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2019年03月20日

「幽霊の夕子」(6)




 あたしの部屋。

 そのままになってる。

 なんだかすでに懐かしい。

 服とか下着とかゴミ袋にガンガンいれた。

 自分の遺品を自分でかたすのって複雑な気持ち。でも有難い。

ゴミ袋十コにもなった。

 三十三枚のハンカチだけは残した。なんとなく。正人に渡そう。

 ふう。あちい。汗ダラダラ。

 シャワーでもするか。

 正人が手伝ってくれて、なんとかできた。

 今日はTシャツと短パンでいいや。いやでも足が出ない方がいいから、やっぱジャージにした。


 氷川神社。

 セミがわんわん鳴いている。真夏に来るとこじゃない気がする。

 正人がとなりで祈ってる。

「何をお祈りしたの?」

「夕子が生き返りますようにって」

「馬鹿だな、生き返らねえよ」

「でもいま、生き返ってる」

「今日までだ」

「うそ」

「決まりなんだ」

「今日の何時まで?」

「知らない」

「また死ぬのか?」

「死ぬっていうか、まあ、死後の世界へ旅立つっちゅうか」

「死後の世界ってあるのか?」

「おしえない」

「なんで?」

「きまりなんだ。でも、星を見たらあたしだと思って。話しかけてみて。必ずこたえるから」

 なんかだんだん眠たくなってきた。このくそ暑いのに。意識が遠のく。まさと、あたし逝っちゃう…。



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 宇宙。

 ど派手なパーティー会場。

 『星授式』ってやつか?あーあ、正人とちゃんとお別れできなんだ。くそ。

「ゆうちゃん、どしたの?」

「あ、母ちゃん。約束通り戻ってきてやったぜ」

「アホだね、一日間違えてるよ」

「まじで?あ、ほんとだ『準備中』って書いてある」

「ゆうちゃんはおっちょこちょいだねえ」

「ばあちゃん。じゃあ、あたしまた地球に戻る」

「いってらっしゃい。楽しんできてね」
 
 
 地球では、正人がおやじのカラダに抱き付いていた。

「ゆーこー、帰ってきてくれ、ゆーこー」

目を覚ますおやじのカラダ。

「まーちゃん、泣いてんの?」

「ゆ、夕子!…なんだおじさんか…」

「いや、あたしだ」

「夕子!生き返ったのか?」

「あと一日、人間でいられる」

 正人はぎゅうっとあたしを抱きしめた。

「く、くるしい。しんじゃうよお」

「ごめん、ごめん」

 見つめ合う正人とあたし。

「アメリカいかない?」

「アメリカ?今から?」

「アメリカってかハワイ」

「ハワイかあ。遠いなあ。移動の時間がもったいない」

「いやか?車イスだしな。飛行機大変そうだもんな」

「そだ。常磐ハワイアンセンターは?」

「ハワイアンセンターか。行ったことねえぞ。いいな、そこにしよう」

 正人の運転で急いでいわきへ向かった。
 


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 夜、ホテルハワイアンズに無事到着。

「今はハワイアンセンターってゆわないのな」

「そみたいだね」

 すげーいい部屋。窓から海が見える。きれいだ。

「温泉いこ!温泉!」

「いいよ。男同士だから一緒に入れる」

「そっか。すげーな」

「一緒に風呂入るの初めてだな。夕子のカラダじゃなくて残念だけど」

「ごめん。おやじで」


 男湯。

 けっこう人がいる。こんなにたくさんの男の裸みるの初めて。いろんなサイズの人がいるのね。

「キョロキョロしない」

「ごめん。おもろくて」

 正人と露天風呂に浸かる。

 正人が介助してくれた。

「あー、サイコ―だー」

「やっぱ風呂はいいな」

「ここにきて正解だった」

「うむ」

 お湯の中で正人と手を繋いだ。誰にもわからないように。はたからみたら親子が楽しく話しているようにしか見えないだろう。

 ドキドキした。

 ん?なんかあたしの下半身に異変が。

「ま、まさと。やばい」

「どした?のぼせたか?」

「たっちゃった」

「ええーー。まじでーー。ほんとだ」

 爆笑する正人。

「ぼく、人生でこんなに笑ったのはじめて」

 ゲラゲラ笑っている。

 あたしは口を尖らせた。

「あ、夕子のくせ」

 また笑った。あたしも笑った。

 最高の夜だ。

 やっぱり生きているって素晴らしい。

 自殺なんかしたことを心の底から後悔した。


 部屋のベランダで夜景を見ながらビールを飲んだ。

 夜空に星が瞬いている。

「なあ夕子。星を見たら夕子だと思えってゆったよな」

「うん」

「夕子は星になったの?」

「それは…」

「いえないか」

「ごめん」

「いいんだ。話しかけるよ、星に向かって」

「ありがとう」

「元気でな。っていうのはおかしいけど」

「正人も元気で。十年間ありがとう」

 正人があたしにキスをした。

 十年間の思い出が走馬灯のように駆け巡った。初めてデートした日のこと。スノボを教えてもらった日のこと。喧嘩してなぐったこと。仲直りのセックスがよかったこと。

 

yuyakezora.jpeg



 朝、目が覚めると、となりに正人の寝顔があった。幸せそうな顔だ。正人には幸せでいてほしい。ずっとずっと。

 正人が目を開けた。

「よかった。まだ夕子だよね」

「うん」

「おはよう」

「おはよ」

 好きな人と挨拶をする。そんな当たり前のことがなくなる。あたしは絶望と闘っていた。

 また涙が出てきた。

 正人はあたしのカラダを抱きしめた。

 正人愛してる。

 あたしはいつの間にか眠ってしまった。
 

 正人が気付いた時にはもう、心も体も夕子の父親になっていた。

「まーちゃん、ここどこ?」

「いわき」

「なんで俺こんなとこいんだ?」

「なんでっすかね」

 正人は洗面所で顔を洗った。

 本当に夕子はもういないんだ。

 部屋の隅に夕子の荷物があった。

 小さなトートバッグひとつだけ。バッグの中をのぞくと、色とりどりのハンカチがたくさん入っていた。

 一枚取り出す。

 I love you

 正人は自分のバッグから三十四枚目のハンカチを出す。

 Don’t look back

 静かになみだを流す正人。

 ベランダから空を見上げる。

 青い空にうっすら三日月が浮かんでいる。

 白い雲のもようが

 Thank youという文字に見えた。
 



おわり

(この物語はフィクションです)








ふとんクリーナーはレイコップ


2019年03月18日

「幽霊の夕子」(5)

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帰りの車の中で、まさとがラジオをつけた。シャ乱Qの懐かしい曲。やっぱつんくさん最高。宇宙へ行っても音楽って聴けるのだろうか。聴けるといいな。

「正人、そんがいなんとか金てやつなんだけど」

「そんがい?ああ、損害賠償?夕子の事故の?」

「それそれ、すごいのか?」

「いや、たまたま電車の角に頭ぶつけただけだったし、線路には遺体が散らばらなかったからたいしたことないよ」

「そうか!よかったー」

「気にしてたんだ」

「うん。とっても」

 心がすっと軽くなった。

 しばらく音楽を聴いていた。

 正人がラジオの音量を下げた。

「ぼくさ。実は、会社辞めたくて。だから留学なんて言い出しだんだ。三十も後半なのに」

「そうだったんだ。そんなに嫌か?仕事」

「仕事っていうより人間関係。疲れちゃったんだ」

「ストレスは体に悪い」

「はー。なんでもっと早く夕子に相談しなかったかなあ」

「あたしもきづかなくって、ごめん」

 溜息をつく正人。

「やめちゃえば?」

「え?」

「やめちゃえよ、そんな職場。正人ならまたどこかに就職できるよ。あたしが保証する。正人は真面目で誠実でかしこいから、大ジョブ」

「ゆうこ」

 正人は車を止めた。スマホを取り出して電話をかける。

「…犬飼です。部長、おねがいします。…おつかれさまです。すみませんが明日も休み…いや、もう会社へは行きません。…はい辞めさせてもらいます」

 ふーっと息を吐くまさと。

 よかったね。正人。

 海沿いの道路は空いていた。海の上をカモメが飛んでいる。きれいだ。

 正人が笑った。もう何も思い残すことはない。


 宇宙。

 あれ?いいとこだったのに。なぜ?

「わたしが呼んだの」

「母ちゃん」

「ゆうちゃん。正人くんといい感じのところ悪いんだけど、人間に幽霊だってばれちゃったからペナルティで一日短くなったわ」

「一日短く?七日間じゃなくて六日間になったってこと?」

「そう、残りあと二日ね」

「きびしいな」

「きまりだから」

「母ちゃんは二十年以上前、誰に憑依したの?」

「おばあちゃんよ」

「ばあちゃんになって、何した?」

「お父さんとセックス」

「おやじと?きもっ。…あ、あれ、夢じゃなかったんだ!あたし五歳の時、おやじとばあちゃんが一緒に風呂入ってんの見た。信じらんなくてずっと夢だと思い込んでた。あれ現実だったんだ」

「あら見てたの?悪い子ね」

「あんな入歯ジジイのどこがいいんだ?」

「あら、若い頃のお父さん、すごくかっこよかったのよ〜。わたしの命の恩人だし」

「命の恩人?」

「聞いてないの?お母さんがまだうら若き乙女だったとき、トラックにひかれそうになって。バイクでトラックに突っ込んで助けてくれたのよ」

「へー、そんで足だめにしちゃったんだ」

「だからお母さん、お父さんの面倒を一生みることにしたの。途中で死んじゃったけどね」

 ひとには色んなドラマがあるんだなあ。

「ゆうちゃん、二日後に星授式があるから必ず戻ってくるのよ」

「せいじゅしき?」

「そう、星を授ける式よ」

「そんなのあんだ」

「じゃ、残り二日間。たのしんでらっしゃい」




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 車の中。

ラジオからback numberというバンドの新曲が流れてきた。『瞬き』だって。いい曲。

「あ、起きた?」

「あたし、ねちゃってた?」

「うん。気持ちよさそうに寝てた」

「このまま北海道でもいかない?」

「北海道?なんでまた?」

「なんとなく」

「ぼくはいいけど、兄ちゃんたちは?大丈夫?」

「…やっぱ帰ろう」

「おっけ」

 いつもこうだ。どこかへ行きたくても行けない。家に縛られている。あたしの人生本当にこれでよかったのかな。

 やり直しができなくなってから気づくのっておそすぎる。


 『あだち整骨院』に灯りがついていた。はるとおにいがまだ仕事してる。

「ただいま」

「おう、おかえり〜」

 いつもの風景。日常ってやつだ。あたしがいないことを除いては。

 正人が家族全員の夕飯を作ってくれた。おにいは結婚してるけど夕飯はいつもうちで食べていく。お嫁さんが楽だからだって。

 店は八時までだから、あたしと正人だけで先に食べた。コロッケとお刺身。ご飯とみそ汁と漬物。人に作ってもらうのって幸せだ。

「いただきます」

「おいしい!」

「ほんと?よかった」

「揚げ物できる男子ってすげえ」

「ごめん。生きてるうちに一度も作ってやらなくて」

「ほんとだよ。十年も付き合ってたのに」

 つきあってた。過去形。さみしい。


 食後、二人で洗濯物を干した。

 夜空には星たちが小さく瞬いていた。

 あたしは明日の夜、あそこへ行くんだ。

「正人、お願いがある」

「なに?」

「あたしの代わりにこの家に住んでほしい」

「え?どして?」

「はるに家事を教えてあげて。あと、あんた整体師になりな。向いてるから」

「整体師か…。考えたこともなかった」

「いまってさ、みんなスマホだのタブレットだの機械をいじってるでしょ。指先から体が冷えるんだ。冷えは血流を悪くする。冷えは一番よくない。心だって冷たくしてしまう。正人にはずっとあったかい人でいでほしい」

「考えとくよ」

 夜も正人と一緒に寝た。

 正人の寝顔を脳裏に焼き付けた。

 朝が来て、ああ、これで最後だと思った。

 すずめがチュンチュン鳴いて。太陽の光がまぶしい。なんて素敵なところなんだろう。地球ってところは。


 はる、まさと、あたしの三人で朝ごはんを食べた。

 はるは全然しゃべらない。あたしが目玉焼きにソースをかけた。はるが「あ」と言った。

 しまった。おやじは目玉焼きには醤油だった。

「まちがえた」

 醤油をとってドバっとかけた。気づいてないみたいだ。よかった。

「はるさあ。あの子と結婚すれば?」

「あの子って?」

「ソープの」

「だって、おやじが風俗の女はダメだって」

「いい、ゆるす」

「ほんと?やったー。今夜プロポーズしてくる」

「がんばれよ」

「あんがと。ごちそうさん」

 はるは仕事の準備をしにいった。

 正人と二人でお茶を飲む。

「だいじょぶなのか?おじさんに怒られないか?」

「しらん」

「無責任だなあ」

「はるがなんとかするだろ」

 てか自分でなんとかしろ。いい年なんだから。

「今日はなにする?」

 そうだなあ。人間でいられる最後の日。なにがしたいかなあ。

「いまかんがえてる」

「ぼくも」

「そだ、氷川神社いかね?」

「神社?」

「初詣いかなかったろ今年」

「夕子、風邪で寝込んでたからな」

「その前に、部屋かたす」





つづく

(この物語はフィクションです)








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2019年03月16日

「幽霊の夕子」(4)




 パチンコ屋があって、喫茶店があって、ラーメン屋があって。ごくごく普通の商店街。

 この景色をもう人間として見ることはないのかと思うと急に悲しくなって泣けてきた。

「おいおい、どうした?酒でも飲むか?」

「あたし、あたし」

「アタシー?」

「正人に会いたい」

「まーちゃん?なら家で家事してるよ」

「かえりたい」

「オッケー」

 家路を急いだ。


 途中、あたしが事故った現場を見かけた。見たくない。でも見たい。

あれ?なにも変わってない。

こういう事故ってそんがいなんとか金が高いって聞いたことある。だいじょうぶかなあ、うち。どうしよう。ますます不安。

 家に着くと正人が庭で洗濯物を干していた。

「正人!いや、まーちゃん」

 おやじはまさとのことまーちゃんて呼んでた。

「あ、おかえりなさい。大丈夫?体調は?」

「うむ」

「ぼくもこんど連れってってね」

「どこに?」

「どこって、ソープ」

「ダメ!絶対ダメ!ダメダメダメダメッたらダメ!」

「…どうした?おじさん?」

「えっ、いやあ、その、まだ夕子が死んだばっかだし。おちついたら、な」

「よろ」

「そんなことよりまさ、じゃなくてまーちゃん。明日シーいかない?」

「シーって、ディズニーシーのこと?いいけど明日は夕子の告別式っすよね?その後ってことっすか?」

「そうそう、そのあと」

「オッケーっす。ちょうど仕事も休みもらったんで。いこう、シー」

 やったーデートだあ!うれしい!おひとりさまなんてイヤ!あたしは正人と一緒がいい!

「…ところでまーちゃん。なんで夕子と結婚しなかった?別れようとした?」

 うなだれる正人。

「おじさん。僕ほんとのこといっていいっすか?」

「も、もちろん」

 やだー。心の準備があ。


「ぼく、アメリカに留学するって言ったんです。とりあえず半年だけって言おうとしたんだけど、その前に夕子がパニクっちゃって。…それとぼくたち十年も付き合ってたでしょ?だから、だんだん夕子のこと家族みたいな感じになってきてて。よくある話だけど、その、女としてみられなくなっちまったっていうか…」

「ぶっころすぞ!」

「わー、ごめんなさい」

 正人は深々と頭を下げた。

「まさか、夕子が線路に飛び込むなんて…。僕どうしたらいいか…」

「死ねば?」

「う。それは…」

 まずい。本音が出てしまった。

「うそうそ。明日はよろしく。じゃ、ねるわ」

「うん。おやすみなさい」

「洗濯ありがとね」

「え」

 正人、なんかちょっと気付いたかも。急いで逃げろ。


 なんかはらへっちゃったな。カップラーメンでも食うか。ヤカンでお湯を沸かす。

 ズルズル。入歯だとすんごく食いづらい。味もちがう。老人はつらいよ。

 母ちゃんにもあたしにも先に死なれちゃっておやじってば女運がないのかしら。

 でも、ほなみさんがいてくれて良かった。



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 正人が車でパークに連れてきてくれた。

やっぱシー最高だわ。乗り物に乗れなくてもここにいるだけで癒される〜。でも暑い。

「おじさん、暑いっすね〜。レストランでも入ろうか?」

「そだね」

「イタリアンなんてどうっす?どうっすもこうっすも僕予約しちゃったんだよね」

 さすが、正人!気が利く!

「その店、二人でよく入った…りした、の?」

「うん。夕子がそこのラザニアが好きで」

 よくぞ覚えててくれた!

「じゃあそのラザニアをくおう」

「うん」

 レストランまで来たが

「申し訳ございません。お客様のお名前では、ご予約をいただいておりませんが…」

「えっ、ぼく昨日確かにネットから予約したんだけど…」

「申し訳ございません…」

「なんだ。がっかり」

「まーちゃんいいよ。他の店いこう」

「おじさん、ごめん」
 
 結局サンドイッチ屋さんに入った。

 あたしのほかにも車イスの人が何人かいた。


 正人が美味しそうなサンドイッチを運んできてくれた。

「サンキュー」

「ごめんなさい。ラザニア食えなくて」

 サンドイッチをほおばる。

「んまい!」

「ほんと?よかった」

シャトーブリアンなんかよりずっとこっちの方がいい。となりに正人がいるから。

 正人の顔をまじまじと見る。

 確かに、あたしたち長すぎたのかもしれない。あたしも正人のこと三人目の兄弟みたいに思ってた。

 最近、セックスもあんまりしなくなった。

 正人が将来の話しをしてたときもあんまり真剣に聞いてなかったな。

 あたしが結婚したくなかったのかも。

 結婚は女が決めるものだってばあちゃんが言ってたっけ。あたしのせいなのかな。やっぱり。

家族の世話で忙しくて結婚するの避けてた気がする。謝らなきゃいけないのはあたしの方。

 正人もジッとこっちを見てきた。

「ん?なに?」

「いや、昨日から気になってたんだけど。…夕子だよね?」

 フォークを落としてしまった。

 正人がフォークを拾ってくれた。

 そしてその手をあたしの右手に重ねた。

 びくっとするあたし。

 顔をぐんぐん近づけてくる正人。

 キス?ここで?おやじと?

 正人はくんくんとあたしの匂いをかいだ。

「やっぱり夕子だよ」

「ちっ、ちがうよ〜、やだなあ、まーちゃんふざけてえ。じょうだんじゃないよ」

 ビートたけしのモノマネをした。

「バラの香り。夕子いつも口臭気にしてバラの香りがするガム食ってたもん」

「…ごめん」

「ぼくこそ、ごめん。夕子がいなくなって、夕子の存在の大きさにきづいた。遅いけど」

 正人はあたしの魂を感じるみたい。

 涙が溢れてきた。オヤジの涙。熱い。きたない。でも止まらない。

「僕、どうしたら」

「なにもしなくていい。なにもしなくていいから、このまま、このままでいて。おねがい」

 まわりから見たら年の離れたゲイのカップルにでも見えただろう。

 正人はそのまま三十分もじっとしていてくれた。

 あたしは泣いた。とにかく全部カラダから水を出してしまおう。

 正人は微笑んでいた。

 近くで小さなこどもが泣き出した。迷子だろうか。

 正人はゆっくりと手を離した。あたしはもう泣いてはいなかった。

 とても心が穏やかだ。

 もう死んでもいい、と思えた。

 言葉なんかいらない。心が通じ合えたから。

 正人のぬくもりを感じた。それだけで十分。




つづく

(この物語はフィクションです)








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2019年03月15日

「幽霊の夕子」(3)




 葬式。

 坊さんがお経をあげている。

 みんな寝てる。

 葬式ってことはもう九日じゃん!なんだよもったいねえ!なんか損した!

 てか、あたしの写真。もっといい写真なかったのかよ〜卒業アルバムって。まじ勘弁してくれ。

 あ〜あたし、ほんとに死んじゃったんだなあ。寂しいというか。不安。とてつもなく不安だ。

 てか、なにこのカラダ。

 高齢の男。口くせえ。入歯だからだ。オヤジじゃねえか?この車イスといい、ぷよぷよ太った感じとか。げげげーーー。ショック。 

あたし、おやじに憑依しちゃったんだ。一番やばいことが起きた。

 誰もきづいていないな。よし。

「ちと…気分悪いから寝てる」

「大丈夫か?相当ショックだったんだな。いいよ、寝てて」

 は、はる。また話せてうれしいぜ。

 おやじとしてだけど。

「…わるい」

 よかった逃げられた。でも娘の葬式にちゃんとでない親ってどうよ。ま、いっか。とりあえずおやじの部屋に、と。

 グイーーン!バーーン!

 柱に激突してしまった。

「おいおい、だいじょぶか?親父」

「ちと手がすべった、ごめん」

 車イスむずかし!押すのと違って自分で操作するのむずかし!なれるしかねえなあ。


 オヤジの部屋。

 汚ねえ。ベッドは起きたときのまんまだし。服はタンスにしまってねえし。飲みかけの缶ビール。ひええ〜くせえ。

 とりあえず、着替え着替え。いいや、この作務衣で。これあたしが選んでやったやつだ。昨日洗ってここに置いといたままになってる。

 き、が、え、づらっ!上はいいんだが、下が大変だ。足がぜんぜんうごかねえ。どうすっか。

 オヤジの奴どうやって着替えてんだ?

あ、そっかベッドにうつ伏せて、よっこらせ!こうか!

 ふー。脱ぐだけで一苦労。

 障がい者ってすんげー大変なんだなあ。おやじのこともっと優しくしてやりゃ良かったかも。

 なんとかかんとか着替えはでけた。

 さて、なにしよう?一週間てか、今日が九日だろ。あと四日しかねえじゃん。

 いいもんがあるぞ。「おひとりさま○○」って本だ。

 ふむふむ。んがー。


 …しまった。読んでいるうちに寝てしまった!いまなんじ?

「おやじ」

「ん?はるか?」

「開けていいか?」

「お、おう、いいよ」

 はるが顔を出した。

「寝てた?」

「いや、起きてた」

「ふ。よだれ」

「お、おう。すまんすまん」

 き、きたな!てか、つばクサッ!

「無事に終わったから」

「う、わるかった、な」

「しょうがねえよ。親父が一番可愛がってたもん。…俺たちもショックで…」

 はるが泣いている。

「ごめんね」

「へ?」

「あ、いや、夕子がきっとごめんねってゆってるって、ことだよ」

「…親父、フロいかない?」

「ふろ?」

「ほなみちゃんがぜひ来てくださいって」

「ほな、み、ちゃん?」

「なーに、ふざけてんだよ?ボケちまったのか?やめてくれよお!ほら、いくぞ!」

 はるが車イスを押してくれた。

 フロって、家の外に?

「ほなみちゃんも心配してたぜー。ふーちゃんだいじょうぶ?って。癒してあげるからおいでーってさ」

 ふーちゃん?オヤジの奴、その、ほなみちゃんて子にふーちゃんなんて呼ばれてんの?どんなかんけい?




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 この辺いかがわしい店だらけだなあ。

「いらっしゃいませ〜こんばんは〜」

 ソープランド。

 おやじとはるのやつ、こんなとこ通ってんの?あーでも仕方ないかあ。二人とも独身だもんなあ。しかし、オヤジの裸はみたくねーなー。

「ハル、あたし、いや、オレは今日はいいや。一人でいってきてよ」

「なーに、言ってんだよお!せっかくほなみちゃんがサービスしてくれるってゆってんだからさあ!ヌキにいこーぜ」

「わーーー」

 ハルが車イスを強引に店に入れた。ピンク色の電球。心臓がバクバクしてる。あたし、いま、生きてるんだ。

 他にやりたいこといっぱいあるんですけど。なんでこんなとこにいるのかな。

「あーーん、ふーちゃーーん!」

 色黒でやせた女性が抱き付いてきた。この人がほなみさん?

「だいじょうぶ?おじょーさん死んじゃったってきいてー。もーしんぱいでしんぱいでー」

 涙ぐんでいる。この人いい人かもしんない。

「ささ、お部屋にいこー」

 ほなみさんが車イスを押してくれた。

 はるは手を振っている。はるも女の子と一緒だ。若くて可愛いアイドルみたいな女の子。
 

もうなにがなんだか。天国なんだか地獄なんだかわからない世界にきてしまった。幽霊なのに。

 なんでオヤジのカラダなんかに憑依しちまったんだ。くそお。オヤジが一番悲しんでいるって?ほんとか?娘の葬式の日にソープだぜ。どこがだよ。

 ほなみさんは慣れた手つきでサービス中。自分はきわどい下着しか身に着けていない。とりあえず死んだふりしよ。

「今日は無口なんだね。しかたないよね。悲しいもんね。かわいそうなふーちゃん」

 オヤジの禿げ頭にチュッとキスしてくれた。おえーーーあたしだったら金もらってもできねえ。すげえなこのおねえさん。

 あー、正人に会いたい。正人どうしてるかなあ?

「ふーちゃん、今日はなにしてほしい?」

「なにもしてほしくない」

「今日はなんだかふーちゃんじゃないみたいだね」

 おねえさんがあたしの顔、いやオヤジの顔をジッと見る。ばれたか?

「じゃあ、だっこしながらお話しよっか」

 ひざの上にのっかってきた。

「あ、ありがとう」

「どういたしまして〜」

 あ、おねえさんいい匂い。それに比べてあたしの口の臭いこと。

「歯磨きしたい」

「いいよ〜」

 歯ブラシに歯磨き粉をつけてくれた。優しい。

「はい、お口あーんして」

「ああ、いいいい、自分でできるから」

「そう?」

「この仕事、いつからやってんの?」

「ヤダ―、知ってるくせにー!もー。二十歳からでしょお?ふーちゃんが最初のお客さんでしょお?とぼけちゃって!」

 たたかれた。

 そうだったんだ…。このおねえさんは今三十前後に見えるからもう十年も…。なげえつきあいだ。

「いつもおせわになっております」

「ヤダ―!今日のふーちゃんへん!」

 確かに。確かに変だ。だってあたしが憑依してるんだもん。

 こんなじじいに優しくしてくれて。おやじのやつ幸せだな。

「元気だしてね!」

「あんがと」

 この人ほんとにいい人だ。

 こんないい人がなんでこんな仕事を。世の中不思議なことだらけだ。不思議なことを不思議なまま死んでしまった。ざんねんむねん。


 はるが迎えに来てくれた。よかった。

 あれ、はるの担当の子。はるのことずっと見てる。はるのこと好きなのかな?

はるは気付いてないみたい。

いや、あれは両想いだな。

はるもなんども振り返ってる。

つきあってんのかな?

「どう、スッキリした?」

「あ、ああ」

「なんだ元気ねえなあ。ってあたり前か」

 店を出て、はると商店街を進んだ。





つづく

(この物語はフィクションです)



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2019年03月09日

「幽霊の夕子」(2)



 冷たい霊安室。

あれ?ワープした!あった、あたしの体あった!でも、頭がとれちゃってる。かわいそう…。

 みんないる。オヤジ、はる、おにい。まさと…。みんな暗い顔してる。

あたし、死んじゃったんだ…。

「ゆうこ〜」

「むーんふぇいす〜」

「たこ〜」

 そんな時まであだ名かよ。

「すいません、僕のせいで…」

「そうだ、お前のせいだ!夕子をかえせ!」

「やめろよ親父、みっともねえ」

「だって、今日から誰が風呂の掃除すんだ?あ?トイレの掃除は?洗濯は?料理は?俺は絶対やらないからな!」

そこ?

「俺もやりたくない」

「俺も」

「じゃあ、僕がやります」

「えっ」

「いいのかい?まーちゃん」

「はい。ただ、仕事が終わってからになっちゃうんで夜の八時とか」

 誰か断れよ。

「いーよいーよ」

 よかった。

「八時でも九時でも」

 断らねえのかよ!

「じゃ、明日から頼むね。あーよかったまーちゃんがいてくれて」

 なんなんだよコイツら!どんだけ家事嫌いなんだよ。正人も正人だよ。アメリカ行くんだろ?ま、まさか?あれ、うそ?


「じゃ、とりあえず今日は帰ろう」

 もう帰んのかよ。あたしの体を一人にして。

 それにしても誰があたしの服脱がしたんだろ?下着替えといてほんとよかった。

 みんなにはあたしの魂は見えてないらしい。最近はやりの水だけどみかんの味がする水になったみたいな感じ。

 魂ってすごいな。自分の行きたいところどこでも行けちゃうんだな。よしじゃあ、米津玄師のライブへワープ!。


 あれ?ぜんぜん移動しない。動機が不純だから?見えないけどルールがあるんだ…。

 明日は友引だから葬式はあさって九日かあ。
 



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 宇宙。

 急にワープするからびっくりする。

 あたしって宇宙にいる時は星になるのね。だから星ってなくならないんだ。死んだら星になるって本当だったの…。

へー。すごい。

 だれ?だれかあたしを呼んでる。女の声。

「…ゆうちゃ〜ん」

「だれ?」

「わたしよ、お母さんよ〜」

「どこにいるの?」

「こっちこっち〜」

 声がする方に、あたしと同じくらいの年の女がいた。

「母ちゃん?」

 色黒で痩せ型。間違いない母ちゃんだ。となりにばあちゃんもいる。にこにこしてる。

「おひさしぶり」

「お、おひさしぶり、です…」

「おおきくなったわね〜」

「は、はあ」

「ごめんね。はやく死んじゃって…」

「ほんとに。すごい迷惑」

「ハンカチ、使ってくれた?」

「え!アレって、母ちゃんが?」

「そうよ」

「Don’t look backって、まさかあたしがフラれることわかってたの?」

「うん。ていうか、亡くなることもね。だから過去は振り返らないでってメッセージだったんだけど…」

「ふりかえんなきゃ、死ななかったの?」

「んー。そういうワケじゃないんだけど。ほんとは予定では薬を飲んで自殺するはずだったんだけど…」

「どっちにしろ死ぬんじゃん」

「まあまあ。寿命ってきまってるから」

「母ちゃんもあたしも三十四って若過ぎね?」

「そうね〜。でも、幸せだった?」

「えっ?」

「図星ね。本当は死にたいとか思ってたでしょ」

「なんでわかるの?」

「なんでかな〜」

「神様が決めるの?」

「神様なんていないわよ」

「えっ、えーー?うそ?うそでしょ?」

「うそじゃないわよ。いないわよ神様なんて。あれは人間が勝手に作った幻」

「まぼろし…」

「神様っていう信じられる存在が必要なら、ゆうちゃんが神様よ」

「え?あたしが神様?なんで?」

「自分を信じてやったことってうまく行くこと多くなかった?」

「そういわれれば、そうかも」

「神頼みなんてダメダメ。自分が神様だと思って信じてやること。でももうゆうちゃんは人間には戻れないけど…」

「やだやだ!人間に戻りたいよう!まだ結婚もしてないし、こどもも産んでない!」

 地団太を踏む。




hana5.jpeg




「ゆうちゃん。一週間だけ現世に戻れるって聞いた?」

「聞いてない」

「あらそう。いい?一週間よ。亡くなったのが七月七日だから十三日まで、期間限定で生きてる誰かの体を借りられるの」

「期間限定?じゃあ…綾瀬はるか!綾瀬はるかにして!」

「ううん。選べないの。自分で選ぶことはできなくて、あなたが亡くなって一番悲しんでいる人のカラダに憑依するのよ」

「げ。それって、もしかして、男の体とかも?」

「もちろん。あるわよ」

「げげげ。やだな。どうせ家族の誰かだろ?オヤジはキモすぎるし、はるもおにいだってやだな。誰にも憑依したくない。拒否。拒否する」

「それはダメ」

「なんでー?」

「そういう決まりだからよ。だって、やり残したことあるでしょう?ひとつやふたつ」

 そういえば、ハワイ行ったことないし、シャトーブリアンもまだ食ったことなかったな。やり残したことか…いっぱいあっぞ。

「じゃ、いってらっしゃ〜い」

「まって」

 かあちゃ〜ん!





つづく

(この物語はフィクションです)







女性ホルモンの専門家が作った、女性のためのハーブティー


2019年03月07日

R15 おかしな小説「幽霊の夕子」(1)

<R15小説>



 登場人物

足立夕子(34)整体師
犬飼正人(37)夕子の彼氏
足立朝子(34)夕子の母。既に亡くなっている
足立春彦(37)夕子の兄。次男の方
足立冬彦(63)夕子の父












 『あだち整骨院』は今日も足の悪いジジイとババア、ごめん。じいさんとばあさんでいっぱいだった。いま、おにいとはるが施術してる。

 年を取れば誰だって足が悪くなる。まれに八十を過ぎてフルマラソンを走っちゃう老人とかいるけどそんなのスーパーじいさんやミラクルばあさんだけ。普通の人は普通に足が痛んでくる。

 もともと足の悪い人もいる。うちのおやじがそれだ。おやじは二十歳の頃、バイクで事故って車イスになっちゃったんだって。

 あたしが生まれたときからすでに車イスだったから、別になーんとも思わない。

 ただ、ことあるごとにあたしを使うからイラッとする。

 あたしが受け付けをやっていると、また呼んでる声がする。

「父ちゃん、なに?」

「わるいな。これ郵便出しといてくれ」

「マジでわるいよ。そんなの自分でいけよ暇なんだから」

「ヒマじゃねえよ、俺はパチンコと競馬で忙しいんだっ。じゃ、頼んだからな!あばよ」

 口をとがらせて反抗的な態度をとるも、グイーンと電動イスを起用に操作して去るおやじ。それをボーゼンと見送る。

 渡されたのは青森の住所の手紙だった。またこれか。よくあることだった。


 あたしも、いちおう整体師。一応ってのは、ほとんど整体の仕事はやってないから。長男のおにいと次男のはるがいるからうちの店、お陰さんで結構儲かってる。

 あたしはみんなのご飯を作ったり、洗濯したり掃除したり。ようは家政婦って感じ。

 母ちゃんが死んでもう二十年以上になる。世話してくれたばあちゃんが死んでからはずっとあたしが家事当番。ほかは男しかいねえからしょうがなく。

 あー、今日はあたしの誕生日だってのに誰からもおめでとうって言われないんだけど。

 タンスの一番上の引き出しを開けてみる。やっぱりあった。

 今年はピンク色のハンカチ。濃いピンクで「Don’t look back」って刺繍してある。カッワイイ。

 誰なんだろう?家族みんなになんど聞いても知らないという。

 毎年、誕生日になるとこのメッセージつきハンカチがいつの間にかタンスに紛れ込んでいる。摩訶不思議。

 一番初めにもらったのは六歳のとき。「I love you」って縫ってあった。ばあちゃんが「これは『愛してる』っていう意味だよ〜」って教えてくれた。

 だからずっとばあちゃんが入れてくれたんだとばかり思っていた。

 十八の時、ばあちゃんがいなくなったけど十九の時も、そのまた次もずーっと続いたからわからなくなった。

 ま、家族の誰かの仕業なんだろうなあ。こんなに働いてんのにハンカチ一枚かあ。ないよりましなのか?

 それにしても暑い。でもクーラーは嫌いだし。アイスでも食うか。

 冷蔵庫を開けたがアイスが見あたらない。アイスくらい補充してくれよお。まったく男たちときたら牛乳一本さえ買ってきてくれない。

 あたしはシンデレラかよ。もう三十四歳。いきおくれのシンデレラ。王子様が迎えに来てくんないかな〜。

 スマホがぶるぶる。お、王子からだ。うそうそまさとからだ。正人はあたしの彼氏。もう付き合って十年になる。そろそろ結婚とか?うひょひょ。

「今晩ひま?」

「ひまだよ、飯でもくう?」

「じゃ、八時にひだまりで」

「りょ」

 彼氏だけはあたしのバースデーをお祝いしてくれるようだ。けど、ひだまりかあ。ひだまりとは、近所のださいカフェ。年寄りの集会所みたいなとこ。

 でもハンバーグとかミートソースとか結構イケる。ビールとワインと日本酒なら置いてある。正人はそこが気に入っている。

 今夜もしかしたらプロポーズされるかも?なんて。勝負下着に着替えとこ。

 何色にしようかな?そうだあのハンカチと同じピンクにしよ。ドントルックバックって後ろを振り返るなって意味でしょ?英語できないあたしでもわかる。

 過去を振り返るなってことかな?嫌な予感。


 母ちゃんはあたしが五歳の時、三十四歳という若さで死んじゃった。病気だったって。乳がんだって。

 色黒でやせてたそうだ。それに比べてあたしは色白でぽっちゃりしている。完全にオヤジに似てしまった。兄弟は母親に似て細い。

顔が真ん丸だからおにいからは「ムーンフェイス」って呼ばれてる。はるなんか「タコ」だ。夕子って字がタコみたいだし、あたしが口をとがらせるのがクセだからだって。

 だから男ってムカつく。女が傷つくことを平気で言ってきやがる。

 その点正人は違う。人を傷つけることをしない。たんたんとしている。たんたんと生きてたんたんと仕事してる。

 あたしも結婚したら正人みたいにたんたんと生活するんだろうな。朝ごはんを作って、ゴミを捨てて、買い物に行って、またご飯を作って。こどもなんか産んじゃって。男女の双子とかさ。

あらやだ。妄想しちゃった。えへへ。




itl1.jpeg




 夜、ひだまりにはあたしと正人しかいなかった。お決まりのメニューを頼んだ。

冷房がぜんぜん効いてなくて暑い。ハンカチで汗をふいていた。

「…話があるんだ」

「うん。なに?」

 きたきたプロポーズ。

「…アメリカに行く」

「は?旅行で?」

「…いや、アメリカで英語を勉強する。留学するんだ」

「留学なら日本でもできるんじゃん?ほら駅前留学とかさ?」

「だめなんだ。アメリカじゃないと」

「あんた自分、何歳かわかってる?そんな十五歳やそこらのガキみたいなことゆって」

 気まずい沈黙。

「あたしも一緒に…」

「ダメだ!」

「なんで?」

「一人じゃないとダメなんだ」

「それって…」

「…ごめん」

「ごめんって、あたしたち十年だよ?十年も付き合ってて、ごめんって?あたしの青春返せよ!」

 プッと正人が笑った。

「わらってんじゃねえよ!」

 あたしはテーブルを思いっきり蹴飛ばした。グラスから水がこぼれて正人の股間が濡れた。その股間になんど顔をうずめたことだろう。イヤらしいことを考えている場合ではない。ピンチだ。人生最大のピンチ。

 いつもカラオケで、前前前世から君を探してたって歌ってたくせに。ディズニーシーで毎年カウントダウンしてたくせに。夕子が作るオムライスが一番うまいってほめてたくせに…。

「ゆるしてくれ」

「やだ!」

「この通りだ」

 正人が土下座した。

 コイツ本気だ。

 信じらんない。死にたい。

「うわ〜ん」

 あたしは泣きながら店を出て走った。全速力で走った。あとから正人が追いかけてきた。ふっておいて追いかけてくるってどういうこと?やっぱりやり直したいってこと?そんな急に気持ちって変わるもの?

「まてよ、ハンカチ!ハンカチ忘れてっぞ!」

 ハンカチ?なんだよ!そんなのもうどうでもいいよ!

 カンカンカンカン。線路の踏切が閉まっていた。あたしは後ろを振り返りながら黄色と黒のしましまのハードルを飛び越えた。

 パアーーーン!運悪く、特急列車にぶつかってしまった。あたしのカラダは大きく孤を描いて地面に落ちた。


 ここはどこ?なんか暗くて明るい。でかい物体が光ってる。

あ?あれ?下の方にあるの、あれは地球じゃね?テレビとか映画でしか見たことねえけど、地球だよな?

 えーー!あたし宇宙にいんの?まじで?体がない。あたしのカラダどこ行った?





つづく

(この物語はフィクションです)







最高級 お酒のお供!ツナ缶の極み



2019年03月02日

映画「ファースト・マン」の感想

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久しぶりに映画のお話しです。ネタバレ注意です!


先月みてきました「ファースト・マン」。おすすめ度★★☆☆☆星2つ。


正直、感動もしなければ、涙を流すこともなく…。

特に「いい映画」というものではありませんでした。


舞台は宇宙という、壮大な物語のはず。

主人公も、あの、アームストロング船長という伝説の偉人。


何がいけなかったのだろう…とずっと原因を考えています。



男性目線?


主人公に感情移入できなかった理由の一つとして、男性目線のひとりよがりな感じが

いなめません。

特に、亡くなった娘のことをずっと忘れられずに、月に遺品をのこす、という

あるまじき行為。(これは事実だとしたら大問題だと思います)


そりゃあ、こどもが亡くなる、ということは、父親にとって、母親にとって、

人生で一番くらいに辛い出来事なのかもしれません。

でも、主人公の行動に共感できませんでした。




無表情?


キャスティングのミスなのか、監督の演出なのか?主人公の俳優さんがずっと無表情なのですね。

特に、奥さんにおもいっきりどやしつけられたシーンでも、うすわらいのような無表情。

うーん。わざとなのか?

奥さんに感情移入してしまった私としては、よけいイライラしました。




音楽?


映画における音楽の役割は、5割くらいでしょうか。もっとでしょうね。

こころに残る、記憶にのこるメロディーがなかった。

残念です。


やはり、忘れられない映画には、耳に残ってはなれない音楽の存在が大きいですもの。





米国とロシアの競争?


人類が進化するため、前進するために、宇宙開発は必要不可欠なのか?

米国とロシアが技術を競うためのネタとして月面着陸は意味があるのか?

賛否両論ですが、この映画の中にその答えはありません。

この世の中に答えがないからなのかもしれません。


しかし、それをただみせられでも、「で?」となってしまうのです。





「ファースト・マン」は、きっと、月に初めて行って帰ってきたという

奇跡の人も普通の人間なんだよ、っていうことを伝えたかったのかしら?

これは私の推測ですが。



去年みた素敵な映画「万引き家族」や「ボヘミアン・ラプソディ」とは

別の意味でひきずってしまいました。



どこがいけなかったのかずっと考えています。



ディスって申し訳ないけど、大金つかって、人の時間を人生をつかって

創った責任は大きいと思います。


うーん残念です。



ではなぜ★を2つ付けたかというと、宇宙飛行士になる人生を疑似体験できる

という観点ではよくできた映画なのかな?とおもいました。


宇宙マニアというか、宇宙旅行に憧れる人にとっては意味のあるフィルムなのではないか

という感想です。









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