資本主義の終焉と歴史の危機 (集英社新書) [ 水野和夫 ] 価格:814円 |
■利子率の低下は資本主義の死の兆候(P14)
利潤率の低下は、裏を返せば、設備投資をしても、十分な利益を生み出さない設備、つまり「過剰」な設備になってしまうことを意味します。
■1970年代前半が資本主義終わりの始まり(P19)
近代資本主義は、販路を拡大するために「地理的・物的空間」を拡大すること、資源を安く手に入れ、効率的に工業製品を高い値段で輸出し高い利潤を得ることの二つが成立することが、大前提です。
1974年にイギリスと日本の10年国債利回りがピークとなり、1981年にはアメリカの10年国債利回りがピークをつけました。
1973年、79年のオイルショック、75年のヴェトナム戦争終結がありました。これらの出来事は、地理的に拡大することと「エネルギーコストの不変性」が成立しなくなくなったことを意味します。
■アメリカの資本主義延命策--「電子・金融空間」の創造(P25)
「地理的・物的空間」を拡大することが出来なくなったアメリカは「電子・金融空間」という新たな空間を生み出すことで、資本主義の延命を図りました。
「電子・金融空間」とは、ITと金融自由化が結合してつくられる空間のことを言います。
資本は瞬時にして国境を越え、キャピタル・ゲインを稼ぎ出すことができるようになりました。その結果、1980年代半ばから金融業への利益集中が進み、アメリカの利潤と所得を生み出す中心的な場となっていったのです。
アメリカの「電子・金融空間」の元年は1971年です。この年、ニクソンショックでドルと金は切り離され、ペーパー・マネーになったのです。ドルは自由に目盛りが伸び縮みし、バブルが起きやすくなりました。また同じ年にインテルがCPUを開発しました。
アメリカの金融帝国化が数字で確認できるようになったのは1985年以降です。この前年は金融業の前産業利益に占めるシェアは9.6%にすぎませんでしたが、2002年には30.9%にまで達しました。
この金融業のシェア拡大は、金融のグローバリゼーションと軌を一にしています。債権の証券化などのさまざまな金融手法を開発することで、世界の余剰マネーを「電子・金融空間」に呼び込み、その過程でITバブルや住宅バブルが起こりました。アメリカは世界中のマネーをウォール街に集中させることで、途方もない金融資産をつくり出したのです。
こうして、原油価格高騰に合わせるように、アメリカ主導の金融自由化が推し進められていったのです。
■しかし、こうしてでき上がったアメリカ金融帝国も、2008年に起きた9・15のリーマン・ショックで崩壊しました。(P35)
■新自由主義と金融帝国化との結合(P28)
アメリカの金融帝国化は、中間層を豊かにすることはなく、むしろ格差拡大を推し進めてきました。この金融市場の拡大を後押ししたのが、新自由主義だったからです。
新自由主義とは、政府よりも市場のほうが正しい資本配分ができるという市場原理主義の考え方であり、1980年代のレーガン大統領の経済政策に始まって、クリントン大統領、ブシュ大統領に引き継がれました。
資本配分を市場に任せれば、労働分配率を下げ、資本家のリターンを増やしますから、富む者がより富み、貧しい者がより貧しくなっていくのは当然です。
■資本の絶対的優位を目指すグローバリズム(P114)
日本は金融グローバリゼーションに巻き込まれることで、より一層、資本主義の矛盾を露呈させていくのです。
2002年から2008年にかけて、戦後最長の景気回復があったにもかかわらず、賃金は減少しました。そして、日本がけでなく、英米も同様に、景気と所得の分離が確認されています。
したがって資本主義の最終局面では、経済成長と賃金の分離は必然的な現象なのです。換言すれば、このままグローバル資本主義を維持しようとすれば「雇用なき経済成長」という悪夢を見続けなければならないということです。
そのことを雄弁に物語るのが、1990年代行以降の日本の労働政策です。1999年には労働者派遣法が改正され、製造業などを除き派遣対象業務の制限が撤廃されました。2004年になると、製造業の派遣も自由化されます。
資本の絶対的優位を目指すグローバリズムにとっては、人件費の変動費化を実現するには労働市場の規制緩和は不可欠だったのです。グローバリゼーションに対応して生産拠点を海外に容易に移せるようになった大企業と、企業のようには容易に働く場所を変えられない雇用者の力関係を考えるとわかるように、労働市場の規制緩和は総人権費抑制の有力な手段として独り歩きするようになったわけです。
■おそらく、「アフリカのグローバリゼーション」という言葉がささやかれるようになった時点で、資本主義が地球を覆い尽くす日が遠くないことが明らかになってきました。
資本主義が地球のどの場所においても、もはや投資に対してリターンが見込めなくなることを意味します。すなわち地球上が現在の日本のように、ゼロ金利、ゼロ成長、ゼロインフレになるということです。
このような状態では、そもそも資本の自己増殖や利潤の極大化といった概念が無効になりますから、近代資本主義が成立する余地はありません。そして、成長を求めれば求めるほど、資本主義の本来もつ矛盾が露呈し、システム転換にともなうダメージや犠牲も大きくなります。(P173)
■日本は現在、ストックとして1000兆円の借金があり、フローでは毎年40兆円もの財政赤字をつくっています。なぜ破綻しないのか。
まずフローの資金繰りに関して言えば、現在の金融機関はマネー・ストックとしてある800兆円の預金が年3%、約24兆円ずつ増えています。その多くは年金です。年金が消費に向かわず、預金として銀行に流れているわけです。さらに企業は、1999年以降恒常的に資金余剰の状態が定着しており、2013年第3四半期時点で一年間の資金余剰は23.3兆円にも達しています。家計部門と企業部門を合わせた資金余剰は48.0兆円(2013年第3四半期時点で一年間の累計)これが、銀行や生保などの金融機関を通して、国債の購入費に充てることのできる金額で、毎年40兆円発行される国債が消化できているというわけです。
しかし、こうした辻褄合わせがいつまでも続くわけがありません。
年3%で増えている銀行のマネー・ストックが消滅したとき、現在同様に毎年40兆円〜50兆円の財政赤字を重ねていてば、いずれ国内の資金だけでは、国債の消化ができなくなります。(P190)
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