成25年に出たっけ。」
A「4号は、『職務質問のために停止を求めたところ逃げ出した場合も含む。』。」
B「『❝だれか❞と呼ばれる必要はない』とかいう判例があるけど、爆笑だね。」
A「『ギャフンと言わせてやる』っていう慣用句はあるけど、実際にギャフンという人がいないのと同じね。」
B「で、解いてる問題にかかわらず必ず解釈を欠いたほうがいいのがAの『罪を行い終わってから間がないと明らかに認められるとき』の要件だね。」
A「そうね。これは人によって細かいところが違うからあれなんだけど、『㋐犯罪との時間的近接性の明白性の意味だが、場所的近接性も考慮する趣旨であり、㋑それが要求される程度は@の要件との相関関係によって決める。』という二点は相場的だから書いたほうがいいと思うわ。」
B「『時間的近接性の明白性』?ややこしいね。」
A「だって『間がない』(時間的近接性)『と明らかに認められる』(明白性)でしょ?」
B「ああ、なるほど。」

☆別件逮捕・勾留(浦和地裁H2.10.12を契機として)
1 甲の供述証拠は違法な取り調べから得られた違法な証拠であるから、証拠能力が認められないのではないかを検討する。
(1)まず、甲の逮捕は適法か。逮捕とは被疑者に対して行われる最初の強制的な身柄拘束処分であり、@逮捕の理由(199条1項本文)とA必要性(同上2項但書、規則143条の3反対解釈)が要件となる。@は特定の犯罪に対する相当な嫌疑を意味する。Aは逃亡または罪証隠滅のおそれがあることを意味する。
 本件は、…(別件について要件充足を確認)適法である。
(2)では、それに続く身体拘束は適法か。前述の逮捕の理由(199条1項)は事件ごとに判断する(200条1項)以上、逮捕中に取り調べることができるのはその逮捕の被疑事実についてのみである(事件単位の原則)。そして、起訴前の身柄拘束期間の趣旨は起訴・不起訴の決定に向けた捜査を行うことであるから、逮捕の被疑事実についての起訴・不起訴の判断が終わった時点で当該身体拘束の必要性がなくなり、以後の身体拘束は違法となると解する。(逮捕の被疑事実について起訴・不起訴の判断が終わったか否かは、取調べ内容から事後的に判断する。)
 本件では、甲は10日間の勾留期間のうち8日間は強盗についての取調べを受けており、殺人・死体遺棄事件について取調べを受けたのは2日間に過ぎず、その後5日間は供述録取書の作成に応じるよう1日30分間の説得を受けていたに過ぎない。このことからすると、強盗罪の起訴・不起訴の決定には10日間を要したといえるから、10日間の身体拘束は適法である。

(別ルート)
1 甲の供述証拠は違法な別件逮捕から得られた違法な証拠であるから、証拠能力が認められないのではないかを検討する。
(1)まず、甲の逮捕が違法な別件逮捕に当たるか。
 逮捕とは、被疑者に対して最初に行われる強制的な身柄拘束処分である。令状主義とは、逮捕のような強制処分の実行に際し、原則として裁判官の審査を受けなければならないという原則である(憲法33条、刑訴法199条1項)ところ、違法な別件逮捕は令状主義の趣旨を潜脱するから違法となる。この違法な別件逮捕とは、未だ重大な甲事件について
被疑者を逮捕・勾留する理由と必要性が十分でないのに、主として甲事件について取り調べる目的で、甲事件が存在しなければ通常立件されることのないと思われる軽微な乙事件につき被疑者を逮捕・勾留する場合をいう。違法な別件逮捕に当たるか否かは、取調べが主として別件について行われた事実から、捜査機関の目的が主として別件の公訴提起にあったことを認定することによって行う。

B「これは平成23年度があてはめ素材だね。別ルートまでご丁寧に用意してくれてるけど、どういう違いがあるんだい?」
A「逮捕の違法を問題にするかどうかの違いね。別ルートは木谷明裁判官の論証に近いけど、正直平成23年度はこの流れにしてしまうとめちゃめちゃ書きにくいわ。上のほうのルートがおすすめね。」
B「逮捕自体の問題にすると、逮捕の必要性を取調べ状況から逆算して認定しないといけないから、ちょっと時間軸がずれてやりにくいね。」
A「そうそう。だからやめたほうがいいわ。逮捕は別件について要件満たしてるからオッケーって考えるべきよ。そっちのほうがはるかに書きやすいわ。」
B「いわゆる別件基準説だね。取調べ自体の違法性を問題にするわけだ。」
A「取調べ自体の問題にした場合、何の違法性を問題にするかと言ったら事件単位の原則ね。条文含めてこれは書かないと何が違法なのか意味が分からないからちゃんと書くべきだわ。」
B「事件単位の原則を書いた後の『身柄拘束期間の趣旨は、…』っていうのは、知ってるよこれ。川出説だよね。」
A「そう。便宜的に使わせてもらったわ。本人は本件基準説のつもりだから、別件基準説をとったうえでこれを使うのはやや気が引けるけど、論理的に矛盾はないわ。」
B「それで、当てはめとしては、問題文に『何日間は別件の取調べをやって、…』みたいなことが書いてあるから、それを書き写して評価すればいいわけだね。」
A「そう。ただこれ捜査比例原則などのふつうの当てはめと違って、間接事実をいくつも評価するタイプじゃないってことはわかっておくべきね。」
B「あ、あと、身柄拘束の違法性っていうのは平成23年の問題文がそういう誘導をしてたからそう書いてるんであって、教科書的な論点としては『余罪取調べの限界』ってことになるんでしょ?」
A「まあそうね。余罪取調べの限界のはそもそも被疑者に取り調べ受忍義務があるかという話から始まるけど、正直、今の出題形式でその論点を聞くのは想像できないわね。」
B「書いても汚くなるだけだからやめといたほうがいいね。配点あったとしても。」

☆捜索差押令状に基づく差押えの要件
 そもそも被疑者の物を「押収」(刑訴法218条の「差押え」「捜索」を含む。憲法35条)するには「正当な理由」(憲法35条)が必要である。「正当な理由」とは、@嫌疑の存在(場所に物がある蓋然性)、A被疑事実関連性(99条1項)、B捜索差押えの必要性である。

A「これは、判例分析というか当てはめ研究をするというこの企画のテーマからすると例外だから、チラリズムよ。」
B「ちょっとだけよってか。Aの被疑事実関連性を判断させる問題は最初の予備試験に出たね。だけどこんなにカチッとはなかなか書ける人いないね。有名じゃないんだよ。」
A「判例がちゃんと言ってないからね。模試ではよく出るんだけど。本試験ではどうかしら。」

☆逮捕に伴う差押え(和光大事件)
 逮捕に伴う捜索・差押えの要件は、@「逮捕する場合」(220条1項本文)、A「逮捕の現場」(同2号)である。同条が例外的に令状なしの捜索・差押えを認めたのは、逮捕の現場には証拠物が存在する蓋然性があり、証拠破壊の緊急の必要性があるからである。そのため、@は逮捕の直前直後を差し、Aは原則として被疑者の支配下を指すが、被疑者の代わりに証拠を破壊する可能性のある人物がいる場合には、証拠破壊の危険はその者の管理権が及ぶ範囲で認められるから、その者の管理権が及ぶ範囲も含む。もっとも、被逮捕者の身体に証拠物が存在する蓋然性や証拠破壊を防ぐ必要性は場所的に離れても異ならないから、被疑者の身体については、その場で直ちに捜索・差押えをするのが適当でないときには、速やかに最寄りの場所まで連行したうえでそれらの処分をすることも、「逮捕の現場」における捜索・差押えと同視することができ、適法と解する。
(別筋)
 逮捕に伴う捜索・差押えの要件は、@「逮捕する場合」(220条1項本文)、A「逮捕の現場」(同2号)である。同条が令状なしの捜索・差押えを認めたのは、逮捕の現場には証拠物が存在する蓋然性があるからである。そのため、@は逮捕と時間的に近接していれば足り、Aは、令状に基づく逮捕との均衡から、被疑者の管理権が及ぶ範囲を意味する。もっとも、被逮捕者の身体に証拠物が存在する蓋然性は場所的に離れても異ならないから、被疑者の身体については、その場で直ちに捜索・差押えをするのが適当でないときには、速やかに最寄りの場所まで連行したうえでそれらの処分をすることも、「逮捕の現場」における捜索・差押えと同視することができ、適法と解する。これは新たな強制処分を創出しているわけではなく、220条1項2号の捜索を行うための付随的措置として同条文の効力に含まれていると解する。
 本件では、@甲の携帯電話を差し押さえたのは逮捕から10分後であり、時間的近接性が認められる。もっとも、A差押えは逮捕の現場から200メートル離れた路上で行われており、甲の管理権内ではない。しかし、差押えた携帯電話は甲の身体に存在した証拠である。また、Pは当初は逮捕の現場である路上で捜索差押えに着手したが甲が暴れだし、また、酒に酔った学生の集団が同所を通りかかり、P及び甲を取り囲んだため、その場で捜索を続行すれば甲や学生らが怪我をするなどの危険があったといえるため、その場で直ちに捜索・差押えをすることが適当でないときにあたる。そして、I交番は300メートル離れた最寄りの交番であるから、速やかに最寄りの場所まで連行する要件も満たす。そして、Pが差押えたのは実際には交番ではなくその道中の路上であるが、証拠存在の蓋然性は最寄りの交番で差押えてもその道中で差押えても異ならないから、「逮捕の現場」における捜索・差押えと同視しうることに変わりはない。

B「これは(別筋)って書いてあるのはおなじみの逮捕に伴う差押えの相当説だけど、短いから試験対策的にはこっちのほうがいいね。」
A「まあ、緊急処分説を支持したいところだけど、やむを得ないわ。」
B「相当説の論証はよく見ると『令状主義の例外』って書いてないね。」
A「そうそう。相当説なら令状捜索と逮捕捜索は並列の関係なのよ。原則例外関係ではないんだわ。」
B「で、逮捕の現場と逮捕する場合の解釈を書いて。」
A「これは両方必ず書いたほうがいいわね。」
B「そのあとできょう2回目の和光大事件の論証を使うわけだ。」
A「これは『同視できる』っていうのがどういう意味なのかを書くところに配点があるわ。誰も書かなかったかもしれないけど。」
B「『同視できる』っていうのは普通に読むと新たな強制処分を作り出しているように読めるからだね。」
A「ちなみに、言ってなかったけど、あてはめは平成25年の本試験よ。」
B「わかってるって。」

☆取調受忍義務
 取調受忍義務を認めると黙秘権行使が困難になるから、取調受忍義務はないと解する。198条1項但書は、出頭拒否・取調室からの退去を認めることが逮捕勾留の効力を否定するものではないことを注意的に規定したものと解する。
 したがって、身体拘束中の被疑者取調べは任意処分である。
 
☆余罪取調べの可否
(取調受忍義務否定)
 したがって、本罪の取調べも余罪取調べもともに任意処分であり、余罪取調べを行うこと自体に特別の制約はない。
 しかし、任意処分と言っても無制限ではなく、余罪取調べを行うことで本罪についての起訴不起訴の決定を不当に遅延させた場合には、余罪取調べは原則として違法と解する。

☆再逮捕・再勾留
 再逮捕・再勾留は、法が定めた時間制限(203条以下)を無意味にするから原則として違法である。もっとも、再逮捕・再勾留の必要性がある場合はあり、199条3項は再逮捕がありうることを前提にしているから、必要かつ相当な場合は例外的に再逮捕・再勾留が認められると解する。必要性の要件は厳格に解し、@事情変更が生じたこと、A必要やむを得ないという程度に加重されたものであること、B不当な蒸返しに当たらないと評価できることという条件を満たすものでなければならない。

・再逮捕再勾留を禁止した規定はない、勾留は逮捕と密接な関係にある、等も理由として使える。
 

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2016年02月06日

刑事訴訟法 予備試験平成27年度

設問1
1 検証(128条)とは五官の作用により物の形状等を認識する処分であり、写真はそのような認識のために用いられるものであるから、写真撮影は検証の性質を有する。そのため、捜査目的で写真撮影をするには原則として検証令状(218条1項)が必要である(令状主義、憲法35条参照)。本件の写真撮影はいずれも検証令状なしに行われているから、令状主義に反し違法ではないかが問題となる。
2 写真撮影@について
 @は、甲方の捜索に際し、立会人乙に捜索差押許可状を呈示している状況の写真撮影である。捜索の際には被処分者に令状を呈示しなければならない(222条1項、110条)。また、捜査の適法性については検察官の側に立証責任があると解されている。そのため、本件写真撮影は222条1項、110条に基づく令状呈示を適法に行ったことを証明するためにされたものと言え、写真撮影をする必要性が認められる。そして、撮影の態様も相当性を逸脱したものではない。
 したがって、@は捜索令状の執行に「必要な処分」(222条1項、111条1項)として許される。
3 写真撮影Aについて
 Aは、サバイバルナイフと運転免許証が同じ机の引き出しの中に入っている状況を撮影したものである。運転免許証及び健康保険証は身分証明書として社会生活上使われることが多く、その性質上他人に貸し借りするものではなく、本人しか使わない場所に保管するのが通常である。そのような性質を有する運転免許証等と捜索目的物であるサバイバルナイフが同一の引き出しの中にあったという事実は、捜索目的物であるサバイバルナイフが運転免許証等の名義人の所有物であることを強く推認させる。しかし、サバイバルナイフを押収してしまうと、このようなサバイバルナイフと運転免許証等が同一の引き出し内にあったという事実は立証できなくなってしまう。かといって引き出しごと差し押さえるわけにもいかない(引き出し及び運転免許証等は裁判官に審査を受けた捜索目的物ではないため)。そこで、このような状況を証拠として確保する現場保存のために、Aが行われたと考えられる。
 ここまでで検討した捜索目的から、Aの写真撮影をする必要性があると言える。そして、写真に映されたサバイバルナイフ自体は捜索目的物であるからそれを撮影しても新たなプライバシー侵害はない。また、ともに写真に映された運転免許証等は捜索目的物ではないからその撮影には原則として検証令状が必要であるが、運転免許証等それ自体は秘匿性の高いものではなく、サバイバルナイフが甲の所有物であることの立証の必要性に照らすと、本件の撮影に際し運転免許証等が映っていることはなお相当性を逸脱したものではない。
 したがって、Aも捜索差押の実効性を確保するために「必要な処分」(222条1項、111条1項)として適法である。
4 写真撮影Bについて
 Bは、覚せい剤使用罪の証拠となりうる注射器及びビニール袋を撮影したものである。これらは裁判官の審査を受けた捜索目的物ではないから、その撮影には原則として検証令状が必要である。そして、傷害罪の被疑事実でサバイバルナイフを捜索目的物とする本件捜索目的と、覚せい剤使用罪とは何の関係もないから、Bについて本件の捜索令状の効力が及んでいたり、本件捜索の実効性を確保するための「必要な処分」として許容されることもない。乙を覚せい剤所持罪の被疑事実で現行犯逮捕(212条1項)するならば、220条に基づく捜索として適法となる余地はあるが、乙を逮捕していないためその可能性もない。
 したがって、Bは違法である。
設問2
1 犯罪事実の証明は証拠能力のある証拠によって法定手続きに則って行わなければならない(317条、厳格な証明)。そこで、Pが作成した書面(以下「本件書面」という)が書証として証拠能力を有するかが問題となる。
2 まず、本件書面が伝聞証拠に当たり証拠能力が否定されないか検討する。
 320条1項が伝聞証拠の証拠能力を否定する理由は、供述証拠は知覚・記憶・叙述の過程を経ているにもかかわらず反対尋問、偽証罪による警告、裁判官による供述態度の確認がなされていないから類型的に誤りを含む可能性があるからである。そのため、伝聞証拠とは公判期日における供述に代わる供述又は書面で、供述内容の真実性を証明するために用いるものをいうと解する。本件書面はこの定義による伝聞証拠に当たる。
 もっとも、伝聞証拠であっても被告人の同意があり、相当性が認められれば証拠能力が付与されるところ(326条1項)、本件では甲の同意はない。
 また、伝聞証拠であっても321条以下の伝聞例外に当たれば、証拠とする必要性が高く、供述内容の真実性の情況的保障があるため、証拠能力が認められる。本件書面は、写真が検証の性質を有するから、書面全体が321条3項による伝聞例外が認められるか検討する。
 同条の要件は供述者が証人尋問を受け、その書面の成立の真正と内容の真正を供述することである。このように緩やかな要件で例外を認めたのは、検証結果は複雑であるから口述よりも紙媒体のほうが適しているからである。本件でも、Pがそのような供述をすれば、本件書面に証拠能力が認められる。
3 次に、本件書面のうち説明文の部分が供述に当たり、証拠能力が否定されないか検討する。平成17年の判例は、本件と同様に321条3項で伝聞例外が認められた捜査報告書中の説明文を供述書面と認定し、重ねて伝聞例外を検討することを要求した。その判例の事案は、捜査官が被告人に指示した動作を行わせ、その説明として文章をつけていたものであった。しかし、本件書面の説明文は、その判例の事案とは異なり、捜査官が、捜索の際の客観的事実を述べたものであり、その内容は要するに、なぜ写真Aを撮影したかの理由を説明しているものである。これは写真撮影の動機ないし契機の説明に過ぎず、講学上の現場指示にあたり、その内容が要証事実との関係で意味を持つものではない。
 したがって、説明文の部分に独立して伝聞例外を検討することは不要であり、説明文の部分は、本件書面と一体のものとして321条3項により証拠能力が認められる。 以上

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刑事訴訟法 予備試験平成26年度

問題文省略

回答
1 本件ICレコーダーに伝聞法則が適用され証拠能力が否定されないか。
(1)320条1項は、供述証拠であって、反対尋問、偽証罪の警告と宣誓、裁判官による供述態度のチェックを経ない証拠の証拠能力を原則として否定している。したがって、伝聞証拠とは公判廷外の供述を内容とする証拠であって、供述内容の真実性を証明するために用いるものをいうと解する。本件ICレコーダーは公判廷外の供述を内容とする供述といえ、また、要証事実は甲が刑法198条の構成要件事実該当事実を行ったことと解され、その証明には供述内容の真実性が問題となるから、伝聞証拠に当たり、原則として証拠能力が否定される。
(2)もっとも、以下の場合には証拠能力が認められる。
ア 甲の同意があり、相当性が認められる場合(326条1項)。
イ 321条以下の伝聞例外に当たる場合も、証拠能力を認める必要性と信用性の情況的保障があるため例外的に証拠能力が認められる。本問では322条1項該当性を検討する。
(ア) 前述のように本件ICレコーダーは「被告人が作成した供述書」に当たる。「書面」と解すると甲の署名・押印が必要となるが、署名・押印を要求する趣旨は録取者の供述過程を解消することであるところ、録音過程は機械的ゆえに供述過程とは質的に異なるから、「書面」と解する必要はない。
(イ) 供述内容は刑法198条1項の犯罪事実の全部を認める内容であり、「自白」(憲法38条2項、法197条1項)に当たるから、「承認」(刑事上不利益な内容すべて)に含まれる。
(ウ) 但書の任意性の要件を検討する。憲法38条2項、刑訴法197条1項が不任意自白の証拠能力を否定した自白法則の趣旨は、不任意自白は虚偽の可能性が高く、また、人権侵害のおそれもあることである。したがって、不任意自白か否かは@虚偽の供述が行われるほど強い心理的圧迫があることまたはA人権侵害があることを要件として判断すべきと解する。本件では、偽計が用いられてはいるが強い心理的圧迫はないと認められ(@不該当)、甲は黙秘権の告知を受け自らの意思で供述を始められたと認められるから人権侵害もないと認められ(A不該当)、不任意自白に該当しない。したがって、任意性も認められる。
(3)以上より、322条1項の伝聞例外が認められ、伝聞法則により証拠能力が否定されることはない。
2 次に、違法収集証拠排除法則により証拠能力が否定されないかを検討する。同法則は先に検討した自白法則とは別物であるから(二元説)、別に検討する必要があると考える。
(1) 証拠採取過程の違法性
ア 強制処分法定主義(197条1項但書)違反の有無
 供述調書にしないし誰にも言わないと虚言を述べたうえで甲の供述内容を密かに録音した捜査方法には明文がないため、強制処分法定主義(197条1項但書)に反しないか検討する。
 多彩な捜査方法がある現代において可及的に人権保護を図るため、「強制の処分」とは意思を制圧し、重要な権利利益の制約を伴う処分を言うと解する。
 本件では黙秘権(憲法38条1項)という重要な人権が問題となっているが、自白法則の検討の際に見たように甲は自らの意思で供述しており、意思の制圧を伴っていない。また、供述させるに至った態様も「制約を伴う」ものとは言えない。
 したがって「強制の処分」には該当しない。
イ 捜査比例原則(197条1項本文)違反の有無
 すると本件の捜査方法は任意捜査となるが、任意捜査の適法要件は必要性・相当性である。
 本件では、銀行取引の履歴などから犯罪の有力な間接証拠は得ていたという捜査の進展状況から、甲の嫌疑の程度は高い。しかし、罪体につき直接証拠はなく、この点につき自白を得たとしても結局補強法則(憲法38条3項、法319条2項)により補強が必要であるから、証拠の重要性は小さいから、必要性はそれほど大きいものではない。
 にもかかわらず、Kはあざとい虚言を用いたうえ甲に無断で供述を録音しており、相当性は認められないというべきである。
 したがって、本件捜査には比例原則違反の違法がある。
(2)排除相当性
 違法収集証拠排法則の趣旨は、違法収集証拠は適正手続(憲法31条)を害し、司法の廉潔性を害し、将来の違法捜査抑止の観点から証拠とすべきでないことであり、そのため@違法の重大性とA排除の相当性を総合的に判断して排除相当性を判断すべきである。
 本問では前述のようにあざとい虚言と無断の録音という行為は甲の供述の自由に対する重大な違法であり、Kの法無視の態度から将来の違法捜査抑制のため排除相当性が大きい。
(3)したがって、本件ICレコーダーは違法収集証拠として証拠能力が認められない。 以上

刑事訴訟法 平成19年度第2問

問題文
 検察官は、甲を、「被告人は、乙と共謀の上、平成19年3月4日、東京都内のX公園駐車場の自動車内で、殺意をもって、被告人において、Aに対し、その頸部をロープで締め付け、よって、そのころ、同所で、Aを窒息死させたものである。」との事実で起訴した。甲は、公判において、「自分はその場にいたが、犯行に関与しておらず、本件は、乙とは別の男がやった。」その男の名前は知らない。」旨弁解して無罪を主張した。
 証拠調べの結果、裁判所は、乙とは断定できないが、現場に共犯者がおり、これと甲が共謀したことは明らかであるとして、「被告人は、氏名不詳者と共謀の上、平成19年3月4日、東京都内のX公園駐車場の自動車内で、殺意をもって、被告人または上記氏名不詳者あるいはその両名において、Aに対し、その頸部をロープで締め付け、よって、そのころ、同所で、Aを窒息死させたものである。」との事実を認定し、有罪判決を言い渡した。
 以上の手続における問題点について論ぜよ。

回答
1 本問の公訴事実から本問の事実認定をするには訴因変更手続(312条1項)が必要ではないか。訴因変更の要否の判断基準が問題となる。
2(1)そもそも公訴事実と訴因は同義であるが、公訴事実に訴因を明示する(256条3項)趣旨・目的は、審判対象を識別・特定し、また、被告人の防御の利益に資することである。このうち、被告人の防御の利益に資する点は、訴因に明示しなくても公判手続全体を通して達成されるべき事柄であるから、第一次的趣旨は審判対象の識別・特定と解する。そうすると、審判対象の識別・特定のために必要な事実について異なる認定をするためには訴因変更が必要である。
(2)本件は公訴事実では「乙と共謀の上」「被告人において」というように、共謀者と実行行為者が特定していたが、認定された事実ではこれらがそれぞれ「氏名不詳者と共謀の上」「被告人又は上記氏名不詳者あるいはその両名において」というように、いずれも不特定とされている。
 しかし、これらの事実は殺人罪の構成要件該当事実のうち主要事実になるものではないし、他事件との識別の上でどうしても必要な事実でもない。
(3)したがって、これらの事実は審判対象の識別・特定のために必要な事実ではないから、審判対象の識別・特定の見地からは訴因変更は不要である。
3(1)もっとも、審判対象の識別・特定のための事実に変化はなくても、被告人の防御のために重要な事実について異なった認定をする場合には、原則として訴因変更手続きを経たうえで、被告人に防御の対象を明らかにすべきである。したがって、被告人の防御のために重要な事実が訴因に明示された以上、それと異なった認定をするには原則として訴因変更が必要と解する。しかし、具体的な審理経過から、当該事件において被告人の防御の利益を害していない場合には例外的に訴因変更手続きは不要と解する。
(2)本件では、共謀者及び実行行為者が訴因に明示されており、甲は乙との共謀の事実や自ら実行行為をしたことに対して防御を集中させると考えられるから、それらは甲の防御のために重要な事実と言える。
 具体的な審理経過を見ると、確かに、本件では共謀者及び実行行為者は争点として顕在化していない。しかし、甲はその場にいたことを認めたうえで犯行への関与を争っており、実質的には乙との共謀や自ら実行行為を行ったことを争っていたと見得るから、少なくとも具体的審理経過において甲の防御の利益に支障がないとは言い切れない。
(3)したがって、本件の事実認定をするには被告人の防御の利益の観点から訴因変更手続が必要であった。
4 本件の手続には訴因変更手続きを経ていないという問題点がある。 以上

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