2015年09月01日

がんばれブルドーザー

 重機工場の空き地に、老いぼれてリタイアしたブルドーザーたちがのんびりと余生を送っていました。みんな数年後には解体されてばらばらになるのです。
「お前たちはほんとうによく働いてくれた。この町がりっぱになったのもお前たちの仕事のおかげだ」
 工場の親方が、退職の日にみんなに感謝状を渡しながらいいました。
 そういえばこの町は、むかし高いビルも、りっぱなマンションも、きれいな公園もなかったのです。それがいまでは、見違えるようなすばらしい町に変わりました。
ブルドーザーたちは、仲間のショベルカーやクレーン車、ダンプカーたちと毎日汗を流して働いた日のことを思い出しました。
 だけどもう自分たちは、昔のように働くことはないと思っていました。車体の塗装は剥げ落ちてネジは緩んで錆びついています。エンジンもいまでは、まったくかかりません。たとえ動くことが出来ても、旧式のブルではとても今の新型の若い重機たちと一緒に働くことは出来ないと思っていました。
 ところがある日のことでした。工場の親方が息を切らせて走ってきました。
「みんな非常事態だ。お前たちの力をもう一度貸してもらう」
 それは東北地方で大きな地震があって、津波でたくさんの町が破壊されて、復興に重機がたくさん必要だということでした。
リタイアしたブルたちは、その話をきいてみんな飛び起きました。
「よしきた、みんなで現場へ駆けつけよう」
 すぐにブルたちは整備されることになりました。錆びついて使えなくなった部品はすべて取り換えられ、エンジンも整備されて、何年ぶりかに勢いよく動き出しました。
 数日後、何年も乗ったことがないトレーラーに載せられて、みんな東北へ向けて運ばれて行きました。やがて現場に到着しました。
 そこはいままで見たこともない酷い状態でした。瓦礫の中のある場所に降ろされて、エンジンがかけられました。さっそく作業の開始です。遠くの方では自衛隊の新型の重機たちもたくさん派遣されて忙しく働いていました。リタイヤしたブルたちも頑張らなければいけません。
 こんなに広範囲に破壊された町の瓦礫を片付けるには、ずいぶん時間がかかります。山のすぐそばまで、自動車や壊れた家屋、漁船やレジャーボートなどが無造作に横たわっていました。重機たちはみんなエンジンをフル回転させて、さっそく瓦礫の除去作業を開始しました。周囲には、むかし一緒に働いた仲間の重機たちもたくさん来ていました。
「おやっ、あのクレーン車は、むかしおれたちと一緒に働いたやつだ」
 一台のブルが、そばへ近よって行きました。
「やあ、あんたも来てたのか、ひさしぶりだな」
「おう、なつかしいな、何年ぶりになるかな」
 そのクレーン車は、長年、木工所で材木の積み下ろし作業をしていて、退職後はいつも腰痛に悩んでいましたが、非常事態だというのでこの仕事に参加したそうです。
向こうの方にも、顔見知りの重機たちがたくさん働いていました。
見覚えのある一台のショベルカーがいました。この重機は、貧血症のために朝はエンジンのかかりが悪く、運転手さんをいつも困らせていましたが、今回の非常事態を聞いてやっぱり参加したそうです。みんなずいぶん年取っていますが、瓦礫の除去作業に懸命です。
「この作業は、当分続くだろう。もと通りになるまで数年はかかるな」
 作業員たちは一日の仕事が終わると、みんな疲れたといって宿舎に帰って行きます。重機たちも、すっからかんになったタンクに燃料を入れてもらってぐっすり眠ります。
 翌朝から、また作業の開始です。最初の一年間は、なかなか思うように瓦礫の処理は進みませんでしたが、二年後くらいからは、大きなものはすべて取り除けることができました。でもまだ土地の整備はできていません。ブルたちは、一面デコボコになっている地面を以前のようなきれいな状態にする作業に励んでいました。
 リタイアしたブルたちは、三年間ここで作業に従事していましたが、親方がもう限界だなということで、送り返されることになりました。
出発する前の日に、若い重機たちに向かって、
「おれたちはこれで引き上げるけど、これからは君たちで頑張ってくれ、よろしくたのむよ」
とお別れをいいました。そして翌日、リタイアしたブルたちは東北を去りました。
 帰ってきた年取ったブルドーザーたちは、以前のように空き地で、解体される日を静かに待っていました。
 次の年は寒さの厳しい冬でした。毎日寒い日が続きました。リタイヤしたブルたちは、みんなからだをくっつけて眠り込んでいました。ある朝のことでした。工場の親方が、前のようにあわてた様子で走ってきました。
「みんな、お前たちにまたやってもらいたい仕事がある。きのう関東で記録的大雪が降ってみんな困っている。すぐに出かける準備をしてくれ」
 寒い季節なので、ほとんどのブルがなかなかエンジンがかかりませんでしたが、新しいバッテリーに取り換えてもらったりして、どうにか動くことができました。
そして再びトレーラーに載せられて走っていきました。国道は除雪が追いつかず、なかなか目的地に着きませんでした。
関東のある県では、雪のために国道がすべて通れなくなっていました。ようやく目的地に着いて、みんなさっそく作業を開始しました。
国道には雪に埋もれて動けなっている自動車がたくさんいたので、雪を全部取り除けていきました。
渋滞しているトラックや、トレーラーたちがブルたちに声をかけてきます。
「たのむよ。早く雪を取り除いてくれ。スーパーに商品を届けないと、みんな生活に困ってしまうんだ」
 郵便配達の自動車も、
「速達がたくさんあるから、急いで除雪してくれ」
 大型のタンクローリーも、
「今日中に灯油をもっていかないと町中の人が寒さでみんな凍えてしまうよ」
 みんな除雪が終わるのをじっとまっています。年取ったブルたちは、汗をかきかき作業を続け、だんだんと雪も取り除かれて行きました。 でも、国道にはまだたくさん雪が残っていました。作業しているうちに、疲労のためにエンジンが止まってしまうブルもいて、みんな心配しながら見守っていました。
 そのとき、現場監督のうれしそうな声が聞こえました。
「向こうから自衛隊の除雪車がやって来るぞ」
 見ると、勢いよく進んでくる自衛隊の若い元気な新型の除雪車たちが見えました。
「よかった、向こうの国道はすっかり通れるようになってるぞ」
 年取ったブルたちも、また元気を出して作業を続けました。
 その日、重機たちの大活躍で、国道はぶじに通れるようになりました。
作業を終えたブルたちは、みんなほっとしたようすで、空き地へ帰ってきました。だけど退職した後も、次々に出番がやってくるので、のんびり余生を送っている暇がないなとみんな思いました。
ブルたちはみんな相当くたびれていますが、根がまじめで働き者なので、これからも出番があればいつでも出かけていく心の用意はいつも出来ています。

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(つるが児童文学会「がるつ第36号」所収)

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(記事の更新は随時行います)



2015年08月21日

ピエロとマンドリン

 いつもサーカスで、へまなことばかりしてみんなを笑わせているピエロですが、じつはたいへん起用で、とても働き者なのです。ところがあるサーカスのピエロだけは、まったくの役立たずでした。
外見は普通のピエロと変わりませんが、中身もまったく同じでした。いつもぼーっとして空想に耽ってばかりいるのでした。
「もうすこし気を入れて仕事をしてもらわないと、このサーカスには置いてやらないぞ。クビだぞ」
 団長さんは、そういっていつもおびやかすのですが、ピエロにはまったく効果がありません。あいかわらずのサーカスのお荷物でした。
だけど、このピエロがどうしてこのサーカスにいられるか、それはただひとつ役立つものを持っているからでした。
 いつもサーカスがおわると、ピエロは、おんぼろなマンドリンを抱えて、テントの屋根にのぼり、ながいあいだ暗い夜空を眺めていました。このマンドリンは死んだおじいさんが持っていたものをお父さんから譲り受けたものでした。代々ピエロ一家で、いつもマンドリンを弾きながら、むかし流行った「サーカスの唄」や「美しき天然」の歌などを歌うのでした。
 やがて、夜も深くなった頃、雲の隙間からお月さまが現れました。
じつは、ピエロはこのときを待っていたのです。人にはまったく見えないのですが、ピエロの空想の世界では、お月さまの上には、マンドリンを弾く女神が座っているのです。そして、いつも静まり返った夜空にその美しいトレモロが鳴り響くのでした。
「今夜は、じつにみごとなセレナーデだ」
 ききほれながら、しばらく耳を傾けていましたが、やがて自分でも真似して弾いてみたくなりました。
普段は、仕事もなかなか覚えられないピエロでしたが、このときばかりは頭が働くのでした。
 何回か真似して弾いているうちに、すっかり覚えてしまいました。やがて、向こうの空がすこしずつ明るくなる頃には、月の姿もしだいに見えなくなり、女神もどこかへ消えていきました。
ピエロは、すっかり覚えたその曲を何回も弾いてみました。
そして、二番鶏が鳴く頃になると、自分の寝床へ戻っていくのです。
 朝になると、またサーカスの仕事がはじまります。
団長さんにたたき起こされて、ピエロは眠い目をこすりながら、楽屋へ行ってお化粧して仕事の準備をはじめます。
でもあいかわらずへまばかりで、いつも団長さんに怒られてばかりいるのです。
「きみの仕事は、お客さんを笑わせることなんだ。いつもぼーっと突っ立っていたのでは、だれも笑ってくれないぞ」
 いわれながら、空中ブランコから落っこちる芸をやるのですが、高いところが苦手なので、それも無理なのです。一輪車に乗る芸も何回やってもできません。馬や象に乗らせても、すぐに振り落とされてしまいます。
そんなふうなので、まったくサーカスでは使い物にならないのです。
 慌ただしいサーカスの仕事もようやく終わると、サーカスの芸人たちは、みんな自分たちの楽屋に帰っていきます。
「ああ、やっと一日がおわった。くたびれた」
 みんなそういって、お酒を飲んだり、お風呂に入ったり、晩御飯を食べたりします。そうやってくつろいでいると、いつものようにテントの屋根から、ピエロの弾くマンドリンの音色が聴こえてきます。
「おっ、また弾いてるな。でもいい音色だ、これを聴いてると今日の仕事の疲れもすっかりとれるからうれしい。そして夜はぐっすりと眠れるんだから」
 そういってサーカスの人たちは、みんないつもよろこんで聴いていました。
 その音色は、団長さんの部屋にも流れていきます。
「また、いつものマンドリンかっ。ピエロのやつ、マンドリンの腕だけはいいんだから。でも、もっと仕事のほうもしっかりやってくれないかなあ」
 団長さんはそういいながら、お風呂の中で疲れた身体をほぐしていましたが、そのうち、ピエロが弾く「サーカスの唄」が流れてくると、いつの間にか自分でもその歌を口ずさんでいました。

  旅のつばくろ(つばめ)
  寂しかないか
  おれもさびしい
  サーカス暮らし。

  とんぼ返りで
  今年も暮れて
  知らぬ他国の
  花を見た。

 団長さんは歌いながら、これまでの旅のことをいろいろと思い出しました。北海道から本州、四国、九州、沖縄まで、日本全国くまなく、このサーカスを引き連れて歩いてきました。
 そして、それらの土地のいろんな花も見ました。いろいろな町や村へも行きました。何回も行った町もありました。そして、その土地の人々をサーカスの芸でみんなを楽しませたのです。
 台風でテントが飛ばされそうになったり、大雪になって、みんなと山の中で野宿したこともありました。動物たちが病気になって、獣医さんを探しに、みんなで町中を駆け回ったこともありました。
 芸人たちはよく働いてくれます。みんな毎日疲れて眠りにつくまで働くのです。芸のすぐれた腕のいい芸人さんが特に好きでした。でも、みんながみんな腕の良い芸人ばかりでないことも知っています。
 そんなことを思っているうちに、団長さんの心の中でこんな気持ちが湧いてきました。
本当に仕事だけで人を評価するのは正しいことなのか。世の中には仕事をしたくても働く所がない人もいることです。また重い病気を患って働きたくても働けない人たちもいるのです。ほんとに生きてることだけでやっとの人もいます。とりたててなんの能力もないけれど、人に親切な人もいます。風変わりな性格でも、何かいいものを持っている人もいるのです。そんな人たちをどうやって評価したらいいのかまったく見当がつきません。
 そんなことを考えると、一概に仕事だけで人を評価するのはよくないことだと思うのです。もしかしたら、このサーカスのピエロもそういう人間のひとりかもしれません。
 団長さんが、そんなことを考えているあいだにも、テントの上からは、ピエロの弾く心地よいマンドリンの音色がいつまでも夜空に響いていました。


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(文芸同人誌「青い花第23集」所収)

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(記事の更新は随時行います)

2015年08月18日

雪だるま食堂は大忙し

 冬がやってくると、町中の人たちが雪だるま食堂に電話をかけてきます。それも大雪の日なんか特に忙しくなります。
1メートルも雪が積もるとみんなスーパーにも行けないので、すぐに料理を届けてくれる雪だるま食堂が便利なのです。さっそく電話がかかってきました。
「すみませんが、トンコツラーメン2つとギョーザ2つお願いします」
「わかりました。すぐにお届けします」
 ホカホカの料理をケースにいれて、配達係りの雪だるまが、スキーをはいて出発します。
 雪で埋まった道路もすいすいとすべって、目的の家へ向かいます。
 「こんばんは」
 玄関のベルが鳴ってドアを開けると、雪だるまが料理を持ってきました。
「いつもありがとう」
 お金をもらって、雪だるまはまたスキーで帰って行きます。
 それからすぐに、次の仕事です。
「すみません。鍋焼きうどん3つとワンタン鍋2つお願いします」
「はい、すぐに持っていきます」
 次の家は、マンションでした。
 雪だるまは、さっそく出かけて行きます。
 マンションにやってくると、スキーを取りはずして、エレベーターに乗って5階の部屋へ行きます。玄関のベルを押して、
「雪だるま食堂です。ご注文の料理を持ってきました」
「ごくろうさん、ありがとう」
 お金をもらって、またエレベーターで降りて行きます。
 しばらくすると、お店から携帯がかかってきました。
「大急ぎで、帰ってきてくれ」
 雪だるまがお店に戻ってくると、店長が、
「次は、山の別荘からだ。お寿司とお刺身十六人前と、オードブル5つだ」
 コックさんが足りなくなってくるとみんな庭に出て、雪だるまのコックさんを作って補充します。
 山の別荘へはスキーでは無理なので、スノーモービルを使って出かけます。
 雪でいっぱい積もった山道を、エンジンを全開にして登って行きます。
 グウーン、グウーン、グウーーン、グウーン、グウーン、グウーーン・・・
 行く手に別荘が見えてきました。
 玄関のベルを押して、
「こんばんは。お料理持ってきました」
「いやあ、遠い所からどうもありがとう。うまそうだ」
 お金をもらって、また山を下りて行きます。
 そのうちに雪もまた降りだしてきました。
 お店に戻ってくると、今度は、海辺の家からです。
「かつ丼3つに親子丼2つだ。たのむよ」
 今度もまた、スノーモービルに乗って配達します。
 途中で、道を間違えたりすることもありますが、平気、平気。
 そうやって冬の間中、忙しいのです。
 雪だるま食堂が、一番大活躍するのは、大雪で道路が渋滞する時です。
 何キロも車が立ち往生して、みんな家に帰れないので、お腹がぺこぺこです。そんなときは、雪だるま食堂にすごい注文が舞い込みます。
 こんなときのために、雪だるま食堂では、いつも食材をたくさん準備しているので慌てなくても大丈夫なのです。
 たくさんの注文を受けると、配達員の数も増やして、みんなスキーで運びます。渋滞して動けなくなった車の脇をすいすい通って行きます。
「お待たせしました。持ってきました」
 すっかりお腹をすかせていたドライバーたちは、みんなにこにこと食べます。
 大雪の時は、こんなに注文がさっとうするのです。
 店長も、
「これだったら、全国にチェーン店を作りたいな」
といつも言っています。
 雪だるま食堂は、こんな風にたいへん便利でたくさんの人に役立っているのです。でも、営業は冬だけなので、春になるとお店は閉まってしまいます。


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(文芸同人誌「青い花第25集」所収)

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2015年08月14日

ロバにのった床屋さん

 ならず者に店をつぶされて、仕事ができなくなった床屋さんがロバにのって広い荒野を旅していました。
お金も取られたので、町のホテルにも泊まれません。持っているものといえば、寝袋と水筒と、商売道具のハサミ、髭剃り用のナイフ、それにタオルと石鹸だけでした。
「ああ、とんだ目にあったな。命はなんとか助かったが、もういちどお店を出したいなあ」
 ある日、木陰で休んでいると、一本のサボテンが声をかけてきました。
「お願いがあるんですが」
「なんだね、お願いって」
「ヒゲがずいぶん伸びたんで、剃ってくれませんか」
「ヒゲじゃなくて、トゲだろ」
「そうです。トゲです。お願いします」
「どうして私が床屋ってわかるんだい」
「ロバの背中に、床屋の道具が見えますから」
「ああ、そうだった。わかった、剃ってあげよう」
 床屋さんは、商売道具を取り出すと、石鹸をつけてサボテンのトゲを剃ってあげました。
きれいに剃り終わったあとは、シェーブローションを付けてあげて、なんどもサボテンの肩をほぐしてあげました。
 いままで硬くてかちかちだった肩もほぐれて、サボテンはとても喜びました。
 となりで見ていたサボテンたちも、
「わたしのも剃ってくださいよ」
といったので、床屋さんは順番にみんなのトゲを剃ってあげました。
 翌朝、床屋さんが旅立ったあと、この土地のインディアンの一団が、サボテンのそばを通りかかりました。
「みんなすっきりした顔をしてるな。すべすべの皮だ」
「ええ、きのう腕のいい床屋さんに剃ってもらったんです」
「その床屋はどっちへ行った」
「今朝、北の方角へ向けて歩いて行きました」
 インディアンの一団は、すぐにあとを追いかけて行きました。
そんなことなど知らない床屋さんは、ロバに乗ってのんびりと歩いていました。
 やがてインディアンたちが追いついて、床屋さんを捕まえて、自分たちの部落へ連れて行きました。
床屋さんは、縄でぐるぐる巻きに縛られて、テントの中に入れられました。
「やれやれだ。ならず者の次はインディアンか。おれもついてねぇな」
 しばらくして、この部落の酋長がやってきました。
「おい、おまえが腕のいい床屋か」
「腕がいいかどうか知りませんが、床屋です」
「じゃあ、わしの髪とヒゲを剃ってくれ」
 断って、頭の皮を剥がされて殺されでもしたら大変なので、
「わかりました。じゃあ、さっそくいたしましょう」
 さっそく、仕事をはじめました。
チョキチョキと軽快な音させて、きれいに髪を切ってあげました。
仕上げに満足した酋長は、みんなの髪も頼むと床屋さんに命令しました。
 みんなも仕上がりに満足して、部落の中に床屋さんのお店を作ってくれました。
 ある日、いつかのならず者の一味が、この部落のそばを通りかかりました。ちょうどその日は、インディアンの男たちはみんな山へ狩りに出かけていました。
川では、インディアンの娘たちが、おしゃべりしながら洗濯をしていました。
 娘たちを見つけたならず者たちは、にこにこ笑いながら、
「親分、若くて可愛い娘ばかりですね。ぶんどっていきましょう」
「よーし、みんな飛びかかれ」
 ならず者は、娘たちのいる方へ近づいて行くと、悲鳴をあげて逃げ回る娘たちを捕えて馬に乗せました。
その悲鳴を聞きつけたのは、店で昼寝をしていた床屋さんでした。
 川へ行ってみると、むかしじぶんの店をつぶしてお金を奪って行ったならず者たちでした。
「ちくしょう。こんどは娘たちに手を出すつもりだな」
 床屋さんは、店に戻ると、ライフル銃をもってきました。
バーン、バーン、銃声がこだまして、ならず者たちは、ばたばたと馬から落ちました。
「どうか、みのがしてくれ」
 親分と子分の何人かはかすり傷をおっただけですみました。
床屋さんはならず者に、二度とここへはやって来るなという条件で助けてやりました。
 夕方になって、インディアンの男たちが狩りからもどってきました。
娘たちから、今日の出来事を聞いて、インディアンの男たちはみんなとても喜びました。
 酋長も満足して、自分の娘を嫁にやろうといってくれました。ひとり者だった床屋さんは大喜びでした。そしてこのインディアン部落でいつまでも楽しく暮らしましたとさ。


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(つるが児童文学会「がるつ第37号」所収)

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2015年08月13日

カーネルおじさんの恋

 町の通りにケンタッキー・フライドチキンのお店がありました。お店の前では、白いひげを生やしたカーネルおじさんの人形が、毎日ニコニコ笑って立っていました。
「きょうも、たくさん人が歩いてるな。みんなお店にきてくれないかなあ」
 日曜日のことでした。道路を挟んだお店の向かい側に新しい小さな洋服屋さんがオープンしました。お店のショーウインドーに流行の洋服を身に付けたマネキン人形が飾られました。
「ああ、かわいい女性だな。あんな女性と話が出来たらなあ」
 カーネルおじさんは、そのマネキン人形がいつも気になってしかたがありません。
 ある日のことでした。おじさんはふとあることに気づきました。それはおじさんが子供だった頃、仲の良かった女ともだちに、そのマネキン人形がそっくりなのです。
 おじさんが生まれたのは、アメリカのインディアナ州のヘンリービルという所でした。小学校の同級生に、ネリーさんという女の子がいました。
スティーヴン・フォスターの歌に、「ネリー・ブライ」という曲がありますが、名字も同じでした。その女の子はカーネルおじさんの初恋の女性だったのです。
「まさか、わたしに会いに日本まで来てくれたのかなあ」
 おじさんの思い込みはたいへんなものです。
「それだったら、一度あいさつに行かないとなあ」
 おじさんの胸は躍りました。
 そんなある日のことでした。マネキン人形が、おじさんの方をむいて、にっこりとウインクしたのです。
 おじさんの胸はドキンドキンと、ときめきました。
「やっぱり、ネリーさんだ。わたしに会いに来てくれたんだ」
 おじさんは出かけることにしました。
 翌日、6ピースポテトパックを持って、洋服屋さんへ出かけて行きました。
 ショーウインドーの前にやってくると、ガラスをトントンと叩きました。マネキン人形は振り向いておじさんの方を見ました。
「こんにちは。よかったらこれ食べて下さい」
 マネキン人形は、にっこり笑って、
「ありがとう。じゃあ、いただくわ」
といって喜んで受け取ってくれました。
 その日は、あいさつだけで帰ってきましたが、そのあとも、カーネルおじさんは、たびたび仕事中に出かけるようになりました。
 おじさんは、マネキン人形がほんとうにネリーさんかどうかまだ確信がもてないので、故郷のアメリカのことはできるだけ話さないようにしました。
 ある日、半日も仕事をおっぽりだして、洋服屋さんの前で立ち話をしているところを店長に見られました。
 カーネルおじさんは店長に呼び出されて、仕事中は指定の場所に立っているようにきびしく命じられました。
 おじさんは仕方なく次の日からはいつもの場所に立っていましたが、マネキン人形のことがやっぱり気になるせいか、そのあとも店長の目を盗んでは、ときどき仕事中に出かけて行くようになりました。
 ある日、カーネルおじさんはふと思い出しました。
「そうだ。あしたは、ネリーさんの誕生日だ。プレゼントを持って行かないと」
 おじさんは、どんなプレゼントにしようかなといろいろと迷いました。
「そうだ。この通りの先に、人気のケーキ屋さんがあったな。あそこでケーキを買って持って行こう」
 その日は幸運にも店長が休みの日だったので、昼から出かけて行きました。
 ケーキ屋さんに行くと、女性店員に、
「すみませんが、2500円のいちごのデコレーシャン・ケーキひとつ下さい」
「お誕生日用ですか」
「はい、でもロウソクはけっこです」
「わかりました。お待ちください」
 きれいな包装紙にケーキを包んでもらって、おじさんはお店に戻ってきました。
 夜になってからおじさんは出かけていきました。夜だったら、だれにも見られずにのんびりと話が出来るからです。
 明かりの消えたショーウインドーの前にやってくると、ガラスをとんとんと叩きました。
 マネキン人形が気づいて、振り向きました。
「こんばんは、よかったらこのケーキ食べて下さい」
「いつもどうもありがとう。おいしそうだわ」
 おじさんは、このときがチャンスとばかりに、故郷のアメリカのことをはなしてみました。
 小学生の頃の先生のこと、友達のことなどいろいろとはなしてみました。マネキン人形はききながらキョトンと変な顔をしました。このおじさんは人違いをしているのだとわかったのです。でも、がっかりさせたくなかったので、話を合わしてくれました。
 その夜、ふたりは、ずいぶん長い間いろんなことを話しました。明け方近くまで話していたので、翌日はふたりとも寝不足で、仕事中に何度もウトウトしていました。
 カーネルおじさんは、数年間そうやっていつものようにマネキン人形に会いに出かけましたが、ある日、大変なことが起こりました。洋服屋さんがとつぜん閉店したのです。
「たいへんだ。ネリーさんがアメリカへ帰ってしまう」
 カーネルおじさんは仕事も手に付かず、いつもさみしそうな様子でした。お店にやって来るお客さんたちも、最近、人形のおじさんが元気がないとみんな言い合いました。
 ひと月がたったある日のことです。
 風の噂でマネキン人形の行方がわかりました。この町の大型デパートの婦人服売り場に飾られているということでした。
 カーネルおじさんは、それを聞いて飛び上がって喜びました。
「それじゃ、さっそく会いに行こう」
 翌日、仕事をまたおっぽりだして、隣の通りにあるデパートへ出かけて行きました。
 デパートは5階建てで、婦人服売り場は3階でした。エスカレーターで上まで上って行きました。デパートの中を歩いているお客さんたちは、白いスーツを着た、白いひげを生やしたどこかで見たことがあるおじさんがフライドチキンの紙袋を持って、うろうろしているので変な顔をしていました。
「婦人服売り場はどこですか」
 店員に教えてもらって歩いて行くと、見覚えのある人形が見えました。
「あれだ。ネリーさんだ」
 マネキン人形は、レジから少し離れたガラスのケースの中で、きれいなドレスを着て飾られていました。
 おじさんはそばへ行って、ガラスをトントン叩きました。
「やっとあなたに会えました。こんな所で働いていたんですか。おみやげを持ってきました」
 マネキン人形も、うれしそうににっこり笑って、
「よく来てくれましたね。お久しぶり、いつもありがとう」
 その日はおじさんにとってたいへん感動した日でした。
 おじさんは、それからも仕事中に抜け出しては、このデパートへよくやってきましたが、ある日、幸運なことが起こりました。
 おじさんが働いているケンタッキーフライドチキンのお店が、このデパートの2階に移転したのです。3階には婦人服売り場があるので、階段を登って行けばいつでもマネキン人形に会いに行けるのです。
 ですから、いつものようにカーネルおじさんは、店長の目を盗んでは、マネキン人形に会いに出かけて行きました。


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(文芸同人誌「青い花第25集」所収)

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2015年08月12日

コウノトリのおばさんの手助け

 ある日、コウノトリのおばさんの住む森の家に一通の手紙が届きました。
―このたび、わたくしたちめでたく結婚しました。赤ちゃんを届けてください。どうぞよろしくお願いいたしますー 
お百姓の夫婦よりー
 おばさんは読み終えると、さっそく赤ちゃんたちのいる育児室へいきました。
「あしたは早起きしなくちゃね、手紙をくれた若い夫婦の家は五つ山を越えた所にあるのだから」
 翌朝、コウノトリのおばさんは、赤ちゃんを入れた籠(かご)をもって出かけていきました。
すいすい空を飛んでいくと、やがてむこうの原っぱに、いっけんの家が見えてきました。
「あの家だわ」
 コウノトリのおばさんは、籠の中で眠っている赤ちゃんを起こさないように、しずかに降りていきました。
 その家には、若い新婚さんが暮らしていました。
奥さんは家の中でお掃除の最中、だんなさんは広い畑でトラクターに乗って畑をたがやしていました。
「さてと、玄関のところに置いておきましょう」
 コウノトリのおばさんは、籠の中に、『赤ちゃんを可愛がってあげてください』と手紙を添えておくと、この家から出て行きました。そしてまたすいすいと空をとびながら、じぶんの家に帰っていきました。
 ひと仕事を終えてほっとしたおばさんは、お湯をわかして紅茶を入れていっぷくしました。
だけど、おばさんは、最近よく嘆いていることがあるのでした。
それは、人間の赤ちゃんの依頼がむかしと比べてずいぶん少なくなったからです。
 ある国では若い人たちがぜんぜん結婚しないので、おばさんの仕事も減りました。
昔だったら、日に何回も赤ちゃんを届けにあちらこちらの国へ行く大忙しでしたが、それが最近では目に見えて減ってしまったのです。
 「これじゃ、暇すぎてわたしもはやく老け込んでしまうわね…」
 ある日、おばさんの家に変わった手紙が届きました。
―コウノトリのおばさん、お願いがあります。わたし独り者ですけど赤ちゃんが欲しいのです。届けてくださいー
海の家に住む女性よりー
コウノトリのおばさんは、その手紙を読んで、
「まったくへんな手紙だこと、いまの人は何を考えているのかしら」
とあきれてしまいました。
「でも、いったいだれかしら」
 おばさんは、翌日、その手紙の送りぬしのところへいってみました。
東の山を四つ越えた、海の見える砂浜に小さな家がありました。
その家には、事故で夫を亡くした若い女の人がひとりさびしく暮らしていました。毎日、満たされない生活になやんでいたのです。
それでも子供の頃から好きだった趣味の絵を描いたり、本を読んだりしてさみしさをまぎらわせていました。けれども、やはり子供がいないので生きる気力をすっかりなくしていたのです。
「なんて、かなしそうなようすでしょう」
 おばさんはそれをみると、何とかしてあげようと思いました。
でも、夫のいない女性にこどもを持っていくことはできないのです。
おばさんは、どうすることもできずに帰っていきました。
 ところが、二、三日してから、郵便受けの中にこちらも変わった一通の手紙が入っていました。
―子犬を一匹お願いします。独り者でたいくつしてますからー。どうぞよろしくお願いいたします。
山で暮らす男よりー
 その手紙をくれたのは、山の高原に住む、ちょっと変わった詩人さんでした。
詩作の合間に、庭の畑で野菜を作ったり、野山を歩き回って山ぶどうやあけび、スグリなんかを取ってきてジャムを作ったり、自給自足の生活をしていました。
 仕事場ではノートに詩を書いていて、手作りの詩集を作るのを楽しみにしていました。だけど、いまだに一冊も出版したことがありません。きれいな絵の付いた装丁をしてくれる人がいないからです。
「そうだわ」とコウノトリのおばさんは考えました。
 ある日、おばさんは、こっそり小屋に忍び込むと一篇の詩が書かれた紙切れを持ち出すと、こんな手紙を書いて海辺で暮らす女の人に送ってみました。
―わたしは、山で暮らす無名の詩人です。いつも高原を歩きながら、山の清涼な空気のようなやさしい詩を書いています。ある日、ひさしぶりに山を下りて海辺へ出かけた時、砂浜でひとり絵を描いているあなたを見かけました。海の絵を見てとても感動しました。こんなすてきな絵を描く人だったら、わたしの詩にも美しい挿絵を描いてくれるでしょう。どうかお願いします。わたしの詩に絵を描いてください。
山の詩人よりー
 その手紙を受け取った女の人が非常に驚いたのはいうまでもありません。添えられた一篇の詩を読んでみると、とても気にいったとみえて、その日のうちに絵を描いて、翌日手紙といっしに絵を送りました。
 その手紙を受け取った山の詩人さんも大変びっくりしましたが、添えられてきた絵を見て、自分の詩のイメージとぴったり合うので、もう一篇、女の人に送りました。
 数日後にはまた手紙といっしょに絵が送られてきました。そんなふうに手紙のやりとりが何回も続いたある日、一度山へ遊びにきませんかという詩人さんの言葉にさそわれて、女の人は山の家に出かけていきました。
美しい高原の中にある詩人さんの小屋で、楽しい話をしたり、詩人さん手作りのジャムを付けたパンをごちそうになったり、ふたりで将来、協力して詩と絵を組み合わせた詩画集を出版する計画をしたりしました。
 また、こんどは山の詩人さんが、女の人が暮らす海の家にも遊びにでかけました。そして、おいしい魚料理をごちそうになりながら楽しい話をしました。
 やがて、ふたりは恋仲になり、いっしょに山で暮らすことになりました。山の高原の教会で結婚式をあげて、小屋にすみこみました。
 ある日、コウノトリのおばさんのもとへ、ふたりから手紙が届きました。
―わたくしたち結婚しました。かわいい元気な赤ちゃんを届けてください。どうぞよろしくお願いいたしますー
山の夫婦よりー
 コウノトリのおばさんはそれを読むと、ニッコリ笑いながら、赤ちゃんたちが眠っている育児室へ行き、出掛ける準備をはじめました。


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(自費出版童話集「びんぼうなサンタクロース」所収)

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(記事更新は随時行います)

                       

旅人とハーモニカ

 親もなく家もない孤独な旅人が、ある土地を歩いていました。
どこへ行ってもよそ者で、ともだちの一人もできませんでした。
 ある日、道ばたでハーモニカをひろいました。
「こどものころをおもいだすなあ」
 旅人は、ひろってふいてみました。
「いい音だ。旅のなかまにしよう」
 野原の道を歩きながら、旅人はハーモニカをふいて歩きました。
 まずしい村にやってきました。
川沿いに家があり、小さなこどもたちと母親がくらしていました。
母親は病気で、家の中はすっかり暗くなっていました。
「そうだ。楽しい曲をふいてあげよう」
 旅人は、家の外で陽気で楽しい曲をふきはじめました。
 すると、こどもたちがその音をきいて、窓から顔をだしました。
みんなハーモニカをきいているうちに、だんだんと愉快で楽しい気分になり、こどもらしい顔つきになってきました。
 旅人はまた歩きはじめました。
 ある町へやってきました。仕事をなくして肩をおとしてふさぎこんでいる労働者がいました。
 旅人は元気づけたいと思い、またハーモニカをふきました。
労働者は、こどものときにきいたことがある曲なのでだんだんと元気がでてきました。
「よおし、またがんばって仕事をみつけにいこう」
 ハーモニカをききおわると、となりの村のほうへ元気に走っていきました。
 旅人はまた歩きはじめました。
 次の町へやってくると、刑務所から出てきたばかりの男が、おなかをすかせて公園のベンチにこしかけていました。
「どこかで食べ物をぬすまないと飢え死にしてしまう。そうだ、あの食料店で万引きしよう」
 男が、店の方へ歩きだしたとき、ハーモニカの音がきこえてきました。
すると、公園の中にいたこどもたちがみんなさわぎだしました。
男は、こどもたちが見ている前でぬすみをするのはみっともないことだと思いました。
「やっぱり、まじめに働こう」
 そういって、公園からでていきました。
 旅人はその町をあとにすると、きれいな小川の流れているしずかな村をとおりかかりました。
川のむこうに病院がありました。
死期のせまった人たちが入っている病院でした。どの人もあとわずかな日々をさびしく過ごしていました。この世にのこされた時間はもうわずかなのでした。
みんなこの世から立ち去る前に、なにか美しいものをみて旅立ちたいと思っていました。
 そのとき、川のむこうからやさしいハーモニカの音がきこえてきました。
「ああ、なんてきよらかな音色だ。この世の最後に、こんなうつくしい音楽がきけるなんて」
 みんなそういって、いつまでもやさしいハーモニカの音をきいていました。
 その旅人が、いまどこへ出かけているのかだれも知りません。
でもそのハーモニカのやさしい音色は、きっとだれの心にもいい思い出として残るのでしょう。


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 (自費出版童話集「びんぼうなサンタクロース」所収)

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(記事更新は随時行います)

2015年08月11日

声を出す木

 すごい山奥の林の中で、きこりが木をきっていました。
 ギィーコ、ギィーコ、ギィーコ、ギィーコ
きり倒された木が、ギギギギ、ズドーンと音をたてて倒れます。
 一本の木のところへいって、きりはじめたときです。
「痛―い、痛―い、やめてくれ」
と声がきこえました。
 きこりは、あたりを見わたしましたが誰もいません。またきりだすと、
「痛―い、痛―い、きらないでくれ」
と声がきこえました。
「声を出したのは、おまえさんかい」
「そうだよ。おいらだ」
 木は答えました。
「そんなにきられたくないのかい」
「ああ、そうだ。きらないでくれ」
「そりゃ、できんことだ。今日のうちにきってしまわないと、親方にどやされる」
「そんなことあるかい。かってに山にやってきて、おれたちにことわりもしないでたくさん木をもっていくんだから。あんたたちはかってだよ」
 理屈をいう木にきこりは困りましたが、なんとか説得して早くきらないといけないのです。
 きこりは考えました。
「おまえさんは、この山にどのくらい暮らしているんだね」
「二百年になるかなあ」
「ほーっ、こんなさみしいところでそんなに長く」
「いいところだよ。静かでのんびりしてて、空気もおいしいし」
「そりゃ、けっこうだが、町もいいところだぞ。お前さんのお父さんも、おじいさんも、ひいおじいさんも、いまはりっぱな神社の柱になったり、大きな屋敷の壁板になったり、公園のベンチになったり、みんな毎日たのしく暮らしてるんだよ」
「それ、ほんとうかい」
「ほんとうだよ。わしの見たところあんたみたいな丈夫でりっぱな木だったら、豪華客船のラウンジの柱にうってつけだ」
「へえ、それはすごいなあ。それだったら、毎日海を眺めていられるなあ」
「そうだよ。いろんな国をただで旅行ができるからな」
「そうか、じゃあ、行ってみようかな」
 木は話をきいているうちに、きられることに承諾しました。
「じゃあ、いいよ、きってくれ」
「いいんだな」
「うん」
 きこりはきりはじめました。ところがまた「痛―い、痛―い」
と悲鳴がきこえました。
「どうしたんだね、気が変わったのかい」
「ちがうよ、そこは神経が通ってるんだ。もっと下の方だよ」
「ここはどうだい」
「もうすこし下だ」
「ここはいいかい」
「ああ、いいよ、やってくれ」
 きこりは力をいれて、ギィーコ、ギィーコ、ギィーコ、ギィーコときりはじめました。きられたその木は音をたてて、倒れました。
 そして、ほかの木と一緒にトラックに載せられて山をおりて行きました。
 数年後、その木はきこりがいったように、いまは世界の海をたのしく旅しているそうです。

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(つるが児童文学会「がるつ第36号」所収)

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