「国富」喪失 グローバル資本による日本収奪と、それに手を貸す人々 (詩想社新書) [ 植草一秀 ] 価格:1,012円 |
■日本を売り渡す「いまだけ、金だけ、自分だけ」の人々(P19)
国土、環境、伝統、文化、そして和を以て貴しとなす、平和を重んじる、平和を愛するこの国の国是自身が大きな揺らぎに直面している。津々浦々に行きわたる目に染みるような鮮やかな田園風景、清らかな水に包まれる青々とした山岳地帯、そして万葉の時代から脈々と受け継がれてきた伝統と文化が、いま根底から失われようとしている。
かけがえのない財産、豊かな国土とそこに根を下ろしている国民生活が根底から破壊されようとしている。見落とすことができないのは、その破壊を企て、そして破壊を推進しているものが、外部のものだけでないという事実だ。私たちの同胞の一部が外部のものと結託し、私たちの国富を失わせようとしている。いましか考えぬ人々、金銭的な欲望だけに突き動かされて動く人、そして他者を願みず自己の利益だけを追求するもの。東大農学部の鈴木宣弘教授はこれを、「いまだけ、金だけ、自分だけ」の「三だけ主義」と表現するが、この三だけ主義に身も心もつかり切ってしまった私たちの同胞が、国富喪失の主役を担っている。
■「食料は武器」と考える米国と、外資の言いなりになる日本(P113)
米国では、「食料は武器」という認識が浸透している。軍事、エネルギーに並ぶ国家を支える三本の柱の一つが食料である。イラクに対する侵略戦争を指揮したジョージ・ブッシュ大統領は「食料需給はナショナルセキュリティの問題だ。アメリカは、これが常に保たれている。これに対して食料自給ができない国を想像できるか。それは国際的圧力と危険にさらされている国だ」と述べた。米国には食料を外交上の戦略物資と明確に位置付ける考えがある。食料は米国にとってはミサイルと同様に重要な武器である。他の国の食料を米国で賄えば、戦わずにして支配することができる。こうした考え方が存在している。そのために独立国家は食料確保のための方策、すなわち農業政策に全力を注ぐ。
例えばコメの生産一つをとってみても、アメリカのコメの生産コストはタイやベトナムと比べて大幅に高い。しかしきわめて低価格で輸出を行っている。その背景には米国政府が輸出戦略物資としてのコメの目標価格とコメ生産者の差額をコメ、小麦、とうもろこしの穀物三品だけで、多い年には年一兆円もの補助金を注いでいるからである。
他方、日本の輸出補助金はゼロである。安倍政権はTPPで日本の農業が輸出産業に生まれ変わるなどと寝ぼけたことを述べているが、どんなにおいしくても、圧倒的に高い価格で補助金もゼロであれば、輸出市場によって競争することなど不可能である。
■NAFTA(北米自由貿易協定)によってメキシコ農業が壊滅した先例(P130)
日本政府が日本農業を守らずに外国資本の要求を丸のみにし、農業生産分野の関税率の引き下げ撤廃の方向に進めば、日本農業は壊滅的な打撃を受けるだろう。
そのことを示唆する重要な先例がある。メキシコ農業がNAFTAによって崩壊した歴史の事実があるからだ。NAFTAは北米において自由貿易を促進するための枠組みである。メキシコではNAFTAにより、「主食であるトルティ−ヤ(とうもろこしの粉で焼いたパン)が安く食べれるようになる」などの期待が持たれたが、現実はまったく異なるものになった。
NAFTA発行後、米国から、メキシコへの穀物輸出が激増した。米国が安い価格で穀物輸出を行えるのは政府が輸出奨励のための巨大な補助金を付与しているからである。安価な穀物がメキシコ市場に流入したことにより、メキシコの農家は崩壊してしまった。メキシコの農家は失業者に転落し、この失業者が大量に米国への不法移民者として流出したのである。メキシコの農業生産が激減し、メキシコ人の主食が米国の生産者に委ねられるようになったが、今度は逆に米国が供給する穀物価格が跳ね上がる。米国ではエネルギー原料としてのとうもろこしが見直され、とうもろこしの供給が減少、価格が跳ね上がる事態が生じた。その結果、メキシコでは主食のトルティ−ヤが食べられなくなる事態が発生し、一部の市域では、武力蜂起さえ発生したのである。
そして米国から供給されるとうもろこしの大半が遺伝子組み換えに切り替えられた。メキシコの生産者も遺伝子組み換え種子に依存する状況になったが、これは多国籍企業に壮大な陰謀にもとづく行動であった。メキシコの農業従事者が、ひとたび、このモンサント社が供給する遺伝子組み換え種子による生産に依存し始めると、この構造から抜けることができなくなる。強力な除草剤グリホサート=ランドアップを使用した土地においては通常の種子は使用不能となる。遺伝子組み換え種子は知的所有権保護によって守られており、農家は高額の種子の購入を義務づけられることになる。
■日本の支配者とは「米・官・業・政・電」の利権複合体(P199)
日本の支配者とは、この五者である。頂点に位置するのは米国である。米国の支配下に官僚機構、大資本、利権政治勢力、そして電波産業=メディアが位置する。
ここで言う米国とは米国民のことではない。米国を支配する勢力のことである。米国もきわめて少数の勢力によって支配されている。
ドナルド・トランプ氏は選挙戦の最中も選挙戦のあとも。そして新政権が発足したあともメデイアの集中砲火を浴び続けている。このことはトランプ氏が、依然として米国を支配しる支配者の支配下に移行していないことを意味する。日本のメディアがトランプ新大統領に対する攻撃を続けているのは、米国の政権ではなく、米国を支配する支配者の支配下にあるからであると理解できる。
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