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2023年04月20日

光の翼 飛躍の翼9 漆黒の海姫2

俺達が泉で出会った黒髪の女性についても、ティグラーブは詳しかった。
彼女の名は、水川舞(みずかわまい)さん。1週間前に行方不明となった弟を発見するべくティグラーブに目撃情報を求めては、方々を巡っているのだという。
ただ、今回は眩暈を押して捜索に向かったせいで、復路で遭遇した6匹の邪鬼(イヴィルオーガ)―万全の体調なら勝負にもならない格下相手で、危うく殺されるところだったらしい。
「しかし、世間ってのも狭いモンね。おいどんに泉の欠片の情報よこしたの、こいつなのよ。」
「えっ、そうなの!?」
「ええ。弟の目撃情報くれてやる料金代わり、ってことでね。…もっとも、結果は訊くべきじゃねーようだけど。」
「…そう…思うなら…わざわざ…言わないでほしいな…。」
やたらと豪勢な装飾のベッドに腰掛ける舞さんが、傷心を隠さず文句を垂れた。





ティグラーブの屋敷に来てから1時間と少しが経過し、現在の時刻は午後12時10分。
空き部屋での看護役を引き受けた魅月さんから、舞さんが9割方快復したと知らせを受け、全員で押しかけていた。
「それにしても、何で弟くんの捜索願出さねえのよ?やっぱこっちでも、警察って当てにできねえ感じ?」
「…そういう…わけじゃ…なくてね…。」
舞さんがゆっくりと首を横に振る。
「…魔界の…警察って…もう…ほとんど…いないの…昔…ディザーっていう…やつに…潰されたんだって…。」
「…ディザー、か…。」
独り頭の中で考え事をする暇もなく、話は続く。
「そのディザーを封印したら、今度は自警団でもいれば十分ってくらい平和になったし、どうせ資金やら人材やらもろくにねーしってことで、復活した警察ってのはいねーみたいよ。」
「…ラムバルガ…っていう…街は…今でも…警察が…しっかり…動いてる…らしいけど…街中だけで…手一杯…みたい…。」
「なるほど…それじゃ、自分で捜すしかない訳だな。」
「しかし、目まいなんか患ってて捜しに行くなんて、凄いですね…。」
「…そんなの…当たり前…だって…大事な…弟だから…。」
ごく小さな呆れと最大限の驚嘆を吐露すると、舞さんは頬を染めつつも率直に語った。
「へえ〜。弟想いのいいおねーさんだな〜、舞ちゃんは。」
「…ふふ…それほどでも…あ…ティグラーブさん…弟の…目撃情報…あったら…聞かせて…くれるかな…?…お金は…その…後払いで…お願い…できたら―」
「…マイ、そのことなんだけどね。」
ティグラーブは、俺達との賭けの話をかいつまんで伝えた。
永世中立を放棄したゆえ、もう来る者を拒まぬ情報提供はできないという事も。
「…そんな…。」
「…けど、ランジン達の仲間になるなら、これからも目撃情報探してやって構わねーわよ。料金なしでね。」
「…え…?」
この世の終わりと言わんばかりに血の気を失った舞さんに、ティグラーブはすぐさま取引を持ち掛けた。
「おい、ティグラーブ。勝手に話を…。」
「ああ、こいつが役に立つかって心配なら、いらねーわよ。」
ティグラーブは魄測計で舞さんを撮影すると、俺の手に押し付けて来た。
「…っ!?」
声にならない声をこぼしたきり、硬直した。
「どうした、風じ―」
続いて画面を覗いた兄達も、同様に言葉を失ってしまう。





舞さんの魄力値は、26万と表示されていたのだった。





「…信じられねエ…何て腕前してンだ、アンタ…。」
全員揃って10秒ほど黙り込んだ末、ようやく天城がそれだけを呟けた。
「魔界には封殺者(ふうさつしゃ)っていう、敵の命を奪わず行動の自由だけを殺すって戦い方する流派があるんだけどね。マイの親父がその創始者なモンだから、こいつ随分としごかれてんのよ。」
「…父さんの…修行…きついけど…おかげで…そこそこには…なれた…かな…。」
「こうやって謙遜してやがるけど、もうあとちょっとで父親を超えるだろうって言われてるわ。次代最強の封殺者ってことで、割と有名人よ。」
「…世の中って…ほんと…大げさだね…私…まだまだ…未熟なのに…。」
恐縮しきりな舞さんの魄力を、密かに探ってみた。
確かに平時にも拘わらず、かなりの力を秘めていると感じられる。今の俺達では6人全員で掛かっても、1分と持たずに倒されてしまうだろう。そんな彼女を味方に付ければ心強いのは、言うも更なりだ。
だが、出会ったばかりでまだまだ素性を知らないに等しい相手。行きずりの縁で少しばかり助け合うだけならともかく、長い旅路まで共にして良いものだろうか。
そもそも舞さんにしてみれば、俺達を味方に付けても旨味は少ない。何せカオス=エメラルドを巡る戦いとなれば、命に関わるのだ。弟捜しに協力者が付く程度では、まるで利益が釣り合っていない。
「…どうする?僕達と、手組むか?」
期待や無理強いはしないがと遠慮がちな表情や声音で示唆する兄に、舞さんはすぐさま土下座した。
「…みんなの…カオス=エメラルド探し…手伝います…!…だから…私の弟を…一緒に…捜してください…!!」
「そっかそっか〜。いや〜、美人に頼まれちゃ、イエスとしか言いようがねえな〜。」
「私達の賭けのせいで、御迷惑をお掛けしてしまいましたね…お詫びも込めて、弟君の捜索をお手伝い致します。」
「旅は道連れ世は情け、ッて言うしな。よろしく頼むゼ。」
紅炎さん、魅月さん、そして天城に相次いで快諾され、舞さんは弾かれたように顔を上げた。
口元が緩んでおり、喜んでいるのが如実に窺える。
「…じーっ…。」
ちなみに約一名、言葉で表すのも憚られる面持ちで舞さんの巨大な胸を凝視する女子がいたが、特に誰も触れなかった。
「…本当に、良いんですか?カオス=エメラルド探しになんか、首突っ込んで…。」
「災厄の刃(クラディース)のディザーとかいう奴ともやり合う事になるぞ。最低でも魄力250万はあるらしいけど、それでも一緒に来るか?」
「…大丈夫…ディザーより…強く…なっちゃえば…いいんだもん…元々…封殺者として…ディザーを…ずっと…野放しには…できないって…思ってたし…。」
どこかで聞いたような勇ましい決意を語りながら、舞さんが徐に立ち上がる。
こうして見てみると身長もかなりのもので、年少者や同性はおろか、兄や紅炎さんよりも僅かに背が高かった。
「…それに…助けてもらった…お礼…もっと…ちゃんと…したいしね…。」
いくら長く艶やかな黒髪で両目が隠されていても、話の中身と顔の向きで、自分が真っ直ぐ見詰められているのが嫌でもよく分かってしまう。
邪気を感じさせない微笑みまでおまけされ、思わず視線を外した。
「…やっぱり…会った…ばっかりだから…信用…できない…?」
「あ、いえ、そんな事は…難儀な戦いなんで、手を貸して貰えるなら凄く助かります。」
悲しさや寂しさを伴った声で図星を指され、咄嗟に場を取り繕う。
勿論、兄より上を行く使い手に牙を剥かれたらとの懸念は大きいが、それこそ舞さんより強くなっておけば問題ないと結論付け、彼女を迎え入れる事にした。
「…じゃ、話は決まりか。」
「みたいね。それじゃ、マイ。テメーもしっかり活躍しやがりなさいよ。」
「…もちろん…!…みんな…ありがとう…!」
仲間入りを認められ、舞さんは深々とお辞儀をして来た。
「…改めて…水川舞です…これから…よろしくね…!」
「おっ、ご丁寧にどうも。俺様、陽神紅炎ってんだ〜。良かったら、下の名前で気安く呼んでね〜。」
「魅月麗奈と申します。宜しくお願い致しますね、舞さん。」
「天城駆ッて者(モン)だ。よろしくな。」
「ボク、雪原氷華っていいます。…水(みず)さんみたいなやらしいカラダじゃないけど、一応女同士だし、仲良くしてくださいね。」
「…え…?…私…そんなに…えっちぃ…身体かな…?」





首を傾げた舞さんはつと、自分で自分の胸を揉み始めた。





頭では脂肪の塊に過ぎないと思っても、量感たっぷりの球体が瑞々しく変形する様は大迫力。





幾人もの男の目がある中で何の気なしに危うい仕草を披露してのける無防備ぶりへの仰天も手伝い、またもや誰もが釘付けにされていた。





「…うーん…胸…大きい…だけだし…別に…えっちく…ないと…思うけど…。」
「…ぐ…っ…!!!!!」
自ら打ち明けたコンプレックスを気遣われるどころか刺激された氷華は、歯を食いしばり、右手を握り締めて、身を震わせる。
それは、舞さんに悪意など露とないゆえぶつけ所のない怒りを自分の内側に封じ込めんとする、孤独な戦いであった。
「…あの。こいつ色々と気にしてるんで、あんまり煽らないでやってください…。」
「…え…?…あ…!ご、ごめんなさい!!その、煽ろうとしたわけじゃなかったんだけど…。」
勢い良く頭を下げ、動転を露わに釈明しようとする舞さんを、兄が無言で制止した。
悪気がなかったにせよ、事実として氷華の精神を痛めつけた張本人が何を言おうと、火に油を注ぐ結果にしかならないとの判断だろう。
「…こっちも名乗っとくぞ。僕は、蒼空嵐刃。こいつは、弟の…。」
「蒼空風刃です。改めてよろしくお願いします、舞さん。」
兄と俺が名を告げると、舞さんは壊れた機械の如く固まった。
「…おい、どうかしたのか?」
「…あ…いや…みんな…変わった…名前で…覚えやすいな…って…。」
「ああ、それか…昨夜、ティグラーブにも同じこと言われたな。」
慎重に言葉を選んだ舞さんの返答に、兄が苦笑した。
「はは。実際このメンツ、おかしな苗字ばっかりだもんな〜。」
「蒼空、雪原、陽神ッてのが特にな。…あア、月アネゴのとこもあのややこしい魅ッて字で『魅月』ッてンだから、変わッてるには変わッてるか。」
「あはは、ややこしいですか…自分では他の御宅と重複しない字なので、気に入っているんですけどね…。」
珍名話に花を咲かせる仲間達も、それを間近で傍観していた俺と氷華も。





「…マイ。一応念を押しとくけど、余計な事喋るんじゃねーわよ。」
「…うん…分かってる…。」
すぐ後ろの、まるで声を潜めていなかったティグラーブと舞さんの会話に、気付きはしなかった。
posted by 暇人 at 15:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 光の翼

光の翼 飛躍の翼8 漆黒の海姫1

「うわー!キレイなところだね!」
開けた泉を目にするなり、氷華がはしゃぎ出した。
溜まった水は、これ以上ないほどに澄み切っている。面積はかなり広く、雑に見ても直径50メートル程はあるだろうか。水深もかなりの深さで、言わずもがな迂闊に入れば危険である。
しかし何よりもの驚きは、太陽光のはね返りようだった。まともに水面を眺めるのも憚られるばかりの眩さが、周囲を覆う小規模な森にまで届いているのだ。
泉がこうして太陽や月や星の光を派手に反射するゆえ、天候に恵まれる限り昼夜問わず明るい一帯。
そのため湧き水は「白夜の泉」、木々の群れは「沈まずの森」と呼ばれているとティグラーブから聞いたが、言い得て妙だと感じ入るばかりだった。
「カオス=エメラルドの欠片は、こちらにあるとのお話でしたが…。」
「…お。あれじゃねえの〜?」
紅炎さんが、右手の人差し指で水底を示した。
つられて見やると、確かに鈍い緑色の光を放つ石ころが沈んでいる。
「あちゃー…思い切り沈んじゃってますね…水の外にあってくれれば、カンタンだったのになぁ…。」
「しょうがねエ、潜るとするか。魄力引き出せば、息も持つだろ。」
「大丈夫だよ、駆君。」
上着を脱ごうとした天城を、兄が止める。
「そんなめんどい事しなくたって、愚弟が風起こして巻き上げれば済むからさ。」
「てめぇでやるって選択肢はねぇのか。」
「めんどいからな。」
「…その内、息するのも面倒臭がってくたばりやがれ。」
「何だと貴様。」
「はい、2人ともストップ!しょうもないケンカしてる場合じゃないでしょ!」
「ヒョウ嬢が言うと、妙な気分だな〜…。」
紅炎さんが、苦笑いしながら呟いたところ。





泉の対岸から発砲音と、複数の濁り切った叫びが響いて来た。





「あれ、邪鬼(イヴィルオーガ)の声だよ!」
「ヤロー共、誰か襲ってやがるな!」
「…人間界でも魔界でもふざけた連中だ…すぐに吹っ飛ばしてやる!!」
「こら、風刃!勝手に―」
兄の制止を、耳には入れない。
木刀を握って背中の翼を広げると、水上を一直線に突っ切った。










「…はあっ…はあっ…うっ…。」
6体の邪鬼(イヴィルオーガ)の群れに追われていたのは、非常に長く黒い髪をした若い女性だった。
おぼつかない足取りながらも何とか走っていたが、ふいに力尽き、うつ伏せになってしまう。
そこに、6体の邪鬼(イヴィルオーガ)の群れが追いついた。
肌は桃色、赤色、土気色、黒色、緑色、そして黄色とバラバラだったが、皆一様に血液の如く赤いジャケットと、暗闇の様に真っ黒なパンツを身につけている。
「ねエ、お姉さン。いい加減、素直に話してヨ。大人しく口を割れバ、コっちだっテ別に危害は加えないからサ。」
桃色の邪鬼(イヴィルオーガ)から詰め寄られたものの、黒髪の女性は荒い息を吐き、横たわっているだけだった。
「…何モ言わネえってコとは、オれたちニ話すクラいなら殺サレた方がマシってわケか。」
長身で筋肉質な黄色の邪鬼(イヴィルオーガ)は5秒ほどでそうぼやくと、上着の懐から一丁の拳銃を取り出した。
「だッタら、望ミ通りにしテヤるよ!!」
黄色い邪鬼(イヴィルオーガ)は黒髪の女性の後頭部に狙いを定め、引き金を引いた。
射出された鉛玉は、瞬く間に目標との距離を詰めて行く。










「疾風牙(しっぷうが)!!」





しかし相手は所詮、大した魄力を持たない代物。





俺が軽く木刀を振るって放った風の弾丸1発で、呆気なく粉々になった。





「何…!?」
「誰ダ、オ前!?」
「てめぇらみてぇなクズ共に、名乗ってやる義理はねぇな。」
倒れ込んだ黒髪の女性を背に着地し、木刀の峰を自分の右肩に乗せた格好で嫌味をぶつける。
「てめぇら、何でこの人を追いかけ回してやがる。この人が何かしたのか?それとも、単にいたぶりてぇだけか?」
「ケケ…こいツは、報復っテやつサ。何せこノ女、前にセっかクの人質を―」
「余計なこト喋るナ、ビルク!」
「イてエ!」
黄色い邪鬼(イヴィルオーガ)が、緑色の個体の頭を左手で思い切り小突いた。
「マったく…テメえは口が軽くていけネえ。」
「アだだ…何も叩くコとねえダろ、シクロス…。」
「…人質…てめぇら、誰かさらいやがったのか!」
「フん。名前も名乗ラねえ礼儀知らズのガキに、口を割っテやる義理はネえ。そこノ女と一緒に、地獄に行っテな!!」
黄色い邪鬼(イヴィルオーガ)―シクロスが、俺の心臓を目掛けて銃を構える。





だが、シクロスは銃撃を実行できなかった。





こちらが至近距離に踏み込み、腹部目掛けて風を宿した木刀を打ち込む方が、遥かに速かったから。





「ガ、っ…グアアアアアーーーーー…!!!!!」





シクロスは紙屑の様に容易く吹き飛び、沈まずの森の外へと消えて行った。





「ゲ…こんなバかナ…!」





「シクロスが、タった一発で…!」





仲間の脱落に、残った5体の邪鬼(イヴィルオーガ)は狼狽するばかり。





「風翔斬!!」





「「「「「ウアアアアアーーーーー…!!!!!」」」」」





隙だらけのところに風の斬撃を見舞うと、あっさりと片は付いた。





「…ふん。霞の奴との修行も、無駄じゃなかったってことか。」
「―それはそれとして、何か反省する事は?」
些少面白くない気分で独り言ち、木刀を腰に差した時、兄が現れた。
余分な言葉がなくとも、腕組みした姿と鋭利な眼光から、俺の単独行動に怒っているのがありありと見て取れる。
「か〜、ダメだ〜!やっぱ空飛んで行かれたら、間に合いやしねえわ〜!」
「あーあ、急いで走って来たのにな…。」
幾らか遅れて、紅炎さんや氷華達も到着した。
「コラ、蒼空よ!仲間(ツレ)を放ったらかしとは、随分なマネしやがるじゃねエか!」
「…悪かったよ。」
拳を鳴らす天城に、すぐさま頭を下げて謝罪した。
良かれと思っての行動だったが、独断専行で仲間達を振り回したのは非難を免れようがなく、また赦されるべきでもない。
「邪鬼(イヴィルオーガ)なんかのために二度と死人を出したくねぇって思ったら、また…勝手な事やって、済まなかったな…。」
「風くん…。」
「…まあ…今回は、お前にしちゃよくやったって言っとくよ。」
「…どうも。」
無傷の俺と黒髪の女性を一瞥してから、憤りと安堵が混ざった様な面持ちで視線を外す兄に、ごく短く応じた。





「さて、そこのお姉さん。ちょっと、話聞かせてもらえねえかな?」
寝込んだままの黒髪の女性に、紅炎さんが呼び掛ける。
「待てよ、ダンナ。銃でやられてるかもしれねエし、月アネゴに診てもらおうや。」
「…だい…じょうぶ…どこも…撃たれて…ないよ…。」
黒髪の女性が、緩慢な語り口で告げる。
「…私…めまいが…してて…倒れた…だけだから…。」
体勢を仰向けに変えると、またも息が乱れる。
その顔はさぞや苦悶に歪んでいることだろうが、統率感のあるロングヘアで両目が隠されているため、表情の全貌は分かり辛かった。
後ろ髪もかなりの量で、先端が腰まで届いている。一目で扱いの面倒臭さが窺い知れるが、陽光を受けての艶やかな煌きを見るに、日頃から丁寧に手入れをしているようだ。
身体を包むのは、黒一色のドレス。生地は上等で高級感があるが、無地な上に露出度が低く、一見すると喪服と見紛う。ドレスとの対比で一層美しく思える色白の肌も、顔と首元と両手しか陽の目を浴びていない。
ただしそんな地味な衣装でも、彼女の胸の存在感ばかりは隠しようもなかった。
(…でかい…。)
人の頭を易々と包み込めるまでの大きさに、男女問わず視線を吸い寄せられてしまう。
特に紅炎さんは堂々と楽しむように、氷華に至っては嫉妬や羨望や憎悪や絶望が混在した面持ちで、グラビアアイドルと比較しても何ら遜色ない造形美を凝視していた。
「…あの…木刀…持ってる子…邪鬼(イヴィルオーガ)…やっつけて…くれて…ありがとう…。」
「あ、いや…お気になさらず。大した事はしてないですから…。」
眩暈に苛まれながらも微笑んだ女性の謝辞に、ひたすら謙遜する。
「…何か…お礼…できれば…いいんだけど…。」
「いえ、本当に結構です。俺達、カオス=エメラルド探しで偶然近くに来てただけなんで。」
「…カオス=エメラルド…?…あなたたち…そこの…欠片…拾いに来たの…?」
「ん、まあな。」
「…なら…ちょうど…よかった…あの欠片…私が…出すね…。」
黒髪の女性が右手を正面へ伸ばし、魄力を解放する。





直後、泉に波紋が立ち、次いで巨大な水柱が上がった。





「どわ〜!すげえな〜!」
「…お前、水使いなのか。」
黒髪の女性が無言で頷いた頃合で、カオス=エメラルドの欠片が水底から引き摺り出され、俺の足元へ転がって来た。
それを確認した女性が手を下ろすと、水柱もたちまち崩れ、泉へと還って行く。
これまで集めたカオス=エメラルドの欠片を近づけたところ、2つの石は共鳴するように光を増した。
互いを接触させ、合体を完了させる。
「よし、これでまた一歩前進だな。どうも、わざわざありがとうございま―」
「…う…っ…。」
俺が礼を述べ切る前に、黒髪の女性が苦し気に喘いだ。
「わっ!大丈夫ですか、お姉さん!?」
「…ちょっ…と…いや…けっこう…きつい…かも…。」
「魄力を使った反動で、眩暈が悪化してしまったようですね…。」
「全く、もう…自分の体調位、ちゃんと考えろよな…。」
「…ごめん…なさい…。」
勢いで非難を垂れた兄が、ばつが悪そうに右頬を掻いた。
「…なあ、お姉さん。俺ら、ファラームって街に戻らなきゃなんだけど、良かったら送って行こうか?」
「…え…?…すごい…助かる…でも…いいの…?」
「…まあ、しょうがないわな。こんな状況でさよならっていうのも、寝覚め悪いし。」
「こうしてお目に掛かったのも、きっと何かの御縁です。短い道中ですが、御一緒致しますよ。…氷華さん、御協力頂けますか。」
「はい!」
魅月さんと氷華が黒髪の女性の両隣に付き、彼女の身体を支える。
「…何から…何まで…本当に…ありがとう…!」
女性は大人しくも感激が明白な声で、感謝を語った。
posted by 暇人 at 15:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 光の翼

2023年04月19日

【2023年4月追記】飛躍の翼 夜半の警鐘 後書き

やっぱり久しぶりに、夜分遅くに今晩は。
暇人なのに色々と用事をこなせずにいる、『暇人の独り言』管理人です。





用事をこなせない最大の理由は、単純にうっかりしているから。
我が事ながら、何とも情けないボケっぷりです…

…ちなみに、究極にどうでもいいことを呟くと、管理人はこんなザマでも20代。











さて、またもや久しぶりになった今回の更新では、拙作『光の翼』の後書きをお届けします。
誰も待っていなかったとは思うけれど、趣味でやっていることなのでその点は気にしない。










この回ではティグラーブから色々な情報を聞いたわけですが、中でも特に重要視してもらいたいのは勿論、ディザーなる男の話。
まだまだ名前しか出していませんが、こいつこそ拙作における最大にして最強の悪役です。



カオス=エメラルドも狙っているためいつかは倒さなければならない相手ですが、数値にして20万にも満たない程度の魄力しかない風刃達に対し、ディザーは少なくとも250万





10倍以上の実力差があるディザーに、風刃達はいつか勝つ事ができるのか?
その行く末を見守っていただけると、嬉しい限りです。
できないとキャラクター達も作者も困るけど










ちなみにディザーの兵団「災厄の刃」ですが、実際の読みは「クラディース」と設定しています。



元ネタにしたのは、ラテン語で「災害」を意味する「cladis」なる単語。
…主人公達の名前といい、こういう気取ったネーミングをしていると、自分のセンスも如何なものかとたまに思います(苦笑)
















では、今回の後書きはここまでとします。
実を言うとディザーはまだ本編に登場させていませんが、悪の魅力あるキャラクターにできるよう、描写していくつもりです。















【以下 2023年4月追記】




遅筆で筆不精な『暇人の独り言』管理人にしては珍しく、3日連続で今日は。
現在、拙作『光の翼』の改稿が済んだ部分を急いで掲載しております。


複数のサイトに投げ込んでいると、管理も大変だ。





追記ですが、最初に拙作の掲載を始めた小説投稿サイト「小説家になろう」の方では、2021年にディザーを登場させました。
この後書きを最初に投稿した2019年からは2年、作者が『光の翼』を考え始めた2009年まで遡れば実に12年の時間を掛けて、ようやく形になった訳です。


我ながらつくづく筆が鈍臭い…





読者様から感想等は寄せられていませんが、作者としては最大最強の悪役に相応しい圧倒的な力を描けたはずだと信じています。
…ただ、それを本ブログで御覧に入れられるのは、いつになるのだろうか。
posted by 暇人 at 15:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 光の翼

光の翼 飛躍の翼7 夜半の警鐘

情報によれば、ファラームから程近くにある「白夜(びゃくや)の泉」と、ファラーム城。そして広大な樹海を抜けた先のスクムルトなる村に、カオス=エメラルドの欠片が1つずつ確認されているらしい。
移動の手間を考えてスクムルトを最後に回し、ファラーム周辺にある2つの欠片を優先しようという事で、目下の方針が固まった矢先。
「もしディザーに出くわすことがあっても、絶対に戦うんじゃねーわよ。何が何でも逃げやがりなさい。」
ティグラーブからの警告に、全員が押し黙った。
「…ティグラーブさん、ボクたちに賭けてくれたんじゃなかったの?」
「テメーらの将来に賭けたから、今不用意なマネしてもらっちゃ困るって話をしてんのよ。」
「…今の俺等じゃディザーって奴には勝てねえ、っつーわけね?」
「…残念ながらね。」
僅かに俯いたティグラーブが、言葉少なに返す。
「ディザー、か…強い強いって言うけど、そんなに凄ぇのか?」
「…そうね。こういう話は、数字があった方がいいでしょう。」
酒や文書を収納した棚から、黒く薄い端末機器が取り出された。
「それは…スマートフォンでしょうか?」
「いえ。よく似てるけど、こいつは魄測計(はくそくけい)って機械よ。画面に映したヤツの魄力を数値化できる機械でね…。」
「魄力を数値化だと!?すげエじゃねエか!!」
「わっ、ビックリしたぁ!なに急にテンション上がってるのさ!」
「オイ、ティグラーブよ!魄力を数値にッて、一体どういう仕組みなンだ!?」
「…ん、ああ。魄力ってモンにも、ある程度の熱はあってね。その温度を元に計測すんのよ。」
ティグラーブから手渡された魄測計に自分を映し、皆が魄力の値を調べてみる。
結果は僕が19万、風刃が18万、紅炎と氷華君と駆君がいずれも17万、麗奈が16万と算出された。
「18万か…俺も結構捨てたもんじゃねぇかもな。」
「そうだな。この超絶天才兄上様の次なんだから、悪くないんじゃないか?」
「けっ、抜かしてろ!絶対追い越してやるわ!」
「はは、楽しみにしててやるよ。…ところで、ティグラーブ。この魄振数(はくしんすう)ってやつ、何だ?」
魄測計を返却しながら、各々の魄力の強さと共に計測されていた数値に触れた。
麗奈が1分間に49回、駆君が76回、他の4人は100回越えとなっているが、それが何を意味しているのかはさっぱり読み取れない。
「…ああ、気にする事ねーわよ。そいつは魄力の強弱と関係ない、どうでもいい数値だからね。」
「バカな。どうでもいい数値をわざわざ測る機械なンざ、作られるかよ。何か意味があるから計測してンだろ?」
「そんな事より、もっとでけー問題がありやがるわよ。テメーらの才能はずば抜けてるけど、今のままじゃディザーのヤローとは勝負にもならねーって、データで証明されちまったわ。」
棚に魄測計を収めたティグラーブが、努めて冷静に言い放つ。
「…幾つなんだ?ディザーって奴の魄力…。」
何とも言い難い重苦しいものを抱えて訊ねると、ややあって回答がなされた。





「…250万。」





「な…!?」
氷華君をはじめとして言葉を失う面々に、しかもそれは復活直後の計測結果に過ぎないと補足が入る。
「最新の魄力値はなかなか裏が取れねーけど、復活から4年も経った今じゃ、またどれだけ強くなってやがるか…。」
「…4年…?」
ごく小さく疑念の声をこぼした風刃を見やったのは、僕だけだった。
「これで分かったでしょ。ヤツとやり合うのは、まだまだずっと先にしねーとならねーってわけよ。」
「…御忠告、重く受け止めます。ところで、そのディザーという人物がどんな格好をしているか、御存知でしょうか?」
「ええ。情報によると中肉中背の50代くらいの男で、褪せた水色と白髪混ざりの頭してやがるそうよ。」
「…ふーん。随分変わった髪のおっさんみたいだな。」
「…ですね。そンな格好してるなら、すぐ分かりそうだ。」
隣席の弟を横目に見ると、些か視線が下がり、目付きが鋭くなっていた。
「ちなみに、もし賭けを白紙にするなら、今しか受け付けねーわよ。よこした情報の倍額払えば、今日の話は全部なかった事に…。」
「言っただろ。誰が相手だろうが、邪魔なら黙らせるさ。ディザーって奴もぶちのめせる位、強くなってやるよ。」
「ふっ、頼もしいじゃねーのよ。…他の連中も、ランジンに賛成で良いのかしら?」
「どんな苦難も背負うつもりで、賭けのお話を申し上げたのです。私達から取り止めをお願いする事などできませんよ。」
「大体、60万も金持ってねエしな…。」
「そこ、余計なこと言わない!」
「…そう。じゃ、今後はお互い撤回禁止ね。」
ティグラーブが、期待と不安の混ざり合った微笑みを浮かべた。





「さて。今の内に言っとく事は、こんなとこかしら。適当に好きな部屋使って構わねーから、これ以上遅くならねー内にとっとと寝やがりなさい。」
誰ともなしに骨董品と思しき壁掛け時計を見やると、時刻は午後10時を回っていた。
「…そうさせてもらうか。じゃ、お先に。」
風刃が真っ先に腰を上げ、挨拶もそこそこに立ち去る。
「…何か風くん、暗くない?」
「…それはいつもの事だよ。」
「いえ…何て言うか、こう…怒ってるみたいな…。」
「あア、そいつは同感だ。ディザーッてヤローより魄力が低くて腹立てた、とかか…?」
「気にしすぎだって、お二人さん。多分ありゃ、疲れただけだろ。魔界に来るなり色々ありまくったもんな。」
「ええ。知らない土地への旅は、自覚する以上に心身を削りますからね。私達も夜更かしは禁物です。」
無言で顔を見合わせた氷華君と駆君は、なおも思うところがある様子だったが。
「…そうか…そうだな。きッと、考え過ぎだ。」
「…すみません、嵐兄さん。ヘンなこと言っちゃって。」
すぐに固い笑顔になり、空々しい納得を示した。
「気にしないでくれ。詫びを貰うところじゃないさ。」
「どうも…それじゃみんな、お休みなさい。」
「うん、お休み。」
「また明日な〜。」
「良い夢を御覧になれますように。」
2人の姿が見えなくなると、僕は小さく息を吐く。
「…悪いな、気を遣わせて。」
「いえ…。」
「フウ坊がその気になってねえのに、俺らがペラペラ喋るわけにいかねえしさ。」
「…でも、どうなんだろうな。確かに今のとこは蒼空家(うち)の問題だけど、もしもそうじゃなくなったら…。」
「こら。若い衆に夜更かし禁止とか言ったそばから、年長者が長々起きてやがるんじゃねーわよ。」
「おっと、いけねえ。話はまたにするか〜。」
「そうですね。それでは嵐刃さん、紅炎さん。今日はこれにて失礼致します。」
「ああ、お休み。」
紅炎と麗奈が席を外したのを見届けてから、ティグラーブに問うた。
「…ところでティグラーブって、人間界の事は詳しいか?」
「いいえ、そっちはほとんど。魔界に関係する動き…それも、よっぽどとんでもねーもんなら、流石に分かるけどね。」
「…じゃ、蒼空家(うち)の事は?」
「…今のとこ、特に話せる事はねーわ。ご期待に添えなくて悪いけどね。」
一時ティグラーブを凝視し、そしてすぐに力の抜けた笑いを漏らした。
「…そうか。分かった。こっちこそ、変な事訊いて悪かったな。」
「いいえ。」
再び小さな息を吐いて、酒場兼賭博場の装いとなっているエントランスを後にした。
我ながら馬鹿馬鹿しい。
物証の1つも伴わない邪推など、的中する筈がないだろうに。
そう、自分に言い聞かせながら。










ティグラーブは銀色のスマートフォンを手にすると、「ヴォルグジイさん」という連絡先を選び、発信した。
「…ああもしもし、ジイさん?ティグラーブだけど。」
「おお、ティグラーブさん。如何なさいましたかな?」
「悪いわね、こんな時間になっちまって。そっちの貨物列車に乗った客が、おいどんの所に来やがったんだけどさ…。」
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2023年04月18日

【2023年4月追記】飛躍の翼 月華の初陣 あとがき

とてもとても久しぶりに、夕方近くにこんにちは。
拙作の執筆も遅ければブログの更新も途絶えがちな、『暇人の独り言』管理人です。





今さらな説明ではありますが、拙作『光の翼』は管理人が更新のネタに困ったことから、本ブログに掲載を開始したものです。



ところが野暮用に追われてブログもろとも更新が滞っており、気が付いた時にはとうの昔に書き上げている話さえブログに掲載するのを怠っておりました。





振り返ってみれば、これまで最新話であった部分を掲載したのは、3ヶ月前だったようです。
月日の流れの早さは、兎にも角にも恐ろしい。










さて、今回の記事ではそんな拙作『光の翼』のあとがきを綴ることにします。
…誰も待っていないだろうけれど、趣味でやっている独り言なので、需要の有無なんて気にしない。










この度掲載した「月華の初陣」では、魔界の事情に疎い主人公一派が情報戦を有利にしようと、変態情報屋のティグラーブを味方に付けるためのテストに挑みました。





ここでティグラーブとの戦いに臨んだのは、賭けの言い出しっぺである麗奈。
他の仲間キャラクター、それも主役の蒼空兄弟すら差し置いて魔界での初陣を飾り、無事に勝利を収めています。



…しかし今にして見返してみると、「人間界でまともな戦闘描写がなかった麗奈より 蒼空兄弟や氷華や紅炎が戦った方が 成長が分かりやすかったかな…」とも思いました。


もっともそうしていたらそれはそれで、賭けを提案したのは麗奈なのにテストは他のキャラが担当になってしまっていたわけですが…



創作をやっていると、色々な所で悩まされる。















ともあれ、晴れて情報屋のティグラーブから協力してもらえることになった風刃達。
後は彼の情報網を頼りに、カオス=エメラルドの欠片を集めるのみです。



…などと簡単に行けば嬉しいところですが、そうは問屋が卸しません。
魔界には、非常に危険な悪者共が居座っているのだから…





次の話では、ティグラーブからその危険な悪者の情報を聞くことになります。
内容に衝撃を受けてもらえれば、作者として嬉しいところです。


…でもこれこそ、そうは問屋が卸さないか?










それでは、また次の記事を閲覧していただけることを願いつつ、今回はこれにて失礼致します。















【以下 2023年4月追記】




夕方になる前に、今日は。
何故かやたらと鼻をかみまくっている、『暇人の独り言』管理人です。


元々耳鼻科との縁が切れない位には耳も鼻も悪い男だけど、もしかして実は花粉症だったのだろうか?










それはともかく有言実行の管理者であろうと、うっかり忘れたりしない内に、拙作の改稿版をねじ込んでみました。
明日からもこの調子で、残り5話分を掲載予定です。





…ちなみに今回掲載した改稿版の内容については、「無駄な部分を省いた」以外本当に言う事がないので、ここでさっさと終わりにします。
我ながら、何の追記だったんだろう。
posted by 暇人 at 15:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 光の翼

光の翼 飛躍の翼6 月華の初陣

雲一つない星月夜の下、麗奈とティグラーブは対峙した。
「そんじゃ頼むぜ、魅月嬢。」
「あれだけ大見得切ったんだ。絶対負けてくれるなよ。」
「はい!」
紅炎や僕の声援を背に受けながら、麗奈は木製の薙刀を構える。
「ルールは単純に、先にぶっ倒れた方が負けってことにしましょう。良いわね、レイナ?」
「承知しました。―では、参ります!」





開戦早々正面から突っ込んだ麗奈が、光を宿した薙刀でティグラーブの面を打ちにかかる。





「ふんっ!」





苦も無く命中すると思われた一撃は、ティグラーブの足払いに邪魔立てされた。





麗奈自身は後方へ跳んで難なく避けたものの、素早く接近して来たティグラーブに背後を取られてしまう。





握り拳に固められた右手は魄力に加えて、妙な圧力も帯びていた。





「くらいやがりなさい!」





麗奈は機敏に振り向き、ティグラーブの殴打を薙刀で防いだ。





「まだまだ、こんなもんじゃねーわよ!!」





ティグラーブの攻勢は緩まず、矢継ぎ早に拳が繰り出される。





対する麗奈の守りも堅固で、戦況は膠着するかに見えたが。





「…うっ…!」





程なくして、異変が生じる。





麗奈が苦しげに呻いたと思うと、両手をだらりと下げてしまったのだ。





「月アネゴ!?」





自然、握られた薙刀も降下する。





切っ先が触れた地面は、さながら重量武器で叩き付けたかの様に、深く陥没した。





「スキあり!!」





ティグラーブが振り下ろした渾身のパンチを、麗奈は薙刀を引き摺るようにしながら、すんでのところで逃れる。





ただ、彼女の代わりに直撃を受けた地表は、巨大な岩にのしかかられた如く圧し潰された。










「うわぁ…!あんなのまともにくらったら、全身つぶされちゃうよ!」
「やっぱり、油断できねぇ奴だな…。」
氷華君や風刃が動じる通り、ティグラーブの力は当人の自己申告よりも幾分か強い。
「けど、魅月嬢にも十分勝ちの目あるぜ〜。」
「ああ。」
動きを鈍らせられてもなお強烈な拳をかわせたのは、麗奈の身体能力がティグラーブより上を行っている証。
ならば攻撃さえ当てれば、それで雌雄は決する。










「…ティグラーブさん…重さを変える魄能をお持ちのようですね…。」
「ええ。おいどん、重力をいじれるのよ。直径20メートルの範囲内で、だけどね。」
掌を下に向けると、夥しい石が浮遊する。
大小様々のそれらはティグラーブの右手が真っ直ぐ伸ばされるや、一斉に麗奈へと襲い掛かった。
「く…うっ…。」
半ば根性で薙刀を振るって石の大群を退けようとした麗奈だったが、絵に描いた様な多勢に無勢であり、加重された武器を操るのも重労働。
その場に留まり、身を固めるほかなくなるのは、あっという間だった。
「あら、もう打つ手なしの防戦一方かしら?」
麗奈の瞳は変わらず闘志を燃やしているが、その口から反論は飛ばされない。
「…残念ね。そんな有様じゃ、賭けるどころじゃねーわよ!」
ティグラーブは麗奈に向けて、開いた両の手を突き出す。





すると暗い紫色をした球状の空間が現れ、地面諸共、麗奈を覆った。





「うっ…く…ああああああああ…!!!!!」










「魅月嬢!」
現れた空間は地響きのような音と共に、麗奈を攻め立てる。
「ぐ…ッ…!」
「けっこう…はなれてるのに…!」
外部にいる僕達にすら、それなりの重圧が届く。
ましてその内部では、渦巻く力は比較にもなるまい。
「…勝負あり、か?」
「あの技で、麗奈が潰されたらな。」
浮かない表情の弟に、ごく端的に応じる。










「聴こえてやがるかしら、レイナ!?とっとと降参しやがりなさい!こいつの中で叫ぶしかねーようじゃ、すぐにくたばっちまうわよ!」





「…そういう…訳には…参りません…!」





「テメーね…!強がってる場合じゃ―」





ティグラーブが声を荒げかけた時、球状空間に複数のヒビが入り、眩いほどの純白の光が何条も溢れ出す。





それらは一層輝きを増すと、次いで爆風の如き衝撃を起こし、ティグラーブの技を粉砕した。





「そんな、おいどんのクラッシュワールドを…はっ!」





脱出を果たした麗奈は、呆然とするティグラーブに一瞬で詰め寄った。





「月華閃!!」





光を灯した薙刀で喉元を突かれたティグラーブは小さく宙を舞い、そして静かに墜落した。















「ふふ…やりやがるじゃない、レイナ…。」
自分を倒した相手の治療を受けながら、仰向けのティグラーブが呟く。
「まさか一撃でぶっ倒されちまうなんて思わなかったわ…おいどん、頑丈さには自信あったんだけどね…。」
「ティグラーブさんがほんの一瞬動揺されていたお蔭で、このような結果になったのです。もしも私が脱出した直後に次の攻撃を受けていたら…。」
ふっと、寂しげな笑いが漏れる。
「お情けでくだらねー謙遜してんじゃねーわよ。とっておきがまともに当たってほとんどダメージなしじゃ、何発食らわせても結果は同じだわ…。」
麗奈は言葉を紡げない。
軽すぎる怪我しか残っていない身体が、圧勝を物語ってしまっていたから。
「…ティグラーブさん…。」
「こら。勝ったヤローが、シケたツラしてんじゃねーわよ。」
ティグラーブにごく軽く頭を小突かれた麗奈が、気まずそうに患部を撫でた。
「おいどん、感心してんのよ。ほとんどズブの素人状態からほんの1週間修行した位でこれだけ強くなったなんてすげーわ、ってね。」
「ま、それだけ才能がずば抜けてるって事だな。」
「いちいち天狗にならんと気が済まんのか、てめぇは…。」
「いえ、ランジンの言う通りよ。だからおいどん、この通り惨敗だった訳だし。」
ティグラーブの声音にも面持ちにも、悔しさは微塵もない。
むしろ、清々しさが溢れていた。
「ふふ…一か八か、テメーらに付き合うのも面白そうだわ!約束通り、今後に期待してやるわよ!」
「賭けの話、乗ってくれるんだな。じゃ、これからよろしく頼むぞ!」
「ええ、こちらこそ。しっかり活躍しやがりなさいよ!」
かくして魔界進出初日ながら、強力な仲間を得た。
posted by 暇人 at 15:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 光の翼

2023年04月17日

【2023年4月追記】飛躍の翼 希望の街の情報屋 後書き

夜分遅くに今晩は。
忘れた頃に現れる遅筆ブロガー、『暇人の独り言』管理人です。





たとえ生存報告の日記であろうとも、月に何度か更新があれば良い方。
今やそんな有様の管理人と本ブログですが、よくよく思い返してみれば、開始当初は1日1記事を目指していた気がします。



あの頃は若かった。










さて、本記事では管理人と同じく忘れた頃に現れる拙作『光の翼』の後書きをお送りします。
今回は、「飛躍の翼 希望の街の情報屋」について。










情報屋のティグラーブからカオス=エメラルドの手掛かりを買いたいものの、懐に余裕がない風刃達。
そんな中、麗奈が金によらずに情報をもらうべく、カオス=エメラルドを賭けた提案をしました。





この話にて、麗奈の悪癖であるギャンブル好きがついに発動されます。
作者的には清楚で理知的な美人が博打狂いなのは意外で面白いのですが、御覧下さった方にとってはどうだったやら?


スベったりしてないと、嬉しいんですけどね。










…はい。
後書きなどと言いつつあっという間にネタが尽きてしまったので、今回はここまでとします。





拙作『光の翼』も、アクセス解析をしてみると何だかんだで時折閲覧していただけているようなので、「小説家になろう」だけでなく、本ブログでも完結するまで掲載するつもりです。


…寿命が尽きるまでに、間に合うだろうか。










ともあれ、また次の話とその後書きで、お目にかかります。










【以下 2023年4月追記】




今晩は。
ブログ的にも拙作『光の翼』的にも大変御無沙汰しておりました、『暇人の独り言』管理人です。





管理人がフリーゲームで戯れていたり某同人サイトに入り浸ったりしている間に月日は流れ、2023年も早々と4月の後半。
今更になって気付いてみれば、ブログは生存報告すら書かないまま1ヶ月以上も動きが止まり、拙作『光の翼』に至っては改稿版の掲載を丸1年と5ヶ月サボっておりました。





待って下さる方がいるかどうかはこっぴどく怪しいけれど、もしいらっしゃったら本当に申し訳ございません。
遅筆で物臭な上、やはり3つの投稿サイトの方を優先してしまうもので、こんな事態になっておりました…
その3つも一番短い所で既に丸3ヶ月以上止まってますけどね





反省の印になるのかどうかは分かりませんが、せめて現段階で改稿が終わっている部分は、明日以降も置いて行きます。
もっとも、該当するのはほんの6話分ですが…










ところで「希望の街の情報屋」についてですが、改稿前は新キャラのティグラーブが情報屋の仕事に真剣そのものである様子を描いておりました。
しかし、文章量を必要最低限に直すにあたって、少々惜しみながらも綺麗さっぱり消しております。





元々は「単なる変質者」ぐらいにしか考えていなかったキャラクターが仕事に誇りを持っていたのは格好良く思えて気に入っていたので、今後の話のどこかで機会があれば改めて取り入れたいものです。





以上、追記でした。
posted by 暇人 at 21:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 光の翼

光の翼 飛躍の翼5 希望の街の情報屋2

通された黄金の館は、内装も異質だった。
単純ですっきりした空間が現れるものと予見したエントランスは、右手に数多の酒や文書を収納した棚と木製のカウンター、左手にスロットマシンやポーカーテーブルがある。
ティグラーブ曰く酒と博打が好きな性分ゆえ、近場にあったカジノバーが商売を畳む際に掛け合い、問題なく使える備品を買い取ったらしい。
「ミヅキレイナ、ヒノカミコウエン、アマギカケル、ユキハラヒョウカ…で、ソウクウランジンにソウクウフウジン、か。…ふーん…。」
思い思いに腰かけた僕達の名を復唱すると、ティグラーブは何やら二三(にさん)首肯した。
「…揃いも揃って、覚えやすい名前してやがるわね。」
「え〜?そんなに覚えやすいかね〜?」
「ええ。人間界じゃどうか知らねーけど、こっちじゃあんまり聞かねー名前ばっかりだから、スッと入って来やがるわよ。」
「家(うち)みてぇな苗字が2軒も3軒もあったら、気色悪いけどな。」
「自分とこの名前気色悪いとか言うな。」
注文した氷水を嘴から流し込みつつ自虐を垂れる左隣の弟に、野菜ジュースの入ったコップを握ったままで苦言を呈した。
「で…レイナ、だっけ。カオス=エメラルドに願いを言う権利を賭けるってのは、どういうルールで勝負するのかしら?」
「それを申し上げる前に、こちらも伺いたい事がございます。ティグラーブさんなら、カオス=エメラルドに何を願いますか?」
「おいどんなら?…魔界平和、一択ね。」
「へえ。格好の割には、偉くまともな願いだな。」
「…いや、そのクチバシに言われたくねーんだけど。」
「何だとこら!!」
「はい、抑えて抑えて。」
立ち上がって殴り掛かりそうになった風刃の首根っこを掴み、押し止める。
「…魔界の歴史って、はっきり言って浅いんだけどさ。全土で平和って時期はほとんどないに等しくてね。金だの、権力だの、領土だの…色んな理由であっちこっちに揉め事が起こりやがるのよ。」
「…聞いてるだけで気分悪くなっちゃうなぁ…。」
「気分悪いで済むなら、かわいいモンよ。当事者共は自業自得の極みだからどうでもいいけど、流れ弾喰らってくたばってる無関係の奴もいるのよ。…おいどんでも、数を掴み切れねーくらいに。」
微かな口惜しさを滲ませたティグラーブのぼやきで、皆の表情が明白に曇る。
「おまけに今ちょうど、カオス=エメラルドが騒がれてやがるでしょ。これ絡みの争いと来たら、とばっちりも他の比じゃねーわよ。挙句の果てに、災厄の刃(クラディース)も出て来やがったしね。」
「…その災厄の刃(クラディース)ッての、何なんだ?ソミュティーでもちッとばかり聞いたけどよ…。」
「あ、知らなかった?忌み子とか、ディザーって呼ばれてやがるヤローの兵団よ。」
「イミコ…そう言えばシュオルドって人、ボクたちがそいつの仲間かどうかって、気にしてたみたいだったよね。」
「ああ…警護役があれだけ用心してたって事は、相当危ねぇ野郎ってとこか?」
「へえ。良い見立てしやがるじゃない。…その通りよ。」
風刃の慧眼を称えると、ティグラーブは棚から1冊のファイルを取り出した。
「とにかく物凄い魄力してやがるヤローでね。記録によれば随分昔にも魔界の支配を狙って大暴れしたけど、何かの手段で封印されたそうだわ。…その封印とやらが解けちまったから、復活しやがったわけだけどね。」
「魔界の支配って…世界征服とかリアルに考える奴いるのか…?痛ぇ野郎だな…。」
「イタいなんて、呑気な話じゃねーわよ。従わねー相手は無論の事、忠実な部下から見も知らねー赤の他人まで、少しでも気に障ったら一瞬で消し飛ばすって有名なヤローなんだから。」
「何じゃそりゃ〜?独裁者丸出しじゃねえのよ…。」
「聞くだけで面倒臭さしかない奴…。」
「なるほど、丁度良いお話を伺えました。ティグラーブさん、賭けのルールですが…。」
紅炎共々ディザーなる人物の噂に頭を痛めていたところ、それより遥かに差し迫った問題が、身内から生み出された。





「カオス=エメラルドを集める道中で魔界平和を実現してみせますので…これから私達に無料で情報を提供してくださいませんか?」





丁寧で慎ましやかな物腰からの大胆不敵な発言に、誰もが硬直した如く静まり返った。
それはつまり、無益な争いを起こす者達を一人残らず打ち倒してやるとの、堂々たる宣言に他ならない。
「…とんでもなくでかい台詞抜かすわね。もしできなかったら、どうしやがるの?」
「その場合は、ティグラーブさんにカオス=エメラルドをお譲りします。」
「ちょっと、月さん!?何言い出すんですか!」
「魔界平和にしねエとカオス=エメラルド没収ッて、こッちに不利過ぎンだろ!」
「ですが、お願いする内容が余りに重いですから、この位の不利は背負わなければ…。」
「…確かにな〜…。」
紅炎が苦い面持ちで同意すると、異を唱えていた氷華君や駆君も黙り込んでしまう。
金の代わりとして認めて貰える情報料となれば、やはりカオス=エメラルドしかあるまい。
懐を温めてから情報を買う道も物理的には存在するが、時間の無駄に過ぎて机上の空論だ。悠長に構えていれば、他の者に有力な手掛かりを奪われるのが目に見えている。
「…なかなか面白い事言いやがるけど…いくら魔界に来たばっかりとは言え、話が見えてなさ過ぎよ。」
ジョッキになみなみと注いだビールを一口含んだティグラーブは、厳しい現実を告げる。
「テメーら、つい最近魄力のこと知って、ほんの1週間修行した程度だって言ったわよね?そんな有様じゃ他の小物共はともかく、ディザーのヤローは手に負えねーわよ。」
「やってやるさ。」
腕組みしたティグラーブに即答すると皆の視線を一身に受けたが、些かも動じなかった。
「カオス=エメラルドのために魔界くんだりまで来たんだ。ディザーだか災厄の刃(クラディース)だか知らないけど、邪魔する奴は全員黙らせてやるよ。」
「…ふっ。ランジン、だったっけ?テメーはまた、自信過剰な野郎ね。」
「ナルシストなんでな、この男。」
「やかましい!!」
「…まあ、今の台詞には100%賛成だけどな。」
弟にぶつけるはずだった拳を、ぴたりと止める。
「カオス=エメラルド取れるかどうかで、身の振り方変わって来るんだ。どんなやばい奴がいようが、折れちゃやらねぇよ。」
「…心意気には感心しときましょう。けど…ざっと魄力探った限り、今のテメーらじゃ6人がかりでやっても、ディザーにホコリ1つも付けられそうにねーのよね。」
「じゃあ、もっともっと強くなってやるさ!ディザーとかいう奴もボコボコにできる位にな!」
先程よりも熱意を露わに、拳を握って高らかに告げた。
「そうね。賭けに乗ってやれるとしたら、テメーらにその程度の可能性を感じられるかどうかが全部よ。…って事で…レイナ。おいどんと手合わせなさい。」
テイグラーブは麗奈を指差し、対戦を求めた。
「こうして情報屋なんてやってんのも、永世中立の情報源になればいきなり殺される危険は減るだろうって考えての事でね。それが当たったもんで、大した魄力はしてねーのよ。そんなおいどん相手で負ける程ヘボかったら、いくら今後に期待なんて言われても賭ける気にはなれねーわ。」
「…魅月さんを油断させようって腹か?あんた、そこまで雑魚でもなさそうだけどな。」
「さて、どうかしらね?…まあ何にせよ、話の続きはレイナがおいどんに勝った時にしましょう。」
「承知しました!必ず乗って頂きますよ!」
「う〜ん…何だかおかしなことになっちゃったなぁ…。」
「…まア、仕方ねエ。情報屋を味方にするには、これ位しか手がねエからな…。」
氷華君が頭を抱えれば、駆君は小さな溜息混じりで独り言の様にこぼす。
「そんじゃまず、広いとこに移ろうぜ〜。」
万に一つも街に被害を出さぬよう、ファラームを取り巻く荒野へ移動する。
午後8時40分を回った地表は月明かりに満ち、言葉で表そうとするのも無粋なまでの美しさだった。
posted by 暇人 at 20:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 光の翼

光の翼 飛躍の翼4 希望の街の情報屋1

午後8時に辿り着いたファラームは、大都会だった。
龍を象(かたど)った噴水が特徴的な中心街。食事処や娯楽施設や雑貨屋等の幅広い業種が軒を連ねる商店街。家屋が林立する住民街。そして政(まつりごと)の拠点を擁する城下町と4つの区域に分かれており、只管に広大。
『村』と呼ばれながら狭さとは程遠かったあのソミュティーさえ、矮小な田舎町に映ってしまうまでの繁栄振りを示している。
街の規模に似つかわしい数の住民達は、凡庸な人間と全く変わらぬ容貌の者もいれば角や尻尾等を有する獣の如き者もありと様々だったが、話しかけた際の反応は概して穏やかで、聞き込みの相手には困らない。
目当ての家は、物の10分で発見できた。
「…えっと…マジで、ここかな?」
「…ええ。はっきり書かれてありますから、間違いないでしょう…。」
紅炎や麗奈をはじめ、『魔界一男の色気に溢れるティグラーブ様の情報屋』と書かれた表札を見つめる仲間達の瞳は暗い。
洋館風の住居本体だけでも大概だが、庭園の植物までもを金色に塗装してのける変人に関わらなければならないとあっては、道理な反応であろう。
「…なるほどな。霧雨のヤローに奇怪呼ばわりされるワケだゼ。」
「いくらなんでもあんまりでしょ、これ…。」
駆君や氷華君が大いに気味悪がる中、黄金の呼び鈴を押下した。
「おい!?何しとんじゃ馬鹿兄貴!」
「こっちの台詞だよ。ここまで来て、ボケッと突っ立ってても仕方ないだろ。」
軽快だが味気無い機械音が途切れると、逞しそうな男性の声がした。
―はい、どちら様?
「あの、情報屋のティグラーブさんはいらっしゃいますか?」
―ああ、客?ちょっと待ってやがりなさいね。
横柄かつ珍妙な口調に一層の不安を覚えてから程なくして、玄関の扉は開かれた。





「はい、どうもー。おいどんが魔界一の情報屋、ティグラーブ=ラクタード様よ。」





追い求めた名を口にしながら顔を見せたのは、正に変質者だった。





否、橙色のアフロヘアーと星型のサングラスはまだ、『奇抜』の範囲内で済む。





だが赤いボクサーパンツ一丁という、筋肉質な上半身を惜しげもなく晒す格好で屋外に現れたのには、恐れ入るしかない。





金メッキの邸宅が何の変哲もない建物に思えてしまう程、常軌を逸していた。





「…何よ、テメーら。呼び出しといて、ボーッとしてやがるんじゃねーわよ。」
如何なる覚悟も完膚なきまでに粉砕する男が、不機嫌にこぼす。
「…あんたが呼び付けた変態だ。きちんと相手しろよ。」
「賛成〜。」
「誰がヘンタイよ、このアホ共!」
「…えっと…本当に、お前が情報屋…?」
「そう名乗ってやったでしょうが!言っとくけど、偽者とかじゃねーわよ!」
「ああ、そう…じゃ、カオス=エメラルドのある場所訊きたいんだけど、知ってるかな…。」
何かの間違いであってくれとの苦しい願望も断たれ、気持ち悪さを堪えながら問うと。
「あら、丁度良かったんじゃねーかしら?まだ他の客に買われてねーとっておきのネタが、3つあるわよ。」
「わっ、ラッキー!いくらで売ってくれるの?」
「1つ10万円で。」
懐から召喚された桃色の財布が、氷華君の足元に墜落した。
「あらま、キツイ値段だな〜…。」
「かもね。けど、これでも今一番の特ダネとしちゃ叩き売りもいいところだから、もっと負けてやるってのは無理よ。」
「…皆、金はどの位あったかな?」
全員の所持金を合算したところ、約45万円あった。
これなら30万円の情報料を支払っても、無一文にはならない。
「金が足りてるなら、後はテメーら次第ね。どうしやがるの?」
だが、軽々しく踏み出せる買い物ではなかった。
旅人は何かと物入りの身。後先考えずに金を使っていては、たちまち素寒貧(すかんぴん)になってしまう。
「…ティグラーブ。情報料って、どうしても金じゃないと駄目か?違う物で料金代わり、って訳には…。」
「ああ、考えてやらねーでもねーわよ?今あるネタの1つも、捜し人の目撃情報くれてやる代わりって事で、知り合いから聞いたモンだしね。」
素気(すげ)無く一蹴されるのを覚悟で切り出した交渉に、ティグラーブは存外寛容だった。
「でも、何をよこしやがるかが問題ね。金以外となると、ちょっとやそっとの物でOKって訳にはいかねーわ。」
「…その御言葉は、『少々の物』でなければ間違いなく応じてくださる、と受け取ってよろしいでしょうか?」
「へ?…あ、ええ。そいつは勿論…。」
腹を据えた様子で目を光らせる麗奈に、この場の全員が至極嫌な予感を抱く。





「では、ティグラーブさん。私達と勝負を致しませんか?―カオス=エメラルドに願いを言う権利を賭けて。」





案の定懸念は的中し、僕と紅炎は思わずむせてしまった。
「何言い出してんだ、この不良嬢様は!!」
「お前、ギャンブルで勝った例(ためし)ないだろうが!!」
学力と素行の両面で優等生と称して差し支えない麗奈の、数少ない重大な欠点がこれだった。幸運の女神と疎遠にも拘わらず、どうしようもなく賭博好きなのだ。
借金してまでのめり込みはしないが、資金が残っている限り引き際を見極めず挑み続けてしまうので、始末が悪い。
カオス=エメラルドを情報料代わりに差し出す手は自分も真っ先に考えたものの、麗奈の口から発案されると、行く末が不安になる。
「…テメー、本気で言ってやがるの?カオス=エメラルドに願いを言う権利なんて差し出したら、何兆円レベルの情報せしめたってそっちの大損よ?まして、ほんの30万円分の情報相手で…。」
「御心配には及びません。賭け金代わりの情報は、もっとたくさん頂きますから。」
挑むように微笑む麗奈に対し、ティグラーブはオレンジ色のアフロヘアーを掻く。
「何だか、長い話になりそうね…けど面白そうだし、もうちょっと聞いてみてーわ。テメーら、上がっていきやがりなさい。」
満更でもない反応を示すティグラーブに先導され、僕達は眩いばかりの家へと踏み入った。
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2023年03月01日

2023年、はや3月

御無沙汰しておりました。
2月は丸々本ブログを留守にしていた、『暇人の独り言』管理人です。





この間始まったばかりの気がする2023年もあっという間に3月となりましたが、如何お過ごしでしょうか。



管理人は年始以来、割と有名なフリーゲームの『巡り廻る。』で戯れておりました。
作業ゲーム染みていて面倒臭さが否めない、時間が掛かりまくるといった不満は出るのですが、つい達成してみたくなる目的をあれこれ見つけ、結局続けてしまうのです。


やるねエ、製作者。










ところで昨年中から気にしていた商業ゲーム作品については、『テイルズオブシンフォニア リマスター』が案の定こっぴどい有様だったので安心して放置した一方、『星のカービィ Wii デラックス』は体験版を遊んだ限り大丈夫そうだと信じ、発売日に確保しておきました。


残念ながらコントローラーが修理できるまではお預けですが、それが叶い次第名前に違わず豪勢になった名作を楽しませて貰おうと思います。


それにしても、あの『Wii』ももう12年前の作品だとは…










それから、本ブログへの掲載がぴったり止まっている拙作『光の翼』ですが、そろそろ再開してみようかと考えています。
ここ以外にも3つの投稿サイトに置いているためいじるのが大変だけれど、一度掲載した場所には最後まで投げ込むべきだと感じるので。


…「最後まで」と言っても、最終回どころかそのずっと手前の段階すら、まだ完成していませんが。










以上、生存報告でした。
寒さが和らいでくる嬉しい時期になりましたが、油断せず体調に十分気を付けて過ごしましょう。
posted by 暇人 at 13:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 独り言
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ゲーム等の感想を綴ったり、小説紛いの作品を掲載したりと何でもありの雑記ブログ『暇人の独り言』の管理人です。 借金に悩まされ、密かにメルマガに挑戦中。
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