■東北大学の近藤正二名誉教授と私(古谷豊甫)が棡原(山梨県)を長寿村として発見したのは昭和43年のことである。しかし、この二、三年前から、老人たちは元気で働いているのに大正生まれの中年層が成人病で不如意の生活を送っているのに気付いた。中には老父が息子の葬式をするといった光景も目撃した。その後この現象はますますひどくなり、ついに昭和一ケタ生まれの働き盛りの中年層までは波及するにいたった。(P37)
「逆さ仏」現象 棡原の大正、昭和一ケタ生まれの短命化の原因は、
動物蛋白、脂肪に乏しい穀菜食で育てられ、それによく適応してきた。ところが、戦後の50歳前後の時に経済成長期にぶつかり、高蛋白、高脂肪、高カロリーの近代食をとった。これは人体の適応能力の限界を超えた負担となり、それが裏目に出て成人病による短命化をもたらしたものと私は考える。
ブラジルの森口幸雄教授によれば、ヒトは加齢とともに蛋白同化ホルモンが少なくなる。つまり10歳まではプロキロ2グラム、二十歳まではプロキロ1.5グラム、50歳までは1グラム、50歳以上は0.5グラムとされている。この点から考えると50歳を過ぎた棡原の中年層は蛋白質はプロキロ0.5グラムでよい時期を迎えたにもかかわらす、逆に大量の蛋白を摂取したところに大きな危険を犯したことになる。(P39)
■棡原地区の戦前(長寿食)と戦後(短命食)の平常献立(P46)
朝食◇戦前・里芋の煮付け(10〜20ケ)、うどん(夜の残り)、粟飯又は引割麦飯(米3〜1割)漬物
◇戦後・白米飯(一人230g)、みそ汁(冬菜、ワカメ)、生卵又は魚、のり、漬物
昼食◇戦前・お麦(千葉オバク)「みそ、ねぎ、かつお節、せいだのたまじ」、漬物
◇戦後・白米飯、ソーセージ又はハム、佃煮、こんにゃくの油炒め
夕食◇戦前・ほうとう(かぼちゃ)3〜4杯、冬菜のおひたし、煮しめ(こんにゃく、里芋、にんじん、ごぼう、こんぶ)
◇戦後・めん類(椎茸のだし)、白米飯、魚又は肉料理、野菜料理、みそ汁
間食◇戦前・酒まんじゅう(塩あん)せいだ(こんぶとじゃがいも)、おねり、とうもろこし団子、焼とうもろこし、えぞ餅、柿こがし、ころ柿、甘露の切干し
◇戦後・酒まんじゅう(砂糖あん)、お菓子、清涼飲料
備考◇戦前・魚--小いわし、さんま等で月2〜3回、卵--3日に1ケ、海草--1週に2〜3回
◇戦後・魚、肉、卵--毎日
1977年4月調査
短命化の原因@主食の変化 棡原地区は水田がないため、畑作物に依存し、大麦、小麦、きび、粟、稗、豆類、いも類を命の糧としていた。戦後は米の配給制度と現金収入の増加ととおに米への依存が高くなってきた。
A緑黄色野菜の減少 昔はおひたしやほうとうに入れて多量に摂取していた。
B発酵食品の減少 みそや酒まんじゅう、納豆等の発酵食品は食用微生物とその酵素が腸内の有用菌(ビフィズス菌)の働きをよくすると云われている
■里芋とムチン「粘性物質」(P111)
棡原ではかつて、約半年は一日一食で、里芋を主食とし、そのムチンを長期大量に食べており、これが長寿の一因をなしているではないかと考えている。納豆、ナメコ、オクラ、コンブ、山芋、アミジコ、ワラビなどムチンを多く含むものを食べることをおすすめしたい。
続きを読む