京大 おどろきのウイルス学講義 (PHP新書) [ 宮沢 孝幸 ] 価格:1,023円 |
■抗体は、ウイルス(抗原)にくっついて、細胞への侵入を防いだり、血液中の補体という物質によってウイルス膜を溶かしてしまうタンパク質です。
ただし、抗体には良い抗体と悪い抗体があります。悪い抗体ができてしまうと逆効果となり、かえって感染を促進します。
異物に抗体がくっつくと単球やマクロファージという免疫細胞に食べられてしまうのですが、これが逆効果となるときがあるのです。単球やマクロファージの細胞の表面上にFcレセプターという部分があり、そこに抗体がくっつきます。ウイルスがそのような細胞に取り込まれて分解されれば良いのですが、ウイルスがその細胞で増えてしまうことがあります。抗体がウイルスを引き寄せてきて、単球やマクロファージを感染させてしまうのです。これを抗体依存性感染増強(ADE:antibody-dependent enhancement)といいます。(P111)
■ワクチンの長期的リスク(P119)
従来の風邪コロナウイルスに対するワクチンの影響です。Aというウイルスに対する良い抗体が、Aに遺伝的によく似たBには悪い抗体になることがあります。有名な例はデングウイルスです。デングウイルスには1から4の型(血清型)があって、1型に対する良い抗体は他の型にとっては悪い抗体になってしまうのです。1型に感染したあと、2〜4型に感染すると重症化してしまい、死亡する確立が高くなります。(コロナウイルスには様々な種類があり、人に感染していても、何も病気を起こしていない可能性があります。しかし、ワクチンの抗体があったばかりに、普段は何の病気も起こさないのに、重症化する病気になる可能性は否定できません。)
■新型コロナウイルスに対する良い抗体が、従来型のヒトコロナウイルスに対して悪い抗体になりうるかどうかは、まだよく分かっていません。もし悪い抗体になりうるのだとしたら、新型コロナウイルスのワクチンを打って新型コロナウイルスの防御ができたとしても、従来型の風邪コロナウイルスに感染したときに、重篤化するリスクが高まるということになります。2020年〜2021年の冬は従来型のコロナウイルスはまったく流行っていないので、その負の影響については検証ができていません。
変異株に対する影響についてはどうでしょうか。新型コロナウイルスは徐々に変化していき、様々な変異株が生まれます。ワクチン接種して新型コロナウイルスに対して良い抗体が誘導されたとしても、その抗体が変異株に対して悪い抗体になってしまう可能性は否定できません。単にワクチンが効かないというのであれば、大きな問題ではないのですが、ワクチンを打ったがために、変異株に感染したときに重篤化してしまうリスクはどうしても排除できないのです。
この、ワクチンを接種したがために重篤化することを、感染増強作用と呼びます。感染増強作用が実証され、論文として公開された場合、ワクチンを接種した医療従事者が、新型コロナウイルス感染者に対応できなくなる事態に発展する可能性があります。(P120)