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2018年03月23日

商法論述枠組

設問〇
株主総会決議取消の訴えを提起することが考えられる(831条1項)。
1 訴訟要件
(1)Cは甲社の株主であるから、「株主等」(831条1項本文、828条2項1号参照)に含まれ、原告適格を有する。
(2)〇〇時点では決議の日である〇〇から3カ月以内なので、出訴期間内である。
(3)以上より訴訟要件を満たす。
2 取消事由
(1)
(2)
3 裁量棄却(831条2項)の有無
 〇〇の違法は△△であり重大だから裁量棄却されない。
4 結論

設問〇
 新株発行無効の訴えを提起することが考えられる(828条1項2号)。
1 無効原因
 法的安定の観点から募集株式発行の無効主張は訴えによってのみ可能である。無効事由は明文がないが、募集株式発行を前提として多数の法律関係が形成されるため重大な法令・定款違反の場合に限り無効事由となると解する。
2 本件における無効事由
(1)
(2)
3 結論

設問〇
1 Xは433条1項1号に基づき会計帳簿の閲覧請求をすると考えられる。
(1)Xは甲社の発行済株式1000万株のうち30万株を保有しているから「発行済株式の百分の三…以上の数の株式を有する株主」(433条1項柱書前段)に当たり、請求権を有する。
(2)「請求の理由」(433条1項柱書後段)は、拒絶事由の有無や開示の範囲を会社に判断させるため具体的に明らかにする必要がある。本件では,,,
2 これに対して甲社は、Xが甲社の業務と実質的に競争関係のある事業を営んでいること(433条2項3号)を理由に請求を拒むことが考えられる。競業の客観的事実があれば足り、競業者に競業に利用する主観的意図があることは不要である。本件では,,,
3 結論

請求の理由を基礎づける事実が客観的に存在することまで立証する必要はない
・単に「予定されている新株発行その他会社財産が適正妥当に運用されているか調査する」というのはダメだが、取締役が行ったとされる具体的な行為を挙げているものは具体性に欠けない。
・非公開会社において株主が株式を譲渡するため適正な価格を算定する目的で閲覧等請求を行う場合は1号の拒絶事由に該当しない。

設問〇
1 乙社は募集株式発行差止請求(210条)及び同請求権を被保全債権とする仮処分申立て(民保23条2項)をすることが考えられる。
2 本案請求の可否
(1)乙社は「株主」(210条柱書)であり、本件募集株式発行により甲社株式の保有割合が〇%から△%に減少するため、「不利益を受けるおそれ」(210条柱書)が認められる。
(2)法令又は定款違反(1号)
(3)「著しく不公正な方法」(2号)
(4)結論
3 仮処分の可否
 以上より差止請求権が認められるから「保全すべき権利」が認められ、募集株式発行が切迫しているから「保全の必要性」が認められる。従って、仮処分申立も認められる。
posted by izanagi0420new at 01:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 商法

2018年03月01日

会社法論証集

財産引き受けの無効主張と信義則 最判昭和61年9月11日 百選6
 本件営業譲渡契約は無効であって、契約の当事者であるY会社は、特段の事情のない限り、右の無効をいつでも主張することができる

百選10
 権利行使者としての指定を受けてその旨を会社に通知していないときは、特段の事情がない限り、原告適格を有しない

百選12
 共有に属する株式についての議決権の行使は、当該議決権の行使をもって直ちに株式を処分し、または株式の内容を変更することになるなど特段の事情のない限り、株式の管理に関する行為として、民法252条本文により、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決せられる

百選14 蛇の目ミシン事件
 会社から見て好ましくないと判断される株主が議決権等の株主の権利を行使することを回避する目的で、当該株主から株式を譲り受けるための対価を何人かに供与する行為は、120条1項に言う「株主の権利の行使に関し」利益を供与する行為と言える。

百選21
 甲株式会社が同社のすべての発行済み株式を有する乙株式会社の株式を取得することは、会社法155条の定める除外事由のある場合又はそれが無償によるものであるなど特段の事情のある場合を除き、同条により許されない。

百選23
 非上場会社が株主以外の者に新株を発行するに際し、客観的資料に基づく一応合理的な算定方法によって発行価額が決定されていたと言える場合には、その発行価額は、特段の事情のない限り、「特に有利な金額」には当たらない。

百選30
 299条の趣旨は株主に出席の機会と準備の機会を与えることであるから、招集通知を欠いても全員出席総会において株主総会の権限に属する事項について決議をしたときは当該決議は有効に成立する。
 代理人が出席することによる全員出席総会となるときは、代理人を選任した株主が会議の目的たる事項を了知して委任状を作成し、かつ、当該決議が会議の目的たる事項の範囲内のものである限り、その決議は有効に成立する。

百選38
 役員選任の総会決議取消の訴えが係属中、その決議に基づいて選任された取締役ら役員がすべて任期満了により退任し、その後の株主総会の決議によって取締役ら役員が新たに選任され、その結果、取消しを求める選任決議に基づく取締役ら役員がもはや現存しなくなったときは、特段の事情のない限り、訴えの利益を欠く。

百選41
 このような取締役会の招集決定に基づき、このような代表取締役が招集した株主総会において新たに取締役を選任する旨の決議がなされたとしても、その決議は、いわゆる全員出席総会においてされたなど特段の事情がない限り、法律上存在しない。

百選54 MBOに関する取締役の責任 429条1項
・取締役は会社と委任契約上の善管注意義務(330条、民法644条)・忠実義務(355条)を負う。
・MBOは会社と取締役の利害が相反しうるが、経営再建に資するため、その実行が経営判断として著しく不合理と認められるなどの事情がない限り許容される。
・ただし、取締役は株主の共同の利益を図ることに対して善管注意義務を負うから、善管注意義務の内容として、MBOに際し公正価値移転義務及び適正情報開示義務を負う。

百選62
 株主総会で総額が定められ取締役会で個々の取締役につき具体的に定められた報酬額は会社と取締役との契約内容となり双方を拘束するから、事後的にある取締役の報酬額を変更しても当該取締役の同意がない限り当該取締役は従来の報酬額の報酬請求権を有する。

百選70
 429条は、株式会社が経済社会で重要な地位を占めており、また株式会社の活動は取締役の職務執行に依存することを考慮し、第三者保護の趣旨で、取締役が悪意重過失で任務懈怠を行い、その結果第三者に損害が生じた場合には、任務懈怠と損害の間に因果関係がある限り、直接損害であるか間接損害であるかを問わず、取締役が損害賠償責任を負う規定である。民法709条とは請求権競合となる。

百選72
 取締役を辞任した者は、積極的に取締役としての行為をあえてした場合を除いては、辞任登記が未了であることによりその者が取締役であると信じて取引した者に対しても429条1項の責任を負わないが、不実の登記を残存させることを明示的に承諾していたなどの特段の事情がある場合には、商法14条・会社法9条の類推適用により善意の第三者に対して取締役でないことを対抗できない結果、429条1項の責任を負う。

百選100 ブルドックソース事件
 公開買付けの公告に対し、急きょ定款を変更して差別的行使条件付新株予約権無償割り当てを行った。
訴訟提起
 原告としては、247条2号の「著しく不公正な方法」に当たるとして新株予約権発行差止請求と発行差止の仮処分(民保23条2項)を求める。
論点
1)株主平等原則に反しないか。
前提
 前提として差別的な内容の新株予約権の無償割り当てに対しても109条1項の趣旨が及ぶ。
規範1(相当性)
 特定の株主による経営支配権の取得に伴い会社の企業価値が毀損され、会社の利益引いては株主の共同の利益が害される場合には、その防止のために当該株主を差別的に取り扱ったとしても、当該取り扱いが衡平の理念に反し、相当性を欠くものでない限り、株主平等原則の趣旨に反しない。
規範2
 そして、企業価値を毀損するか否かの判断は最終的には株主自身により行われるべきであり、(適正手続を欠くとか判断の前提となる事実が虚偽・不存在であると言った)重大な瑕疵がない限り株主の判断は尊重されるべきである。
あてはめ1(必要性)
 本件は〇〇%というほとんどの株主が企業価値を毀損するものと判断しており、また本件の手続にも適正であるから重大な瑕疵があるとは言えない。
あてはめ2
 また、〇〇であり原告に経済的保障がなされているから、本件取り扱いが相当性を欠くとも言えない。
結論
 従って、本件新株予約権無償割り当ては109条1項に反しない。
2)109条に反しない以上、「著しく不公正な方法」による発行とも言えず、247条2号にも反しない。

102頁
 会社の承認を得ない譲渡制限株式の譲渡は、譲渡の当事者間では有効だが、会社に対する関係では無効であり、会社は譲渡人を株主として扱う義務がある。

113頁
 名義書換えは譲渡の対抗要件に過ぎないから、会社のほうから名義書換え未了の譲受人を株主として扱うことはできる。

125頁
 権利行使者は自己の判断で株主権を行使することができ、たとえ共有者内部における合意に反していたとしても、その権利行使は有効である。

 106条但書の趣旨は、株式の共有者が民法251条・252条の規定に従って株主権を行使する限り、106条本文の定める方法によらなくても会社が同意すれば当該株主権の行使を有効とすることである。そのため、共有者の株主権行使が民法の共有の規定に従わずにされた場合は、会社が同意しても当該株主権行使は有効とならない。

126頁
 106条1項但書による会社の同意がない場合であっても、(権利行使者の指定・通知がないことを理由に)会社が権利行使を拒否することが信義則に反すると言えるような特段の事情があるときは、共有者の1名による権利行使が認められる。

132頁
 株式の分割については、株式併合の場合(182条の3)と異なり、株主の差し止め請求権を認める旨の明文規定は存在しない。裁判例は210条も類推適用されないとしている。しかし、株式の分割も「著しく不公正」なものとなる場合があるから、210条を類推適用すべきである。

株主総会
163頁
 適法な株主提案を会社が取り上げようとしない場合には。株主は、会社を被告として、株主提案を取り上げることを求める訴訟をすることができ(民法414条、民執172条)、仮の地位を定める仮処分もできる(民保23条2項)。

171頁
 書面投票された議決権の会場提案議案の賛否をどうするか。@会場提案議案が原案と対立し、原案の修正を求めるものなら、合理的意思解釈により開錠提案議案に反対と扱うべきであり、Aその他の場合は棄権と扱うべきである。
 

173頁
 代理人の資格を株主に制限する旨の定款規定は、株主総会が株主以外の第三者によってかく乱されることを防止し、会社の利益を保護する趣旨と認められ、合理的理由による相当程度の制限と言える。

181頁
 取締役等による説明は、平均的な株主が、議題について合理的な理解及び判断をするために客観的に必要と認められる程度に行えばよい。

取締役会
219頁
「重要な」財産の処分に当たるか否かは、当該財産の価額や会社の総資産に占める割合、当該財産の保有目的、処分行為の態様、会社における従来の取扱い等の事情を総合考慮する。

225頁
 取締役の一部の者に対する招集通知を欠く場合でも、その取締役が出席してもなお決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情があるときは、(その瑕疵は決議の効力に影響がないものとして)決議は有効になる。
※招集通知の欠缺以外の手続上の瑕疵も同様 学説は反対

230頁
 362条4項の取締役会決議を欠いた対外的行為は、内部的意思決定を書くにとどまるから原則として有効である。ただし相手方が決議を経ていないことについて悪意重過失の場合は無効である。

 362条4項が重要な業務執行について取締役会の決議を要求するのは会社の利益保護のためだから、当該決議を欠くことを理由に取引の無効を主張できるのは原則として会社のみである。

248頁 退職慰労金
 @内規や慣行によって一定の支給基準が確立しており、A当該基準が株主にも推知しうるものになっている場合には、単に一定の支給基準に従って退職慰労金を支給し、具体的な金額、支給期日及び支給方法は取締役会の決定に一任する旨の決議をすることが許される。

249頁 使用人兼務取締役
 使用人として受ける給与の体系が明確に確立している場合には、株主総会において別に使用人として給与を受けることを予定しつつ取締役報酬のみを決議することは許される

259頁 経営判断
 取締役の経営判断には善管注意義務がある(330条、民644条、355条)。もっとも、経営はリスクを伴うから、結果責任を問うと経営が委縮し結果として会社株主の利益にならない。そこで経営判断については取締役に広い裁量が認められ、その判断の過程、内容に著しく不合理な点がない限り善管注意義務違反にならない。

 「法令」(355条)とは、取締役を名宛人としてその義務を定める規定に限らず、株式会社を名宛人とし株式会社がその業務を行うに際して遵守すべきすべての規定を含む。

263頁
 取締役会は会社の業務執行を監督するから(362条2項)、取締役会を構成する取締役は代表取締役の業務執行一般につき監視義務がある。

264頁 信頼の原則
 各取締役は、他の取締役または使用人が担当する職務については、その内容につき疑念をさしはさむべき特段の事情がない限り、適正に行われていると信頼することが許される。

265頁
 取締役は善管注意義務・忠実義務の一内容として内部統制システム整備義務を負う(362条4項6号)。もっとも、その整備には費用や知見が必要だから、体制の内容決定には取締役の広い裁量が認められ、当該体制を整備しなかった取締役の判断が著しく不合理な場合にのみ義務違反となる。

資金調達
466頁
 非上場会社において、取締役が客観的資料に基づく一応合理的な算定方法によって払込金額を決定したと言える場合は、特段の事情がない限り、有利発行には当たらない。

募集株式の発行等の差止め
486頁 法令・定款違反
 「特に有利」な払込金額とは、株式の公正な価額に比べて特に低い金額を言う。市場株価があるときは市場株価に近接していることが必要である。

買占め事例
 買占めがある場合であっても原則として市場株価を基準として払込金額を決すべきであり、ただ、その市場株価が「異常な投機」による一時的なものと認められる場合に限り、払込金額の算定基礎から排除できる。

買収・提携事例
 高騰前の市場株価を基礎にしても有利発行には当たらない。

489頁 著しく不公正な方法
 支配権争いがあるなかでも特に@当該経営支配権争いの帰趨が近く株主により決せられると見込まれ、かつAその際には現経営陣が敗れる可能性も相当程度あると言える場合に、取締役会が現経営陣を支持すると見込まれる第三者に対して募集株式を発行することは特段の事情(そうしないと会社が倒産するなど)のない限り不公正発行になると解すべき。

@Aに当たらない場合→主要目的ルール
 公開会社に経営支配権争いがある場合において、現経営陣の支配権維持・確保を主要な目的として新株発行が行われる場合は、原則として不公正発行となる。その判断は、@募集株式発行が支配権争いに及ぼす影響A資金調達の必要性、相当性を考慮して行う。
 もっとも、株主全体の利益保護の観点から当該新株発行を正当化する特段の事情がある場合、具体的には買収者による経営権取得が会社に回復しがたい損害をもたらす事情があることを会社が疎明した場合には、不公正発行に当たらない。

募集株式発行が支配権維持目的であることをうかがわせるその他の事情を考慮することもある。

495頁 新株発行無効の訴え(828条1項2号)
 公開会社に要求されている募集事項の公示を欠くことは、仮に株主が差止請求をしたとしても(公示を欠くことを別にすると)差止めの事由がないためこれが許容されないと認められる場合でない限り、無効原因となる。

 公開会社では会社の承認を欠くというだけでは無効原因にならないのと対照的に、非公開会社が株主総会特別決議を経ずに新株発行を行った場合は、新株発行の無効原因となる。非公開会社では持ち株比率の維持に対する既存株主の利益を尊重するのが会社法の趣旨と解されるからである。

574頁 設立中の会社
@会社の設立自体に必要な行為(発起人が行える)
A設立のために事実上必要な行為
B開業準備行為
C事業行為そのもの(発起人はできない)

576頁 Bについて
 発起人は原則として開業準備行為を行うことができず、原始定款に記載された財産引受のみが例外的に許される。
 取引の相手方は民法117条1項類推適用により発起人に対して支払請求できる。

Aについて
(ア)発起人が自己の名で行った費用は設立費用(28条4号)として定款記載および検査役の検査を受ければ成立後の会社に求償できることは当然可能。
(イ)発起人が設立中の会社のためにそれを行い、行為の効果を成立後の会社に直接帰属させることができるか。
古い判例 設立費用として変態設立事項の規制を満たした額の限度で可能

買収・結合・再編
626頁 反対株主の株式買取請求権
 組織再編に反対する株主は、株式会社に対し、自己の保有株式を公正な価額で買い取ることを請求することができる(反対株主の株式買取請求権、785条、797条、806条)。組織再編という会社の基礎に本質的変更をもたらす行為を株主の多数決で行う場合に、反対株主に会社から退出する機会を保障する趣旨である。

 反対株主とは、当該組織再編のために株主総会の承認を要する場合、当該株主総会に先立って組織再編に反対する旨を会社に対して通知し、かつ、当該株主総会で実際に反対の議決権を行使した株主を言う。

「公正な価格」の基準日
 組織再編における反対株主の株式買取請求の場合は、買取請求によって売買契約が成立したのと同様の法律関係が生じるから、買取請求の日である。(182条の4の場合も同じ)
全部取得条項付種類株式の取得の場合は、取得日をいう。

 「公正な価格」とは、@組織再編によって企業価値の増加が生じる場合は基準日において株式が有する価値(公正分配価格)をいい、A組織再編によって企業価値の増加が生じない場合は、基準日におけるナカリセバ価格をいう。

652頁 組織再編の無効の訴え
 無効原因の明文はないが、重大な瑕疵が無効原因となる。
 組織再編の条件が不公正であってもそれ自体は無効原因とはならないという判例がある。
 しかし、特別利害関係人の議決権行使によって著しく不当な組織再編条件が決定されている場合には、組織再編の効力発生後は無効原因になると解すべきである。

・株主総会決議取消事由がある場合には当該取消事由が無効事由となる。∵株主総会決議による承認は合併に不可欠な手続(783条1項、309条2項12号

658頁 事業譲渡
 事業譲渡とは@一定の事業目的のため組織化され有機的一体として機能する財産(得意先関係等の経済的価値のある事実関係を含む)の全部または重要な一部の譲渡であって、A譲渡会社がその財産によって営んでいた事業活動を譲受人に受け継がせ、Bそれによって譲り受け会社が法律上当然に競業避止義務を負担するものをいうとする判例があるが、条文の適用関係の循環が生じるためBは要件ではないと解する。

posted by izanagi0420new at 15:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 商法

2017年12月24日

会社法単純設例集1

設例1
Y会社の株主であるABCDXは、ABとCDXの間で内紛状態にあった。代表取締役Aは、新たに発行する株式を買い取るための資金として、自己の経営方針に賛同するEに対し、1億円を提供した。

回答指針
 B会社がAに1億円を支払った行為は、株主に対する利益供与に当たり違法ではないか(120条1項)。Eは株主ではないから「株主の権利の行使に関し」された者とは言えないのではないかが問題となる。
 そもそも株式の譲渡は株主たる地位の移転であり、それ自体が株主の権利の行使とは言えないから、会社が特定の株主に対して株式取得費用を提供することは、原則として利益供与に当たらない。しかし、会社から見て好ましくないと判断される株主が株主権を行使することを回避する目的で当該株主から株式を譲り受けるための対価を何人かに供与する行為は、「株主の権利の行使に関し」利益を供与する行為に当たる。そのため、B会社の行為は120条1項に違反する。


設例2
 Y会社の株主はA会社、代表取締役B、取締役C、監査役Xであり、BとCX間で内紛状態にあった。A会社は、Cにほのめかされ、Cの経営方針に賛成するDに対し、株式を譲渡し、Y会社に対して名義書換え請求を行った。しかしBは名義書き換えを行わず、株主総会の招集通知をAに発送した。


設例3
 Y会社の株主Aは保有する株式をBに譲渡し、名義書換え請求を行ったが、Y会社の担当者のミスで名義書換えは行われず、Y会社の株主名簿には依然としてAが株主と記載されていた。Y会社の製造する製品の売行きが好調となり、Y会社は事業拡張のための新株発行を決議し、Aに対して新株割り当て通知を行った(202条4項)。Aは、自己に対する通知が来たことを怪訝に思ったものの、Y会社の株価は今後も上昇すると考えたため、何事もなかったかのように1000株の引受を申込んだ(203条2項)。その後、行われていなかった名義書き換えが行われ、申し込みをしていないBがY会社から割当てを受け(204条1項)、払込金額の全額を払い込み(208条1項)、株主となった。
 Aは会社に対して自己が株主であることを主張できるか。


設例4
 公開会社であるY会社の代表取締役Aは、取締役Bと経営方針をめぐって対立していたが、自己の経営方針に賛同するCに対し、特に有利な金額で募集株式を発行した。なお、当該募集株式の発行に際して取締役会決議は行われず、募集事項の公示もなかった。
 Bは本件募集株式発行の無効を主張できるか。

回答指針
Bは新株発行無効の訴え(828条1項2号)を提起することが考えられる。Bは株主であるから原告適格を満たす(828条2項2号)。
無効原因について明文はないが、重大な瑕疵のみ無効となると解する。新株発行が無効になると法律関係の安定や取引の安全が著しく害されるからである。
では本件で重大な瑕疵はあるか。まず、取締役会決議を経ていない点は重大な瑕疵とは言えない。なぜなら、授権資本制度(199条1項、2項、201条1項)のもと、新株発行は業務執行に準ずるものであり、取締役会決議を欠くことは内部的瑕疵に過ぎないからである。
次に、募集事項の公示がないことは、新株発行差止め請求をしたとしても差止の事由がないためにこれが許容されないと認められる場合でない限り、新株発行の無効原因となる(最判平成9年1月28日)。本件は、Cに対して特に有利な金額で発行されているため、新株発行差止め請求がなされれば差止事由がある(199条3項、201条1項)。したがって、本件で募集事項の公示がないことは重大な瑕疵であり、無効原因となる。


設例5
 非公開会社であるY会社の代表取締役はAであり、株主はABCXである。AはBCX全員が居合わせた席上で、株主総会を開催する旨宣言し、Bを取締役に選任する決議をした。この決議は有効か。


設例6
 非公開会社であるY会社の代表取締役はAであり、株主はABCXである。Y会社には株主総会の議決権を行使しうる代理人は株主に限る旨の定款の定めがある。AはBを取締役に選任するため、BCXに対し、取締役会決議を経ずに株主総会予定日の3日前に招集通知を発した。Cは所用により出席できないため、弁護士Lを自己の代理人として出席させた。Lは、適法に委任状を示して出席した(310条1項後段、3項)。株主総会の目的事項はBの取締役選任の件であることはABCXいずれも了知していた。しかし、Xは株主総会の席上でBのほかにEをも取締役に推挙したところ、B、L、Xの賛成を得て可決された。
 Cは本件株主総会決議の無効を主張できるか。

回答指針
 310条1項は合理的理由による相当程度の制限を禁止するものではないと解されるから、議決権を行使しうる代理人を株主に限る旨の定款の定めは同条に反するものではない(最判昭和43年11月1日)。
 非公開会社では株主総会の招集通知は1週間前までに発しなければならないところ(299条1項)、本件では3日前に発せられているから、299条1項違反がある。しかし、同条の趣旨は株主に出席の機会と準備の機会を与えることにあるから、全員出席総会において株主総会の権限に属する事項につき決議がなされたときは、その決議は有効に成立する(300条本文)。本件においても、全員が出席しているから決議は有効とも思える。
 しかし、代理人が出席することにより株主全員が出席したこととなる株主総会においては、代理人を選任する株主が会議の目的事項を了知して委任状を作成しており、かつ、当該決議がその会議の目的事項の範囲内のものである場合に限り、決議は有効と解すべきである(最判昭和60年12月20日)。
 本件ではCはEが取締役に選任されることを了知していなかったから、決議は無効である。よって831条1項1号の違法がある。
 これに対してYは831条2項による裁量棄却を主張するであろうが、決議方法に重大な瑕疵がある場合にはその瑕疵が決議の結果に影響を及ぼさないと認められるときであっても裁量棄却されないところ(最判昭和46年3月18日)、本件の瑕疵は重大だから、裁量棄却されない。
 
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2016年02月03日

商法 予備試験平成27年度

設問1(1)
1 X社の取締役であるA及びCが、第三者Eに対し、429条に基づく損害賠償責任を負うかを検討する。
2 429条の趣旨については次のように考えられる。取締役は会社との任用契約(委任又は準委任契約)に基づき、会社に対して善管注意義務(330条、民644条)・忠実義務(355条)を負っているが、第三者に対してはそれらの義務を負っていないから、それらの義務違反により第三者の権利が侵害されそれにより損害が発生したとしても、民法上の不法行為責任を負うのみであると思える。しかし会社法は、会社が経済社会において重要な地位を占め、また、会社の活動は取締役の職務執行に依存することに鑑み、第三者を特に保護するため、429条の規定を置いたのである(特別の法定責任)。すなわち、取締役が悪意重過失により会社に対する善管注意義務・忠実義務に違反し(任務懈怠)、それにより第三者に損害を被らせたときは、取締役の任務懈怠と第三者の損害との間に因果関係がある限り、直接損害か間接損害かを問わず、取締役は第三者に対して損害賠償責任を負うのである。民法上の不法行為責任とは請求権競合となる。
 そうすると、会社の活動により損害を被った第三者は、@取締役の任務懈怠、A任務懈怠に対する取締役の悪意重過失、B損害、C@とBの間の因果関係を主張立証することにより、取締役から直接に損害賠償を受取ることができる。
3(1)Cの責任
 @Cは高級弁当の製造販売事業を行うX社の弁当事業部門施本部長であり、任用契約上の注意義務として、販売される弁当の品質を適切に保つ義務をX社に対して負っていると言える。しかし、回収された弁当の食材の一部を再利用するよう弁当製造工場の責任者Dに指示することは、不衛生な食品が消費者の手に渡る可能性のある行為であるから、上記義務違反行為すなわち任務懈怠である。ACは消費期限が切れて弁当を回収せざるを得ないことに頭を悩ませた末に上記任務懈怠行為をしたのであるから、任務懈怠につき悪意である。BEらは食中毒により損害を被り、Cその症状の原因は再利用した食材に大腸菌が付着していたことであるから@とBの間には因果関係がある。
 したがって、CはEらに対し、429条に基づく損害賠償責任を負う。
(2)Aの責任
 取締役会設置会社の代表取締役は対外的に会社を代表し(349条1項)、対外的に業務執行をする機関(363条1項1号)であるから、対内的に他の取締役に任せている業務執行であってもその内容に注意を払い、担当する取締役に対する監督責任を負うと解する。
 そうすると、@Aは平成26年4月に弁当製造工場の責任者Dから、Cの上記任務懈怠について相談を受け、それについてCから事情を聴いた際、Cに対して上記任務懈怠を止めるよう指示を出す義務があったというべきである。しかしAは「衛生面には十分に気を付けるように」と述べるのみであり、その義務を怠るという任務懈怠がある。AAはそのことについて悪意である。BCはCについて述べたことと同様である。
 したがって、AはEらに対し、429条に基づく損害賠償責任を負う。
設問1(2)
 前述のとおり、429条の責任は間接損害を受けた第三者に対しても負うものである。X社の株主であるBは、X社が破産手続き開始の決定を受けたことにより、その保有する株式が無価値になるという間接損害を被っている。そして、X社が破産手続き開始決定を受けたのは、A及びCの前述の悪意重過失による任務懈怠により、X社が食中毒の被害者らに対する損害賠償ができなくなったことに起因するのだから、A及びCの任務懈怠とBの損害の間には因果関係がある。
 したがって、A及びCは、Bに対し、429条に基づく損害賠償責任を負う。
設問2
1 Y社は、X社からホテル事業の譲渡(21条、467条参照)を受けた法人にすぎない。合併とは異なり、事業譲渡は契約であって権利義務の承継を当然に伴うものではないから、事業の譲受会社は譲渡会社が第三者に対して負う債務を弁済する責任を負わないのが原則である。もっとも、法は以下の二つの場合に、譲受会社の責任承継を定めている。
2 ひとつは、22条である。譲受会社が譲渡会社の商号を引続き使用する場合には、譲受会社も債務を弁済する責任を負う(22条1項)。この規定の趣旨は、譲渡会社に対して債権を有していたものは、譲受会社が商号を続用する限り、譲受会社に対して債権を行使できると信じるのが通常であるから、そのような第三者の信頼を保護することと解される。そうすると、次のように言える。
 一般に、ホテルの名称は、ホテルの営業主体をもあらわすものとして使われており、本件でもそうである。このようにホテルの名称がその営業主体を表わすものとしても使われている場合には、一般のホテル利用者にとっては、同一の営業主体による営業が継続していると信じたり、事業の承継があったけれども譲受会社が債務を承継しているものと信じたりするのは無理もないことである。したがって、商号(「X社」「Y社」などをさす)そのものの続用でなくても、屋号(「甲荘」などをさす)が営業主体を表わすものとしてもちいられている場合には、特に反対の広告がなされないかぎり、屋号の続用にも22条1項が類推適用されると解すべきである。
 本件でも、「甲荘」は営業主体を表わすものとしてもちいられている。そして、Y社がX社の債務を承継しない旨の広告はない。したがって、Y社はX社が第三者に対して負う債務を弁済する責任を負う。
 したがって、Y社は、X社のEらに対する損害賠償債務を弁済する責任を負う。
3 もうひとつは、23条の2である。この条文は、債務の承継を伴わない事業譲渡の詐害的利用を防ぐために平成26年会社法改正で新設された。この条文に基づき、第三者は、譲渡会社が第三者を害することを知って事業を譲渡したことを主張立証することにより、譲受会社に対して債務の履行を請求することができる(23条の2第1項)。
 本件でも、X社がEらを害することを知って事業譲渡したことの主張立証にEらが成功した場合には、Y社はEらに対し、損害賠償債務を弁済する責任を負う。 以上

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posted by izanagi0420new at 08:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 商法

商法 予備試験平成26年度

設問1
1 X社のY社からの借入れはX社の取締役会決議に基づいてされているが、瑕疵ある決議の効果については明文がないため民法の原則に従って原則として無効であり、決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情があるときは例外的に有効と解すべきである。
2 では平成26年1月下旬のX社取締役会決議に瑕疵があるか。
(1)BはY社株式を90%保有しているから、X社とY社の取引はX社とBの取引と同視しうる。つまり本問のX社とY社の取引はBの自己取引(365条1項2号)である。
(2)そのため、Bは「重要な事実」を開示して取締役会の承認を受けなければならない(356条1項本文、365条)。この趣旨は取締役会がその取引を承認するか否かを判断する前提となる情報を与えることである。しかし、本件でBは自己資金で金融機関から借り入れた5億円に金利を若干上乗せして貸し付けている。金利の上乗せがされた事実は一般的に当該取引を承認するかどうかの判断に重要だから「重要な事実」に当たる。したがって、この情報の開示がないことは356条、365条違反に当たる。
(3)また、直接取引にあたるからBは本件決議において特別利害関係取締役にあたり、議決に加わることができない(369条2項)。しかしBは議決に加わっているから、369条2項違反もある。
3 以上の瑕疵の効果について、Bが議決に加わっている点は決議の結果に影響がないと言えるが、情報開示がなかった点は、情報開示があったならば他の取締役の判断も変わったと考えられ、決議の結果に影響があると認めるべきである。
4 したがって、本件の借入は無効であり、Cの主張は妥当である。
設問2
1 募集株式発行無効の訴え(828条1項2号)の無効事由については明文がないが、株式引受人の取引安全の要請及び拡大した規模で活動した後の資金調達が無効とされることの混乱への懸念から、重大な違法のみ無効事由となると解すべきである。
2 では本件募集株式発行に違法はあるか。
(1)「特に有利な金額」で募集株式を発行する場合には株主総会で説明の上、特別決議が必要である(199条3項、201条1項、309条2項5号)。「特に有利な金額」とは、時価の数パーセント安い値を下回る金額を言う。発行当時の株式の時価は1万円を下回らないところを、Z社は半額の5000円で買い受けているから、「特に有利な金額」(199条3項)であり、本件では総会決議がないから、199条3項違反がある。
(2)「著しく不公正な方法」(210条2号)により行われる株式発行は違法である。著しく不公正か否かは主要目的が何かを検討して決める。本件の募集株式発行により、確かにZ者とX社の提携関係は強まるが、そもそも本件はX社が経営不振により10億円の資金が必要となったことがきっかけとなった取引であるから、主要目的は資金調達目的と認定でき、この点に違法はない。
3 199条3項違反が無効事由となるか否かであるが、これは金銭的解決の方法が法定されているから(212条1項)それによるべきであり、重要な違法とは言えない。
4 したがって、本件株式発行は有効であり、Bの主張は認められない。  以上

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posted by izanagi0420new at 08:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 商法

商法 予備試験平成25年度

設問1
1 Aは株主総会決議取消の訴え(831条1項)を提起して本件総会決議の効力を争うことができるか。
2 原告適格について、本件株式交換契約の効力が発生する平成24年9月1日まではAはY社の株主だから、同年8月の段階では原告適格がある。
3 本件総会においてBがAの株主としての地位に基づく質問に答えなかったことが314条違反であり、これが決議方法の法令違反(831条1項1号)として取消事由となるか。
(1)まず、Bに説明義務が発生しているか。
314条は会議の参加者がその審議事項について質問しうるという当然のことを明文化し、取締役の説明義務を定めた規定である。そうすると、説明義務は株主から質問を受けて初めて発生するというべきである。
 本件では、Aは質問をしているから、Bに説明義務が発生するのが原則である。
(2)もっとも、314条但書の「正当な理由がある場合」に該当し、例外的に説明義務が不発生となるのではないか。Bの側としては、Aは解任決議に係る取締役であり特別利害関係人(831条1項3号)に当たること、X社がAに対してY社株式の売却をするよう説得していた事情があることを、正当な理由の評価根拠事実として主張すると考えられる。
 しかし、取締役会決議(369条2項参照)と異なり、株主総会においては特別利害関係人も議決に加わることができる(831条1項3号参照)から、特別利害関係人の質問だからと言って答える必要がなくなるわけではない。また、Aの質問への回答を他の株主が聞いて議決の参考にする必要があるから、Aに対して株式の売却を説得していた等の事情も回答の必要性をなくすものではない。
 したがって、本件は「正当な理由がある場合」に該当しない。
(3)以上より、本件には314条違反があり、これは決議方法の法令違反として取消事由となる(831条1項1号)。
4 したがって、Aは本件総会決議の効力を争うことができる。
設問2
1 Aは433条1項に基づく請求をしているが、Yは同2項各号に該当することを理由に請求を拒むことができるか。
(1)Aは後述のような株主総会決議取消の訴えまたは株式交換無効の訴えを提起するために請求しているから、「権利の…行使」(433条2項1号)のための請求に当たる。
(2)2,4,5号に該当する事情はない。
(3)Yとしては、AがZ社の67%株主であることから、AがYと「実質的に競争関係にある事業を営」(3号)むものに当たると主張しうる。たしかに、Y社の事業内容は日本国内における新築マンションの企画及び販売であり、Z社の事業内容は関東地方を中心とする住居用の中古不動産の販売等であるから、不動産というくくりでは形式的に競合関係にある。しかし、新築と中古の違いがあること、Zは従来からY社株式を10パーセント保有しており特に敵対関係になかったことから、実質的に競争関係にあるとまでは言えない。
2 したがって、Y社はAの請求を拒むことができない。
設問3
1 @効力発生前
(1)効力発生前には株式交換を承認した本件総会決議の取消の訴(831条1項)を提起することが考えられる。構成としては、X社という特別利害関係人が議決に加わったことによって、不当な交換比率の株式交換の承認という著しく不当な決議がされた(831条1項3号)とすればよい。
(2)また、株式買取請求(785条)をすることも考えられる。
2 A効力発生後
 株式交換無効の訴え(828条1項11号)を提起することが考えられる。
 組織再編の手続に瑕疵がある場合には本来であれば無効になるところだが、法律関係の安定のため会社法は訴えによってのみ主張できることとしている。無効原因は規定されていないが、軽微でない瑕疵は無効原因となると考える。本件のように株式交換比率が著しく不適切な場合は軽微でない瑕疵といえるから、無効原因になる。  以上

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posted by izanagi0420new at 08:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 商法

商法 予備試験平成23年度

設問1
 平成23年3月25日のY車の取締役会招集通知がBに対して発せられておらず、368条1項違反があるが、そのような取締役会の決議は有効か。
 取締役会の瑕疵ある決議の効力については明文がないから一般原則に従って原則として無効と解すべきであるが、軽微な瑕疵の場合や、決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情がある場合は例外的に無効とならないと解すべきである。
 本件は368条1項違反であって原則無効であるが、例外該当性を検討するに、決議について特別利害関係を有する取締役は議決に加わることができない(369条2項)。この趣旨は、取締役は会社との任用契約に基づいて善管注意義務を尽くして経営判断をすることが要求されているところ(330条、民法644条、335条)、特別利害関係取締役にはそのような義務を果たすことが類型的に期待できないことである。そのため、特別利害関係取締役は決議の定足数にも算定されず、当該議決事項について意見を言う場合も他の取締役全員の同意が必要と解すべきである。そうすると、特別利害関係取締役に対してであれば招集通知を発しないのは軽微な瑕疵であり、また、たとえ出席したとしても意見を言うことさえ制限されるのだから、決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情があると言える。
 Bは株式の決議事項である株式譲渡にかかる譲渡人であるから、特別利害関係取締役に当たる。
 したがって、本件決議は有効である。
設問2
(1)Y社の定時株主総会の招集通知がX社に対して発せられていないが、その決議は有効か。X社が招集通知を受けるべき「株主」(299条1項)に当たるかが問題となる(「株主」にあたれば「株主等」(831条1項)にもあたり、決議取消の訴えの原告適格も認められることになる)。
(2)X社は平成23年1月頃、BからY社株式の譲渡を受け(X社は公開会社ではないが、株主と会社以外の者の株式の譲渡は有効である)、同年3月15日にY社に対して譲渡承認請求(137条1項)をした。そして、X社は2週間後である同年4月1日までに決定内容の通知(139条2項)を受けていないため、Y社は137条1項の承認をする旨の決定をしたものをみなされ(145条1号)、その結果、同日、正式にYの株主となった。
 もっとも、名義書換(130条1項)が未了であるからY社に対抗できないとも思えるが、Xは同年4月30日にY社に対して名義書換請求をしており、Y社はこれを不当拒絶しているため、Xは名義書換なしに株主であることをY社に対抗できる。株主名簿の趣旨は会社の事務処理上の便宜に過ぎないから、権利に合致した請求があった場合には会社は名義書換に応じるべきであり、その義務違反があった場合に名義書換がないことを理由に株主でないことを主張できるとすると信義則上妥当でないからである。
(3)したがって、X社は「株主」に当たり、Y社定時株主総会の効力を争うことができる。
設問3
 本問の場合でもX社が「株主」に当たるか。本問ではBが保有するY社株式がXとAに二重譲渡されている。この場合のXとAの優劣は民法の原則に従い対抗問題として決すべきである。本問ではAが先に株主名簿の名義を書き換えて対抗要件(130条1項)を備えている。したがって、その時点でXは確定的に「株主」ではなくなった。
 したがって、X社はY社定時株主総会の効力を争うことはできない。  以上

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posted by izanagi0420new at 08:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 商法

商法 平成22年度第1問

問題文
 Y株式会社は、@取締役会設置会社であるが、委員会設置会社ではなく、A株券発行会社ではなく、種類株式発行会社でもない会社であり、また、「社債、株式等の振替に関する法律」の規定による株式の振替制度も採用しておらず、B定款で、定時株主総会における議決権行使及び定時株主総会における剰余金の配当決議に基づく剰余金の配当受領の基準日を毎年3月31日と定めている。
 Xは、Y社の株式を保有する株主名簿上の株主であったが、その株式すべて(以下「本件株式」という。)をAに譲渡した(以下「本件譲渡」という。)。Y社は、平成22年6月に行われた定時株主総会における剰余金配当決議に基づき、本件株式について配当すべき剰余金(以下「本件剰余金」という。)をAに支払った。
 以上の事実を前提として、次の1から3までの各場合において、XがY社に対して本件剰余金の支払いを求めることができるかどうかを検討せよ。なお、1から3までの各場合は、独立したものとする。
1 Y社は、その発行する全部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について会社の承認を要すること(以下「譲渡制限の定め」という。)を定めており、本件譲渡が平成22年3月10日に行われたとする。この場合において、Xも、Aも、Aによる取得の承認の請求をせず、本件株式に係る株主名簿の名義書換請求もされなかったが、本件譲渡の事実をAから聞いたY社の代表取締役Bが本件剰余金をAに支払ったとき。
2 Y社は、譲渡制限の定めを定めておらず、本件譲渡が平成22年4月1日に行われたとする。この場合において、本件株式に係る株主名簿の名義書換請求はされなかったが、本件譲渡の事実をAから聞いたY社の代表取締役Bが本件剰余金をAに支払ったとき。
3 Y社は、譲渡制限の定めを定めておらず、本件譲渡が平成22年3月10日に行われたとする。この場合において、同月15日にXとAが共同でY社に対して株主名簿の名義書換を請求し、Y社はこれに応じたが、AがY社から本件剰余金の支払を受けた後、Xが成年被後見人であったことを理由として本件譲渡が取り消されたとき。

回答
設問1
1 剰余金配当請求権は株主の地位に基づき発生するから、XがYに対して本件剰余金の支払いを求めることができるためには、XがYの株主であることが必要である。本問ではYの株式に譲渡制限の定めがある。そこで、譲渡制限の定めがある株式を譲渡した場合の効力について、明文なく問題となる。
 株式は社員たる地位だから、所有物(民206条)として自由に処分できる性質のものではない。しかし、会社法は、原則として株式譲渡の自由を認めている(127条)。この規定の根拠としては、投下資本の回収の必要性が挙げられる。また、株式が自由に売却できることにより、個人が出資する際のリスクが減り、出資しやすくなるという利点もある。しかし、株主は株主総会を通じて会社の経営に影響力を持つから、特に小規模な会社では誰が株主であるかは関心事である。そこで法は、会社の便宜のため、会社が譲渡制限の定めを設けることを認めた(2条17号)。そうすると、譲渡制限の定めのある株式が譲渡されても、それを会社との関係でのみ無効とすれば、会社の利益は守られる。そこで、譲渡制限の定めがある株式の譲渡の効果は当事者間では有効だが、その有効性を会社に対抗できないと解する。
 本件譲渡はXA間では有効である。しかし、Aによる取得の承認請求はなされず、名義書換請求もなされていないから、Y社には株式譲渡を対抗できない。株主名簿の制度趣旨も会社の便宜である。
2 しかし本問では、Y社の取締役Bが株主をAとして扱っている。当事者間で会社に対抗できない株式の譲渡がある場合に、会社のほうから株式の譲受人を株主として扱うことができるか問題となる。
 そもそも譲渡制限株式の制度趣旨は前述のように会社の便宜なのであるから、会社のほうから譲受人を株主として扱うことを禁止する理由はないとも思える。しかし、判例は会社は譲渡前の株主を株主として扱わなければならないとしている(H9.9.9)。
 そうすると、本問ではYとの関係ではXは株主であり、Aを株主として扱ったBの措置は違法である。
3 したがって、XはYに対し、本件剰余金の支払いを求めることができる。
設問2
 本問は剰余金配当受領の基準日後に株式の譲渡があった場合に、会社が株式の譲受人に剰余金を支払った事例である。基準日の制度趣旨が問題となる。
 株式の譲渡を自由とした結果(127条)、株主は日々入れ替わる。そのため、いつの時点の株主が会社に対して株主の地位に基づく権利を主張できるのかを決めておく必要がある。そのための制度が基準日制度である(124条)。この制度のおかげで、会社は基準日に株主であった者に対して権利行使を認めれば免責されるし、株主や株主になろうとする者にとっても、株式をいつの時点で売買するのが適当かがわかる。すなわち、基準日制度は会社の便宜のための制度であると同時に、株主や株主になろうとする者の便宜のための制度である。そうすると、会社に対して株主としての権利を主張できるのは、基準日に株主であった者であり、会社は、基準日以外の者を株主と扱ったことを理由としては、基準日に株主であった者の権利行使を拒むことはできないと解する。
 本問では、基準日に株主であったのはXである。
 したがって、XはYに対して本件剰余金の支払いを求めることができる。
設問3
 旧株主は、基準日前の株式の売買契約を取消したことを理由に、会社に対して、基準日における株主としての権利を主張できるかが問題となる。
 取消の効果は遡及するから(民121条)、基準日前の株式の売買契約が取消されると、基準日に株主であったのは遡及的に旧株主となる。そのため、形式的帰結としては、旧株主が会社に対して株主としての権利を主張できることになる。
 しかし、この帰結は著しく煩雑な事務処理を必要とする。会社にとって、個人間での株式の売買契約が取消されたかどうかを確かめるのは容易ではない。取消されたことを確認できたとしても、取消しにより株主に復帰した者に対して再び剰余金を支払い、取消前に株主であった者に対し、支払った剰余金を不当利得として返還請求しなければならない。剰余金の配当のたびにこのような煩雑な事務処理に対応するリスクを会社に負わせるならば、会社は剰余金の配当自体をしなくなり、株式会社制度の安定が損なわれる。一方、株式売買の当事者間で不当利得返還請求を認めれば、その手続きは簡単である。
 したがって、旧株主は基準日前の株式の売買契約を取り消したことを理由としては、会社に対して、基準日における株主の権利を主張できないと解する。
 本件では、Xは基準日前の株式の売買契約を取消している。
 したがって、XはYに対して本件剰余金の支払いを求めることはできない。  以上

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posted by izanagi0420new at 08:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 商法

2016年02月02日

商法 平成21年度第1問

設問1
 会社分割のうち、吸収分割(757条以下)の手続きを取ればよいと考えられる。会社分割とは、1つの会社を2つ以上の会社に分けることを言う。吸収分割とは、分割する会社がその「事業に関して有する権利義務の全部または一部」を既存の会社に承継させることを言う。対価として株式等が用いられる(758条条3号4号参照)。その法的性質は、現物出資(金銭以外のものを事業のために提供し、その事業活動によって生じる利益を受取る地位を得ること、199条1項3号)という見解もありうるが、組織法上の特別の契約と解する。
 吸収分割をするには、@まずX社とY社との間で吸収分割契約を締結する(757条)。Aそして既存株主や債権者のために事前開示をする(794条)。Bそして、契約で定めた効力発生日(758条7号)の前日までに、株主総会の特別決議を受ける(795条1項、309条2項12号)。この際、反対株主には株式買取請求権が認められる(797条)。C続いて、債権者異議手続を経る(799条)。Dそして登記をし(923条)、E事後の開示をする(801条)。
 会社分割の対価として新たに発行された株式が用いられる場合、一株の価値が希釈されることにより、既存株主の残余財産の分配を受ける権利(自益権)や経営に参与する権利(共益権)が影響を受ける。そのため、会社法は「反対株主」(797条2項柱書)に対して「公正な価格」(797条1項本文)と引換えに会社から退出する権利を認めている。これが株式買取請求権である。本件でも、吸収分割に反対するX社株主は、原則として吸収分割に反対する旨を会社に通知し、株主総会において反対することにより(797条2項1号イ)、自己の株式をX社に対して「公正な価格」で買い取らせることができる。
 そして、ここにいう「公正な価格」とは、平成17年改正前は吸収分割の決議がなかったならば有すべき価格(いわゆるナカリセバ価格)と定められていたが、平成17年改正で単に「公正な価格」と改められた。これは吸収分割等によりシナジーが生じる場合には、シナジーをも反映させる趣旨である。そして、シナジーが生じる場合には、「公正な価格」とは原則として組織再編契約ないし計画において定められていた比率が公正なものであったならば当該株式買取請求がされた日においてその株式が有していると認められる価格を意味するというのが判例である。その「公正な価格」を算定するにあたって参照すべき市場価格として、株式買取請求がされた日における市場価格を用いることは裁判所の裁量の範囲内である。
 本件でも、X社株式の価値は1株当たり1000円であり、承継するY社のA工場の評価額は複数の証券アナリストによれば5億円であるから、客観的には50万株が対価としての相当額であるところ、60万株が対価として交付されているからシナジーが生じる場合に当たる。そのため、1000円にシナジーを上乗せした価格が公正な価格となる。
設問2
 事業の一部の譲受けとして、Y社との間でA工場の権利義務の売買契約を締結することが考えられる。この方法だと、Y社にとっては株主総会決議が必要となり得るから(467条1項2号)反対株主の株式買取請求権が発生しうるが、X社では株主総会決議が要求されないため(取締役会決議は必要である。362条4項1号)、反対株主の買取請求権は発生しない。法は、事業の一部の譲受けを、株主総会の意思決定になじむ基礎的変更とみていないからである。
 もっとも、本件で事業の一部譲受の対価としてX社が支払うのはX社の株式であるから、この契約を履行するにあたりX社は募集株式発行の規制に服する(199条以下)。本件は、募集株式の対価としてY社A工場を譲り受けるわけだから、この契約はY社から見ると現物出資に当たる。そのため、公開会社であるX社では原則として取締役会決議が必要である(199条1項3号、同2項、201条1項)。この場合に株主総会決議を必要とせず、取締役会決議が原則である理由は、取締役は定款記載の発行株式総数(37条)の範囲内ならばいつでも株式を発行できるが、株式の発行は主に資金調達の目的でなされるため、株式発行の法的性質は取締役の業務の執行(348条1項)と考えられているからである(授権資本精度)。
 もっとも、株式の対価である金銭又は金銭以外の財産が募集株式を引受ける者に「特に有利な金額」である場合には、株主総会の特別決議が必要である(199条1項2号、309条2項5号)。「特に有利な金額」とは、公正な発行価額よりも特に低い金額をいい、この公正な発行価額とは、原則として発行価額決定直前の株価に近接していることが必要と解するのが判例である。
 本件を見るに、前述のように6億円分の株式が発行されているのにもかかわらず対価であるA工場の価額はその2割安い5億円であるから、発行価額決定直前の株価に近接しているとは言えず、公正な発行価額ではない。もっとも、X社はY社と資本関係を持つことによって、Y社からノウハウの提供を受けることが期待でき、そのことにより業績の改善を見込んでいるのだから、2割程度の割増は、特段の事情として認められる。そのため、本件の発行価額は「特に有利な金額」に当たらず、株主総会の特別決議は不要である。
 なお、仮に「特に有利な金額」に当たり株主総会の特別決議が行われたとしても、そこで本件取得に反対した株主に株式買取請求権を認める条文はない。法は、反対株主の株式買取請求権を原則として会社の基礎的変更が生じた場合に既存株主が退社する権利として認めていると解されるところ(例外は182条の4)、株式の有利発行は会社の基礎的変更ではないからである。
 ただし、この方法は現物出資された物や事業の価格が過大評価されるおそれがあるため、原則として検査役の調査が必要である(207条1項。例外は同9項各号)。 以上

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posted by izanagi0420new at 18:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 商法

商法 平成20年度第2問

問題文
 甲株式会社は、その発行する株式を金融商品取引所に上場している監査役会設置会社である。甲社の発行済み株式総数の約20%を保有する株主名簿上の株主である乙株式会社は、平成20年4月25日、同年6月27日開催予定の校舎の定時株主総会における取締役選任に関する議案及び増配に関する議案についての株主提案権を行使した。この場合において、次の二つの問いに答えよ。なお、甲社の定款には、種類株式に係る定めはないものとする。
1 乙社は、株主提案権の行使とともに、甲社に対し、その提案の内容を他の株主によく伝えたいとして、甲社の株主名簿の閲覧請求を行った。これに対し、甲社は、乙社が甲社との事業上の競争関係にある丙株式会社の総株主の議決権の70%を有していることから、乙社からの閲覧請求を拒否することとした。この閲覧請求の拒否は許されるか。
2 甲社の取締役らは、乙社からの株主提案を受けて、直ちに臨時取締役会を開催し、丁株式会社との業務提携関係を強化することが目的であるとして、既に業務提携契約を締結していた丁社のみを引受人とする募集株式の第三者割当発行を決議した。なお、払込金額については甲社株式の直近3か月の市場価格の平均の90%に相当する額とし、払込期日については定時株主総会の開催日の1週間前の日とすることとされた。また、当該決議に合わせて、定時株主総会における議決権行使の基準日について、この発行にかかる株式に限りその効力発生日の翌日とする旨の決議がされ、これに係る所要の広告も行われた。この募集株式の発行が実施されると、乙社が保有する甲社株式の甲社発行済み株式総数に対する割合は約15パーセントに低下する一方で、丁社のそれは約45パーセントに上昇することとなる。乙社は、この募集株式の発行を差し止めることができるか。

回答
設問1
 甲社の閲覧請求拒否が認められるためには、乙社の閲覧請求が125条3項各号の拒絶事由に該当する必要がある。
 そもそも株主名簿の閲覧請求権は、取引社会の一員としての会社の情報公開の仕組みの一つであり、株主及び債権者に認められる(125条2項)。会社法制定前には拒絶事由は定められていなかったが、濫用されると業務に支障が出るため、会社法は会計帳簿についての433条に倣って拒絶事由を設けた。しかし、会計帳簿(仕訳帳・元帳・補助簿を差すと述べた裁判例がある)には会社の営業秘密にかかる情報が含まれるといえるが、株主名簿にはそれは含まれない。そのため、433条2項3号に言う実質的競争関係にあるものに対して株主名簿が開示されたとしても、会社に不利益はない。一方、競合事業を営む株主は、買収等の提案の賛同者を増やすために株主名簿を閲覧する必要がある。そのため、平成26年改正前の判例は、請求者のほうで不当目的がないことを立証すれば会社は実質的競争関係にある者に対する閲覧拒絶はできないと解していた。平成26年改正では、実質的競争関係にある者に対して閲覧拒絶できるとする規定(旧125条2項3号)が削除された。
 甲社は、乙社が甲社と事業場の競争関係にある丙社の株式の70%を保有していることを理由に閲覧拒絶しているが、これは旧3号の規定を根拠としたものと考えられる。
 したがって、現行法の下では、甲社の拒絶は法的根拠がなく、できない。
設問2
1 210条各号に該当するならば、募集株式の発行の差止めが認められる。
 そもそも募集株式の発行は、会社にとって資金調達のため必要な業務執行である(授権資本精度、199条、200条、201条)一方、既存株主にとっては一株当たりの経済的価値の下落と持ち株比率の希釈化という不利益をもたらすものである。そのため、既存株主をある程度保護しなければならない。現行法は既存株主の保護のために株式発行無効の訴え(828条1項2号)を用意しているが、事前に差し止めることができるに越したことはない。そこで210条の規定がある。既存株主は210条に基づき、募集株式の発行が@法令・定款違反である場合(1号)、A著しく不公正である場合(2号)に差止めることができる。乙社は、210条を本案として発行差し止めの仮処分(民事保全法23条2項)を申立てることになる。
2 では、甲社による募集株式発行が@Aのいずれかに該当するか。
(1)@について
ア 199条3項違反の有無
 乙社は、@の法令違反として、まず、発行する株価が「特に有利な金額」(199条3項)に当たるにも関わらず株主総会で理由の説明がなかったことを主張しうる。「特に有利な金額」とは公正な発行価額よりも特に低い金額を言い、公正な発行価額は原則として発行時の市場価格を基準とする。そして、買受人に対して市場価格の1割程度割引することは資金調達目的の実効性確保のために行いうるから、市場価格から1割安い程度では特に低いとは言えないと解されている。
本件の丁社の払込金額は甲社株式の直近3か月の市場価格の平均の90%であるから、1割安い程度であり、「特に有利な金額」に当たらない。
したがって、199条3項違反はない。
イ 831条1項3号違反の有無
 乙社以外の既存株主が831条1項3号の特別利害関係人に当たると言えれば同条違反が主張できる。同条の特別利害関係人は、たとえば退職慰労金を支給する決議において支給を受ける者が挙げられるが、第三者割り当ての募集株式発行を決議する既存株主はこれに当たらない。
 したがって、831条1項3号違反もない。
(2)Aについて
 では、丁社に対する株式発行が「著しく不公正な方法」により行われたと言えるだろうか。「著しく不公正」とは、募集株式の発行には通常は資金調達目的があることから、主要な目的が著しく不公正かどうかを判断するという主要目的ルールが使われてきた。しかし、敵対的買収防止目的での株式発行の事例が多くみられ、このルールは変化してきている。次のように考える。現に支配権争いが生じている場合に支配権維持を主要目的として株式発行することは、取締役が株主を選ぶことになり権限分配法理に反するから、原則として不公正と解する。もっとも、買収者による支配権取得が会社に回復できない損害をもたらすことを疎明した場合には、正当防衛ないし緊急避難(民720条)の背後の法理により、例外的に不公正発行に当たらないと解する。
 また、現に支配権争いが生じていない場合には、従来通りの主要目的ルールが妥当する。もっとも、主要目的が正当なものであっても、新株発行により既存株主の持ち株比率が著しく低下することを認識しつつ新株発行をした場合には、合理的理由のない限り、株主の持ち株比率の利益を害する不公正発行に当たると解する。
 本件の乙社は、そもそも本件株式発行前にも20パーセントしか株式を保有しておらず、支配権を得るには至らないから、本件は現に支配権争いが生じている場合には当たらない。
そこで主要目的を検討するに、本件株式発行によって乙社の持株比率は20パーセントから15パーセントに低下する一方、丁社のそれは45パーセントに上昇すること、及び今回発行された株式に限って基準日が操作され、次回の株主総会(乙社の株主提案にかかる議題が審議される株主総会)で議決権が行使できるようになっていることから、現経営者にとって不都合な提案を否決することが主要目的と認定できる。これは不公正発行に当たる。
3 したがって、乙社は210条2号に基づき、株式発行を差止めることができる。 以上

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posted by izanagi0420new at 18:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 商法
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