2017年11月11日

雲の上の魔法使いのお城

 退職して暇をもてあましていた男の人が、自分の家の庭に塔を建てました。
「高い所からの眺めはきっとすばらしいだろう」
 レンガを買ってきて毎日積んでいきました。
 ひと月で、塔の高さは十メートルになりました。てっぺんに登って町を眺めました。
「よく見える。でも海がまだ見えない」
 さらにレンガを積みたして三か月後に、三十メートルの高さになりました。
「まだ、まだ、よく見えない」
 毎日レンガを積みながら、数年が経ちました。
塔の高さは、数百メートルになり、曇りの日には雲の底に付くくらいになりました。
 あるとき驚きました。海の沖の離島に巨大な塔が建っていました。その塔も毎日高くなっていました。
「誰が建てているのかな」
望遠鏡で眺めてみました。
「あれえ、あいつだ」
塔を建てていたのは、昔、同じ会社で働いていた同僚でした。海が好きで、退職したら島で暮らしたいといつも言っていました。
 島の木を切って丸太を組んで積あげていました。
 ある低い雲が垂れ下がる日でした。雲がすっかり塔を包んで見えるのは雲ばかりでした。
「いやあ、何も見えない」
 思っていると、雲の向こうから声が聞えてきました。
「おーい、いまからそっちへ行くからな」
「えーっ、ひょっとしてお前か」
「そうだ。おれだ」
 雲の上を歩いてきたのは、島に住んでいる昔の同僚でした。向こうも望遠鏡で毎日こちらを観ていたのです。
「久しぶりだな。元気そうじゃないか」
「いやあ、何年ぶりかな」
 二人は、雲のベンチに腰かけて昔話に花を咲かせました。
 しばらくして、雲の隙間に大きな建物が見えました。
「お城だ」
「誰が住んでいるのかな」
「行ってみるか」
「行ってみよう」
 雲の上をテクテク歩いてお城の門までやってきました。
 門をくぐり、玄関のところへきました。
 扉を叩くと、中から鍵を開ける音がしました。
 ギィーーーーーーーーーーー。
 扉が開いて出てきたのは、80歳くらいのお婆さんでした。
「あんたら、どこからやって来なさった。なにか用かね」
「りっぱなお城なんで、ちょっと中を拝見させていただきたい」
「見も知らぬ人を中へ入れるのは気に入らんが、まあ、少しだけならいいじゃろ」
 男たちは、お城の中へ入れてもらいました。
 広い居間に通されて、ソファーに腰かけていると、お婆さんがワインを持ってきてくれました。
「年代物のいいワインですがな。どうぞ召し上がれ」
 ちょっと生臭い味でしたが、全部飲んでしまいました。
 ところがワインを飲んだあと、男たちは眠ってしまったのです。
 気がつくと、お城の暗い倉庫の中の鳥籠にいました。
「たいへんだ、カラスに姿が変わっている」
「これからどうしよう」
 考えていると、すぐ隣に置かれた鳥籠の中から、
「どうか助けて下さい」 
 覗いてみると、中に小鳥がいました。
「私は、魔法使いのお婆さんの魔法で小鳥にされました。魔法をとくにはお城の中庭に植えてあるオリーブの実を食べなければいけません」
「それじゃ、もってきてあげよう」
 男たちは、なんとか隙をねらってここから抜け出そうと思いました。
 夕方になり、黒マントと黒い帽子を被ったお婆さんが餌を持って入ってきました。
「さあ、お食べ。たっぷり栄養を取るんだ。お前たちの血でおいしいワインを作るから」
 鳥籠の扉が開いたとたんに、カラスはさっと逃げました。お婆さんは慌てて追いかけてきましたが、見失ってしまいました。
「ちくしょう、あとでかならず捕まえてやるから」
 お城の中庭へ飛んで行くと、オリーブの木がありました。実を食べてみると、不思議です。身体がずんずん大きくなって人間の姿に戻りました。
「よかった、魔法がとけたんだ」
「じゃあ、あの小鳥にも食べさせてあげよう」
  朝になり、お婆さんが小鳥に餌をやりに倉庫へやってきました。餌をやっている隙に男たちは中へ忍び込みました。
 お婆さんが出て行くと、オリーブの実を小鳥にやりました。
するとどうでしょう。小さな小鳥が、みるみる大きくなって、美しい女性に変わりました。
「ありがとうございます。私はとなりの国の王女です。旅の途中、このお城に泊まったとき、お婆さんに閉じ込められました」
「そうでしたか、じゃあ、一緒にここから逃げましょう」
 王女から、もう一口オリーブの実を食べるように言われました。
 食べてみると、不思議なことに、顔の皺はなくなり、髪の毛もふさふさ生えて、20代の若者になりました。
「いやあ、驚いた。こんなに若返ったら、あんなお婆さんなんかすぐに退治できるな」
「じゃあ、夕食を持って来たらやっつけよう」
 夕方になり、お婆さんが倉庫へやってくると、二人がかりで飛びかかりました。お婆さんは慌てて倉庫の中を逃げ回りましたが、すぐに捕まって縄でぐるぐる巻きにされました。
「頼むよ。どうか見逃してくれえ。何でもやるから」
 魔法使いのお婆さんはずいぶん資産家でしたから、あちこちから盗んできた金、銀、プラチナ、宝石のほかにも、最近はじめた株式やFX、ビット・コイン(仮想通貨)の取引きで儲けた大量のお金を持っていました。
「じゃあ、資産の半分をいただくよ」
そういって、金庫室から宝物を貰ってきました。
宝物を入れた袋を担いで、三人はお城から出て行きました。
 しばらくすると、魔法の箒に乗ったお婆さんが、物凄い剣幕で追いかけてきました。
「まてえー!、いまいましい奴らだ。絶対に捕まえて、もう一度閉じ込めてやるから」
 雲の向こうに男たちが登ってきた塔が見えました。塔のところまでやってくると、三人は梯子を降りました。降りるときに、塔のてっぺんに蓋をして、しっかり鍵を掛けました。
 あとからお婆さんがやってきましたが、蓋がしめてあるので梯子で降りることが出来ませんでした。お婆さんは諦めてお城へ帰って行きました。
 家に戻ってきた三人は、貰ってきた宝物を山分けしました。
「おれは、この宝物を売ったお金で大型のクルーザーを買うよ」
「私は、マンションを買うわ」
「おれは世界旅行をするよ」
 そういってみんな別れました。

 

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(未発表童話です)

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2017年10月31日

たいくつな仏像

 山のお寺に、古い大きくてりっぱな仏像が置かれていました。あまり奥深い山だったので、いつしか忘れられて、誰も拝みに来る人はいませんでした。
「ああ、たいくつだ。だれかやってこないかなあ」
 あるとき猿がやってきました。
「仏像さま。高い所からの眺めはどうですか」
「山ばかりで何も見えやせん」
 仏像は、身体を前後左右に動かしました。
「ああ、身体が凝ってしかたがない。いつも同じ姿勢でいるからなあ」
「それじゃあ、身体をほぐしてあげましょう」
 猿に肩や腕や足や腰をほぐしてもらいながら、仏像は満足そうです。
「ああ、気持ちがいい。まるで極楽じゃ」
 それがやみつきになって、週に一度は猿に身体をほぐしてもらっていました。
 ある日のことです。山道を誰か登ってきました。お寺へやってきたのは、村のお百姓さんたちでした。
 仏像は、いつものように寝そべって、猿に身体をほぐしてもらっていましたが、足音が聞えてきたので急いで身体を起こしました。あまり慌てていたので背筋を思いっきり伸ばして正座をしました。 
「ああ、これが三百年も昔に作られた仏像さまか。なんて礼儀正しい仏像さまだ」
「町へ持って行ったらみんな驚くな」
「そんじゃあ、近いうちに町へ移すことにしよう」
 お百姓さんたちが帰ったあと仏像は、
「嬉しいことじゃ、町のお寺へ行けるとなれば参拝者も多いだろう。もうたいくつすることもない」
 その年のうちに仏像は、町の大きなお寺に移されることになりました。
お寺の広いお堂に置かれた仏像は、満足そうな様子でいつも正座をして座っていました。
 このお寺には、山と違って毎日たくさんの人がやって来るので仏像はいつもニコニコ顔です。
「よかった。仏像に生まれた甲斐がある」
 だけど、いつも正座をしてるので足がだんだん痛くなってきました。
「ああ、このまま何百年、何千年もこうやって正座をしてるのもたいへんだ」
 夜になると仏像は、だれもいない静まり返ったお堂の中で、思いっきり足を伸ばしました。
「ああ、あちこちピリピリしてる。きょうも疲れた。猿がいてくれたらほぐしてくれるのになあ」
 仏像は、山のお寺のことを懐かしそうに考えていました。 


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(自費出版童話集「本屋をはじめた森のくまさん」所収)

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2017年10月19日

気の弱い殺し屋

 江戸の町に殺しを業務とする店があった。表向きの商売は研ぎ屋であった。
 ある日、殺しの仕事が入り、だれが引き受けるか親方の家にみんな集まった。
「明日の晩、越後屋のバカ息子を斬る。太郎兵衛、おぬしに任せる」
「あっしがですかい。きのうこちらへ来たばかりです」
「初仕事だ。がんばってみい」
「刀が研いでありません」
「今夜のうちに研げる」
「まだ人を斬ったことがありません」
「だから、お前にまかすのだ」
「場所がよく分かりません」
「いまから確認してこい」
「向かってきたらどうしましょう」
「そのときは頭を使って対処しろ」
 問答が続いたあと、とうとう行くことになった。
 翌日の晩、親方が太郎兵衛の帰りをじっと待っていると、越後屋の主人が尋ねてきた。
「ごめん。尋ねるが。息子に斬れない刀を売りつけたのはお前とこの店員か」
「え、売りつけた?」
「そうだ。研ぎ方が下手くそで、ぜんぜん斬れんといっている」
 主人が帰ってから太郎兵衛が戻ってきた。
「親方、すいません。越後屋の息子が2メートルもある大男だなんて聞いてなかったもので、頭を使って逃げてきました」



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(未発表童話です)

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2017年10月09日

カニの床屋さんの失敗

 竜宮城の竜王さまが、ある日、家来のタコにいいました。
「明日の夜、竜宮にお客がみえるから、床屋を呼んできてくれんか。何年も切っとらん頭をさっぱりさせたい」
「はい、竜王さまかしこまりました」
 タコは、さっそく浜へ行きました。
浜につくと、(カニの床屋)と書かれたたくさんのお店がありました。
 タコは一軒、一軒お店をまわって、用件をいいました。
「はい、承知しました。ではさっそくまいります」
 タコに案内されて、カニの床屋さんたちは、みんな竜宮城へ行きました。
「いやあ、来てくれたか。ごくろう、ごくろう。ではさっそくチョッキン、チョッキンをたのむよ」
 竜王さまは鏡の前にふかぶかと腰かけました。
「では、さっそくとはじめます」
 カニの床屋さんたちは、頭の上によじ登ると、チョッキン、チョッキンと軽快な音をたてて散髪をはじめました。
 だけど、竜王さまの頭はカニたちの何十倍もありますから、髪を切るのもずいぶん時間がかかります。
 夕方になって、その日は半分だけ仕事が終わりました。
「みんなごくろうだったな。残りの分は明日にまわすことにして、今夜は竜宮でゆっくりくつろいでくれ」
 日が沈んでから、カニの床屋さんたちは竜宮城の夕食会に招待されました。
深海のめずらしい魚料理を食べたり、きれいな女中さんにお酌をしてもらって、ずいぶんお酒も飲みました。その夜はみんなぐでんぐでんに酔っぱらって、口からプクプク泡を吐きながら、すぐに眠ってしまいました。
 朝になって、みんな仕事の続きをはじめました。
 ところが、昨夜のお酒がまだ残っているようで、チョッキン、チョッキンの音も軽快ではありません。中にはウトウトと居眠りしているカニもいて、なかなか仕事もはかどりません。
 そんなことなど知らない竜王さまは、昼寝をしながら楽しそうに待っていました。
 夕方になって、家来のタコがやってきました。
「竜王さま、お客さまがお見えになりました」
 目を覚ました竜王さまは、
「そうか、お通ししてくれ」
といって、鏡に写った自分の顔を観ました。
「なんじゃあ!この頭はー!」 
 竜王さまは本当に驚いてしまいました。
頭髪のところどころがまだら模様になっていて、長さも滅茶苦茶で、まるでトラの毛皮のようです。
 竜王さまは、タコを呼び寄せると、すぐにカツラを持ってくるように命じました。こんな頭ではとてもお客さんに会うわけにはいきません。
 翌朝、カニの床屋さんたちは、しょんぼりした顔で浜へ帰ってきました。みんな床屋の看板を取り外すと店を閉めました。竜王さまから床屋の営業許可を永久に取り消されてしまったからです。
 カニたちは別の仕事を探しましたが、床屋さんほどぴったりの仕事はなかったので、どんな仕事についても長続きせず、今でも浜をぶらぶらしているのです。



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(自費出版童話集「本屋をはじめた森のくまさん」所収)

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2017年09月27日

猫になった男

 いつも昼までねむっていた男の人が、ある日、家の屋根の上で目が覚めました。
「ニャーオ、よくねむった、あれ?」
へんな声がでたので、びっくりして立ち上がりました。
「猫だ。猫に変身してる」
 それからは猫の生活がはじまったのです。すごく身軽になって、高い所までジャンプが出来るので、普段いけないような場所にも行けました。家々の屋根を歩き回って、お腹が減けば、家に忍び込んで夕飯のサンマや刺身なんかをごちそうになりました。また、トラックの荷台に乗って、この町の動物園に行って、飼育係から魚をもらったりしました。
 食べ物はゴミ箱の中にもたくさんあるので、人間のように働かなくてもいいので安心でした。でも、ライバルはたくさんいました。近所で一番ケンカの強いボス猫にばったり出会って何度か絡まれたことがありました。 
 ある日、物置の屋根の上で昼寝をしていると、カラスが飛んできて、こんなことを教えてくれました。
「となり町にサーカスが来てるから観に行ったらどうだい」
「サーカスか、じゃあ、いってみようかな」
 走ってきた軽トラックの荷台に飛び乗って、となり町に行くと、公園のすぐ近くの原っぱに大きなテントが立っていました。テントの中は賑やかで団員たちがいろんな演技を観客たちに披露していました。
 空中ブランコを観たり、動物の曲芸を観たり、その日は楽しい時間を過ごしました。
 サーカスが終わって、檻のそばを歩いていたときクマに話しかけられました。
「お前もサーカスに入らないか」
「なんにも芸ができないからだめさ」
 断ったけど、興味があったので、翌朝、動物たちの練習を観に行きました。
動物たちは玉乗りをしたり、輪潜りをしたり、綱渡りなどをしていました。綱渡りが面白そうだったので、一緒に渡ってみました。
 観ていた団長さんが、
「猫の綱渡りは受けそうだ。訓練させよう」
 すぐに決まって毎日訓練をやらされました。
練習が終わると、夕飯もたっぷりくれました。
 そんなわけで、このサーカスで働くことになったのです。
日本中のあちこちの町へ行って、たくさん興行をやりました。
「来週はどこへ行くのかな」
動物たちはみんな楽しそうです。
 ある港町で興行をやっていたとき、港の方から船の汽笛が聞えてきました。行ってみると、世界を周っている客船が入港していました。
 船着き場に行って、客船のデッキの上を眺めていると、青い目をしたペルシャ猫が「こっちへこいよ」と呼んでいます。
 梯子を登ってデッキへ上がって行くと、ペルシャ猫がにこにこしながら、
「どうだい、君も一緒に世界を周ってみないかい」
「面白そうだな、じゃあ、行ってみようかな」
 サーカスのみんなには迷惑をかけますが、猫は翌朝、客船に乗って港から出て行きました。人間ではないので、船賃もパスポートもいらないので大助かりです。
 船は西周りの航海を続けました。フィリピンや東南アジアの国々を周って、インドにも行きました。出港して二、三日は船酔いで気分が悪くなり、部屋でじっと寝ていましたが、それが過ぎると船室から出て、デッキの上を歩き回りました。海の景色はきれいでしたが、ものすごく暑いので、いつも日陰で寝そべっていました。
 長い航海が終わって、入港したのはペルシャ(イラン)の国でした。ペルシャ猫とご主人に連れられて向かったのは広大な砂漠がまじかに見える大邸宅でした。まるで宮殿のような建物でした。
「いやあ、きっとご主人は大金持ちだな」
 猫が思ってたとおり石油王でしたから、想像できないくらいの資産を持っていました。
 屋敷は広くて、部屋の数は50ほどもあり、召使も15人くらいいました。部屋の中はクーラーがよく冷えてとても快適です。部屋には金製の置き物、りっぱな絵画、彫刻などあり、美しい刺繍を施した見事な絨毯がひかれた長い廊下をいつもペルシャ猫と散歩しました。夕食も豪華で、人間が食べる料理よりも贅沢でとても美味しいのです。
 ご主人は、毎晩のように宴会を開きました。町から芸人を呼び寄せて、手品や綱渡り、火の棒を飲み込む芸や踊りなど観て楽しんでいました。猫になった男も、床に寝ころんで楽しそうに観ていました。
  ある日、屋敷のベランダで寝そべっていると、砂漠の向こうから旅芸人の一座がトラックに乗ってやってきました。
 ご主人は、さっそく旅芸人たちを屋敷へ呼びました。
「見てのとおりの小さな旅一座ですが、素晴らしい見世物はたくさんありますよ。今夜、お屋敷でお見せいたしましょう」
 その日の夕方のことでした。猫が夕食を済ませて廊下を歩いてると、廊下の向こうから座長とアブドーラ・ザ・ブッチャ−みたいな二人の大男がひそひそ話をしながら歩いてきました。
「いいな、この屋敷の宝もいただきだ」
「手筈は整ってますよ」
 この旅芸人たちは、砂漠のいろんな所で盗みをしている泥棒芸人でした。
今夜大広間で見世物をやっている最中に、座員の中の数人が金庫室に入ってお金を盗むのです。
 夜になりました。この一座の一番の見世物は、美しいダンサーたちの踊りでした。キラキラと輝く色とりどりの見事な衣装を身に着けたダンサーたちが妖艶なベリーダンスを披露するのです。大広間に集まった屋敷の人たちはみんなその踊りに釘づけになって観ていました。
 その様子を確認すると、座長が目で二人の男に合図をしました。
男たちは、屋敷のあちこちの部屋に忍び込んで、お金や高価な品物を盗んでいきました。
 猫は男たちの様子が変なので、あとをついて行き、じっとその様子を見ていました。
「みんなに知らせよう」
 猫は大声で、ニャーオ、ニャーオと鳴きはじめたのです。男たちは驚いて、猫を捕まえようと追いかけてきました。
 猫は屋敷を出て、砂漠の中を逃げて行きました。でもしばらく大男のひとりがいつまでもあとを追いかけてきました。
 やがて追っ手をくらまして帰ろうとしましたが、遠くまで逃げて来たので、帰り道が分からなくなりました。それにずいぶん走ったので喉もカラカラでした。
「いつまでもこんなところにいたら、朝になって日が昇ったら焼け死んでしまう」
 夜遅くになってから、丘の上にオアシスを見つけました。ヤシの木のそばに井戸がありました。
「よかった、あの井戸の水を飲もう」
 井戸の中を覗き込むと、水が上の方まで溢れていました。水をたくさん飲んでしまうと、ようやく元気が出てきました。でも頭はぼんやりしていました。
 ふと、水の中に宝石が沈んでいるのに気づきました。それから猫の顔が人間の顔に変わっていることにも気づいたのです。
「不思議な井戸だ。人間に戻れてる」
 あまり宝石が美しかったので、両腕を水の中へ入れて取り出そうとしたとき、足がぐらついて井戸の中へ落ちてしまいました。
 水は勢いよく下の方へ引いていき、そのまま身体も沈んでいきました。
あとから考えると、単なる星だったのですが、疲労でそんな風に見えたのです。
 気がつくと、人間の姿に戻った男の人は、自分の家のお風呂の湯船の中でウトウトしていました。
 お風呂の窓ガラスの外には、砂漠で見ていたようなきれいな星がキラキラと空に輝いていました。



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(未発表童話です)

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2017年09月16日

天国への長い階段

 天寿をまっとうして、天国の長い階段を登って行くふたりのおじいさんがいました。
「やれやれ、天国はずいぶん遠いところにあるんだな」
「ああ、向こうは雲ばかりで、何も見えない」
「どおれ、あの階段のところで一休みしよう」
 ふたりのおじいさんは、その場所へやってくると階段の上に腰を下ろしました。
「ずいぶん登ってきたな。わしらが暮らしていた家がずいぶん小さく見える」
「よくあんな小さな家で長い間暮らしてきたもんだ。きっと天国には、大きくてりっぱな家がたくさんあるに違いない」
「お茶でも飲むか」
「ああ、飲もう」
 持ってきた水筒を取り出して、コップにそそぎました。
「でも、なんだなあ。天国へ行くのにこんな長い階段を登らされるなんて夢にも思っていなかったな」
「そうだなあ、エレベーターかエスカレーターで簡単に行けると思ってたのになあ」
「こんなことだったら、体力のある若い時に死んだ方がよかったな」
「ああ、ジョギングしながらでも登れたなあ」
 一休みがすんでから、またおじいさんたちは階段を登っていきました。
 しばらくしたとき、雲の下から気球が登ってきました。
「ゴンドラの中に人が乗ってるな」
「どこかで見たことがある人だな」
「思い出した。毎日、町内のドブ掃除や草刈りをひとりでやってた人だ」
「そうだったな、誰もやらない善いことを長年やってた人はああして楽に天国へ行けるんだな」
「わしなんか、いつもさぼっていたからなあ」
 すると、あとから別の気球が登ってきました。
「あれは誰だろう」
「ああ、あの人はアフリカへ行って医療の仕事をしていた人だ。エボラ出血熱の治療をしてたくさん現地の人たちを救った人だ」
「おれたちには絶対できないことだなあ」
「世の中で人の役立つことや、何かに貢献した人は、気球で天国まで連れて行ってもらえるんだ。うらやましいな」
「おれたちなんかただ長生きしたってだけだからなあ」
いいながらおじいさんたちは、また階段を登っていきました。だけど天国の門はぜんぜん見えません。
 しばらく行ったとき、階段のあちこちに空き缶と空のパックが捨ててありました。
「誰だい、こんなところにゴミを捨てたやつは」
「罰があたるな、どおれ拾って行こう」
 おじいさんたちが、ゴミを拾っていたとき、下の方から空っぽの気球が登ってきました。
「あれ、ゴンドラには誰も乗ってないぞ」
「おれたちが乗ってもいいのかな」
「ゴミを持って登るのも大変だから、いいさ」
「じゃあ、乗って行こう」
 おじいさんたちはゴンドラに乗ると、階段の上をふわふわと登って行きました。
 
 こちらは雲の上にある天国です。
 水晶のように透き通った御殿の窓から神さまが、おじいさんたちの様子を、さっきからじっとご覧になっていらっしゃいました。
 ふたりが空き缶と空のパックをちゃんと拾うかどうかを。もし拾わなかったら、いつまでも階段を登らせようと思っていたのです。もし空に投げ捨ててしまったら、そのまま地獄へ突き落そうとさえ考えていました。
 でも、階段のゴミをきれいに拾ったのを確認すると、満足そうなお顔をなさりながら、気球が天国へ登って来るのを楽しそうに待っていました。
 


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(未発表童話です) 

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2017年09月06日

何でも作ってくれる工場

 何でも作ってくれる便利な工場がありました。世界中からいろんな注文が入ってきます。
 アラスカからこんな注文がありました。
「食べられる自動車を作ってくれ」
 寒いところなので、チョコレートの自動車はたいへん便利です。
もし大吹雪にあったら、自動車を食べて助けを待つことができるからです。
 山に住んでる人たちからもこんな注文が入ってきました。
「食べられるログハウスを作ってくれ」
山崩れやがけ崩れが起きて山から降りられなくなったとき、家を食べて待つそうです。
 アフリカからは、こんな注文がありました。
「太陽電池を使った冷蔵庫、洗濯機、クーラー、川を渡るカヌーに取り付ける太陽電池式船外機、自動車、耕運機」など。
 マサイ族からは牛を売るので、太陽電池で動く家畜用のトラックを作ってくれと注文もありました。
 ヨーロッパからは、子どもたちのおやつにもなる、
「黒と白のキャンディで作ったオセロゲーム」、「果物や野菜で作った子ども用の楽器」、「飴の野球ボール」、「黒パンで出来たグローブ」、「サトウキビで作ったバット」など様々です。
クリスマスシーズンになると、こんな注文が殺到します。
「チョコレート、キャンディ、ドロップスで作ったクリスマスツリー」、「スポンジケーキで出来たサンタクロース人形」、「子どもが飲めるノンアルコールシャンパン」など。
 最近では、人口知能ロボットを利用したこんな注文が多くなっています。
「本を読んでくれるロボット」、「似顔絵を描いてくれるロボット」、「手品も見せてくれるロボット」、「宿題をやってくれるロボット」、「子守りをしてくれるロボット」、「危険を知らせてくれるロボット」(フライデーみたいな)など。
 このほかにもいろんな機能を備えたロボットの注文が多くなっています。



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(未発表童話です)

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2017年08月26日

電気が流れる黒板

 ネットゲームばかりに夢中になって、ちっとも勉強しない子供がいる学校がありました。
 先生たちは相談して、工場から特注の黒板を取り寄せました。
「この黒板を使えば、クラスの成績は上がるだろう」
 新しく取り付けられた黒板の前で、さっそく授業がはじまりました。
算数の問題が出されて、子どもたちが順番に黒板の前に立って問題を解きました。
 正解だと何も起こらないのですが、間違えてると50ボルトの電流が流れます。
 子供たちはビリビリが怖いので、それからは先生の授業を真面目に聞くようになりました。
 親からも子供たちの成績が上がったので、みんな喜んでいました。
 ところが困ったことが起きました。
 社会科の授業中、先生が歴史年号を書き間違えて100ボルトの電流が流れました。
「いやあ、驚いた」
 またあるときは、国語の授業中、啄木の名前を琢木と書き間違えた先生も100ボルトの電流が流れました。
 頻繁にそんなことが起こるので、先生たちも命がけで授業をしなければならなくなりました。
 工場に問い合わせてみると、
「黒板にはAI(人口知能)が取り付けてあるので、絶対に間違わないようにして下さい」
と言われました。
 どんな小さなミスでも見つけて電気を流すので、先生たちもビクビクしながら、
「前に使ってた黒板の方がよかったなあ」
とみんな後悔していました。

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(未発表童話です)

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2017年08月15日

空飛ぶラーメン屋

 サラリーマンを辞めて退職金で熱気球を買った男の人が、ラーメン屋の屋台をぶら下げて、風船おじさんのように世界の国を周りました。
 太平洋を渡っていたとき、ある無人島にたちよりました。
日本の刑務所を脱獄してこの島へ逃げて来た囚人が、ヤシの葉っぱで作った小屋にひとりで住んでいました。あるとき空の上を飛んでいく熱気球を見つけて手を振りました。
「おーい、一杯食わせてくれ」
日本食を長い間食べていなかった囚人は、空から降りて来たラーメン屋にさっそく作ってもらいました。お金を払ってくれるのか心配でしたが、ちゃんと払ってくれました。
 ハワイのカウアイ島の上空を飛んでいたとき、岬の岩の上で絵を描いていた人に呼び止められました。
「いつもカップラーメンしか食べていないので、一杯たのむよ」
 その人は定年退職してハワイへ移住し、毎週この岬にやって来て海の風景を描いていました。食べ終わると小さな油絵をくれました。屋台の中に油絵を飾って、空の上に登って行きました。
「ラーメンを売るなら、寒い国の方が儲かるな」
そう決めると進路を北よりに向けました。プロペラと舵の付いた熱気球ですからどこへでも自由に飛んで行けるのです。
 やがてやってきたところは、カナダのバンクーバーでした。
空の上は寒いので、革のジャンパーを買うことにしました。
町の公園に降りて、近くの洋服店でバッファローの革ジャンを買ってきました。ついでに燃料も積み込みました。
 公園に戻ってくると、熱気球の周りにたくさん人が集まっていたので商売をはじめました。ラーメンは飛ぶように売れて、また空へ登って行きました。
 ラジオでカナダ全域の天気予報を聞いてからコロンビア山脈を越えて、広大なカナダの平地を横断していきました。
 寒くて飛んでいられないときは、地上に降りてテントを張りました。毎日手製のラーメンばかりでは飽きるので、川で魚を釣って塩焼きにして食べたりしました。サケを食べに川の近くを歩いている熊を何度か見かけたこともありました。すぐに逃げられるように、気球はいつも膨らませた状態にしておきました。
 カナダを横断中は、いろんな町へ降りて屋台を出したので売れ行きは好調でした。
 一週間後にはカナダ東部まで進んで、前方にハドソン湾が見えてきました。広大な湾の上空を飛んでいると、一隻の釣り船が浮かんでいて手を振っていました。
「おーい、ラーメン三杯頼むよ」
いつもお湯は沸かしてあるので、すぐにラーメンを作って、出前用のケースにラーメンを入れてロープで降ろしました。
 食べ終わると、お礼だといってお金と一緒に釣り上げた大きなサーモンをくれました。
 ハドソン湾を通り過ぎていくと、やがて遠方に北大西洋が見えてきました。進路をそのまま東に向けて海の上をどんどん進んで行きました。天気が次第に悪くなり、海はシケて、風が冷たいので絶えずお湯を沸かして飛びました。熱気球はずいぶん揺れました。
 やがてグリーンランドの南端を通過して、アイスランドが見えてきました。この地点は北緯60度付近です。天気は回復しましたが、上空は風が冷たいので、海面から300メートルの高さで飛びました。途中、シャチやクジラの一群を何度も見ました。
 アイスランドの上空を飛んでいたとき、畑で草刈りをしていた農家の人たちが手を振っていました。
「よかった、お腹が空いてたところなんだ」
 原っぱに降りて、さっそくラーメンを作りました。農家の人たちはみんな屋台の前に立って、出来るのをうれしそうに待っていました。
 食べ終わると鶏を三羽くれました。ちょうど鶏の肉が少なくなっていたので助かりました。
 アイスランドを出た頃から頻繁に咳が出て困ったので、少し南へ行くことにしました。数日後、行く手にスコットランドが見えてきました。
「フィンガルの洞窟」で有名なヘブリディーズ諸島のスタファ島に降りて洞窟を探検に行きました。
 観光客が多かったので、洞窟の近くで商売をしました。ここでもよく売れました。
 ここには三日ほどいて、今度はスコットランドを通過して北海に入り、南に進んでオランダに行きました。オランダでも屋台を出しました。農村地帯を南へ向けて飛んでいくと、風車がたくさんあり、チューリップ畑が遠くまで広がっていました。とても美しい眺めだったので持ってきたデジタルカメラで写真をたくさん撮りました。あまり夢中になっていたので、高度が下がりすぎて、何度も風車にぶつかりそうになりました。
 オランダ国境を越えて、次に行ったのはドイツです。ロマンチック街道へ行く標識を見つけたので、そのまま街道の方へ南に飛んでいきました。ロマンチック街道の周囲には美しい中世の街や古城がたくさん見えました。ブドウ畑もたくさん広がっていて、秋になるとおいしいブドウが熟します。所々にワイン工場もありました。広い原っぱがあったのでそこに降りて屋台を出しました。
 農家でラーメンに入れるタマネギ、キャベツ、麺を作る小麦粉を安く売ってもらったり、養豚場と養鶏場へ行って豚肉、鶏肉、卵を買いました。ついでに本場のドイツワインも買ったりしました。
 街道をさらに南に下って行くと南ドイツアルプスが前方に見えてきました。
(白鳥の城)と呼ばれているノイシュバンシュタイン城の中庭に着地して屋台を出しました。山道を登ってきた観光客たちは屋台を見つけると、お腹が空いていたのか喜んで食べてくれました。
 リヒャルト・シュトラウスが「アルプス交響曲」を作曲した山荘がオーストリアとの国境近くにあるということを聞いてそこへも見学に行きました。
 山にはホテルやレストランがたくさん建っていたので、着陸してレストランに入りました。アコーディオン演奏によるヨーデルが軽やかに流れていて、アルプスの少女ハイジみたいな可愛い服を着た金髪の女性がビールを持ってきてくれました。枝豆が欲しいところでしたが、美味しいソーセージが付いていたのでそれを食べてたくさん飲みました。
 ビールでだいぶ酔っ払ったので、その日は高原の原っぱにテントを張って寝ました。
 翌日はヨーロッパ・アルプスを東へ東へ進み、チェコスロバキアに入ってからコースを北よりに向けてポーランドに行き、ワルシャワにあるショパン記念館とキューリー夫人記念館を見学しました。それからベラルーシを抜けて、ロシアの国へ入りました。首都モスクワに向けて東へ飛んでいきました。
 モスクワにやって来ると、都心部にある「赤の広場」に降りて屋台を出しました。すぐに警官がやってきて、三日間留置所に入れられました。ソビエト時代だったらスパイ容疑で逮捕されて、シベリアの収容所に送られて森林の伐採作業をやらされるところでしたが、留置所に入れられたのは短期間ですみました。出るときは熱気球も屋台も返してくれました。留置所から出るとき一緒だった三十代くらいの男が、
「おれにもラーメンを食わしてくれないか」
といったので作ってやりました。
 その男はマクシム・ゴーリキーそっくりな顔をした小説家で、ロシア政府を批判する記事を自分のブログに書いていたので思想犯として取り調べを受けていたのです。これから「留置所の20日間」という本を書くのだといっていました。別れるとき男が出版した本を何冊かくれました。
 モスクワの食料品店でラーメンの材料を買い込み、ついでに燃料も積み込んでロシアの上空を東へ飛んでいきました。モスクワ中央気象台発表の天気予報によると、今月末にロシア北部で寒気が入って来る予想をしていました。1ヶ月予報ではロシア北部以外の地域で晴れ又は曇りの天気が多くなっていました。
「じゃあ、しばらくこのまま北緯55〜60度付近を飛んで行こう。寒気が入ってきたら南へ下がろう」
寒い地域では飛ぶようにラーメンが売れるので、しばらくこの緯度を飛んでいきました。
 十日も過ぎると、だんだん寒くなってきて頻繁に咳が出るようになり、北緯45度付近まで南下して、飛行高度も500メートルで飛びました。
 ロシアを横断中は、ところどころの地域に降りて屋台を出しました。観光名所にも降りて、お土産売り場でマトリョーシカ人形を買ったり、レストランで本場のバラライカの演奏を聴いたりしました。
 モンゴルでは、草原で馬に乗っていた遊牧民たちに呼び止められて、草原に着陸して屋台を出しました。もらった羊の肉でスープをとった羊ラーメンも作りました。テントの中に案内されて馬乳酒を飲みながら、馬風琴の演奏を聴いたり、モンゴルの民族舞踊なども見せてもらいました。
 朝青龍によく似た遊牧民の男が、
「おれたちにも日本のラーメンの作り方を教えてくれないか」
といったので教えてあげました。帰るときに羊の肉をたくさんくれました。
 中国に入ると、空気が汚れていて困りました。北京中央気象台と北京大気汚染監視センター発表の情報では、風が弱くてどこの都市でもスモッグで視界が悪いといっていました。
「仕方ないな。どこも視界が悪いのなら、このまま北京へ行ってみるか」
 進路を北京に向けて飛んでいきました。北京にやってくると市街地の川のそばの空き地に着陸して店を出しました。川はずいぶん汚れていて、動物の骨なんかが流れてきたので、仕方なく町の公園まで飛んで行って着地しました。近くには同業者の店舗もたくさんありましたが、日本のラーメンもよく売れました。
 北京にいる間は、「白蛇伝」の京劇を観に行ったり、ロック・コンサートへ行ったりしました。京劇では座席が楽団のすぐそばだったので頻繁に鳴り響く銅鑼(ドラ)の音で耳が痛かったです。
 ロック・コンサートからの帰りでした。街角で映画女優の章子怡(チャン・ツィイー)によく似た女性がサングラスをかけて歩いていたので、何気なくついて行くと、後ろからやって来た男に財布をすられました、幸い、財布の中には小銭しか入ってなかったのでよかったです。
 北京には一週間ほどいて、それから南京へも行って、台湾を抜けて日本へ帰ってきました。韓国へも行く予定でしたが、ラジオで北朝鮮がまたミサイルを発射したニュースが流れたので南のコースを取ったのです。
 日本へ帰ってきてから売り上げを計算しましたが、途中でずいぶん物を買ったり遊んだりしたので、あまり稼ぎになりませんでした。
 次の旅は、かき氷の屋台をぶら下げて、赤道付近の国やインド、アフリカ、南米などを周る予定です。



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(未発表童話です)

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2017年08月06日

豚と蚊取りブタ

 夜になって蚊がふえてきたので、蚊取り線香に火を着けました。
「うへえ、またこの匂いだ、たまんないな」
 そんなことをいってるのはブタの陶器です。
焼き物工場にいたときは、人形や置時計と一緒に、居間の棚の上でのんびり暮らせると思っていたのですが大きな間違いでした。お腹の中に蚊取り線香を吊るされて、おまけに火まで着けられて毎晩嫌な匂いを出すのです。
「こんなだったら、豚小屋の方がましだ」
 ある夜、蚊取りブタは煙を出したまま家から出て行きました。
 あぜ道を歩いていると、カエルが田んぼから飛び出してきました。
「どこへいくんだい」
「仲間がいるところさ」
「じゃあ、この道をまっすぐだ」
 歩いていくと養豚場に着きました。たくさんの豚たちが小屋の中でいびきをかいて眠っていました。
 トイレに行きたくて目を覚ました豚が、煙を出して小屋の中をのぞき込んでいるブタを見つけました。
「そんなところで、何やってんだ」
「仲間に入りたいんだ」
 豚は、眠っていたとき蚊に刺されて困っていたのですが、そのブタがそばに来てからはぜんぜん刺されません。
「中に入れてやってもいいけど、明日になったらソーセージやハムになっちまうぞ」
「えー、ほんと」
「ほんとさ、おれはたぶん来週だろうな。みんなよりも太っていて肉も柔らかいので上質のヒレかロースだな」
 蚊取りブタは震えあがりました。
「そんなのなしだ。すぐに帰ろう」
 そういって小屋から逃げて行きました。家にいたら食べられる心配もありません。
 翌日からは、いつものように家の中でのんびりと煙を出していました。



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(未発表童話です)

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