2016年08月31日

白馬の騎士とフリーデリケ

 そのお屋敷には三人の姉妹が、お母さんと一緒に楽しく暮していました。今日は、この国の王様が毎年開く、お城での大舞踏会がある日です。
 みんな朝から何度もドレスを着替えたり、お化粧した顔にまたお化粧したり、それはそれは忙しい日でした。
 ところが、一番下の妹は、今年も舞踏会に出かけないのです。
「フリーデリケ、今年もまたお留守番?」
お姉さんたちが、心配そうに聞きました。
「ええ、わたしのことは心配しないで、みんなで楽しい舞踏会へ行ってらっしゃいね」
フリーデリケは、馬車で出かけていくお姉さんたちを、うらやましそうに見送りました。
 そのとき、夜空の向こうから、翼の生えた白馬に乗ったひとりの騎士が、この家のベランダへ舞い降りてきました。
「お嬢さん、なんて悲しそうな顔をしているのですか」
白馬の騎士は、娘のそばへやって来ていいました。
「だってわたし、今年もお城の舞踏会に出られないんですもの」
「そうでしたか。からだに合うドレスが見つからないんですね」
「そうなのよ。わたし、去年よりも、こんなに太っちゃって、とても恥ずかしくて舞踏会へいけないのよ」
食いしん坊の娘は、顔を赤らめながらいいました。
「それじゃ、わたしの国の舞踏会へいらっしゃい。今夜、わたしのお城で仮装舞踏会が開かれるんですよ」
「仮装舞踏会?」
 フリーデリケは、それを聞くとにっこり笑いました。だって、仮装をすれば、この太った体をうまくごまかすことが出来るからです。
「それじゃ、出かけましょう、お嬢さん。しっかりつかまってて下さいよ」
白馬の騎士は、娘を馬に乗せると、空の上にあるそのお城へ行くことにしました。
白馬は、少し重そうな様子で、羽ばたきをしながら、お城へと向かいはじめました。
 やがて、雲の隙間から、うっすらとお城が見えてきました。そのお城は、切り立った雲の岩の上にありました。
 お城の門をくぐり抜けると、大広間の方から、華麗なウインナ・ワルツが聴こえてきました。
「お嬢さん、もうすぐ舞踏会がはじまりますよ。わたしたちも、控え室へ行って仮装服を身につけましょう」
 そういって、白馬の騎士は、馬を地上へ降ろしました。それから二人はいそいで控え室へ行くと、仮装服を身につけることにしました。
 フリーデリケが選んだ服は、かわいい白くまのぬいぐるみでした。白馬の騎士が選んだ服は、ライオンのぬいぐるみでした。
 すっかり、用意の整ったふたりは、手をつないで、舞踏室へ入っていきました。真っ赤なじゅうたんの上では、たくさんのお客さんたちが、様々な仮装服を身につけて、楽しそうにおしゃべりをしていました。
 やがて、室内オーケストラが、「美しき青きドナウ」の曲の演奏をはじめると、会場のお客さんたちは、みんな曲にあわせてワルツを踊りはじめました。フリーデリケも白馬の騎士を相手にしながら、一緒に踊りました。明るいシャンデリアの光のもとで、舞踏室は大にぎわいです。
 踊りながらフリーデリケは、こんなことを考えていました。
「いまごろ、おねえさんたちも、地上の王様のお城で、楽しそうに踊っているでしょうね。でも、わたしのほうが、もっと楽しいわよ。こんなすてきな男性と踊れるんですもの」
 しばらくして、このお城の王様が、家来をしたがえて、舞踏室へ入って来ました。
「みなさん、今夜は、よくいらして下さいました。どうか、時間のゆるすかぎり、ゆっくりくつろいでいって下さい」
 王様のあいさつが終わると、また、ワルツが流れはじめました。
「さあ、もう一曲踊りましょう」
白馬の騎士がいうと、フリーデリケは、ちょっと顔を赤らめながら、
「ええ、お願いします。でも、わたしとても緊張したせいか、お腹がぺこぺこなのよ」
「そうでしたか、それは気づきませんでした。では、食堂へ行きましょう」
 二人は舞踏室から出ていくと、食堂へ向かいました。
 食堂へ行くと、大きなテーブルの上に、豪華な料理が並んでいました。
「さあ、どうぞ、たくさん召し上がってください」
 フリーデリケは、はじめ控えめに食べていましたが、やがて、がつがつといせいよく食べはじめました。
 それを見ながら、白馬の騎士は、
「ずいぶんお腹が空いていたんですね。さあ、ご遠慮なさらずに、たくさん食べてくださいよ。食事がおわったら、わたしの両親を紹介しますからー」
 そういうと、白馬の騎士は食堂から出ていきました。
しばらくして、すっかりお腹がふくれたフリーデリケが舞踏室へもどってくると、王様のそばで、白馬の騎士が待っていました。
「さあ、こちらへいらして下さい。父上、この方が、わたしのフィアンセです」
 それを聞いて、フリーデリケはびっくりしました。
「え、このわたしが、フィアンセですって。そうだったの。この方は本当の王子さまで、わたしのことが好きだったんだわ」
 フリーデリケが、とまどっていると、王様がにこにこしながらいいました。
「どうですかな、お嬢さん。あなたさえよければ、わたしの息子の嫁になってやってはくださらんか。そしたら将来あなたはこの国の王妃さまですよ」
「王妃さま!」
フリーデリケは、それを聞いて、こころの中でにっこり笑いました。
(王妃さまになれるなんて、こんなチャンスは、めったにないわ。毎日、きれいなドレスが着られるし、おいしい料理もたくさん食べられるし、どうしようかなー」
 すると王子さまも、念をおすように、
「どうかお願いします。ぜひとも、わたしの妃になってください」
 フリーデリケは、二人に頼まれているうちに、すっかりその気になってしまい、その場で妃になることを決めてしまいました。
「みなさん、今夜はめでたい夜になりました。さあ、もっと踊りましょう。音楽開始!」
王様のかけ声で、室内オーケストラが奏ではじめたのは、喜歌劇「メリー・ウイドウ」からの愛らしいワルツです。フリーデリケは、夢うつつの気分で、王子さまと踊りはじめました。
 翌日、ずいぶんと早い盛大な結婚式が、お城の中で開かれました。
フリーデリケが、純白のウエディング・ドレスを身につけて、王子さまと式場に現れたとき、お客さんたちは、みんな盛大な拍手を送りました。ふたりは、みんなの祝福を受けながら指輪の交換をしました。
 そして、披露宴会場では、たくさんのお客さんたちと一緒に、楽しい食事をすることになりました。
ところが、朝から緊張の連続で、すっかりお腹がぺこぺこだったフリーデリケは、はじめは、お客さんたちと話をしながら、ゆっくりと食べていましたが、やがて、食べることばかりに夢中になってしまいました。そして、いつものように、つぎつぎとお料理を平らげていきました。
お客さんたちは、その見事な食べっぷりにみんな驚きましたが、
「いいではないか。健康そのものじゃ」
王様がいうと、みんな、またにこにこと笑って、食事をはじめました。
 やがて、結婚式もぶじに終わり、フリーデリケは、お城の中でいつものように楽しい毎日を送ることになりました。
 ところが、何日かすると、お母さんのことや、お姉さんたちのことが頭に浮かんできました。
「いま頃、家の人たちは、何をしているのかしら。だまって出て行ったわたしを、みんなで探しているのかしら」
そんなことを考えていると、またお腹がすいてくるのでした。
 フリーデリケは、お城の食堂へ行っては、お菓子を食べたり、果物を食べたり、ワインを飲んだりして、そんな気持ちをまぎらわせていました。
 けれども、心配ごとは、そればかりではありません。お城には、毎日のように、お客さまがおいでになるので、フリーデリケは、緊張の連続です。お客さまが帰ったあとは、いつも食堂へむかいます。そして、食べる量も日に日に多くなっていきました。
 そんな生活が一年もつづくうちに、お城の食べ物がだんだんと無くなってきました。
「これは、困ったことじゃ、わしらの食べ物も無くなりはしないか」
王様も、お妃さまも、王子さまも、気が気ではありません。
「なんとか、姫の心配ごとを、なおしてやらなくてはいかんな」
みんなが、そんなことを考えているうちにも、フリーデリケは、さかんにお城の食べ物を食べあさります。
食堂が閉まっているときは、お城の庭に植えてある、イチゴやナシやオレンジなんかを、むしゃむしゃと食べるのです。
 そのうちに、庭の果物を食べ尽くしたフリーデリケは、こんどは、お城を抜け出して、近くの農家へ行くと、ぶどうやさくらんぼ、スイカにメロンに、きゅうり、レタスまで食べてしまうのです。
ですから、農家の人たちが、毎日のように、お城へやってきては、王様に苦情を訴えにきました。見かねた王様は、王子さまと相談して、お姫さまを、下界の家へ帰らせることにしたのです。
 翌日、フリーデリケは、王子さまと一緒に、白馬に乗って、お城から出ていきました。そして、なつかしい自分の故郷の家へと向かいはじめました。
 白馬は、来たときよりも二倍も、三倍も体重の増えたフリーデリケを乗せながら、汗をかきかき、ずいぶん苦しそうに飛んで行きました。
 やがて、雲の下に、フリーデリケが住んでいたお屋敷が見えてきました。
「フリーデリケ、なごり惜しいけれど、これでお別れだね。いつまでも、しあわせに」
そういって、寂しそうにしているフリーデリケに、王子さまがお別れの口づけをしようとした時、緊張のあまり、からだのバランスを失ったフリーデリケは、白馬の背中からずり落ちると、そのまま真っ逆さまに、地面に向かって落ちていきました。
 王子さまは、落ちていくフリーデリケを助けることも出来ずに、ただ口を開けて心配そうに見ているだけでした。
(どしーんー!)
 耳をつんざくような大きな音がしたかと思うと、フリーデリケは、いつも見慣れている自分の部屋のベッドの下で、目をさましました。
舞踏会から帰って来たばかりの、お姉さんたちが、その音を聞きつけて、どかどかと部屋へ入ってきました。
「フリーデリケ大丈夫、また寝ぼけてベッドから落ちたのね。でも、今夜はどんなすてきな夢を見ていたのかしら」
 お姉さんたちの問いかけに、フリーデリケは、眠気まなこで、空の上のお城へ行ったことをはなしました。でも、いつものようにお姉さんたちは、ぜんぜん信じてくれませんでした。
 けれども、フリーデリケの指には、王子さまから貰った結婚指輪が、しっかりとはめられていたのを、彼女自身もそのときにはぜんぜん気づいていませんでした。 


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(自費出版童話集「白馬の騎士とフリーデリケ」所収)





(記事の更新は随時行います)

2016年08月19日

音痴な小鳥

 すごい音痴な小鳥がいました。
いつも林の中で、朝から晩まで大きな声で鳴いていました。
なかまの小鳥たちは、その鳴き方が変なので、いつも困ったものだと言い合いました。
「あんなひどい音痴では、ぼくたち鳥仲間の品格にかかわる。どうにかならないものかなあ」
 だけど、その小鳥はそんなことにはおかまいなしに、いつも同じように鳴いていました。
 ある日、村の子供たちが、この林に遊びにやってきました。なかに小さい子供たちもいました。
 幼稚園の先生からいつも、
「小鳥さんは歌がじょうずだから、小鳥さんのように歌ってごらんなさい」
と教えてもらっていました。
 小さい子供たちは木の上から聴こえてくるその小鳥の歌声をきいて、いつも練習をしました。
ところが、ある日、幼稚園の歌の時間のとき、子供たちの歌を聴いて先生はびっくりしました。
「みんなの音程がずれてるわ。誰のまねをしたのでしょう」
子供たちに尋ねてみると、小鳥さんのまねをしたことを話しました。
 またある日のことでした。
この村で一番、詩吟のうまいお百姓のおじいさんが、いつものように、家の近くの林の中で練習をしていると、どこからか変な鳴き声が聴こえてきました。
「ずいぶんひどい鳴き方だ。困った小鳥だな」
 はじめは気にもせずに練習をしていましたが、だんだんと自分の音程もおかしくなってきたのです。
 秋の詩吟コンクールのとき、とんだめにあいました。いつもの年なら上位入賞のはずなのに、音程がずれているので予選で落ちてしまいました。
 頭にきたおじいさんは、今度あの小鳥を見つけたら、撃ち落として焼き鳥にしてやろうと文句をいいました。
 音痴な小鳥は、ひさしぶりに町へ行きました。
町の公園へ行ってみると、たくさんの親子連れが来ていて、子供たちがブランコやシーソーにのって遊んでいました。
 噴水のそばのベンチでは、アベックや年寄りが腰かけて、池の中を泳いでいる鯉や金魚にエサをやっていました。
 公園の片隅で、ひとりのアコーディオン弾きが、子供たちに演奏を聴かせていました。
小鳥も、そばの木の枝にとまって一緒に聴いていました。
 子供たちは、アコーディオンの伴奏を聴きながら、一緒に歌いはじめました。
それをきいて小鳥も歌いました。
 ところが、いくら歌ってもみんなと音程が合いません。それにアコーディオンの伴奏とも合わないのです。
「おかしいな。どうしてだろう」
なんども歌っているうちに、その理由がわかってきました。
「そうかぼくの歌い方がおかしいんだ」
小鳥はそのときはじめて、自分の音程がずれていることに気づいたのです。
小鳥は、なんだかはずかしくなってきました。いまのうちに治そうと思いました。
 そして夕方までみんなに合わせて歌っていると、みんなと同じように歌えるようになりました。
「よかった、よかった。これで村へ帰ってもは安心だ」
 小鳥はそういって町から出て行きました。


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(未発表童話です)




(記事の更新は随時行います)

2016年08月10日

丘の上の作曲家

 村からはずいぶん離れた静かな緑の丘の上に、一軒の小屋が建っていました。その小屋には三年も前からひとり暮らしをしている作曲家がいました。
 以前は町で暮らしていましたが、騒音が嫌いで、この静かな田舎へやってきたのです。
 町ではアパートに住んでいましたが、赤ん坊の泣き声や自動車の音、工事現場から聞こえる騒音で仕事がはかどらず、ここへやってきたのです。
 急いでやってきたので、ずいぶんいろんな物を忘れてきました。でも重たいピアノと五線紙ノートと筆記用具だけは忘れませんでした。この作曲家にとってほかの物はさして重要でもありませんでしたから。
お腹がすけば、山へ行って木の実やキノコを採ってきて食べたり、川へ行って魚を釣ってきたりしました。
 作曲家の毎日の生活は、おおよそ次のようなものでした。
 まず、朝ごはんを食べてから散歩に出かけます。近くの森へ入り、梢から聞えてくる小鳥の声に耳を傾けます。落ち葉のところで這いずっているカマキリ、クツワムシ、テントウムシの足音、花の蜜を探しているミツバチや熊んバチの羽音、そんな音にも静かに耳を傾け、五線紙ノートに書き込みます。家に帰ってから自分の作品にそれらの音を取り入れるためです。
 だけど、この作曲家はこれまでほとんど作曲の注文を受けたことがありません。いつも自分でもこういってます。
「おれは一生、無名の作曲家で終わりそうだ」
そうはいっても、過去にいくつかの仕事を引き受けたことがありました。ひとつは映画音楽の仕事でした。低予算のメルヘン映画で、この作品に音楽を付けたのです。
 ロシアの昔話をもとにした映画で、付けた音楽は自分では気にいっていましたが、映像担当者がぜんぜん才能がなく、音楽と映像がまったく合いません。監督とも肌が合わなかったので、出来上がった映画は完全な失敗作に終わりました。
 学校から校歌を依頼されたこともありました。でも斬新過ぎるという理由で採用されませんでした。そんなことで一時期仕事を休んでいたのですが、ある日、丘の原っぱの道を散歩していたとき、一人の詩人さんと出会ったのです。
 いろんな土地を旅している人で、見るからに風変わりな人でした。でも詩才はあり、この詩人の詩と自分の音楽はどこか共通するところがあったのです。
 お互いに付き合いながら、ある日、二人で歌曲を作ってみようかということになりました。詩人さんがこれまで書いていた詩を全部見せてもらって、曲が付けられそうな詩を選びました。
 選んだ詩は、次のようなものでした。
第1篇「世間から追い出されて」、第2篇「旅から旅へ」、第3篇「私はどこを彷徨うか」、第4篇「沼のほとりで」、第5篇「夕暮れの道」などです。
 ボヘミアン的なところはありますが、静かで落ち着いた詩が多く、これらの詩に曲を付けていきました。
 数週間後、出来上がった歌曲をピアノ伴奏で一緒に歌ってみました。二人とも大変満足でした。
知り合いの楽譜出版社に送ってみると、採用されてかなりの数が売れたようでした。
 それからも二人で歌曲を作っていきましたが、性格の違いから、共同作業は長くは続きませんでした。
「きみと一緒に仕事をするのは無理だ」
といって別れてしまったのです。
仕方なく作曲家は、別の仕事を探すことにしました。
 久しぶりに丘を降りて、町へ行ったとき、ひとりの船乗りに出合いました。居酒屋でお酒を飲んでいた時でした。いろいろと海の暮らしのことを聞きながら、自分も船に乗ってみたくなりました。
「世界の海を旅したら、海をテーマにした音楽が書けそうだ」
決断するとすぐに船に乗ることに決めました。
 ある日、その船乗りの紹介で、外国行きの貨物船に乗りました。ずいぶんくたびれた赤サビだらけの老朽船でした。仕事は甲板掃除やペンキ塗りばかりでしたが、非番のときは、デッキで海を見ながら、音楽のイメージを膨らませました。
 出港してからすぐに船酔いに悩まされましたが、十日もするとそれにも慣れました。
 航海中は、嵐にも出会わずシケた日は一週間程度で済みました。
広い海を毎日見てると、いろんなものに出合います。水平線の向こうにイルカの一群に会ったこともあります。すごいスコールにあって、その雨で、髪の毛を洗ったこともありました。
 一番神秘的だったのは真夜中に、くらげの一群にあって、水面が星のようにキラキラと輝いている情景でした。それらの体験を、すべて音楽として表現することに夢中でした。
 狭い船室のベットの中で、五線紙を広げて、鉛筆で音符を書き込んでいく作業が航海中続きました。
 ときどき船員たちのいびきの音や、調子はずれの歌声に悩まされたりしましたが、それでも航海中に、ほとんどの曲が出来上がっていきました。
 目的の国へ着くと、荷物の積み下ろし作業で忙しく、作曲ははかどりませんでしたが、町へ行くと久しぶりに、むこうの珍しい料理を食べたり、映画を観に行ったりしました。
 数日間その国でのんびりしてから、帰路につきました。
帰りの航海でも、印象に残った風景などを音楽にまとめて、半年後に船を降りて、丘の家に帰ってきました。
 久しぶりに見る丘の景色は、いつものようにのどかで、美しい花々に覆われていました。上着のポケットには、船会社から貰った給料袋も入っており、そのお金で、おいしい食べ物を食べに町へ行ったりしました。
 そして、船の中でほとんど出来上がったスコアを、部屋の机の上に広げて、毎日見直していきました。
 100ページもあるスコアの最初のページには、交響詩「海の風景」とちゃんと標題が書き込まれています。スコアを修正しながら、
「この作品が見事出来上がったら、町のオーケストラ指揮者に観てもらおう。上手くいけば町の音楽ホールで演奏してもらえるかもしれない」
 そんなことを呟きながら作曲家は、今日も部屋の机に向かって、ペンを動かしています。


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(未発表童話です)






(記事の更新は随時行います)

2016年07月29日

骨になった男

 おれは、太陽ががんがん照りつけている熱い砂漠の上を、意識もうろうとしながら歩いていた。
「どうしておれは、こんな所にいるのだろう」
 そう考えたが、日射病のせいなのか、まったく頭が回らず、過去の出来事も、自分が何者であるのかもまったく思い出せないのだった。
 暑い。おれは、腰にぶらさげた水筒を掴むと、栓を開けて口の中へ流し込んだ。
ごくん。生暖かく、美味くもない水なのだが、今のおれの命をつないでくれる貴重な水なのだ。
(これで、あと二キロは歩けるだろう)
 そう思いながら、なにげなく、水筒をゆすってみた。ところが、わずかに底の方で小さな音が聞こえるくらいで、あと一口飲んだら水筒は空になってしまうのだ。
おれは、自分の命が長くないことを悟った。
(これで、おれもおしまいか)
 そんなことを考えると、もう歩く気力が無くなってきた。おれは、立ち止まると、しばらくうつろな目で、砂ばかりの丘を眺めていたが、やがて意識がなくなり、その場に倒れこんでしまった。
 ところが、焼けた砂の上は熱く、すぐにおれは意識を取り戻した。
(こんな所で、死ねるか)
 おれは、また歩き始めた。やがて、砂山をひとつ越えたときだった。目前の砂の上に、動物の死骸が転がっていた。それはもう真っ白い骨だけになっていて、見るに耐えない状態だった。
それを見ながら、おれは身震いしたが、同時にこのおれもあとわずかな時間で、この動物と同じ運命が待ちかまえていることを感じたのだ。
 おれは、ふと、空の上を見上げた。そのとき、新たな恐怖がおれに襲いかかってきた。空の上には、一羽の真っ黒い大きな禿鷹が、鋭い目をして、ゆうゆうと空を旋回しながら、弱りきっているおれを狙っていたのだ。
「死神だー」
 おれは、まだ禿鷹の餌にはなりたくなかったから、元気さをよそおいながら歩きはじめた。弱ったようすを見せれば、すぐにでも禿鷹はおれ目掛けて、襲いかかってくるのだから。
 けれども、おれは、すでに限界を通り越していた。最後の水を飲み干す気力もなく、再び焼けた砂の上に倒れこんでしまった。
うつろな目で空の上を眺めると、一羽だったはずの禿鷹が五羽に増えていた。そして、おれが生き絶える時を、静かにやつらは待っているのだった。
 あの耐えがたい激痛さえなければ、おれは、安らかに死んでいたのかもしれない。あまりの激痛に、おれは、意識を取り戻したのだ。禿鷹たちは、おれの身体に覆い被さるようにしながら、おれの服を剥ぎ取り、肉をついばんでいたのだ。
 おれは、もがき苦しみながら、どうすることも出来ずに我慢していたが、やがて、まったく意識が無くなってしまった。そのとき、おれはすでに息を引き取っていたのだ。

 長い時間が過ぎた。おれは、真っ白い骨になっている自分に気がついた。おかしなことだが、骨になってしまったら、意外と気が楽になった。もう苦しみながら歩くこともなければ、禿鷹に襲われる心配もないのだ。おれは、その後何日も砂の中で眠っていた。
 ある日のことだった。砂漠の向こうから、らくだに乗ったキャラバンの一隊がこちらへ向かって歩いてきた。キャラバンの一隊は、骨になったおれのそばにやって来ると、何故だか足を止めた。そして、ひとりの商人がらくだから降りてきて、おれのすぐそばへやって来た。
 商人は、真っ白い骨になったおれを、しばらく悲痛な顔つきで見ていたが、ふと、破れた服と一緒に落ちていたおれの手帳を見つけると、興味深そうにページをめくり始めた。そして、あるページに目がいくと、口を小さく動かしながら、おれが書いた幼稚なアラビア語を読んでいたが、読み終わると、おれの骨を何本か拾い、熱くなった骨に水をかけて、らくだの背中に掛けてある皮の袋の中におれの骨を入れたのだ。
 おれは、キャラバンの一隊と共に、らくだに揺られ、おまけに水筒の水で冷やされて、いつの間にか心地良い眠気をもよおして長い眠りについた。
 どれくらいの日数が過ぎたのだろう。おれは、やわらかく、水分をよく含んだ冷たい土の中で眠っていた。土の上からは、ぷんぷんと花の匂いが土の中までただよってくる。ここは、いったいどこなのか。安らかな気分のなかで、思考も働きだしたのか、忘れていた過去の記憶が少しずつよみがえってきた。
同時に、骨になった自分が、今は生まれた国の故郷のお墓に眠っていることにも気がついた。そして、おれが、あの暑いエジプトの砂漠を、ひとりで歩いていたそもそもの理由も思い出したのだ。
 おれは、大学で考古学を専攻する学生だった。ある年のこと、おれは、他の仲の良かった学生たちと、金を出しあって、エジプトへ遺跡の発掘調査にやってきた。子供の頃、他の学生と同じように、おれもギリシャのミケネの遺跡や、トルコのトロヤの遺跡を発掘したドイツの考古学者、ハインリッヒ・シュリーマンのように、まだ発掘されていないエジプトの遺跡を発掘することを夢見ていた。
 ある日のこと、おれたち学生は、エル・カタラという町から南へ二十キロほど離れたある村の遺跡を発掘中に、幸運にも古代の純銀の腕輪を探し当てた。見つけたのは、おれだった。
 けれども、他の学生は何ひとつ見つけることが出来なかった。おれは、いち早くみんなにそのことを知らせようと思った。ところが、どうしたことか、おれはそのことを言い出すことが出来なかった。おれは、無意識に腕輪を、ポケットの中にしまい込んでいた。
そのうち、時間が過ぎて夜になっていた。おれたちは、疲れた気分でみんな宿へ戻っていった。
 おれは、宿へ帰ってからも、腕輪のことをなんども話そうと思ったが、やはり言い出すことが出来なかった。おれは、腕輪を見つけた時、その腕輪の表面に、王家の紋章が刻まれているに気づいていた。
そうであるならば、おれたちが今掘っている、あまり深くない土の中に、古代の王が建てた宮殿あるいは墳墓が埋まっている可能性がある。もし墳墓であれば、われわれ考古学を研究する者にとって、最もよい収穫品が期待できる。なぜならば、古代の王家の喪葬は、非常に丁重であったから、財宝を含む、副葬品も豊富にあるだろう。
(そうだとしたら、とりあえずこの腕輪をお金に換えて、発掘の費用にし、おれひとりで土の中に眠る、宮殿あるいは墳墓を見つけて、その発見をひとりじめにしたい)
そんな邪悪な心が、その時のおれを支配していたのだった。
 その夜、みんなが寝静まった後、おれは、静かに宿を抜け出して、昼間の遺跡へひとりで歩いていった。
もしかして、おれが、採掘していた個所の土の中に、まだ発掘品があるのではないだろうか。おれは、かすかな期待を感じながら、土を掘りつづけた。するとどうだろう、おれの予感どおり、しばらくしてから土の中から、純金のつぼが出てきた。その時のおれの心の喜びは、言葉には言い表せないほどだった。そして、今おれが掘っている個所は、まぎれもなく、王家の墳墓がある場所だったのだ。
 その夜、おれは、一晩中採掘をつづけ、十数点ほどの貴重な、財宝を含む、発掘品を見つけ出すことが出来たのだ。
 ところが、明け方近くなった頃、村の警官がこの遺跡へやって来て、見回りをはじめたことにおれはまったく気づかなかった。
警官は、おれを見つけると、おれを捕らえようと走ってきた。おれは、発掘品を入れた袋を担いで急いで逃げるより仕方がなかった。
 おれは、無我夢中で逃げた。どちらの方角へ逃げて行ったのか、おれにも見当がつかなかった。気がつくと、おれは、ずいぶん砂ばかりの丘に立っていた。けれども、どうにか警官をうまく巻くことが出来て、おれは、ほっと安堵のため息をついた。
 夜が明けた。おれは村へ帰ろうと思ったが、それは無理だと気がついた。おれは、もうこの土地では、遺跡荒しの犯罪者になっていたのだから。
おれは、この土地から逃げ出す方法を考えたが、この土地の地理に不慣れだったので、とにかくこの村を迂回して、空港のある町へ向かって歩きはじめた。
 ところが、午後になってから、風が出てくると、見る間にそれは強風になって、砂が巻き上がり、おれは砂あらしに巻き込まれた、方角も分からなく、おれは狂ったように歩いたが、いつしか疲れ果てて砂の上に倒れ込んでしまった。
 数時間後、おれは、あらしの去った砂の上で意識を取り戻した。
けれども、自分がいったい何処にいるのか、かいもく分からなかった。発掘品を入れた袋は、砂に埋もれて、いくら探しても見つからなかった。
 おれは、自分の死を予感した。おれは、ポケットから手帳を取り出すと、覚えたてのアラビア語で、おれの犯した罪を告白すると共に、おれの死骸を見つけた人に、なんとか骨だけでも自分が生まれた国へ送って欲しいことを書いておいたのだ。
 よみがえった記憶の中で、おれは、あの親切な商人に感謝すると共に、今でも行方不明になっているおれを探している仲間の学生たちに対して、もう詫びる事も出来ないでいる。
おれは、自分の誤った行為によって、自分自身も命を失った事に、しばらくはただ押し黙ったまま、いつまでも後悔の念にかられていたが、やがて、いつしか太陽の日差しで、暖かくなってきたやわらかい土の中で、また、すやすやと眠りはじめた。

 どれくらい眠っていただろう、おれは、小鳥たちの楽しげなさえずりを聞いて、ふと目が覚めた。その鳴き声は、春になると、故郷の山や海の見えるこの丘の上にある墓地にもやって来るツバメの鳴き声だった。
 おれは、土の中で、そのさえずりを聞きながら、子供の頃、おれもよくこの丘へのぼって来て、このお墓のとなりにある小さな公園へ遊びに来たことを思い出した。
 おれは、長い間、故郷へは帰らなかったから、もう一度、生きていたらこの丘へやって来て、丘の上から見える美しい青い海を見たいと思っていた。けれども、その願いも、叶わないまま終わってしまった。
 そのとき、丘の下の方から、小走りにかけて来る元気のよい足音が聞こえてきた。それは、この丘の下にある、おれも、子供の頃に通っていた、小学校の子供たちの足音だった。
子供たちは、公園へやって来ると、にぎやかに遊びはじめた。ギーギーと、ぶらんこや、シーソーを漕ぐ音、それから、子供たちの笑い声が土の中まで聞こえてくる。
 おれは、その音を聞きながら、ふと、小学生の頃の自分のことを懐かしく思い出した。
おれは、子供の頃から、古代の歴史について興味があり、家にあった百科事典や、古代の偉人たちの伝記を読んで、将来は、歴史学者か、考古学者になりたいといつも思っていた。おれは、図書館から借りてきた古代史の本を読みながら、遠い昔の人々の暮らしの事や、今だに発掘されていない、世界の遺跡を、自分でも発掘してみたいと子供心に思っていた。特に、エジプトの遺跡を発掘することが、最大の夢だった。
 けれども、子供の頃から、人間性に欠けるところがあったおれは、自分の野心のためだけに目を奪われ、本来の研究者としての目的を果たす事もなく、こうして自分の命さえも失ってしまったのだ。
おれが、もし今だに、この世に生きていたなら、考古学の発展のために、もっとまじめに研究を続け、人間としても、もっと成長したかったと今は思っている。
 おれが、そんな反省めいたことを考えている間にも、公園の方からは、あいかわらず、子供たちの明るい声が絶え間なく聞こえてくる。
おれは、この美しい春の丘の情景を、いろいろと思い浮かべた。ここには、灼熱のエジプトの風景と違って、色とりどりの春の花がいたるところに咲いているのだから。
(きっと、この公園の桜の木の枝には、満開の桜の花が咲いているだろうな。そうだとしたら、この丘から見える春の青い海は、昔のように、本当にすばらしい眺めに違いない)
 おれは、子供たちの楽しげな笑い声を耳にしながら、故郷へ帰れたことをいま本当によかったと思っている。そして、おれは、この子供たちが大人になってから、おれのような愚かな行為によって短か過ぎる人生を終わらないことを、心の底から願ったのだ。


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(自費出版童話集「白馬の騎士とフリーデリケ」所収)







(記事の更新は随時行います)


2016年07月20日

小便小僧の小言

 公園の噴水のところでいつも裸で立っている子供の像があります。だれでも知っている小便小僧です。
 あるとき、この像のところへ遊びにやってきた鳩たちに、小便小僧がこんな小言をいいました。
「いったいぜんたい、だれがこんな格好をぼくにさせることを思いついたんだ。品もなければ高尚さもないんだから」
 小便小僧はそういって先をはなします。
「ぼくと比べたら、向こうに建っている若い女性のヴィーナスの像はなんて品があって美しいんだ。同じ像を作るんだったら、もっと上品な像を作ってくれたらいいのに。年がら年じゅう小便ばかりさせられて、ぼくもいいかげん嫌になってしまうよ。人間の感性ってのは本当によくわからないね。美しいものにあこがれる半面、ぼくのような像を拵えて、平気でぼくを見ながら、お弁当を食べたり、ジュースを飲んだりしてるんだから。こんな像を思いついた人は天才かもしれないけど、よっぽど暇人だったかもしれないな。それは僕だけでなくて動物たちも迷惑を被ってる者もいるんだよ。友達のすずめ君に聞いたはなしなんだけど、ある高級ホテルの浴室に、毎日、口からお湯を出している白いライオン君がいて、いつも熱いお湯で、喉を火傷して困っているなんてはなしも聞いてるよ。まったく気の毒だと思うよ。ライオン君はこんな所から早く抜け出して、広いアフリカの草原へ帰りたいといつも思っているそうだよ。ライオン君のことはともかくとして、どうして人間がぼくのような像を作ったのか神様にたずねてみたんだ。すると神様はこんなことを教えてくれたんだ」
「それはきっと君を作ってくれた人が、君のようにいつもすっきりおしっこがしたかったからなんだよ。人間は年をとって来ると老化のために小便が出にくくなったりする。きっと君を作ってくれた人もおしっこが出にくくなったから、健康になりたいいっしんで君を作ったんだってね」
「とても神様がいうようなセリフじゃないよ。人前で小便するってことはみっともないって誰でも思ってるのに。人間はこんなものを作って喜んでるいるんだからわかんないよな。健康をテーマに作るんだったら、なにも子供じゃなくて、健康な大人のおじさんが小便する像でもいいと思うんだけど、それじゃ、さすがにみんな閉口するかな。町中の人たちから「困ったものを目せられた」と苦情がさっとうするだろうね。ところが子供だったらそれも許されるんだよな。こどもは無邪気で可愛いから。だけどそれも子供には迷惑なことだよ。あ〜あ、このまま二十年、三十年先も、こんなところで毎日小便ばかりしてるのは、やっぱりはずかしいなあ」
 小便小僧の像は、いつも鳩たちにこんな小言をいうのでした。 
 

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(未発表童話です)









(記事の更新は随時行います)

2016年07月08日

炭焼き小屋の男

 森の中に、炭焼き小屋がありました。
その小屋には、なまけ者の男が暮していて、毎日仕事もしないで昼寝ばかりしていました。
 ある日その小屋へ、森の狩人がやってきました。
「ちょいとすまんが、水を飲ませてくれないか」
眠っていた男は、めんどくさそうに出てくると、
「水ならかめの中にいくらでも入っているから、さっさと飲んで出ていってくれ」
男はそういって、また、昼寝をはじめてしまいました。
「やれやれ、とんだなまけ者の男だな」
狩人は、水を飲みおわると、さっさと小屋から出ていきました。
 ある日のこと、羊をつれた羊飼いが、小屋のそばを通りかかりました。
「よかった、いいところに炭焼き小屋がある。炭をいくらか売ってもらおう」
羊飼いは、小屋の前にやってくると、男に聞こえるようにいいました。
「炭をすこし売ってくれないか」
男は、眠そうな顔をしながら出てくると、
「炭なら戸口のところに積んであるから、すきなだけ持っていってくれ」
そういうと、男はまた眠ってしまいました。
「やれやれ、愛想の悪い男だな」
羊飼いは、炭をいくらか手に持つと、お金を戸口のところに置いて、さっさと出ていきました。
 その日の夕方のこと、町の市場からお金を盗んできた、ひとりの強盗が、この森の中へ逃げてきました。そして、この炭焼き小屋のところへやってきました。
見ると、小屋の戸口のところにお金が置いてあります。強盗は、戸口のところへやってくると、お金を拾いました。
「いやあ、今日はついてるなあ。この金もいただいていこう」
そういって、にこにこ笑っていると、小屋の中から声が聞こえてきました。
「だれだい、おれの小屋の前で笑っているやつは、昼寝のじゃまじゃないか」
強盗は、その声を聞くと、頭にきてしまいました。
「なんていいぐさだ。ろくに仕事もしないで、昼寝とはいいきなもんだ。おれは、今朝から働きづめだったんだぞ」
いいながら強盗は、小屋の戸をあけて中へ押し入りました。
「やい、起きろ、おれが誰だかわからないのかー!」
強盗は、片手にナイフをちらつかせながらいいました。ところが、眠っていた男は、すこしも怖がる様子がありません。
「うるさいなー。そんな大声出さなくっても、あんたが刃物の押し売りだってことは、ちゃんとわかってるんだ。でも、刃物はいま間に合っているからいらないんだよ。だから、さっさと帰ってくれ。おれは、まだ眠り足りないんだからー」
それを聞いた強盗は、頭に血がのぼってしまいました。
「こ、このおれが、押し売りに見えるのかー!」
すると男は、あいかわらず、うるさそうな顔をしながら、
「とても腕のいい押し売りには見えないねえ。腕のいい押し売りだったら、お客を怒らせたりしないからねえ。あんた、客商売向いてないよ」
強盗は、男の話を聞いているうちに、すっかり呆れてしまって物が言えなくなりました。
「お前みてえな、とんちんかんな男とはなしをしてたら、こっちの頭までおかしくなってしまう」
強盗は、すっかり強盗としてのプライドを傷つけられたあげく、なにも手出しも出来ずに小屋から出ていきました。
 男は静かになると、また、ベッドにもどって昼寝のつづきをはじめました。
やがて、夜になると、お腹が減った男は目をさましました。
「いやあ、今日は、ずいぶんと、昼寝のじゃまをされたから、からだの疲れがすこしも取れなかったなあ。でも、あしたは、せいいっぱい昼寝をして、すっかりからだの疲れを取ることにしよう」
男はいいながら、夕食の準備をはじめました。


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(未発表童話です)









(記事の更新は随時行います)

2016年06月22日

ホルン吹きのカタツムリ

「きょうは、あそびにいけないからつまんないなあ」
 葉っぱのうえで、そんなことをつぶやいたのはいっぴきのカタツムリです。
空は低い雲におおわれて、しとしとと雨がふっています。
きのうともだちのクワガタくんと、小川の向こうの原っぱへあそびにいく予定をしていたのでとても残念です。
「なにか面白いことないかな」
そういったとき、草の中からコオロギくんの弾くマンドリンの音色が聴こえてきました。
「おう、コオロギくん上手くなったな。みちがえるほどきれいなトレモロだ」
いつもじっくり聴いたことがなかったので、そうおもいました。
「もうすぐ秋だから、コオロギくんは演奏会の練習でいそがしいんだな」
コオロギくんの弾くマンドリンを聴きながら、秋になるのが待ち遠しくなってきました。
「そうだ、ぼくも楽器を習いにいこうかな。でもなにを習おう」
いろいろかんがえているうちに、おもいつきました。
「そうだ、ホルンを習おう」
かんがえてみれば、カタツムリくんはりっぱなホルンをもっているのです。
ちょっとせなかの殻をはずしてみました。ほら貝のようなりっぱなホルンです。でも吹き方がわかりません。
 そこで、ホルンの音楽教室へいってみました。
先生はすこしもうろくしていましたが、ていねいに吹き方を教えてくれました。
 翌日も雨だったので、一日中ホルンを吹く練習をやりました。
夜までにはすらすらと吹けるようになりました。
「そうだ、コオロギくんといっしょに合奏してみようかな。そしてクワガタくんに聴いてもらおう」
そういって、明かりの灯ったコオロギくんの家へいってみました。
コオロギくんはランプのそばで、楽譜を見ながらマンドリンを弾いていました。
「うん、いいよ。どんな曲をやろうか」
コオロギくんはこころよくひきうけてくれました。
そこで二匹は、いろいろと曲集をめくりながら、「これにしよう」といって、ドボルザークの「遠き山に日は落ちて(家路)」という曲をいっしょに弾くことにしました。
コオロギくんがメロディを弾いて、カタツムリくんがホルンで伴奏をするのです。二回目はホルンもメロディを吹きました。
夕暮れの広々とした風景が浮かんできて、ほんとうに山の向こうへ夕日が沈んでいくみたいです。
「この合奏ならみんなに聴かせられるよ。どうだい、きみも秋の演奏会に出てみないかい」
コオロギくんのすすめで、カタツムリくんも出てみようと思いました。
 翌朝は、晴れのおてんきになりました。
コオロギくんとカタツムリくんは、クワガタくんをさそって、小川の向こうの原っぱへハイキングへ出かけました。
そして、原っぱにやってくると、クワガタくんにじぶんたちの演奏を聴いてもらいました。
「すばらしい、とてもいい演奏だ」
クワガタくんは、ぱちぱちと拍手をしてくれました。
コオロギくんもカタツムリくんもすっかり自信がつきました。
「じゃ、きみも秋の演奏会にぜひきてくれよ」
「うんいくよ。たのしみだな。いろんな曲を聴かせてくれよ」
そういって三匹は仲良くおべんとうを食べました。
 コオロギくんとカタツムリくんは、ハイキングから帰ってきてからも夜遅くまで練習にはげみました。
そのかいがあって、秋の演奏会はすばらしい成功をおさめたということです。
 演奏会が終わった後も、この原っぱからは二匹の演奏が毎日のように聴こえてきます。



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(自費出版童話集「びんぼうなサンタクロース」所収)





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(記事の更新は随時行います)


2016年06月10日

無人島の一ヶ月間

 その島は、遠い南の海に浮かんでいました。砂ばかりの小島で、生き物は何も住んでいない島でした。
 ある日、嵐がやってきた翌朝、この島に小さなヨットが流れつきました。ヨットには、ひとりの男の人がのっていました。
「命はなんとかたすかったが、これからどうやって生きていこう」
男の人は、砂のうえにすわりこむと、先行きのことをかんがえました。
「ロビンソン・クルーソーみたいに、自給自足の生活をしようかな。だけど、ここは砂ばかりの島だ。食べるものなんて手にはいらない。どうすればいいんだ」
男の人はがっかりして大の字になって寝転んでしまいました。しばらくしたとき、ヨットが無事であることに気づきました。
「そうだ、ヨットの中には釣り道具も、釣り餌もそろっている。それを使って食べ物を海から供給しよう」
男の人は、釣り道具を持ってくると、さっそく魚を釣ることにしました。しばらくすると魚がたくさん釣れました。
「やった、これで今夜のおかずはたすかった」
男の人は、その魚を塩焼きにして食べました。
 翌日も、釣りをしました。
そして、一週間ほど毎日魚ばかり食べました。でも、だんだんあきてきました。
「何か、違うものが食べたいなあ」
けれども、釣れるのは魚ばかりでした。とうとう男の人は神様にお願いしました。
「どうか、もっと違う食べものをお恵みください」
そんなある日、海がまたシケてくるとすごい嵐になりました。
「わあー、たすけて」
男の人は、波にさらわれないように、砂の中にかくれていました。
でも、波は砂の中までしみこんできて、男の人はひっしに砂の中にへばりついていました。
 嵐が去った翌朝、男の人は島の様子を見て驚きました。
ヨットが島の真ん中まで押し流されて、その近くに一頭の鯨が寝そべっていました。もう死んでいるようで息はしていませんでした。
「うわおー、ひさしぶりに、肉が食べられるー」
男の人は、にこにこしながら、鯨のところへ走って行きました。
すると、砂のうえには波が運んできたのか、大量の海の魚があたり一面に散らばっていました。
 かつお、まぐろ、ひらめ、たい、海がめ、トビウオ、わかめ、えび、いか、さざえ、はまぐり、ウニなどの海の幸です。
「ひえー、今夜は、豪華メニューだ」
男の人は、手当たりしだい集めてくると、さっそく火を起こして料理をはじめました。
「うまい、うまいー」
男の人は、その日、お腹いっぱい食べました。そして何日も食べ物には不自由なく暮らせました。
 一ヶ月が過ぎたある日、また雲行きがあやしくなってきました。海の向こうから、また嵐がやってきたのです。
「まただ、この島にはよく嵐がやってくるんだなあ」
しばらくすると、猛烈な風と波が打ち寄せてきました。
男の人は、ヨットの中でぶるぶると震えていました。
しばらくすると、山ほどもある高い波の勢いでヨットがゆれはじめました。
「もう、こんどは、だめかもしれないぞー」
男の人はその夜、じっと神様に祈りつづけました。
 翌朝になると嵐は去っていました。男の人は、外で誰かがさけんでいる声に気づいて目を覚ましました。外に出てみると、ヨットのすぐそばに、大きな貨物船が座礁していました。
「おおい、だいじょうぶか。いつからあんたはこの島にいるんだ」
船員の人が、男の人を見つけていいました。
「はあい、ひと月まえからです」
「へえ、そりゃ、たいしたもんだ。でもよく生きてたな」
船員の人たちは、みんな驚いていました。
そして、男の人は、ひさしぶりに船のお風呂に入らせてもらい、お米のご飯をお腹いっぱい食べさせてもらいました。
船員さんたちは、その間も船を沖へもどす作業をしていました。
「四、五日でなんとか作業は終わるから、おれたちといっしょに早く国へ帰ろうなー」
船員さんたちの話をきいて、男の人は、にっこりとうなずきました。
 そして、四、五日たったある朝、ぶじに作業が終わり、貨物船はこの島から出て行きました。
無事に国へ帰ってきた男の人は、あの島での思い出を一冊の本にまとめて出版しました。
その本はとてもよく売れたので、男の人のもとにはたくさんの収入が入り、その後、男の人はとても裕福に暮らしたということです。


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(自費出版童話集「びんぼうなサンタクロース」所収)










(記事の更新は随時行います)


2016年06月01日

金鉱を見つけて

 投資に失敗して全財産をなくした男の人が、ある日、死に場所を探しに山へ行きました。
「ああ、どこかいい場所ないかなあ」
岩陰で休んでいると、岩の後ろから声が聞こえてきました。
「ずいぶんお悩みのようですね。どうしましたか」
男の人は、これまでの投資生活のこと、そして全財産をなくしたことを話しました。
「そうでしたか、それじゃ、わたしが何とかしてあげましょう。この岩山の道を200メートルほど登って行くと洞窟があります。その洞窟の中に金鉱があって金がたくさん取れます。それを持っていきなさい。でもその金で投資なんかしてはいけませんよ」
 男の人はさっそく登って行きました。
その場所へやってくると、教えてもらったとおり洞窟がありました。
中に入ると暗闇の向こうで、キラキラと輝いている岩が見えました。
「あれだな」
そばまで行くと、金がたくさんこびりついている岩がありました。中にはすべて金だけの石も転がっていました。男の人はそれを拾ってポケットに入れました。
「これだけあれば当分は安心して暮らしていけるな」
すこし重かったのですが、男の人はにこにこ笑いながら山を降りて行きました。
 はじめの一年間、男の人は家を買い質素に生活していましたが、ある日、昔の投資仲間に誘われてまた金の相場に手を出しました。
最初は、金が値上がりして、気分もうきうきしていましたが、次の年は暴落して、財産も半分になりました。損した分を株で取り返そうとしましたが、これもうまくいかず、また財産をなくしてしまいました。
 男の人は、がっかりしながらまた山へ行きました。
同じところで、休んでいると、いつかの声が聞こえてきました。
「ずいぶんお悩みのようですね。どうしましたか」
男の人は、忠告を無視して、また投資で財産をなくしたことをはなしました。
「そうでしたか、じゃあ、仕方ありません。なんとかしてあげましょう。この岩山の道を200メートルほど降りたところに、銀が取れる洞窟があります。そこへ行って銀を少し持っていきなさい、でもその銀で投資なんかしてはいけませんよ」
 さっそく男の人は、山を降りて行きました。その場所へやってくると洞窟がありました。中へ入ると、銀がたくさんこびりついている石が転がっていました。
「すごい、すごい!」
男の人は、大喜びで、ポケットの中に銀を入れて、山を降りて行きました。でも数年後には、またこの山へもどってきました。
「どうしましたか、お悩みのようですね」
岩陰から聞えて来た声に、男の人は、
「はい、また忠告を無視して、投資に手を出して財産をなくしてしまいました」
声は、あきれ返っていましたが、しばらくしてからいいました。
「では、仕方がありません。じゃあ、この山を降りて西へ5キロ行ったところにー」
と声がいいかけたときに、男の人はさえぎるようにいいました。
「いいえ、もうお金はいりません。それよりものんびり気楽に暮らせるところはありませんか」
声は、それを聞いて、
「じゃあ、いいところを教えてあげましょう。この山を降りて、東へ10キロほど歩いて行くと広い草原に出ます。その草原のまん中に空き家が一軒あります。昔、絵描きさんが使っていた家ですが、まだ十分に使えます。それに小さな庭もあっていいところです。
 男の人はさっそく歩いて行きました。
 しばらく行くと、野原の向こうに、小さな家が見えてきました。
家について中へ入ると、誰がリフォームしたのかとてもきれいなのです。家にはアトリエもあってとても静かでした。男の人は、さっそく住むことにしました。
 毎朝早く起きると、野原へ散歩にでかけました。近くに森があり、キノコやマツタケなんかをとってきて、夕食に食べたりしました。
また近くには小川もあって、魚もたくさんいました。男の人は久しぶりに釣りをして、イワナ、ヤマメ、アユなんかを釣りました。
 数か月間、男の人は何の不自由もなく過ごしていましたが、やっぱり何かしたくなりました。
アトリエの本棚には小説や子供の本が入っており、読んでいるうちに自分でも本が書きたくなってきました。
「そうだ、子供の本を書いてみよう」
アトリエには、絵を描く道具とスケッチブックがちゃんと揃っていました。
男の人は、イラスト入りの本を作ることにしました。何度も書き直し書き直ししながら、第一作がよくやく出来ました。自分でも満足したので、町の出版社へ送ってみることにしました。
「どうせだめだろう」と思いましたが、「ひょっとしたら」という気持ちで返事を待ちました。
すると、ある日一枚のハガキが届きました。
 ー原稿を拝見しました。投資で失敗した男の気持ちがよく書けています。子供の向きのテーマではありませんが、面白い作品なので採用します。すぐに出版の手続きをしますので早めに第二作目の方もお願いします。ー
 男の人の生活はそれからとても忙しくなりました。毎日毎日、原稿を書かなければいけなくなったからです。書いては送り、書いては送りと毎日せっせと働きました。
そのかいがあって、毎月銀行の自分の口座には、本の報酬がいつも振り込まれていました。ずいぶん売れているのか、毎月振り込まれる金額が増えていました。
 そのお金で、男の人は昔のように投資をはじめたのだろうと誰もが想像するでしょうが、男の人は、一円も引き出すこともなく、いつものように家で本を書いていました。それくらい毎日仕事に追われていたからです。

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(未発表童話です)









(記事の更新は随時行います)

2016年05月25日

アリの願い

 一匹のアリがすっかり疲れたようすで、落葉の下で休んでいました。そこへ、もんしろちょうが飛んできました。
「どうしましたか、アリさん、元気がありませんよ」
 アリは、ずいぶんくたびれたようすで、
「どうもこうもない。毎日、あさから晩までこきつかわれて休むこともできない。君みたいに、羽があったら、自由気ままにどこかへ飛んでいきたいよ」
「そうでしたか。そんなにしんどいですか」
「ああ、もうくたくただ。せめて、長い休みがとれたら、あちこちの原っぱへいって、のんびりとはめをはずしてみたいものだ。おれはもう若くはないから、いまのように働いていたんじゃからだがもたない。ああ、どうしておれたちの仲間は、みんな仕事一筋なのかなあ」
「そうでしたか、では、わたしがあなたの願いをかなえてあげましょう」
「ほんとうかい。じゃ、たのむよ」
 もんしろちょうは、アリのからだをりょう足でつかむと、空の上にまいあがりました。
「ひえ、驚いたな。でも、いい眺めだ」
 もんしろちょうは、アリを連れて、いろんな場所へあんないしてあげました。
 空のうえから見える景色は、アリにとってたいへんな感動でした。毎日、地べたで、汗びっしょりかいて、ひたすら上司の命令に従って機械みたいに働いてばかりいたからです。
「へえ、よく見える。うまれてはじめて見る風景だ。こんなすばらしい景色がこの世界にあったなんて驚きだ」
「そうでしょう。空のうえから眺める景色は、すばらしいでしょう」
 いいながら飛んでいると、むこうの葉っぱのところに、ナメクジが這いずっていました。
ナメクジはとてものろい動きですが、おいしいそうな葉っぱを探し回っていました。
「あいつは仕事もしないでいつも寝てばかりいると思っていたのに、ちゃんと食べ物を探しに行くんだな。知らなかった。やっぱりものを見るときは、いろんなところから見ないといけないな」
 そういっていると、むこうの方に一軒の空き家が見えました。ずいぶん古くて、その家の柱の下で、大勢の白アリたちが集まって、柱をぼりぼりとかじっていました。
「あいつらもよく働くな。だけど、みんなやっぱり疲れてみたいだな。最近は、白アリたちの世界でもリストラがあって、成績の悪いアリは、すぐに組織から追い出されてしまうからな。あいつら1グループで、毎日、柱を一本消化しないと成績評価でマイナス点が付いて、失業するっていってたよな。たいへんだ」
 白アリたちの仕事ぶりをみて、気の毒に思うと同時に、自分の組織のことも考えてみました。
「おれの職場の仲間たちもみんなよく働くけど、ほとんどが無趣味で、休みの日といったって、何もしないで家でごろ寝してるか、大酒を飲んでるくらいなもんだ。中にはひどいアル中もいるしなあ」
 そんなことを思っていると、小川の向こう側に、美しいお花畑が広がっていました。
お花畑のそばからは、スズムシたちやコオロギたちの美しいコーラスの歌声が聴こえてきました。
「ああ。音楽はいいな。おれも音楽家になった方がよかったかもしれないな」
 そういっていると、別の方から軍楽隊を退職した兵隊アリたちが結成したマンドリン楽団の音色が聴こえてきました。
「マンドリンもきれいな音色だ。おれも退職したら、あの楽団に入れてもらおうかな。失った自分の人生を取り返さなければいけない」
 アリがそんなことを言ってると、向こうの空に、夕焼けが見えてきました。
「アリさん、日も沈んでいきますし、そろそろ帰りましょうか」
「ああ、もんしろちょうさん、今日はありがとう、いろんな景色を見せてくれて。すっかり疲れもとれたようです。また、あしたから元気に働けますよ」
 アリともんしろちょうは、そういってさっきの野原へ帰って行きました。
元気になったアリは、定年退職がやってくる日を夢に見ながら、また翌日からせっせと働きました。


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(未発表童話です)









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