2016年06月22日

ホルン吹きのカタツムリ

「きょうは、あそびにいけないからつまんないなあ」
 葉っぱのうえで、そんなことをつぶやいたのはいっぴきのカタツムリです。
空は低い雲におおわれて、しとしとと雨がふっています。
きのうともだちのクワガタくんと、小川の向こうの原っぱへあそびにいく予定をしていたのでとても残念です。
「なにか面白いことないかな」
そういったとき、草の中からコオロギくんの弾くマンドリンの音色が聴こえてきました。
「おう、コオロギくん上手くなったな。みちがえるほどきれいなトレモロだ」
いつもじっくり聴いたことがなかったので、そうおもいました。
「もうすぐ秋だから、コオロギくんは演奏会の練習でいそがしいんだな」
コオロギくんの弾くマンドリンを聴きながら、秋になるのが待ち遠しくなってきました。
「そうだ、ぼくも楽器を習いにいこうかな。でもなにを習おう」
いろいろかんがえているうちに、おもいつきました。
「そうだ、ホルンを習おう」
かんがえてみれば、カタツムリくんはりっぱなホルンをもっているのです。
ちょっとせなかの殻をはずしてみました。ほら貝のようなりっぱなホルンです。でも吹き方がわかりません。
 そこで、ホルンの音楽教室へいってみました。
先生はすこしもうろくしていましたが、ていねいに吹き方を教えてくれました。
 翌日も雨だったので、一日中ホルンを吹く練習をやりました。
夜までにはすらすらと吹けるようになりました。
「そうだ、コオロギくんといっしょに合奏してみようかな。そしてクワガタくんに聴いてもらおう」
そういって、明かりの灯ったコオロギくんの家へいってみました。
コオロギくんはランプのそばで、楽譜を見ながらマンドリンを弾いていました。
「うん、いいよ。どんな曲をやろうか」
コオロギくんはこころよくひきうけてくれました。
そこで二匹は、いろいろと曲集をめくりながら、「これにしよう」といって、ドボルザークの「遠き山に日は落ちて(家路)」という曲をいっしょに弾くことにしました。
コオロギくんがメロディを弾いて、カタツムリくんがホルンで伴奏をするのです。二回目はホルンもメロディを吹きました。
夕暮れの広々とした風景が浮かんできて、ほんとうに山の向こうへ夕日が沈んでいくみたいです。
「この合奏ならみんなに聴かせられるよ。どうだい、きみも秋の演奏会に出てみないかい」
コオロギくんのすすめで、カタツムリくんも出てみようと思いました。
 翌朝は、晴れのおてんきになりました。
コオロギくんとカタツムリくんは、クワガタくんをさそって、小川の向こうの原っぱへハイキングへ出かけました。
そして、原っぱにやってくると、クワガタくんにじぶんたちの演奏を聴いてもらいました。
「すばらしい、とてもいい演奏だ」
クワガタくんは、ぱちぱちと拍手をしてくれました。
コオロギくんもカタツムリくんもすっかり自信がつきました。
「じゃ、きみも秋の演奏会にぜひきてくれよ」
「うんいくよ。たのしみだな。いろんな曲を聴かせてくれよ」
そういって三匹は仲良くおべんとうを食べました。
 コオロギくんとカタツムリくんは、ハイキングから帰ってきてからも夜遅くまで練習にはげみました。
そのかいがあって、秋の演奏会はすばらしい成功をおさめたということです。
 演奏会が終わった後も、この原っぱからは二匹の演奏が毎日のように聴こえてきます。



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(自費出版童話集「びんぼうなサンタクロース」所収)





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(記事の更新は随時行います)


2016年06月10日

無人島の一ヶ月間

 その島は、遠い南の海に浮かんでいました。砂ばかりの小島で、生き物は何も住んでいない島でした。
 ある日、嵐がやってきた翌朝、この島に小さなヨットが流れつきました。ヨットには、ひとりの男の人がのっていました。
「命はなんとかたすかったが、これからどうやって生きていこう」
男の人は、砂のうえにすわりこむと、先行きのことをかんがえました。
「ロビンソン・クルーソーみたいに、自給自足の生活をしようかな。だけど、ここは砂ばかりの島だ。食べるものなんて手にはいらない。どうすればいいんだ」
男の人はがっかりして大の字になって寝転んでしまいました。しばらくしたとき、ヨットが無事であることに気づきました。
「そうだ、ヨットの中には釣り道具も、釣り餌もそろっている。それを使って食べ物を海から供給しよう」
男の人は、釣り道具を持ってくると、さっそく魚を釣ることにしました。しばらくすると魚がたくさん釣れました。
「やった、これで今夜のおかずはたすかった」
男の人は、その魚を塩焼きにして食べました。
 翌日も、釣りをしました。
そして、一週間ほど毎日魚ばかり食べました。でも、だんだんあきてきました。
「何か、違うものが食べたいなあ」
けれども、釣れるのは魚ばかりでした。とうとう男の人は神様にお願いしました。
「どうか、もっと違う食べものをお恵みください」
そんなある日、海がまたシケてくるとすごい嵐になりました。
「わあー、たすけて」
男の人は、波にさらわれないように、砂の中にかくれていました。
でも、波は砂の中までしみこんできて、男の人はひっしに砂の中にへばりついていました。
 嵐が去った翌朝、男の人は島の様子を見て驚きました。
ヨットが島の真ん中まで押し流されて、その近くに一頭の鯨が寝そべっていました。もう死んでいるようで息はしていませんでした。
「うわおー、ひさしぶりに、肉が食べられるー」
男の人は、にこにこしながら、鯨のところへ走って行きました。
すると、砂のうえには波が運んできたのか、大量の海の魚があたり一面に散らばっていました。
 かつお、まぐろ、ひらめ、たい、海がめ、トビウオ、わかめ、えび、いか、さざえ、はまぐり、ウニなどの海の幸です。
「ひえー、今夜は、豪華メニューだ」
男の人は、手当たりしだい集めてくると、さっそく火を起こして料理をはじめました。
「うまい、うまいー」
男の人は、その日、お腹いっぱい食べました。そして何日も食べ物には不自由なく暮らせました。
 一ヶ月が過ぎたある日、また雲行きがあやしくなってきました。海の向こうから、また嵐がやってきたのです。
「まただ、この島にはよく嵐がやってくるんだなあ」
しばらくすると、猛烈な風と波が打ち寄せてきました。
男の人は、ヨットの中でぶるぶると震えていました。
しばらくすると、山ほどもある高い波の勢いでヨットがゆれはじめました。
「もう、こんどは、だめかもしれないぞー」
男の人はその夜、じっと神様に祈りつづけました。
 翌朝になると嵐は去っていました。男の人は、外で誰かがさけんでいる声に気づいて目を覚ましました。外に出てみると、ヨットのすぐそばに、大きな貨物船が座礁していました。
「おおい、だいじょうぶか。いつからあんたはこの島にいるんだ」
船員の人が、男の人を見つけていいました。
「はあい、ひと月まえからです」
「へえ、そりゃ、たいしたもんだ。でもよく生きてたな」
船員の人たちは、みんな驚いていました。
そして、男の人は、ひさしぶりに船のお風呂に入らせてもらい、お米のご飯をお腹いっぱい食べさせてもらいました。
船員さんたちは、その間も船を沖へもどす作業をしていました。
「四、五日でなんとか作業は終わるから、おれたちといっしょに早く国へ帰ろうなー」
船員さんたちの話をきいて、男の人は、にっこりとうなずきました。
 そして、四、五日たったある朝、ぶじに作業が終わり、貨物船はこの島から出て行きました。
無事に国へ帰ってきた男の人は、あの島での思い出を一冊の本にまとめて出版しました。
その本はとてもよく売れたので、男の人のもとにはたくさんの収入が入り、その後、男の人はとても裕福に暮らしたということです。


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(自費出版童話集「びんぼうなサンタクロース」所収)










(記事の更新は随時行います)


2016年06月01日

金鉱を見つけて

 投資に失敗して全財産をなくした男の人が、ある日、死に場所を探しに山へ行きました。
「ああ、どこかいい場所ないかなあ」
岩陰で休んでいると、岩の後ろから声が聞こえてきました。
「ずいぶんお悩みのようですね。どうしましたか」
男の人は、これまでの投資生活のこと、そして全財産をなくしたことを話しました。
「そうでしたか、それじゃ、わたしが何とかしてあげましょう。この岩山の道を200メートルほど登って行くと洞窟があります。その洞窟の中に金鉱があって金がたくさん取れます。それを持っていきなさい。でもその金で投資なんかしてはいけませんよ」
 男の人はさっそく登って行きました。
その場所へやってくると、教えてもらったとおり洞窟がありました。
中に入ると暗闇の向こうで、キラキラと輝いている岩が見えました。
「あれだな」
そばまで行くと、金がたくさんこびりついている岩がありました。中にはすべて金だけの石も転がっていました。男の人はそれを拾ってポケットに入れました。
「これだけあれば当分は安心して暮らしていけるな」
すこし重かったのですが、男の人はにこにこ笑いながら山を降りて行きました。
 はじめの一年間、男の人は家を買い質素に生活していましたが、ある日、昔の投資仲間に誘われてまた金の相場に手を出しました。
最初は、金が値上がりして、気分もうきうきしていましたが、次の年は暴落して、財産も半分になりました。損した分を株で取り返そうとしましたが、これもうまくいかず、また財産をなくしてしまいました。
 男の人は、がっかりしながらまた山へ行きました。
同じところで、休んでいると、いつかの声が聞こえてきました。
「ずいぶんお悩みのようですね。どうしましたか」
男の人は、忠告を無視して、また投資で財産をなくしたことをはなしました。
「そうでしたか、じゃあ、仕方ありません。なんとかしてあげましょう。この岩山の道を200メートルほど降りたところに、銀が取れる洞窟があります。そこへ行って銀を少し持っていきなさい、でもその銀で投資なんかしてはいけませんよ」
 さっそく男の人は、山を降りて行きました。その場所へやってくると洞窟がありました。中へ入ると、銀がたくさんこびりついている石が転がっていました。
「すごい、すごい!」
男の人は、大喜びで、ポケットの中に銀を入れて、山を降りて行きました。でも数年後には、またこの山へもどってきました。
「どうしましたか、お悩みのようですね」
岩陰から聞えて来た声に、男の人は、
「はい、また忠告を無視して、投資に手を出して財産をなくしてしまいました」
声は、あきれ返っていましたが、しばらくしてからいいました。
「では、仕方がありません。じゃあ、この山を降りて西へ5キロ行ったところにー」
と声がいいかけたときに、男の人はさえぎるようにいいました。
「いいえ、もうお金はいりません。それよりものんびり気楽に暮らせるところはありませんか」
声は、それを聞いて、
「じゃあ、いいところを教えてあげましょう。この山を降りて、東へ10キロほど歩いて行くと広い草原に出ます。その草原のまん中に空き家が一軒あります。昔、絵描きさんが使っていた家ですが、まだ十分に使えます。それに小さな庭もあっていいところです。
 男の人はさっそく歩いて行きました。
 しばらく行くと、野原の向こうに、小さな家が見えてきました。
家について中へ入ると、誰がリフォームしたのかとてもきれいなのです。家にはアトリエもあってとても静かでした。男の人は、さっそく住むことにしました。
 毎朝早く起きると、野原へ散歩にでかけました。近くに森があり、キノコやマツタケなんかをとってきて、夕食に食べたりしました。
また近くには小川もあって、魚もたくさんいました。男の人は久しぶりに釣りをして、イワナ、ヤマメ、アユなんかを釣りました。
 数か月間、男の人は何の不自由もなく過ごしていましたが、やっぱり何かしたくなりました。
アトリエの本棚には小説や子供の本が入っており、読んでいるうちに自分でも本が書きたくなってきました。
「そうだ、子供の本を書いてみよう」
アトリエには、絵を描く道具とスケッチブックがちゃんと揃っていました。
男の人は、イラスト入りの本を作ることにしました。何度も書き直し書き直ししながら、第一作がよくやく出来ました。自分でも満足したので、町の出版社へ送ってみることにしました。
「どうせだめだろう」と思いましたが、「ひょっとしたら」という気持ちで返事を待ちました。
すると、ある日一枚のハガキが届きました。
 ー原稿を拝見しました。投資で失敗した男の気持ちがよく書けています。子供の向きのテーマではありませんが、面白い作品なので採用します。すぐに出版の手続きをしますので早めに第二作目の方もお願いします。ー
 男の人の生活はそれからとても忙しくなりました。毎日毎日、原稿を書かなければいけなくなったからです。書いては送り、書いては送りと毎日せっせと働きました。
そのかいがあって、毎月銀行の自分の口座には、本の報酬がいつも振り込まれていました。ずいぶん売れているのか、毎月振り込まれる金額が増えていました。
 そのお金で、男の人は昔のように投資をはじめたのだろうと誰もが想像するでしょうが、男の人は、一円も引き出すこともなく、いつものように家で本を書いていました。それくらい毎日仕事に追われていたからです。

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(未発表童話です)









(記事の更新は随時行います)

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