2016年09月30日

観覧車とゴンドラ

 遊園地の中で、今日も観覧車がお客さんを乗せてゆっくりと動いていました。何十個もあるゴンドラたちも上に行ったり、下に行ったり楽しそうに動いていました。
 でも、ゴンドラの中には個性があって、高い所が好きなものと嫌いなものがいるのでした。新しく取り換えられた怖がりのゴンドラは頂上へ連れて行かれると、ガタガタと体を震わせたり、真っ青になって声をはりあげたりしていました。
「ああ、おれはゴンドラになる前は、マンホールの蓋だったんだ。古くなって溶鉱炉で溶かされてゴンドラになったんだが、いつもは地面にいたから、高い所は大の苦手だ」
「おれは、船の錨だったんだ。廃船になってゴンドラになったのだが、海の中は平気だけど、高い所は大嫌いだな」
 となりのゴンドラも、
「おれは、野球場の金網だったんだ。サビが酷くなって取り外されて、やっぱり溶鉱炉で溶かされてゴンドラになったんだが、野球を観るのは好きだけど、高い所はダメだな」
 新しく取り換えられたゴンドラたちは、そんなことを呟いていました。でも、遊園地が始まって観覧車が動き出すと、否応なしに上まで連れて行かれるのです。
「新入りさん、怖いのは最初だけだよ。すぐに慣れますよ」
 観覧車はいいますが、上へ上へとあがっていくうちに、あちこちのゴンドラから悲鳴が聞えてきます。ゴンドラの悲鳴だけならいいのですが、ガタガタと体が揺れるものですから、乗っているお客さんたちも怖がって悲鳴をあげたりします。
 遊園地が終わると、観覧車も停止して、夜はゴンドラたちはぐっすりと眠ります。運の悪い怖がりのゴンドラは高い所で夜を明かさなければいけません。一番頂上に停止しているゴンドラなんかは一睡も出来ずに、翌日は睡眠不足で眠そうに動いていました。
「こんなことだったら、もっとほかの職場で働きたかったなあ」
と怖がりのゴンドラたちは後悔していました。
 ある夜のこと、明るいライトに照らされた賑やかな遊園地の向こうの松林の方から、ドーン・ドーンという凄い音がして夜空がぱーっと明るくなりました。それは夏恒例の花火大会で、松林の向こうで花火を打ち上げているのです。低い所からはよく見えないので、ほかのゴンドラたちは、観覧車に「早く上に行ってくれ」と叫んでいました。
 最初、怖がって、いつもは目をつむってばかりいた新入りのゴンドラたちも、しまいには花火をよく見たいのか、背伸びをしながら光っている夜空を見上げていました。
 観覧車の頂上で観る花火は、本当にきれいによく見えました。花火が光っているすぐ下は静かな海でした。海面にも花火が写って、なんともいえない景色なのです。
 翌日は雨が降りました。雨が上がったあとに虹が出ました。虹の橋は海の向こうまで続いていました。水平線の向こうに船が見え、煙を吐きながら走っていました。
 船の錨だったゴンドラは懐かしそうに、
「もっと早く上に行ってくれよ、よく見たいから」
と観覧車を急き立てます。
 船の向こうには夏の雲が広がって、野球場の試合をいつも観戦していた金網だったゴンドラも、夏の雲を思い出しながら、
「もっと早く動いてくれよ、雲が見たいから」
とか叫んでいました。
 そんなことがあって以来、怖がりだったのゴンドラたちも、みんな頂上へ行くことが平気になりました。


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(未発表童話です)





(記事の更新は随時行います)

2016年09月21日

温泉へ行くビーナス

 公園の噴水のところに若いビーナスの像が建っていました。建てられた頃は、肌はすべすべで、着ているドレスも真っ白でしたが、長い間、風雨にさらされてずいぶん汚れていたのです。
 月に一度、公園の管理人さんが水道の水で洗ってくれますが、石鹸もシャンプーも使わずに、ブラシでゴシゴシ洗うものですから、あちこち傷もできていたのです。
「ひどいおじさんだわ。わたしを自動車か何かと間違えてやしないかしら。ああ、美しかったあの頃に戻りたいわ」
ビーナスの像は、いつもそんな不平をもらしていました。
 ある年、公園の近くに温泉が出来ました。町の人たちは、よくその温泉へ出かけました。昼間でも駐車場は車が一杯で、施設の中には、自動販売機コーナーや喫茶店もありました。
 ある日、小鳥たちにその話を聞いたビーナスの像は、自分も温泉に行きたくなりました。
「昼間は人が多くて無理だけど、閉店間際だったら十分に行けるわ」
 決めてしまうと、すぐに実行してしまうビーナスだったので、その夜さっそく出かけて行きました。
 温泉へやってくると、塀を登り、中庭を通って、女性専用の露天風呂へ行きました。途中で人に出会ったら、ポーズをとってその場に立っていました。
 白い湯けむりが向こうに見え、そばまでやってきました。人がいなくなるのを待ってから、こっそりと露天風呂に入りました。
 人が入ってくると、すぐに湯船から飛び出て、壁のところでポーズをとって立っていました。
 女性客は、まったく気づかずに、みんなゆっくり湯船に浸かっていました。
 だけど、出かける回数が増えてくるうちに、だんだんとビーナスの行動も大胆になってきたのです。女性客が入りにきても、そのまま平気で湯船に浸かっているのです。
「あら、いつも来てる西洋の女性だわ、でも肌が白くて本当にうらやましいわ」
女性客たちは、みんなビーナスの美しさに見惚れながらそんなことを呟いたりしていました。
 いつも身に着けているいっちょらいの絹のドレスも洗って、乾くまで自動販売機コーナーのソファーに座ってのんびりしていました。ときどき女性客が話しかけてきます。
「お生まれはどちら」とか「この国にはもう長く」とか尋ねてきます。
 ビーナスも調子に乗って、
「フィレンツェから参りました。日本へ来てもう20年になります」
とか答えていました。
 たまに、ジュースなんかをおごってもらって、閉店までいることもありました。
そんな風に、三日置きくらいに、この温泉へやってきてはさっぱりして公園へ帰って行きました。
 この公園には、もうひとつ像が建っていました。ビーナスの像と50メートルほど離れたポプラの木のそばにダビデの像がありました。
 ある日、ダビデの像は、小鳥たちからどうしてビーナスの像がいつもあんなに美しくピカピカニに光っているのか教えてもらいました。
「なるほど、そうだったのか。じゃ、わたしも温泉へ行ってみよう」
 ところが困ったことがありました。ダビデの像は、素っ裸だったからです。この姿で歩いて行って誰かに見られたら大変です。それで、ポプラの葉っぱでこしらえた手作りのパンツをはいて行くことにしました。
 その夜、ダビデの像はやっぱり閉店間際に温泉へ出かけて行きました。
温泉の塀を登って、男性用の露天風呂へ行きました。ビーナスと同じようにお客に出会ったら、壁のそばで、ポーズをとって立っていました。
 お客がいなくなると、急いで湯船に入りました。
「いやあ、最高にいい気持ちだ」
 そうやって、ダビデの像も頻繁に温泉へ入りに来るようになりました。
そして、やっぱり慣れてくると、お客がやってきても平気な顔で湯船に浸かっていました。
 ときどき、お客がそばにきて、パイプをぷかぷか吹かしながら、
「見事な体格ですな。どんなスポーツやってんですか」とか、「今度の市民マラソンに出てみませんか」とか話しかけてきます。
 そのうち、そのお客とたびたび出会うようになり、何度も市民マラソンに誘われているうちに、とうとう参加することになったのです。
「勝てるかどうかわかりませんが、じゃあ、やってみましょう」
 ダビデの像はあまり乗り気ではなかたのですが、マラソン大会の結果は、2位との差を10分も引き離して見事優勝したのです。優勝のトリフィーも貰って、にこにこと公園へ帰ってきました。
 そんなことなど知らないビーナスの像は、いつものように温泉に入りに来ていましたが、ある夜、女性客から、市民マラソンのことを聞いたのです。
「今年の優勝者は外国人の若い男性で、ダビデという人なんだって」
ビーナスの像はそれを聞いて、
「もしかして」
と思って、50メートル離れたポプラの木の方を見ました。ダビデ像の傍には優勝トロフィーが置てあり、ダビデの像がにこにこ微笑んでいました。
「わたしもあんなトロフィーがほしいなあ」
 思っていると、小鳥がやってきて、いい事を教えてくれました。それは、秋にこの町で、ミス・コンテストの大会があるから出てみてはという話でした。
 もちろんビーナスの像は出てみようと思いました。
「それじゃ、いまから美容トレーニングしなくちゃね」
 ビーナスの像は、それからはより美しくなるために、温泉へ入りに行く以外にも、深夜、ランニングに行ったり、ヨガをやったり、ストレッチ体操をするようになりました。


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(未発表童話です)





(記事の更新は随時行います)

2016年09月09日

カメの絵描きさん

 春になって、カメの絵描きさんは写生をしに外へ出かけました。甲羅の上に、絵を描く道具を乗せて、のろのろと田舎の道を歩いて行きました。草むらにはスミレの花や菜の花がきれいに咲いていて、お日さまもにこにこ笑っています。
「さて、さて牧場は、まだ見えてこないかな」
 去年の春も、牧場へ行き、原っぱで草を食べている牛たちの絵を描いたのです。今年も、牧場の牛たちを描いてみようと思ったのです。
でも、牧場まではずいぶん距離があるので、甲羅の上にはちゃんとお弁当を積んできました。首にも水筒をぶらさげて、のどが乾いたら飲んでいきました。
 二日間歩いて、ようやく行く手に牧場が見えてきました。遠くの方からモーモーという牛たちの声が聞こえてきます。
「やあ、懐かしい声だ。今年もいい絵が描けそうだ」
石ころをよけながら、カメの絵描きさんは、楽しそうに歩いて行きました。
 やがて牧場の牛舎の見えるところまでやって来た時です。
「何だ、あれはー」
カメの絵描きさんは、びっくりして叫びました。
 牛舎のすぐうしろの原っぱに変な風車が建っているのです。周りに柵がしてあって、ずいぶん背の高い風車なのです。
「去年はこんなものはなかったのに」
 それは、灰色に塗装された風力発電用の風車でした。
 見ると、その向こう側にも別の風車が建っています。同じ灰色をしてずいぶん馬鹿でかいのでよく目立ちます。それでも風景と合っているのならいいのですが、ぜんぜん合っていないので困るのです。
「これじゃ、いい絵が描けないぞ」
 カメの絵描きさんは困り果てて、あちこち歩いて絵になる場所を探しました。でも、遠くの方にも風車が建っているので、なかなか構図が決まらないのです。これではいい絵が描けません。
「ああ、がっかりだ。オランダに建っているような風車だったら絵になるのになあ」
 肩を落としていたカメの絵描きさんでしたが、いいことを思いつきました。
「そうだ、牛さんたちに頼んで、場所を移動してもらおう」
 カメの絵描きさんは、牛たちのところへ歩いて行きました。
「こんにちは、みなさん」
 草を食べていた牛たちが振り返りました。
「なんだね」
「絵を描きたいんで、となりへ移動してくれませんか」
「はあ、どうしてだい」
「うしろに風車が建っていて、いい絵が描けないんですよ」
「ああ、あれか、最近はいくつも建ててるやつか」
「竹とんぼのお化けのようで、まったく絵になりません」
「そうかい、じゃあ、わかった」
「お礼に、絵を一枚差し上げますよ」
牛たちは、こころよくとなりへ移動してくれました。
 カメの絵描きさんは、ほっとしながら甲羅の上に積んできた絵の道具を降ろすと、さっそく準備をはじめました。草の上に腰を下ろして、スケッチブックを広げ、最初に鉛筆で下書きしてから、パレットの上に絵具を出して、絵筆を水筒の水に浸しながら描いていきました。
 夕暮れまで描き続けて、たくさん描けました。鉛筆スケッチも何枚も描いたので、牛たちに何枚かプレゼントしました。
 その夜は、牧場の草の中でゆっくり眠ってあくる朝、この牧場から出て行きました。
 帰りは、去年と同じように牧場のそばを流れている小川を泳いで下って行きました。歩かなくてもいいので帰りは楽でした。
 ところが、川を下りながら周囲に目をやると、驚きました。
どこの原っぱを見渡しても、竹とんぼのような風車が建っているのです。
「ああ、こんなにたくさん建ってたら、これから風景画が一枚も描けなくなるな」
 家に帰ってから、カメの絵描きさんは、電力会社に電話をかけました。
「この土地で暮らしている絵描きですが、風力発電用の竹とんぼのような風車のデザインが悪いので、いい風景画が描けません。もっと風景と合ったものを建てて下さい」
 電話を受けた職員の人は、はじめびっくりして聞いていましたが、
「そうでしたか、参考になるご指摘ありがとうございました。今後、社の方で検討させていただきます」
 職員の人はそう答えてくれました。



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(未発表童話です)





(記事の更新は随時行います)
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