2016年05月25日

アリの願い

 一匹のアリがすっかり疲れたようすで、落葉の下で休んでいました。そこへ、もんしろちょうが飛んできました。
「どうしましたか、アリさん、元気がありませんよ」
 アリは、ずいぶんくたびれたようすで、
「どうもこうもない。毎日、あさから晩までこきつかわれて休むこともできない。君みたいに、羽があったら、自由気ままにどこかへ飛んでいきたいよ」
「そうでしたか。そんなにしんどいですか」
「ああ、もうくたくただ。せめて、長い休みがとれたら、あちこちの原っぱへいって、のんびりとはめをはずしてみたいものだ。おれはもう若くはないから、いまのように働いていたんじゃからだがもたない。ああ、どうしておれたちの仲間は、みんな仕事一筋なのかなあ」
「そうでしたか、では、わたしがあなたの願いをかなえてあげましょう」
「ほんとうかい。じゃ、たのむよ」
 もんしろちょうは、アリのからだをりょう足でつかむと、空の上にまいあがりました。
「ひえ、驚いたな。でも、いい眺めだ」
 もんしろちょうは、アリを連れて、いろんな場所へあんないしてあげました。
 空のうえから見える景色は、アリにとってたいへんな感動でした。毎日、地べたで、汗びっしょりかいて、ひたすら上司の命令に従って機械みたいに働いてばかりいたからです。
「へえ、よく見える。うまれてはじめて見る風景だ。こんなすばらしい景色がこの世界にあったなんて驚きだ」
「そうでしょう。空のうえから眺める景色は、すばらしいでしょう」
 いいながら飛んでいると、むこうの葉っぱのところに、ナメクジが這いずっていました。
ナメクジはとてものろい動きですが、おいしいそうな葉っぱを探し回っていました。
「あいつは仕事もしないでいつも寝てばかりいると思っていたのに、ちゃんと食べ物を探しに行くんだな。知らなかった。やっぱりものを見るときは、いろんなところから見ないといけないな」
 そういっていると、むこうの方に一軒の空き家が見えました。ずいぶん古くて、その家の柱の下で、大勢の白アリたちが集まって、柱をぼりぼりとかじっていました。
「あいつらもよく働くな。だけど、みんなやっぱり疲れてみたいだな。最近は、白アリたちの世界でもリストラがあって、成績の悪いアリは、すぐに組織から追い出されてしまうからな。あいつら1グループで、毎日、柱を一本消化しないと成績評価でマイナス点が付いて、失業するっていってたよな。たいへんだ」
 白アリたちの仕事ぶりをみて、気の毒に思うと同時に、自分の組織のことも考えてみました。
「おれの職場の仲間たちもみんなよく働くけど、ほとんどが無趣味で、休みの日といったって、何もしないで家でごろ寝してるか、大酒を飲んでるくらいなもんだ。中にはひどいアル中もいるしなあ」
 そんなことを思っていると、小川の向こう側に、美しいお花畑が広がっていました。
お花畑のそばからは、スズムシたちやコオロギたちの美しいコーラスの歌声が聴こえてきました。
「ああ。音楽はいいな。おれも音楽家になった方がよかったかもしれないな」
 そういっていると、別の方から軍楽隊を退職した兵隊アリたちが結成したマンドリン楽団の音色が聴こえてきました。
「マンドリンもきれいな音色だ。おれも退職したら、あの楽団に入れてもらおうかな。失った自分の人生を取り返さなければいけない」
 アリがそんなことを言ってると、向こうの空に、夕焼けが見えてきました。
「アリさん、日も沈んでいきますし、そろそろ帰りましょうか」
「ああ、もんしろちょうさん、今日はありがとう、いろんな景色を見せてくれて。すっかり疲れもとれたようです。また、あしたから元気に働けますよ」
 アリともんしろちょうは、そういってさっきの野原へ帰って行きました。
元気になったアリは、定年退職がやってくる日を夢に見ながら、また翌日からせっせと働きました。


ariss.jpg



(未発表童話です)









(記事の更新は随時行います)


2016年05月18日

タイムマシンにのって

 公園でかき氷屋をはじめた男の人が、お客がぜんぜんやって来ないので困っていました。
「ああ、毎日こんな調子だったら、この商売も失敗だ」
 ある日、どこかの工業大学の助教授がやってきました。
「いいもの発明したので、これを試しに使ってくれないか。かき氷買ってあげるから」
 助教授は、アルミで出来た小型の乗り物を見せてくれました。
「いいですよ。使ってあげましょう」
「一ヶ月使って、結果を話してください」
言い終わるとすぐに帰っていきました。
 それは湯船くらいの大きさの変な乗り物でした。
座席の手前に、レバーが付いていたので引いてみると、
 グウーーーーーン グウーーーーーン
すごい音がして、周りの景色がぼんやりして身体が宙に浮かんでいました。
そして屋台ごと、どこかへ飛んでいきました。
 気が付くと、五十年前の広い砂漠の真ん中にいました。
「ひえー、アフリカの砂漠だ」
向こうからラクダに乗った商人がやってきました。
「かき氷くれないか」
「はい、一個100円です」
商人は、10個買ってくれました。
 しばらくするとまた砂漠の向こうから別のキャラバンの一隊がやってきました。
「かき氷くれないか」
「はい、100円です」
そのキャラバンの一隊もたくさん買ってくれました。
「いや、よく売れるな。売り切れだ」
男の人は、家に戻ってくると、たくさん商品を仕入れて、またアフリカへ行きました。
そして、すぐにかき氷は売り切れました。
「これだったら、南極や北極へ行って、おでんも売れるな」
思いつくと、今度は、おでん屋も兼業することになりました。
これも大当たりで、むこうでもよく売れました。アラスカへも行って、エスキモーの部落でもたくさん売れました。
「よかった、よかった」と男の人は喜んでいましたが、ある日、百年前のアフリカのジャングルでアイスクリームを売っていた時、予想外のことが起きたのです。
あまり頻繁にレバーを回しすぎて、レバーが根元から折れてしまったのです。
「困ったな、早く修理しないと家に戻れない」
男の人は、汗を流しながら修理をしましたが、ぜんぜんうまくいきません。数日たっても直りません。それでも死に物狂いで作業を続けました。
「もし直らなかったら、このままジャングルで、ターザンのように暮らさなければいけない」
男の人はそんなことを呟きながら、修理を続けました。
 一ヶ月後、公園ではあの工業大学の助教授がやってきて、男の人が戻ってくるのをいらいらしながらじっと待っていました。


2rr03.jpg


(未発表童話です)









(記事の更新は随時行います)


2016年05月11日

いびきくんの旅

 夜ねむっていると、いびきくんはとつぜん目をさまします。ふだんは、ねむっていてぜんぜん気づかないのに。
「ああ、よくねむった」
そういって、大声をはりあげて歌いはじめます。
 ガーガー、ムニュムニュ、ガーガー、ムニュムニュー
その声に、ねむっている人もおどろいて目を覚ますことがあります。
でも、となりでねむっている人は、すごい迷惑です。
「ああ、またおこされた」
そういって、耳栓をつけます。
 いびきくんは、まったく人にすかれません。
「ここじゃ、気持ちよく歌えないな」
そういって、こっそり、家を出て行きました。
夜道をあるきながら、いびきくんがやってきたのは、一棟のマンションです。
階段をのぼっていくと、友だちのいびきくんの声が聞えてきます。
鍵穴からすーと中へ入ると、
「やあ、いい声だね。散歩にいかないかい」
「いいな。じゃあいこうか」
ふたりで出かけていきました。
 橋の下をあるいていると、みすぼらしいダンボールの小屋から、
 ガーガー、ムニュムニュ、ガーガー、ムニュムニュー
覗いて見ると、ホームレスの人が眠っています。
「きみも、散歩にいかないかい」
そのいびきくんもついてきました。
 次に行ったのは、キャンプ場でした。
テントの中から、いびきくんの声がきこえてきます。
覗いてみると、男の人が酔っぱらって眠っていました。まわりにはビール缶がたくさん転がっていました。
「散歩に行かないかい」
「いいよ。行こう」
別のテントにもいって、
「散歩に行こうよ」
みんなついてきました。
歩きながら、いきびくんたちは大声をはりあげて歌いました。
 駅の前を通ったときです。待合室からもいびきくんの声がしました。
「散歩にいかないかい」
「ああいいとも 行こう」
 みんなで大きな声で歌っていると、交番のお巡りさんが聞きつけてやってきました。
「すごい騒音だ。全員逮捕だ」
お巡りさんに追いかけられて、いびきくんたちがやってきたのは山の洞穴でした。
真っ暗な洞穴の中へ入って行くと、みんな走り疲れて眠くなってきました。みんな眠りはじめました。
ところが、洞穴の中では、びんびんといびきくんたちの声が跳ね返ってきます。
「うわあ、うるさくて眠れない」
いびきくんたちは、やっとわかったみたいです。みんな家に帰って行きました。
 それからは、夜はあまり大声で歌わなくなりました。


mouthbreathing_snore_girl.png


(未発表童話です)









(記事の更新は随時行います)


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