2015年11月11日

ゆうれいパトカー

 その田舎の国道を走るときは、道路交通法を十分に守って走らなければいけないのです。少しでも違反していると、すぐにゆうれいパトカーに追われるのでした。
 ある夜、この国道を、長距離トラックが時速70キロのスピードで走っていると、後ろから一台のパトカーがサイレンを鳴らして追いかけてきました。パトカーは、すぐにトラックの前方に入り込むと、スピードをゆるめて止まりました。
「しまった。速度オーバーだ」
 この国道の制限速度は50キロでしたから、20キロの速度違反でした。
トラックの運転手さんは、すっかりあきらめて、警官が出てくるのを待っていました。
ところがどうしたことでしょう。いくら待っても警官が出てこないのです。
 運転手さんは、なんだか気味が悪くなってきました。
でも、こんな所でいつまでも停車しているわけには行きません。時間どおりに荷物を届けないと行けないのです。
 仕方がないので、自分からパトカーのいる場所へ歩いて行きました。ところが、車の中を覗いて驚きました。運転席には誰も乗っていないのです。
「ひえー、ゆうれいパトカーだ」
運転手さんは、すっかり怖くなってその場所から走り去って行きました。
 そんな出来事の後も、何台もの法定速度を超過して走っていた車が、同じような体験をしました。そんなことがたびたびだったので、それからはみんなこの国道を走る時は、スピードを落として走りました。法定速度で走ってさえいれば、ゆうれいパトカーに追われることはなかったからです。
 また、この国道の一時停止の場所でも同じような体験をした車がありました。
 ある夜、残業を終えた会社員が、この国道の一時停止の場所で、徐行だけで通り過ぎようとしたとき、そばの空き地から突然ライトが点燈して、一台のパトカーが姿を現しました。
会社員は、すぐに車を止めて、もとの停止位置まで戻り、やり直しをしていると、ライトは消滅して、さっきのパトカーの姿はどこにもありませんでした。
こんなふしぎな出来事も、すぐに人の耳にも伝わりました。
それは車ばかりではありません。
 ある日、この国道の横断歩道を赤信号で渡ろうとしていたお爺さんのうしろから、
「赤信号ですよ。渡らないで下さい」
と拡声器で呼び止められました。
 びっくりしたお爺さんは、すぐにうしろを振り返ってみましたが、そこには誰もいませんでした。
「おかしいなー」
と思っていると、一台のパトカーが国道のはるか向こうへ走り去って行きました。
そんな不思議な場所だったので、もう十年以上もこの国道では、無事故、無違反の記録が続きました。
 この国道を走ってみると、ところどころに「ゆうれいパトカーに注意」の標識が立っています。

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(未発表童話です)

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2015年11月04日

伸びろ髪の毛

 たけくんのお父さんは、最近抜け毛で悩んでいました。頭髪の真ん中あたりが薄くなってきたのです。
「こりゃいかん。早いうちに処置しなくちゃ」
 翌日、お父さんは薬局へ行って育毛剤を買ってきました。
「よし、これで解決しよう」
 洗面所へ行くと、箱を開けて薬をつけはじめました。
ひんやりと気持ちよく、ぽんぽん頭皮に塗りつけていきます。
見ているたけくんに、
「今日だけじゃ、だめなんだ。毎日続けることが大切なんだ」
といって、その日からはかかさずに薬をつけるようになりました。
 三ヶ月もすると、お父さんの髪の毛は少しずつ黒くなってきました。
「どうだい。ほんとうにこの薬はよくきくだろ」
「うん、もう少しだね。まえのようにふさふさした髪になるといいね」
それからたけくんに弟ができました。なまえは、りょうくんといいます。とても元気な子でよく泣きます。
 ある日、たけくんは、りょうくんの髪の毛が薄いのに気づきました。
「これじゃ、大きくなったとき、お父さんみたいに苦労してかわいそうだな」
 たけくんは、お父さんの引き出しの中から育毛剤をもってきました。
「これをつけてあげたら、すぐ髪の毛が濃くなるぞ」
そういって眠っているりょうくんの頭に育毛剤をつけてあげました。つけながらお父さんがいったことを思い出しました。
「毎日続けることが大切なんだ」
そのことを思い出しながら、毎日りょうくんの頭に育毛剤をつけてあげました。
 ある日、お母さんが心配そうにいいました。
「ねえ、あなた。りょうくんの髪の毛、最近やけに濃くなったみたいね」
「ああ、そうだな。でも、うらやましいな。おれとどっちが早く濃くなるか競争だな」
 そばで聞いていたたけくんは、
「よおーし、りょうくん負けちゃいけないぞ」
といって、それからも毎日育毛剤をつけてあげました。
 半年がたちました。お父さんの髪の毛は、前のようにすっかりもとどおりになりました。
ところが、赤ちゃんのりょうくんの頭は、アビーロードの横断歩道を歩いているビートルズのメンバーのようなぼさぼさの長髪になりました。もちろんりょうくんの勝ちでした。
しかし、その後も、りょうくんの髪の毛は伸び続け、月に一度はかならず散髪屋へ行かなくてはならなくなりました。
「こりゃ、たいへんだ。一度、医者へ連れていこうか」
「そうね。そうしましょう」
 お父さんとお母さんの心配そうにしている様子を見ながら、たけくんは、
「これはちょっとやりすぎだったかな。でも、お父さん、お母さん心配しなくていいよ。もうりょうくんの頭に薬はつけないから」
そういって、育毛剤をつけるのをやめました。ひと月後には、りょうくんの髪の毛はそれ以上は伸びなくなったということです。 

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(自費出版童話集「びんぼうなサンタクロース」所収)

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(記事の更新は随時行います)



2015年10月21日

怪奇ミイラ男

 ピラミッドの中で二千年間眠り続けていたミイラが発掘されて、エジプトの博物館に収蔵されました。
「王家の息子に違いない。貴重なミイラだ」
毎日のように、町の人たちが、ミイラを見学にやってきました。ある年、このミイラは、日本の博物館へ移されて展示されることになりました。
 ある夜のこと、静まり返った館内の棺の中で、ミイラは長い眠りから目覚めました。そしてひとりごとをいいました。
「あ〜あ、ずいぶん眠ったなあ。お腹がぺこぺこだ。何か食べたいなあ」
 ミイラは、棺から抜け出すと、警備員に見つからないように、館内の窓のカギをはずして外へ出て行きました。
博物館の裏道を歩きながら、どこか食事ができるところはないか探してみました。しばらく行くと、交差点のそばに一軒のステーキ屋をみつけました。もう店じまいまじかだったので、お客さんはほとんどいませんでした。ミイラは、店に入ると、入口のそばの席に着きました。
 ウエイターが注文を取りにやって来ました。ところが客の姿を見てびっくりしました。
「お客さん、どこで怪我されたんですか」
 ミイラはその問いには答えずに、
「塩漬けステーキ2枚と、麦パン2枚それと白ワイン1本下さい」
とウエイターにいいました。
 ウエーターは、困った様子で
「お客さん、そんなメニュウはうちにはありません。お店のメニュウ表の中から選んでください」
 ミイラはメニュウを開きましたが、文字が読めません。仕方がないので適当に注文しました。
「かしこまりました。焼き具合はどういたしましょう」
「レアーでたのみます」
 しばらくすると、料理が運ばれてきました。ステーキソースはいままで味わったことがない美味な味でした。ミイラはひさしぶりの食事に大喜び。むしゃむしゃとあっと言う間にたいらげました。
お腹一杯になったミイラは、店を出ることにしました。
現金がないので、エジプト金貨を一枚ウエイターにわたしました。
 ウエーターは困った顔をしましたが、
「お客さん、今日はこのお金で結構ですが、次からは現金でお願いしますよ。うちは骨董屋じゃないもんで」
 支払いを済ませたミイラは、お店から出て行きました。
 それから4、5日たったある夜のことでした。ミイラはまたお腹がすいて目を覚ましました。
「あ〜あ、お腹がすいたなあ。今夜は何を食べに行こう」
棺から出ると、博物館の外へ出て行きました。
歩道を歩いて行くと、国道沿いに「びっくりドンキー」の看板を見つけました。
「ハンバーグか?。どおれ、どんな食べ物か食べてみよう」
 店に入ると、やっぱり閉店まじかで、数人しかお客さんはいませんでした。突然へんなお客が席についていたので、ウエイトレスはこわがって、店長にオーダーを取りにいってもらいました。
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりでしょうか」
ミイラはメニュウの写真を指差しながら、
「300グラムのハンバーグ2枚と、スープ、それに麦パン下さい」
とウエーターに注文しました。
 しばらくして料理が運ばれてくると、ミイラはむしゃむしゃと食べはじめました。二千年前のエジプトには、こんな珍しい肉料理がなかったので、ミイラは大満足でした。食事が済むと、支払いはやっぱりエジプト金貨でしたから、お店の人を困らせましたが、なんとか支払いを済ませて店から出て行きました。
 このようにミイラは、この町のレストランが気にいったとみえて、夜になると、たびたび博物館から抜け出して食事に出かけて行きました。
 ある晩、いつもの時間より遅く目を覚ましたミイラが町を歩いていると、どこも店は閉まっていた。
ミイラががっかりしていると、公園の真向かいにコンビニが見えました。
「あそこで食べ物を買おう」
 コンビニの中へ入ると、店員がびっくりしてミイラをじろりと見ました。ところが落ち着いていて、悪気もなさそうなので、しばらくじっと監視していました。
ミイラは、食べ物コーナーで、サンドイッチ3個と野菜ジュース2本を持ってレジへ行きました。
いつものようにエジプト金貨1枚を渡しましたが、店員が拒否したので困りました。
 そのときミイラのお腹がぐーっとなりました。こんなことはしたくはなかったのですが、商品を掴むとコンビニから逃げたのです。
その出来事が起きて以来、ミイラは指名手配される身となってしまったのです。コンビニの店員が警察に知らせたからです。
ミイラの似顔絵が、どの店にも張られました。ミイラもこれには大変困りました。もうレストランにもコンビニにも行けなくなったからです。
 がっかりしながらミイラが、ある晩近くの噴水のある公園のそばを歩いていたとき、いい匂いがしてきました。匂いのする方へ行ってみると、明かりの点った屋台のラーメンがありました。
「あそこで食べてみよう」
 チャーシューを切っていた主人は、暗闇の中からミイラが当然現れたので、思わず包丁を落としそうになりましたが、お客さんだと分かって、にこにこ顔で、
「いらっしゃい、どんなラーメンにいたしましょう」
 ミイラはしばらく考えてから、「この店で一番おいしいのを下さい」
と注文しました。
そしてラーメンが出来上がると、ミイラはさっそく食べてみました。スープが暑くて、おもわず舌を火傷しそうになりましたが、これまで食したことのない珍しい食べ物だったので、ミイラはそれからもたびたびこの屋台のラーメンに立ち寄りました。屋台の主人も、ラーメン一杯で、いつも金貨を一枚くれるので、いつも喜んでいました。
 ある晩、ミイラはこの町の飲み屋街の方へ出かけて行きました。そして道路脇で営業している、屋台のおでん屋を見つけました。
ミイラは、おでん屋がとても気にいったとみえて、よくここへもやってくるようになりました。珍しい熱燗とおでんを食べながら、いつもご機嫌でした。ミイラの好物は、卵とだいこんとちくわでした。日本酒もエジプトのワインとは違う奇妙な味で満足していました。
 ときどき酔っ払いがとなりに座って、ミイラの変な格好を見ながら、「あんた、怪奇映画の俳優かい、そんならサインしてくれ」と冗談交じりにからんでくる客もいました。
 ある晩、いつものようにミイラがこの屋台で、おでんを食べていると、二人の背広姿の男がとなりに座りました。にこにこしながら親しげに話しかけてきました。相手をしていると、突然、ミイラの両手をぐいっと掴んで、手首に手錠をかけました。二人は張り込みをしていた刑事でした。
ミイラは逮捕されて、すぐに町の警察署へ連行されて行きました。
蛍光灯の明かりが眩し過ぎる取り調べ室で、名前、住所、職業、年齢などを尋ねられましたが、訳のわからない返答ばかりするので取り調べの刑事さんも困りました。
取り調べの結果、博物館から抜け出したミイラということが判明して博物館に移されることになりました。一晩だけ、留置場に入れられましたが、夜食に、たくわん付きのカツ丼がでました。それを食べたのが最後になりました。
 博物館に移されたミイラは、棺の中へいれられて、しっかりと鍵をかけられました。ミイラはこれにはどうすることも出来ずに、仕方なくまた長い眠りにつきました。


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(文芸同人誌「青い花第24集」所収)

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2015年10月16日

りんごの木と小鳥たち

 ある家の庭に、りんごの木が立っていました。
いつも秋になると、たくさんの実をならしました。
ところがりんごの木は、自分が育てた実を誰かに食べられてしまうのがきらいでした。
「せっかく大きくした実だ。だれにもやんねえぞ」
 ある日、たくさんのひなを持つ小鳥のお母さんがやってきました。
「りんごさん、今年は山に食べられる実が少ないので、少しわけてください」
小鳥のお母さんは、あちこちさがしまわっていたので、すっかり疲れていました。
「いやなこった。だれにもやんねえぞ」
「そういわないで、わけてください。おさない子どもたちが巣でまっているのです」
「だめ、だめ、かえってくれ」
小鳥のお母さんは、かなしそうな顔をして飛んでいきました。
 ある日、山鳩のお母さんが、やっと飛べるようになった子どもの鳩たちをつれてやってきました。
「りんごさん、お願いします。この子たちに実を分けてやってください。たくさん栄養をとらせて一人前の鳩にさせたいのです」
けれども、りんごの木は、
「いやなこった。だれにもやんねえぞ。かえってくれ」
山鳩のお母さんは、それをきいてがっかりしましたが、
「それでは、この子のぶんだけお願いします」
といって、成長のおそい、元気のない病気がちな小鳩を見せていいました。
りんごの木は、それでも、
「いやなこった。だれにもやんねえぞ」といって断ってしまいました。
 ある晩、りんごの木がすやすやと眠っていたとき、夢の中で遠い遠い昔の日のことを思い出しました。
もう亡くなってしまったこの家のおばあさんが、はじめてりんごの木をこの庭に植えてくれた日のことでした。
おばあさんは、自分の子どもたちが大人になって町に住むようになってからは、ただひとりきりでこの家でくらしていました。
おばあさんは、りんごの木を育てて、実がなるようになったら、この家に遊びにきた孫たちに食べさせたいと思っていました。
それからおばあさんは、山に住む小鳥や鳩も好きでしたので、このりんごの木が実をつけたら、いつも山から小鳥や鳩たちがやってきて、寂しいこの家の庭が毎日にぎやかになるのを楽しみにしていました。
けれども、おばあさんは、りんごの木が赤い実をつける前に亡くなってしまいました。
 夢の中で、そんな日のことを思い出したりんごの木は、自分がいままでとんでもないことをしていたことに気がつきました。
そして、おばあさんがいたときよりも、すっかりこの庭は静まり返り、寂しい庭だったとはじめて気がついたのです。
 りんごの木は、心の中で、
「そうだった。これからは、山のみんなにもりんごの実をわけてあげよう」
と思いました。
 ある日、いつかの小鳥のお母さんがまたやってきたので、たくさん実を食べさせてあげました。
そして、そのあとからも、山鳩のおかあさんが、すっかり痩せた子どもたちをつれてやってきたので、たくさん食べさせてあげました。
みんなりんごの木にお礼をいって山へかえっていきました。
 何年もそんなことが繰り返されてから、子どもだった小鳥たちは、みんな大きくなって、いつもりんごの木のところへ遊びにやってきました。
いつも寂しかった庭は、毎日小鳥たちの楽しいさえずりでいつもにぎやかになりました。
 ある秋の日のこと、カラスが飛んできて、りんごの実をたべていたとき、りんごの木がいいました。
「カラスさん、どうかお願いします。私を育ててくれたおばあさんが眠っているお墓に、りんごの実をお供えにいってくれませんか」
カラスは、
「ああ、いいよ」
といって、りんごの実をいくつかもっておばあさんのお墓へ飛んでいきました。
カラスは約束をまもってくれるかなあと、りんごの木はすこし心配でしたが、しばらくするとカラスがもどってきて、
「ちゃんとお供えしてきたよ。いまごろおばあさん喜んでるね」
と、りんごの木にいいました。

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(自費出版童話集「びんぼうなサンタクロース」所収)

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2015年10月13日

街灯とクモの業者さん

 公園の桜の木のそばに街灯が立っていました。夜になると明るい灯を照らしていました。
 ある夜のこと、この街灯のまわりに、たくさんの蚊がやってきました。
居眠りしていた街灯は、あまりやかましいので目をさましました。
「ああ、うるさいな、またやってきた」
 蚊たちは、灯にまとわりついて、突いたり、さわいだり、わいわいがやがやと騒音をたてています。
 夜になると、この場所は、虫たちのたまり場になっていたのです。
「毎晩、これだからな」
 蚊たちは、一晩中、街灯のまわりに集まって、お酒を飲んだり、歌をうたったり、宴会をするのでした。
 あるとき、隣の街灯が話しかけてきました。
「もうすぐ夏ですな。そしたら、こんどは、蚊たちのほかに、カブトムシやカナブンも飛んできますよ。またにぎやかになりますな」
「ああ、困ったもんだよ。虫たちはこの場所が大好きだからね。誰でもいいから、殺虫剤をシュシューとふりかけてくれないかなあ」
「ところで、いい話があるんだが」
「なんだね、それは」
「蚊の駆除のために、業者さんを呼ぶんだよ」
「ほう、そりゃいい、なんて業者だね」
「クモの業者さんだ。街灯のまわりに、クモの糸を張ってもらって蚊たちを生け捕りにするんだよ」
「そりゃ、いい。じゃ、さっそく電話をしよう」
 翌日、注文をうけて、クモの業者さんがやってきました。
「承知いたしました。さっそく糸を張らせてもらいます。糸の寿命は三か月です。期間が過ぎたら新しいのと取り換えます。捕えた蚊の回収は週に一度伺います。代金はその時で結構です」
 クモの業者さんは一時間ほどかけて、街灯のまわりに糸を張って帰っていきました。
 夜になって、街灯のまわりに蚊たちがやってくると、思った通りみんな糸にからまってもがいていました。
「よかった。やっぱり業者さんにたのんで正解だった」
 しばらくの間街灯は、蚊がやってこなくなったので喜んでいたのですが、ある日、業者さんの店に電話がかかってきました。
「昨日のひどい強風で、糸の半分がすっかり飛ばされてしまった。すぐに新しいのを張ってくれ」
 さっそくクモの業者さんがかけつけました。
「承知いたしました。さっそく張り替えましょう」
 急いで、破れた糸を取り外して、新しい糸と取り換えました。
「出来ましたよ。ところでたいへん申し訳ありませんが、代金の方がこの前よりも高くなります。仕入れ先のクモ製糸工場のクモたちの食費代が値上がりしたのと、今月から消費税が引き上げられましたから」
 街灯は困った顔をしましたが、これも仕方がないとあきらめて、業者さんに値上がりしたクモ糸の代金を支払いました。


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(つるが児童文学会「がるつ第36号」所収)

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2015年10月09日

底なし沼の話

 誰も知らない深い山奥の薮に囲まれた小さな原っぱにその沼はあった。回りを高い樹木が生い茂り、昼間でも薄暗く、死んだように静かな場所だった。この沼は、底なし沼と呼ばれてこの山に住む動物たちから恐れられた。
 これまでこの沼の水を飲みにやって来た動物が足を取られてこの沼に引きずり込まれた。そんな恐ろしい沼だったので、動物たちはまったく近づかなかった。
 この沼はずいぶん年を取っていた。だから偏屈で、頑固で融通がきかなかった。しかし、あるときこんなことを考えるようになった。
「俺はこんな淋しい山奥でみんなから恐れられて、ずうーっとひとりで生きてきたが、それは俺の本心ではない。たくさんの生き物の命を奪ったことも、それは本能のせいなのだ。俺には自分の本能にただ従って生きることしか出来ない存在だ。だけどいつまでもそんなことで自分を騙し続けて生きていてもいいものだろうか。このまま動物たちから嫌われ続けて生きていくのも辛いものだ。それに俺は外の世界のことは何も知らない。一度でいいから外の世界を見てみたいものだ」
 ある月が美しい夜のことだった。沼のむこうの水面にわずかに月が写っていた。沼はそっと月に尋ねてみた。
「お月さま。教えてくれよ。山の向こうにはどんな世界があるんだ」
 沼に突然はなしかけられて月はおどろいたが、
「あの山のはるか向こうには、美しいお花畑が広がっています。今そのお花畑は真っ盛りです。太陽が輝く時間には、緑の牧場にたくさんの牛たちと牛飼いが散歩をしています。また緑の芝生には色とりどりの花が咲いています」
 沼は話を聞きながら、その美しい情景を心の中で思いめぐらせてみた。
「ああ、なんとかそんな風景を一度は見たいものだ。それに太陽の光も受けたいものだ。俺はこれまで花さえも見たことがない」
 沼はそれからは毎晩のように月が出ると、外の世界のことを訪ねてみるのが毎日の日課になった。
 ある日、沼のほとりの木の枝に、一羽の小鳥が飛んできて巣を作った。やがて、その巣から、ひなたちの声が聴こえてくるようになった。
「なんて楽しそうな鳴き声だ。ひさしぶりに聴く生き物の声だ」
 沼は、その陽気な鳴き声を毎日聴いていた。ところがある日のこと、巣からひなの一羽が足を滑らせて沼の水面に落ちてきた。沼はさっそくそのひなを沈めようと思った。しかし沼はそのとき思いとどまった。
「同じことを繰り返していては、おれの境遇はいつまでも変わらない」
 そういって、ひなを沈めることをやめたのだ。そこへ親鳥が帰ってきて、ひなを見つけて沼から救い出した。親鳥は沼に感謝した。沼になにかお礼をしたいといった。沼は少し考えてから、
「それじゃ、山の向こうの草原に咲いている花を持ってきてくれないか。おれは花をまだ見たことがない」
と頼んでみた。
 親鳥は、すぐに山の向こうへ飛んでいくと、花を何本が沼のところへ持ってきた。そして沼の水面にその花を投げてやった。沼はその花をじっと見つめてはその美しい色彩と匂いをいつまでもかいでいた。
その後も、親鳥は、エサを取りに行ったついでに花を持って帰った。そして沼の水面にそれを落としてやった。
 あるとき、沼の水面を漂っていた花の種が沼のまわりの草むらに辿り着き、土の中から小さな芽が出てきた。だけど沼はそのことをまだ知らなかった。
 ある年、ひどい嵐がこの土地を襲ったとき、沼の周りの樹木が何本もなぎ倒された。回りの景色はひどいありさまだったが、その後、太陽の日差しがこの沼にも降り注ぐようになった。どす黒い沼の水もいつしか透明度を増してきれいな水に変わっていった。
 沼の回りの花の芽も次第に大きくなり、やがて春の季節になると、色とりどりの色彩の花が沼のまわりに咲き始めた。太陽の日差しと水気をよく含んだこの場所は、やがて美しい花畑になり、遠くからでもこの場所がわかるようになった。
 やがて、この沼のほとりの花畑にはいろんな昆虫や小鳥や動物たちが遊びにやってきた。みんなこの美しい花畑で毎日遊んで帰って行った。そして何年かすると山の向こうからは、人もやってくるようになった。
 みんなこの沼が、かつておそろしい底なし沼であったことなどもう誰も知る者はなかった。


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(つるが児童文学会「がるつ第34号」所収)

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2015年09月30日

影と取り引きした侍

 ある侍が町の居酒屋で、別の侍と些細なことで口論になり、とうとう決闘をすることになった。
ところが、相手の侍は、この土地では指折りの剣の名手。とても、まともに勝てる相手ではなかった。
「なんとか、決闘に勝てる方法はないものか」
 侍は、その夜、眠ることも出来ずに考えつづけた。
やがて、決闘の日の前の晩になり、あいかわらず侍が思案していると、どこからか不気味な声が聞こえてきた。
「そう、考え込みなさるな。心配はいりません。あなたの代わりに、わたしが決闘に行ってあげましょう」
 その声は、部屋の障子に映った自分の影であった。
「それは、本当かー」
 侍が、影に向かって念をおすと、
「まかせておきなさい。かならず、決闘に勝ってみせます。ただしー」
 影はそういってから、侍にひとつの条件をつけた。
「決闘には、かならず勝ってみせますが、そのお礼として、あなたの残りの寿命の半分を、わたしにいただきたいと思います」 
「おれの残りの寿命の半分をー」
侍は、それを聞いて、一瞬、肝をつぶしたが、しばらく考えてから、
「よしわかった、そなたの条件を聞き入れよう」
その夜、侍は、自分の影と取り引きをしたのだった。
 翌朝、侍が目を覚ましたのは、決闘の時刻をすでに過ぎている頃だった。
「しまった。寝過ごしたー」
 侍は、急いで着物を身に付けようとしたとき、ふと、昨夜の取り引きのことを思いだした。
「そうだった。いまごろ、決闘の勝負はついている頃だ」
 そういってから、侍は、ふと、自分のことを考えてみた。
「おれが、いま生きているってことは、決闘に勝ったって証拠だ。影のやつ、おれの命を救ってくれたんだ」
 侍の心は、急に晴れ晴れしい気持ちになった。
 これまでの、緊張しきった心をいやすために、侍は町へ行き、居酒屋の中へ入っていった。
店の中では、たくさんのお客たちが、今朝の決闘の話でざわめいていた。
「信じられねえことだ。あんな凄腕の侍が、殺されたんだからな」
「おいらも、その話はけさ仲間から聞いて驚いている」
「でもよ、あいての侍は、どこへ姿をくらましたんだろうな。なんでも、いま役人たちが血眼になって、その侍を探してるってことだぜ」
「え、どうしてだい」
「あたりめえだろ、開始の合図も無視して、うしろから斬りつけて殺ろしてしまったんだからー」
 そのはなしを聞いた侍は、すぐに店を飛び出した。そして、呆然とした様子で、自分の家へと帰りはじめた。
侍は、人に顔を見られないように、顔を隠すようにしながら、下を向いて歩かなければならなかった。
 やがて、自分の家に帰り着いた侍であったが、侍の帰りをすでに待ち伏せていた、奉行所の役人たちによって、すぐにその場で取り押さえられてしまった。
「殺人」の罪状で、侍が、牢屋に放り込まれてから、十数年がたったある晩のことだった。
 月の光に照らされた、牢屋の壁に、侍の影が寂しげに現れたとき、いつかの不気味な声が聞こえてきた。
「あのときの約束は、ちゃんと守りましたので、こんどは、わたしが、お礼を頂きにまいりました」
 影はそういうと、すっかり老いて生きる気力を失った侍から、残り半分の寿命を奪い取った。それからすぐに、侍は、牢屋の中でしずかに息を引き取ってしまった。
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(自費出版童話集「白馬の騎士とフリーデリケ」所収)

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2015年09月25日

花の咲かない桜の木

 その桜の木は、あまり人の通らない公園裏の通りにただ一本だけで立っていました。困ったことに、春になっても花が咲かないので、だれもこの木のそばにやってきませんでした。
 あるとき、一羽のつばめが遠い土地から飛んできて、この桜の木の枝にとまりました。
「季節はもう春ですよ。ほかの桜の木たちは、みんな美しい花を咲かせているのに、どうしてあなただけ花を咲かせないんですか」
 桜の木は、眠そうな様子で、
「おれは、ずいぶんと気まぐれな木なんでね。春が来ようが来まいが、そんなことはどうだっていいんだ。花を咲かせたいときだけ咲せますから。それにこんな場所で花を咲かせてもだれも見にきてはくれませんよ」
 つばめをそれをきくと、
「あなたはずいぶん変わり者ですね。あなたのような桜の木をわたしは見たことがありません」
「そうかね、別にそんなことおれには関係がないことだよ。どうれ、また昼寝でもするか」
 桜の木は、いつもそんなことをいって一輪の花も咲かせずにいました。
 ある日のこと、桜の木は、いつものように広い空を見上げていました。
「空っていうのはうらやましいものだ。自分たちの感情を自由に表現できるからな。機嫌がいいときは抜けるような青空だし、機嫌が悪くなると真っ暗になって、ビュービューと風を吹かせ、ゴロゴロと雷を鳴らして大雨を降らせる。そしてまた機嫌が良くなると明るくなって、七色の美しい虹が現れたりする。じつにうらやましいものだ。
 ところが、おれたち桜の木はどうだ、気分が悪くても春になったら花を咲かせなくちゃいけない。それに咲く花はいつもお決まりのピンクと決まっている。形も大きさも同じで、うれしくもないのにみんなと一緒に笑っていなくちゃいけない。桜の木にもちゃんと個性があるのに。
 それはおれたちばかりじゃない。ほかの花たちだってそうだ。どの花にもちゃんと個性があるのに、それをひとつにしか表現することができないなんて悲しいことだ。車の排気ガスでお腹が痛くなったときは花びらが青色になったり、楽しいときは黄色くなったり、恥ずかしいときは赤くなったりしてもいいじゃないか。松林の向こうに見える海だっていつも表情が違うじゃないか」
 桜の木はいつもそんなことをつぶやいていました。
 ある年の春の夜、公園に明るい灯がともりました。今日はお花見でした。町の人たちがたくさんやってきました。
たくさんの入場客が、満開の桜の木の下で宴会をしています。みんなお酒を飲んだり、バーベキューをしたり、歌をうたったりとても賑やかです。
明るい提灯の下で、夜遅くまで、賑やかな声がたえません。
 でも、公園裏の一本の桜の木だけは、そんな光景を、ただひとりあきれたような顔をして眺めていました。
「毎年、あれだ。桜たちは、みんなバーベキューの匂いや、お酒のぷんぷんする匂いを一晩中かかなくちゃいけないんだ。おれだったら、すぐにでも公園から出て行くのにさ。みんなよくじっと我慢していられるな」
 でも、そんなことをいっている桜の木でしたが、自分が立っている木の周りには、人の話し声もしなければ、春になっても根雪が残ったままで、いつもひんやりとしていました。春になると決まってやってくるつばめも、近頃はぜんぜん来なくなりました。
 そんなある日のことです。桜の木はふとこんなことを考えるようになりました。
「だけど、花も咲かさないで、こんなさびしいところでいつまでも生きていてもしかたがないな。やっぱり誰かのために花を咲かせたいものだ」
 この桜の木が立っている通りの向かい側に一軒の古いアパートがありました。いままで、誰も住んでいなかったのですが、ある日、ひとりの若い女性が部屋を借りて住み込みました。
昔は恋人もいて、楽しい暮らしをしていましたが、いまはひとりで寂しく暮らしていました。
 その女性はいつもパソコンに向かって小説を書いていました。それを自分のブログに載せていました。でも、精彩のない自分の書いたものに少しも満足していませんでした。
 桜の木は、そんな様子を眺めているうちに、いつしかこんなことを考えるようになりました。
「この寂しそうな女性のために、めいっぱい美しい花を咲かせてあげたらどうだろう。きっと色彩のある明るい小説が書けないだろうか」
 桜の木はそれを試してみることにしました。
 ある朝、その女性が部屋の窓を開けたとき、いつもの桜の木にいくつもの美しい花が咲いていました。周りが暗かったせいか、その花だけがひときわ綺麗に見えました。
 女性は、それからというものその桜の木を見るのが楽しくなってきました。でも、女性の心を動かしたのは、毎日見ているその桜の木が、季節に関係なく花を咲かせ、日によって色が変わることでした。まるで人間の感情を持っているような木に思えたのです。
 それ以来です。その女性の書く小説が明るくなり、内容も面白くなってきたのはー。
 ある日、女性は、その桜の花をデジタルカメラで撮影すると、自分のブログのデザインにしました。
 そして花の色が変わるたびに画像を変えていきました。その桜の花をデザインしたブログは、次第に読者の間で評判になりました。
 ある日、読者の中に、この女性と別れた昔の恋人が遠くの町でこのブログを観ていました。そして小説も読んでいました。作者の名前は仮名で、誰の作だかわかりませんでしたが、その小説の筋は、恋人を失った女性が新たな希望を持って力強く生きて行く様子が明るい気分で書かれていました。追憶の場面で、昔、自分と別れたある女性の思い出とそっくりな出来事が綴られていたのです。
「まさか」と、恋人は思いましたが、「そんなことはない、きっと偶然に違いない」と思い返したりしました。
 色彩の変わる桜の花をデザインしたそのブログと、その女性が書く小説は、またたくまにネットの世界で知られるようになりました。
  そしていままで誰にも知られなかった公園裏の一本の桜の木も、ネットを通じて全国で一番知られる木になりました。


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(つるが児童文学会「がるつ第37号」所収)

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(記事更新は随時行います)


2015年09月18日

山男とこだま

 どこまでも高い山がつづく、それはそれは山奥のしずまりかえった山の中でした。
山男はいつも向こうの山にむかって叫びます。
「きっとあしたは晴れるだろうなー」
 すると山の向こうから、
「きっとあしたは晴れるだろうなー」
とこだまがかえってきます。
「あしたおれは、山をおりて町へいくぞー」
と叫んだら、
「あしたおれは、山をおりて町へいくぞー」
とこだまがかえってきました。
「町へいったら、酒を買ってくるぞー」
とまた叫んだら、
「町へいったら、酒を買ってくるぞー」
とこだまがかえってきました。
 よく朝、山男は山をおりて町へいきました。そして町の酒屋さんへ行って、たくさんお酒を買って、山へもどってきました。
そして夕闇にむかって、
「今夜は、おれひとりで、あびるほど酒を飲むぞー」
と叫んだら、
「おれたちにもすこし飲ませてくれよー」
と順々にへんな答えがかえってきました。
「あれ、誰の声だろう?」
 山男がふしぎそうな顔をしながら、
「今夜は、おれひとりで、あびるほど酒を飲むぞー」
ともう一度叫んだら、
「そんなこといわないで、おれたちにも飲ませてくれよー」
と、山の向こうからへんな答えが順々にかえってきました。
 山男がおどろいていると、山の向こうからこだまたちが、雲にのってやってきました。
みんなお酒が飲みたそうな顔をしているので、
「じゃあ、いっしょに飲もうじゃないか」
 山男は、こだまたちを小屋にまねいていっしょにお酒を飲みました。
こだまたちは、体は小さいけれど、みんなのんべーばかりで、真っ赤な顔をしながら、山男といっしょに一晩中飲んでいました。
 よく朝、山男は二日酔いでしたが、いつものように、向こうの山にむかって、
「ゆうべはずいぶん飲んだなー」
と叫ぶと、
「またいつかよせてもらうぞー」
と順々にこだまたちの声がかえってきました。

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(自費出版童話集「びんぼうなサンタクロース」所収)

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(記事の更新は随時行います)

2015年09月11日

指輪ものがたり

  むかし、ライン川のほとりに、美しいお城が建っていました。そのお城には、両親を早く亡くした王女がひとり、召使たちといっしょに、しずかに暮していました。
 王女は、花のように美しく、心はそれにもまして美しかったのですが、からだが弱いうえに、たいへん孤独でした。いつも自分だけの世界の中で、暮らしていたのです。
 ある夏の夜のことでした。
王女が、いつものように、部屋の窓辺に腰かけて、月の光に照らされた、川の沖のほうを眺めていたときです。
遠い夜空の向こうから、流れ星がひとつ、この土地のうえを、しずかに通り過ぎていきました。流れ星は、美しい光を放ちながら、やがて消えていきましたが、その星のかけらが、ゆらゆらと、この土地の方へ落ちてきました。
 王女は、いっしんに、その星のかけらを見つめていましたが、星のかけらが、川の沖の方へ落ちてしまうと、さみしそうな様子でつぶやきました。
「あの流れ星のかけらは、いまごろ、川の中で、何をしているのでしょう。魚たちは、みんな、その美しい輝きを見て、ためいきをついているのでしょう」
 王女も、自分も魚になって、その美しい輝きを、いつまでも見ていたいと、心の中で思いました。やがて、王女は、ベッドに入りました。
けれども、さっきの流れ星のかけらのことが、頭から離れずに、なかなか眠りにつけませんでした。
 そんな王女も、やがて、眠りについた頃、お城から遠く離れた、ある漁師の村のある家に、王女と同じ夢を見ていた、ひとりの若い漁師がいました。
若い漁師は、さっきの流れ星のかけらを、あした朝早く、船にのって、探しにいくことに決めていました。
「あの星のかけらを見つけて、お金に換えることが出来たら、自分の暮らしは、もっとよくなるだろう」
若い漁師は、朝がやってくると、さっそく船を出して、川の沖へ出かけていきました。そして、その日一日中、川の中を捜しまわって、ようやく星のかけらを見つけました。でも、その星のかけらは、とても小さくて、わずかに、金貨ほどの大きさでした。
けれども、その輝きは、世の中の、どんな宝石よりも美しいものでした。
若い漁師は、星のかけらを、たいせつに袋にしまうと、家にもって帰ることにしました。船を漕ぎながら、やがて、川のほとりに建つ、美しいお城のところまでやってきたときです。
 若い漁師は、お城の窓辺に腰かけている、王女の姿を見つけました。
「なんて、美しい人だろう。あんな人と一度でもいいから、話ができたら、どんなに幸せなことだろう」
若い漁師は、じぶんの身分のことも考えないで、そんなことを思いました。
家に帰ってきてからも、漁師は、今日見た王女のことが、頭から離れませんでした。
その夜、若い漁師は、苦労して見つけてきた、星のかけらの美しさに見入っていたとき、ふと、こんなことを考えました。
「この星のかけらで、指輪を作ってみよう。そして、その指輪を王女さまに差し上げよう。きっと王女さまは、大喜びになり、私を友達にして下さるだろう」
 その夜、若い漁師は、一晩中かけて、指輪を作りました。
つぎの日の夜、若い漁師は、指輪を持って、王女のいるお城へ船で出かけていきました。
月の光で、明るく輝いている、川の上を船で漕いでいくと、やがて王女のいるお城が見えてきました。そのお城の塔のひとつの窓に、明かりが灯っていて、王女の姿が見えました。
 若い漁師は、塔のすぐ下までやってくると、開いてる窓にむかって、しずかにつぶやきました。
「王女さま、どうかおどろかないでください。あなたに、差し上げたいものがあって、ここへまいりました」
 王女は、その声に気付くと、すぐに塔の下を見ました。そこには、船が一艘浮かんでいて、その船のうえに、見知らぬ若い漁師が立っていたのです。
 王女は、漁師の話し方が、まじめで謙虚であったので、耳をかたむけようと思いました。
若い漁師は、王女に、三日前の夜に見た、流れ星の話と、その星のかけらを使って指輪を作り、ここへ持って来たことをはなしました。
王女は、漁師のはなしをきいているうちに、すっかり、顔つきも明るくなってきました。
そして王女もまた、あの夜に、同じように流れ星を見て、あの星のかけらが、どうなったのか知りたかったことを、漁師にはなしました。
二人はその夜、打ちとけて、長い時間はなしをしましたが、夜も遅くなり、漁師は、自分の家へ、帰ることにしました。
「では、王女さま、どうぞ、この指輪をお受け取り下さい」
 帰るとき、若い漁師は、指輪を入れた小さな袋を、王女の両手にむかって投げました。王女は、しっかりと袋を受け取ると、すぐに指輪を取り出してみました。
「まあ、なんて、美しい輝きでしょう」
そういって王女は、その指輪を、すぐに自分の指にはめてみました。そして、しばらくの間、その美しい輝きに、じっと見入っていましたが、やがて、漁師にむかっていいました。
「どうか、あしたの夜も、ここへいらして下さい。そして、今夜のような楽しいおはなしを、またいたしましょう」
 その夜から、王女と若い漁師は、すっかり仲の良い友だちになりました。
 次の日の夜、漁師は船を漕いで、王女のいるお城へいきました。そしてその夜も、王女と長い時間、楽しいお話をしました。
 身体が弱く、孤独だった王女も、漁師のはなしを聞いているうちに、日に日に元気になっていきました。
 若い漁師は、自分の仕事のことや、村のこと、友達のことなどを、お城にやってきては、王女にはなしてあげました。
いままで、ひとりの友だちもなく、寂しい暮らしをしていた王女にとって、それらの話は、どれもこれも新鮮なものばかりでした。
 そんな楽しい日がつづいたある日のこと、この土地に、大きな嵐がやってきました。
 はげしい雨が、数日間降りつづいた後、今度は、ものすごい強風が吹き荒れました。川の水は増水し、波しぶきをあげながら、若い漁師の住んでいる村にも、押し寄せてきました。
 若い漁師は、仕事にも行けずに、家の中で、じっと嵐がおさまるのを待っていました。ところが、嵐はおさまるどころか、もっとひどくなってきたのです。
 やがて、大きな波が、漁師の家の中まで流れこんできました。そして、いっしゅんの内に家を呑み込んでしまいました。若い漁師も、波にさらわれて、行方がわからなくなってしまいました。
数日後、嵐はおさまりました。
 お城の中では、王女が、漁師がここへやって来てくれるのを、じっと待っていました。ところが、いくら待っても、漁師はやって来ませんでした。
 王女は、もしかして、先日の嵐で、漁師が亡くなってしまったのではないかと、心配になりました。王女は、若い漁師がくれた指輪を、毎日のように眺めながら、漁師のことばかりを考えつづけました。
やがて、月日は流れていきました。ある秋の夜のことでした。
眠っていた王女は、どこからともなく、聞こえてくる、ささやき声で、はっと目をさましました。その声は、聞き覚えのある声で、塔の下の、川の方から聞こえてくるのでした。
王女がそっと、窓を開けてみると、川の上に、一艘の美しい船が、浮かんでいて、その船には、あの若い漁師が、ふたりの人魚をつれて立っていました。
「おどろかないで下さい、王女さま。わたしは、あなたに会いたくてここへやって来たのです」
 王女は、夢ではないかと、思いました。
「わたしは、あの嵐の日に、この人魚たちに、救われたのです。でも、わたしは、もうこの世の人間ではありません」
 王女は、そのはなしを聞くと、とても悲しそうな顔をしましたが、漁師の元気な姿を見ると、少し安心しました。
「それでは、これからも、わたしに会いにきてくれますか」
 王女の問いかけに、若い漁師は、にっこりと笑いながらいいました。
「夜空の星が美しく輝く晩には、かならず、ここへまいります。あなたに差し上げた、その指輪のような美しい星の出る夜にです」
 若い漁師は、そういうと、ふたりの人魚たちをつれて、しずかに川の中へ消えていきました。


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(自費出版童話集「白馬の騎士とフリーデリケ」所収)

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(記事の更新は随時行います)


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