2015年08月12日

旅人とハーモニカ

 親もなく家もない孤独な旅人が、ある土地を歩いていました。
どこへ行ってもよそ者で、ともだちの一人もできませんでした。
 ある日、道ばたでハーモニカをひろいました。
「こどものころをおもいだすなあ」
 旅人は、ひろってふいてみました。
「いい音だ。旅のなかまにしよう」
 野原の道を歩きながら、旅人はハーモニカをふいて歩きました。
 まずしい村にやってきました。
川沿いに家があり、小さなこどもたちと母親がくらしていました。
母親は病気で、家の中はすっかり暗くなっていました。
「そうだ。楽しい曲をふいてあげよう」
 旅人は、家の外で陽気で楽しい曲をふきはじめました。
 すると、こどもたちがその音をきいて、窓から顔をだしました。
みんなハーモニカをきいているうちに、だんだんと愉快で楽しい気分になり、こどもらしい顔つきになってきました。
 旅人はまた歩きはじめました。
 ある町へやってきました。仕事をなくして肩をおとしてふさぎこんでいる労働者がいました。
 旅人は元気づけたいと思い、またハーモニカをふきました。
労働者は、こどものときにきいたことがある曲なのでだんだんと元気がでてきました。
「よおし、またがんばって仕事をみつけにいこう」
 ハーモニカをききおわると、となりの村のほうへ元気に走っていきました。
 旅人はまた歩きはじめました。
 次の町へやってくると、刑務所から出てきたばかりの男が、おなかをすかせて公園のベンチにこしかけていました。
「どこかで食べ物をぬすまないと飢え死にしてしまう。そうだ、あの食料店で万引きしよう」
 男が、店の方へ歩きだしたとき、ハーモニカの音がきこえてきました。
すると、公園の中にいたこどもたちがみんなさわぎだしました。
男は、こどもたちが見ている前でぬすみをするのはみっともないことだと思いました。
「やっぱり、まじめに働こう」
 そういって、公園からでていきました。
 旅人はその町をあとにすると、きれいな小川の流れているしずかな村をとおりかかりました。
川のむこうに病院がありました。
死期のせまった人たちが入っている病院でした。どの人もあとわずかな日々をさびしく過ごしていました。この世にのこされた時間はもうわずかなのでした。
みんなこの世から立ち去る前に、なにか美しいものをみて旅立ちたいと思っていました。
 そのとき、川のむこうからやさしいハーモニカの音がきこえてきました。
「ああ、なんてきよらかな音色だ。この世の最後に、こんなうつくしい音楽がきけるなんて」
 みんなそういって、いつまでもやさしいハーモニカの音をきいていました。
 その旅人が、いまどこへ出かけているのかだれも知りません。
でもそのハーモニカのやさしい音色は、きっとだれの心にもいい思い出として残るのでしょう。


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 (自費出版童話集「びんぼうなサンタクロース」所収)

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(記事更新は随時行います)

2015年08月11日

声を出す木

 すごい山奥の林の中で、きこりが木をきっていました。
 ギィーコ、ギィーコ、ギィーコ、ギィーコ
きり倒された木が、ギギギギ、ズドーンと音をたてて倒れます。
 一本の木のところへいって、きりはじめたときです。
「痛―い、痛―い、やめてくれ」
と声がきこえました。
 きこりは、あたりを見わたしましたが誰もいません。またきりだすと、
「痛―い、痛―い、きらないでくれ」
と声がきこえました。
「声を出したのは、おまえさんかい」
「そうだよ。おいらだ」
 木は答えました。
「そんなにきられたくないのかい」
「ああ、そうだ。きらないでくれ」
「そりゃ、できんことだ。今日のうちにきってしまわないと、親方にどやされる」
「そんなことあるかい。かってに山にやってきて、おれたちにことわりもしないでたくさん木をもっていくんだから。あんたたちはかってだよ」
 理屈をいう木にきこりは困りましたが、なんとか説得して早くきらないといけないのです。
 きこりは考えました。
「おまえさんは、この山にどのくらい暮らしているんだね」
「二百年になるかなあ」
「ほーっ、こんなさみしいところでそんなに長く」
「いいところだよ。静かでのんびりしてて、空気もおいしいし」
「そりゃ、けっこうだが、町もいいところだぞ。お前さんのお父さんも、おじいさんも、ひいおじいさんも、いまはりっぱな神社の柱になったり、大きな屋敷の壁板になったり、公園のベンチになったり、みんな毎日たのしく暮らしてるんだよ」
「それ、ほんとうかい」
「ほんとうだよ。わしの見たところあんたみたいな丈夫でりっぱな木だったら、豪華客船のラウンジの柱にうってつけだ」
「へえ、それはすごいなあ。それだったら、毎日海を眺めていられるなあ」
「そうだよ。いろんな国をただで旅行ができるからな」
「そうか、じゃあ、行ってみようかな」
 木は話をきいているうちに、きられることに承諾しました。
「じゃあ、いいよ、きってくれ」
「いいんだな」
「うん」
 きこりはきりはじめました。ところがまた「痛―い、痛―い」
と悲鳴がきこえました。
「どうしたんだね、気が変わったのかい」
「ちがうよ、そこは神経が通ってるんだ。もっと下の方だよ」
「ここはどうだい」
「もうすこし下だ」
「ここはいいかい」
「ああ、いいよ、やってくれ」
 きこりは力をいれて、ギィーコ、ギィーコ、ギィーコ、ギィーコときりはじめました。きられたその木は音をたてて、倒れました。
 そして、ほかの木と一緒にトラックに載せられて山をおりて行きました。
 数年後、その木はきこりがいったように、いまは世界の海をたのしく旅しているそうです。

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(つるが児童文学会「がるつ第36号」所収)

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