君のやる気スイッチをONにする遺伝子の話 鹿児島の高校生たちが感動した命の授業 [ 村上和雄 ] 価格:1,320円 |
■遺伝子の働き(P18)
遺伝子には、WHAT WHEN WHERE WHOの4つのWの働きがあります。
@WHAT。「こんなホルモンを作りなさい」「こんなたんぱく質をつくりなさい」といった「何かを作りなさい」という情報が書いてあります。
AWHEN。「いつ作りなさい」ということが書いてあります。たとえば、私たちは赤ちゃんのときから男性ホルモンと女性ホルモンを作る遺伝子を持っていますが、赤ちゃんのときにはほとんどスイッチがオフになっています。ところが年頃になると、男性ならば「男性ホルモンを作れ」というスイッチが入って男性ホルモンがたくさん作れれるようになり、男らしくなっていくのです。
BWHERE。「どこで作りなさい」という場所の指定がされています。「心臓でつくりなさい」「皮膚で作りなさい」という情報が書いてあります。
CWHO。「誰に作りなさい」という人の指定がされています。だから、ある遺伝子は私がオンになるけれど、あなたはオフになっている場合もあるのです。
このように、何を、いつ、どこで、誰に、というすべての情報が遺伝子に書かれています。だから、体のほとんどの反応は遺伝子を抜きにして語れないのです。
■遺伝子のスイッチのオンとオフ(P78)
遺伝子がオンするというのは、遺伝子が働きだすことです。逆にオフは働きをやめることです。
2003年にヒト、ゲノムの暗号解読がすべて終わりました。ヒト・ゲノムというのは、父親から1ゲノム(1ゲノムの重さは1グラムの2000憶分の1)、母親から1ゲノムもらうわけですが、これを端から端まで読んだのです。
そこでわかったことは、全DNAの中で、その働きがわかっているのはわずか2%前後しかないということでした。残りの98%は何をしているのかが全くわからないのです。サボっているのか、寝ているのか、将来のために備えているのか・・・
そう考えると、DNAの中で現在は寝ている才能を伸ばす遺伝子、健康になるための遺伝子などのスイッチをオンにして、今起きている病気を引き起こす遺伝子、悪い心を起こす遺伝子などのスイッチをオフにすることができれば、私たちの可能性はまだまだ伸ばすことができると考えられます。
そのスイッチのオンとオフに関わるものの一つに「心の持ち方」があると私は考えています。
■遺伝子暗号(P44)
遺伝子の本体はDNAと呼ばれる化学物質で、これが親から子へと受け継がれています。
遺伝子はA(アデニン)、T(チミン)、C(シトシン)、G(グアニン)という4つの化学の文字ですべてが書かれています。AとT、CとGが絶対のペアを組んでいます。
ヒトの場合、遺伝情報(ゲノム)は32億ペアのATCGから成り立っています。私たちは父親から32億ペア、母親から32億ペアの遺伝情報をもらいます。
この遺伝情報は細胞の核の中にある染色体というところにあります。1ゲノムの重さは1グラムの2千億分の1。それほど微小のスペースに、32億の情報が書かれているのです。これを具体的にイメージするためにたとえるならば、一粒のお米の中には全世界のヒトのゲノムがすべて入ります。それほど小ささなのです。
しかも、単に情報が書かれているだけでなくて、それを間違いなく動かしているのですから驚きです。
ヒト・ゲノムの暗号解読とは、これら32億のATCGの並び方を解明するということです。文字の配列がわかれば、その意味は暗号解読表をみればわかります。
この暗号解読表はすべての生き物に共通しています。だから大腸菌からヒトのホルモンや酵素を作ることもできるのです。
■実験で人間の高血圧の遺伝子をマウスの中に入れたら、マウスは高血圧になりました。次にそれとは逆の実験で、マウスにいれた高血圧の遺伝子を消しました。すると低血圧になりました。
しかし、低血圧になった以外に脳と臓器の働きがおかしくなりました。
遺伝子は一人二役も三役もの働きをしています。「この遺伝子を入れたら」「この遺伝子を消したら」と簡単に判断できるものではない。非常に慎重にやるべきだと思います。
遺伝子のスイッチがオンになったり、オフになったりするだけなら、元の遺伝子は変わらないわけですから、問題はない。しかし、遺伝子そのものを全く組み換えてしまうことは非常に慎重にやる必要があります。(P95)
■科学の発見というのは絶対真理ではなくて、真理に近づくプロセスなんです。ノーベル賞学者の業績が将来否定されたという例はいくらでもあります。
たとえば、野口英世の業績は南米で非常に高く評価されていますが、彼が黄熱病の病原体として発表した病原菌は後に間違いであったことがわかっています。彼は間違いないと思って発表したわけですが、あの頃は光学顕微鏡しかない時代ですからね。電子顕微鏡という新しい技術を使う時代になると彼の発表は否定されて、黄熱病の原因はウイルスだったことが明らかになりました。
このように科学というのは常に批判に晒されているものなんですよ。自分の考え方もそうですけれど、研究の事実そのものも絶えず塗り替えられます。新しい事実、新しい発見、新しいアイデアに変わっています。(P101)
■日本人の誰でもがよく知っている有名が製薬会社の会長は、一切薬を飲みません。「俺は自然治癒力で治す。お前たちは飲め」というわけです。なぜ薬を飲まないか。薬には副作用があるということを、その人は普通の人以上によくしっているからです。副作用のない薬はないと思います。
しかし、笑いには副作用がない。笑いが副作用のない薬になるかもしてないということなんです。(P21)
■なぜ大腸菌からヒトのホルモンや酵素がつくられるのか。
遺伝子のDNAの解読をしてわかってきたことは、すべての生き物、すべての微生物、すべての昆虫、すべての植物、人間を含めたすべて動植物は、過去・現在・未来にわたって全く同じ遺伝子暗号を使っているんです。だから人の遺伝子暗号をすれば、大腸菌からヒトのホルモンや酵素を作ることもできるわけです。
これは科学上の発見であるだけでなくて、環境問題にも影響を及ぼすのではないかというのが私どもの考え方です。
長い長い地球の生物の歴史を見ると、すべての生き物は一つの元に繋がっている。ということは、すべての生き物は私どものご先祖様か親戚が兄弟だということになります。
今、私どもは人間のことだけを考えていますね。原発の事故で人間に被害が及ぶかどうか心配していますが、その被害は微生物にもあらゆる植物にも動物にも及んでいるんです。人間だけが特別優れているわけではなくて、すべて繋がっているということを、大腸菌の遺伝子暗号は教えてくれています。
しかし、世界の学者が集まっても、大腸菌一つ元からは作れないのです。どうして作れないかというと、大腸菌様がどうやって生きておられるのか、その仕組みがまだほとんどわかっていないからです。
これは現在の科学や医学が駄目なのではなくて。生きているということがいかに不可思議ですごいか、ということなんです。生きているということは、皆さんが考えていることよりも遥にすごいことなんです。(P51)
(P51)