2016年06月22日

ホルン吹きのカタツムリ

「きょうは、あそびにいけないからつまんないなあ」
 葉っぱのうえで、そんなことをつぶやいたのはいっぴきのカタツムリです。
空は低い雲におおわれて、しとしとと雨がふっています。
きのうともだちのクワガタくんと、小川の向こうの原っぱへあそびにいく予定をしていたのでとても残念です。
「なにか面白いことないかな」
そういったとき、草の中からコオロギくんの弾くマンドリンの音色が聴こえてきました。
「おう、コオロギくん上手くなったな。みちがえるほどきれいなトレモロだ」
いつもじっくり聴いたことがなかったので、そうおもいました。
「もうすぐ秋だから、コオロギくんは演奏会の練習でいそがしいんだな」
コオロギくんの弾くマンドリンを聴きながら、秋になるのが待ち遠しくなってきました。
「そうだ、ぼくも楽器を習いにいこうかな。でもなにを習おう」
いろいろかんがえているうちに、おもいつきました。
「そうだ、ホルンを習おう」
かんがえてみれば、カタツムリくんはりっぱなホルンをもっているのです。
ちょっとせなかの殻をはずしてみました。ほら貝のようなりっぱなホルンです。でも吹き方がわかりません。
 そこで、ホルンの音楽教室へいってみました。
先生はすこしもうろくしていましたが、ていねいに吹き方を教えてくれました。
 翌日も雨だったので、一日中ホルンを吹く練習をやりました。
夜までにはすらすらと吹けるようになりました。
「そうだ、コオロギくんといっしょに合奏してみようかな。そしてクワガタくんに聴いてもらおう」
そういって、明かりの灯ったコオロギくんの家へいってみました。
コオロギくんはランプのそばで、楽譜を見ながらマンドリンを弾いていました。
「うん、いいよ。どんな曲をやろうか」
コオロギくんはこころよくひきうけてくれました。
そこで二匹は、いろいろと曲集をめくりながら、「これにしよう」といって、ドボルザークの「遠き山に日は落ちて(家路)」という曲をいっしょに弾くことにしました。
コオロギくんがメロディを弾いて、カタツムリくんがホルンで伴奏をするのです。二回目はホルンもメロディを吹きました。
夕暮れの広々とした風景が浮かんできて、ほんとうに山の向こうへ夕日が沈んでいくみたいです。
「この合奏ならみんなに聴かせられるよ。どうだい、きみも秋の演奏会に出てみないかい」
コオロギくんのすすめで、カタツムリくんも出てみようと思いました。
 翌朝は、晴れのおてんきになりました。
コオロギくんとカタツムリくんは、クワガタくんをさそって、小川の向こうの原っぱへハイキングへ出かけました。
そして、原っぱにやってくると、クワガタくんにじぶんたちの演奏を聴いてもらいました。
「すばらしい、とてもいい演奏だ」
クワガタくんは、ぱちぱちと拍手をしてくれました。
コオロギくんもカタツムリくんもすっかり自信がつきました。
「じゃ、きみも秋の演奏会にぜひきてくれよ」
「うんいくよ。たのしみだな。いろんな曲を聴かせてくれよ」
そういって三匹は仲良くおべんとうを食べました。
 コオロギくんとカタツムリくんは、ハイキングから帰ってきてからも夜遅くまで練習にはげみました。
そのかいがあって、秋の演奏会はすばらしい成功をおさめたということです。
 演奏会が終わった後も、この原っぱからは二匹の演奏が毎日のように聴こえてきます。



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(自費出版童話集「びんぼうなサンタクロース」所収)


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(記事の更新は随時行います)


2016年06月10日

無人島の一ヶ月間

 その島は、遠い南の海に浮かんでいました。砂ばかりの小島で、生き物は何も住んでいない島でした。
 ある日、嵐がやってきた翌朝、この島に小さなヨットが流れつきました。ヨットには、ひとりの男の人がのっていました。
「命はなんとかたすかったが、これからどうやって生きていこう」
男の人は、砂のうえにすわりこむと、先行きのことをかんがえました。
「ロビンソン・クルーソーみたいに、自給自足の生活をしようかな。だけど、ここは砂ばかりの島だ。食べるものなんて手にはいらない。どうすればいいんだ」
男の人はがっかりして大の字になって寝転んでしまいました。しばらくしたとき、ヨットが無事であることに気づきました。
「そうだ、ヨットの中には釣り道具も、釣り餌もそろっている。それを使って食べ物を海から供給しよう」
男の人は、釣り道具を持ってくると、さっそく魚を釣ることにしました。しばらくすると魚がたくさん釣れました。
「やった、これで今夜のおかずはたすかった」
男の人は、その魚を塩焼きにして食べました。
 翌日も、釣りをしました。
そして、一週間ほど毎日魚ばかり食べました。でも、だんだんあきてきました。
「何か、違うものが食べたいなあ」
けれども、釣れるのは魚ばかりでした。とうとう男の人は神様にお願いしました。
「どうか、もっと違う食べものをお恵みください」
そんなある日、海がまたシケてくるとすごい嵐になりました。
「わあー、たすけて」
男の人は、波にさらわれないように、砂の中にかくれていました。
でも、波は砂の中までしみこんできて、男の人はひっしに砂の中にへばりついていました。
 嵐が去った翌朝、男の人は島の様子を見て驚きました。
ヨットが島の真ん中まで押し流されて、その近くに一頭の鯨が寝そべっていました。もう死んでいるようで息はしていませんでした。
「うわおー、ひさしぶりに、肉が食べられるー」
男の人は、にこにこしながら、鯨のところへ走って行きました。
すると、砂のうえには波が運んできたのか、大量の海の魚があたり一面に散らばっていました。
 かつお、まぐろ、ひらめ、たい、海がめ、トビウオ、わかめ、えび、いか、さざえ、はまぐり、ウニなどの海の幸です。
「ひえー、今夜は、豪華メニューだ」
男の人は、手当たりしだい集めてくると、さっそく火を起こして料理をはじめました。
「うまい、うまいー」
男の人は、その日、お腹いっぱい食べました。そして何日も食べ物には不自由なく暮らせました。
 一ヶ月が過ぎたある日、また雲行きがあやしくなってきました。海の向こうから、また嵐がやってきたのです。
「まただ、この島にはよく嵐がやってくるんだなあ」
しばらくすると、猛烈な風と波が打ち寄せてきました。
男の人は、ヨットの中でぶるぶると震えていました。
しばらくすると、山ほどもある高い波の勢いでヨットがゆれはじめました。
「もう、こんどは、だめかもしれないぞー」
男の人はその夜、じっと神様に祈りつづけました。
 翌朝になると嵐は去っていました。男の人は、外で誰かがさけんでいる声に気づいて目を覚ましました。外に出てみると、ヨットのすぐそばに、大きな貨物船が座礁していました。
「おおい、だいじょうぶか。いつからあんたはこの島にいるんだ」
船員の人が、男の人を見つけていいました。
「はあい、ひと月まえからです」
「へえ、そりゃ、たいしたもんだ。でもよく生きてたな」
船員の人たちは、みんな驚いていました。
そして、男の人は、ひさしぶりに船のお風呂に入らせてもらい、お米のご飯をお腹いっぱい食べさせてもらいました。
船員さんたちは、その間も船を沖へもどす作業をしていました。
「四、五日でなんとか作業は終わるから、おれたちといっしょに早く国へ帰ろうなー」
船員さんたちの話をきいて、男の人は、にっこりとうなずきました。
 そして、四、五日たったある朝、ぶじに作業が終わり、貨物船はこの島から出て行きました。
無事に国へ帰ってきた男の人は、あの島での思い出を一冊の本にまとめて出版しました。
その本はとてもよく売れたので、男の人のもとにはたくさんの収入が入り、その後、男の人はとても裕福に暮らしたということです。


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(自費出版童話集「びんぼうなサンタクロース」所収)


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2016年06月01日

金鉱を見つけて

 投資に失敗して全財産をなくした男の人が、ある日、死に場所を探しに山へ行きました。
「ああ、どこかいい場所ないかなあ」
岩陰で休んでいると、岩の後ろから声が聞こえてきました。
「ずいぶんお悩みのようですね。どうしましたか」
男の人は、これまでの投資生活のこと、そして全財産をなくしたことを話しました。
「そうでしたか、それじゃ、わたしが何とかしてあげましょう。この岩山の道を200メートルほど登って行くと洞窟があります。その洞窟の中に金鉱があって金がたくさん取れます。それを持っていきなさい。でもその金で投資なんかしてはいけませんよ」
 男の人はさっそく登って行きました。
その場所へやってくると、教えてもらったとおり洞窟がありました。
中に入ると暗闇の向こうで、キラキラと輝いている岩が見えました。
「あれだな」
そばまで行くと、金がたくさんこびりついている岩がありました。中にはすべて金だけの石も転がっていました。男の人はそれを拾ってポケットに入れました。
「これだけあれば当分は安心して暮らしていけるな」
すこし重かったのですが、男の人はにこにこ笑いながら山を降りて行きました。
 はじめの一年間、男の人は家を買い質素に生活していましたが、ある日、昔の投資仲間に誘われてまた金の相場に手を出しました。
最初は、金が値上がりして、気分もうきうきしていましたが、次の年は暴落して、財産も半分になりました。損した分を株で取り返そうとしましたが、これもうまくいかず、また財産をなくしてしまいました。
 男の人は、がっかりしながらまた山へ行きました。
同じところで、休んでいると、いつかの声が聞こえてきました。
「ずいぶんお悩みのようですね。どうしましたか」
男の人は、忠告を無視して、また投資で財産をなくしたことをはなしました。
「そうでしたか、じゃあ、仕方ありません。なんとかしてあげましょう。この岩山の道を200メートルほど降りたところに、銀が取れる洞窟があります。そこへ行って銀を少し持っていきなさい、でもその銀で投資なんかしてはいけませんよ」
 さっそく男の人は、山を降りて行きました。その場所へやってくると洞窟がありました。中へ入ると、銀がたくさんこびりついている石が転がっていました。
「すごい、すごい!」
男の人は、大喜びで、ポケットの中に銀を入れて、山を降りて行きました。でも数年後には、またこの山へもどってきました。
「どうしましたか、お悩みのようですね」
岩陰から聞えて来た声に、男の人は、
「はい、また忠告を無視して、投資に手を出して財産をなくしてしまいました」
声は、あきれ返っていましたが、しばらくしてからいいました。
「では、仕方がありません。じゃあ、この山を降りて西へ5キロ行ったところにー」
と声がいいかけたときに、男の人はさえぎるようにいいました。
「いいえ、もうお金はいりません。それよりものんびり気楽に暮らせるところはありませんか」
声は、それを聞いて、
「じゃあ、いいところを教えてあげましょう。この山を降りて、東へ10キロほど歩いて行くと広い草原に出ます。その草原のまん中に空き家が一軒あります。昔、絵描きさんが使っていた家ですが、まだ十分に使えます。それに小さな庭もあっていいところです。
 男の人はさっそく歩いて行きました。
 しばらく行くと、野原の向こうに、小さな家が見えてきました。
家について中へ入ると、誰がリフォームしたのかとてもきれいなのです。家にはアトリエもあってとても静かでした。男の人は、さっそく住むことにしました。
 毎朝早く起きると、野原へ散歩にでかけました。近くに森があり、キノコやマツタケなんかをとってきて、夕食に食べたりしました。
また近くには小川もあって、魚もたくさんいました。男の人は久しぶりに釣りをして、イワナ、ヤマメ、アユなんかを釣りました。
 数か月間、男の人は何の不自由もなく過ごしていましたが、やっぱり何かしたくなりました。
アトリエの本棚には小説や子供の本が入っており、読んでいるうちに自分でも本が書きたくなってきました。
「そうだ、子供の本を書いてみよう」
アトリエには、絵を描く道具とスケッチブックがちゃんと揃っていました。
男の人は、イラスト入りの本を作ることにしました。何度も書き直し書き直ししながら、第一作がよくやく出来ました。自分でも満足したので、町の出版社へ送ってみることにしました。
「どうせだめだろう」と思いましたが、「ひょっとしたら」という気持ちで返事を待ちました。
すると、ある日一枚のハガキが届きました。
 ー原稿を拝見しました。投資で失敗した男の気持ちがよく書けています。子供の向きのテーマではありませんが、面白い作品なので採用します。すぐに出版の手続きをしますので早めに第二作目の方もお願いします。ー
 男の人の生活はそれからとても忙しくなりました。毎日毎日、原稿を書かなければいけなくなったからです。書いては送り、書いては送りと毎日せっせと働きました。
そのかいがあって、毎月銀行の自分の口座には、本の報酬がいつも振り込まれていました。ずいぶん売れているのか、毎月振り込まれる金額が増えていました。
 そのお金で、男の人は昔のように投資をはじめたのだろうと誰もが想像するでしょうが、男の人は、一円も引き出すこともなく、いつものように家で本を書いていました。それくらい毎日仕事に追われていたからです。

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(未発表童話です)

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2016年05月25日

アリの願い

 一匹のアリがすっかり疲れたようすで、落葉の下で休んでいました。そこへ、もんしろちょうが飛んできました。
「どうしましたか、アリさん、元気がありませんよ」
 アリは、ずいぶんくたびれたようすで、
「どうもこうもない。毎日、あさから晩までこきつかわれて休むこともできない。君みたいに、羽があったら、自由気ままにどこかへ飛んでいきたいよ」
「そうでしたか。そんなにしんどいですか」
「ああ、もうくたくただ。せめて、長い休みがとれたら、あちこちの原っぱへいって、のんびりとはめをはずしてみたいものだ。おれはもう若くはないから、いまのように働いていたんじゃからだがもたない。ああ、どうしておれたちの仲間は、みんな仕事一筋なのかなあ」
「そうでしたか、では、わたしがあなたの願いをかなえてあげましょう」
「ほんとうかい。じゃ、たのむよ」
 もんしろちょうは、アリのからだをりょう足でつかむと、空の上にまいあがりました。
「ひえ、驚いたな。でも、いい眺めだ」
 もんしろちょうは、アリを連れて、いろんな場所へあんないしてあげました。
 空のうえから見える景色は、アリにとってたいへんな感動でした。毎日、地べたで、汗びっしょりかいて、ひたすら上司の命令に従って機械みたいに働いてばかりいたからです。
「へえ、よく見える。うまれてはじめて見る風景だ。こんなすばらしい景色がこの世界にあったなんて驚きだ」
「そうでしょう。空のうえから眺める景色は、すばらしいでしょう」
 いいながら飛んでいると、むこうの葉っぱのところに、ナメクジが這いずっていました。
ナメクジはとてものろい動きですが、おいしいそうな葉っぱを探し回っていました。
「あいつは仕事もしないでいつも寝てばかりいると思っていたのに、ちゃんと食べ物を探しに行くんだな。知らなかった。やっぱりものを見るときは、いろんなところから見ないといけないな」
 そういっていると、むこうの方に一軒の空き家が見えました。ずいぶん古くて、その家の柱の下で、大勢の白アリたちが集まって、柱をぼりぼりとかじっていました。
「あいつらもよく働くな。だけど、みんなやっぱり疲れてみたいだな。最近は、白アリたちの世界でもリストラがあって、成績の悪いアリは、すぐに組織から追い出されてしまうからな。あいつら1グループで、毎日、柱を一本消化しないと成績評価でマイナス点が付いて、失業するっていってたよな。たいへんだ」
 白アリたちの仕事ぶりをみて、気の毒に思うと同時に、自分の組織のことも考えてみました。
「おれの職場の仲間たちもみんなよく働くけど、ほとんどが無趣味で、休みの日といったって、何もしないで家でごろ寝してるか、大酒を飲んでるくらいなもんだ。中にはひどいアル中もいるしなあ」
 そんなことを思っていると、小川の向こう側に、美しいお花畑が広がっていました。
お花畑のそばからは、スズムシたちやコオロギたちの美しいコーラスの歌声が聴こえてきました。
「ああ。音楽はいいな。おれも音楽家になった方がよかったかもしれないな」
 そういっていると、別の方から軍楽隊を退職した兵隊アリたちが結成したマンドリン楽団の音色が聴こえてきました。
「マンドリンもきれいな音色だ。おれも退職したら、あの楽団に入れてもらおうかな。失った自分の人生を取り返さなければいけない」
 アリがそんなことを言ってると、向こうの空に、夕焼けが見えてきました。
「アリさん、日も沈んでいきますし、そろそろ帰りましょうか」
「ああ、もんしろちょうさん、今日はありがとう、いろんな景色を見せてくれて。すっかり疲れもとれたようです。また、あしたから元気に働けますよ」
 アリともんしろちょうは、そういってさっきの野原へ帰って行きました。
元気になったアリは、定年退職がやってくる日を夢に見ながら、また翌日からせっせと働きました。


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(未発表童話です)

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2016年05月18日

タイムマシンにのって

 公園でかき氷屋をはじめた男の人が、お客がぜんぜんやって来ないので困っていました。
「ああ、毎日こんな調子だったら、この商売も失敗だ」
 ある日、どこかの工業大学の助教授がやってきました。
「いいもの発明したので、これを試しに使ってくれないか。かき氷買ってあげるから」
 助教授は、アルミで出来た小型の乗り物を見せてくれました。
「いいですよ。使ってあげましょう」
「一ヶ月使って、結果を話してください」
言い終わるとすぐに帰っていきました。
 それは湯船くらいの大きさの変な乗り物でした。
座席の手前に、レバーが付いていたので引いてみると、
 グウーーーーーン グウーーーーーン
すごい音がして、周りの景色がぼんやりして身体が宙に浮かんでいました。
そして屋台ごと、どこかへ飛んでいきました。
 気が付くと、五十年前の広い砂漠の真ん中にいました。
「ひえー、アフリカの砂漠だ」
向こうからラクダに乗った商人がやってきました。
「かき氷くれないか」
「はい、一個100円です」
商人は、10個買ってくれました。
 しばらくするとまた砂漠の向こうから別のキャラバンの一隊がやってきました。
「かき氷くれないか」
「はい、100円です」
そのキャラバンの一隊もたくさん買ってくれました。
「いや、よく売れるな。売り切れだ」
男の人は、家に戻ってくると、たくさん商品を仕入れて、またアフリカへ行きました。
そして、すぐにかき氷は売り切れました。
「これだったら、南極や北極へ行って、おでんも売れるな」
思いつくと、今度は、おでん屋も兼業することになりました。
これも大当たりで、むこうでもよく売れました。アラスカへも行って、エスキモーの部落でもたくさん売れました。
「よかった、よかった」と男の人は喜んでいましたが、ある日、百年前のアフリカのジャングルでアイスクリームを売っていた時、予想外のことが起きたのです。
あまり頻繁にレバーを回しすぎて、レバーが根元から折れてしまったのです。
「困ったな、早く修理しないと家に戻れない」
男の人は、汗を流しながら修理をしましたが、ぜんぜんうまくいきません。数日たっても直りません。それでも死に物狂いで作業を続けました。
「もし直らなかったら、このままジャングルで、ターザンのように暮らさなければいけない」
男の人はそんなことを呟きながら、修理を続けました。
 一ヶ月後、公園ではあの工業大学の助教授がやってきて、男の人が戻ってくるのをいらいらしながらじっと待っていました。


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2016年05月11日

いびきくんの旅

 夜ねむっていると、いびきくんはとつぜん目をさまします。ふだんは、ねむっていてぜんぜん気づかないのに。
「ああ、よくねむった」
そういって、大声をはりあげて歌いはじめます。
 ガーガー、ムニュムニュ、ガーガー、ムニュムニュー
その声に、ねむっている人もおどろいて目を覚ますことがあります。
でも、となりでねむっている人は、すごい迷惑です。
「ああ、またおこされた」
そういって、耳栓をつけます。
 いびきくんは、まったく人にすかれません。
「ここじゃ、気持ちよく歌えないな」
そういって、こっそり、家を出て行きました。
夜道をあるきながら、いびきくんがやってきたのは、一棟のマンションです。
階段をのぼっていくと、友だちのいびきくんの声が聞えてきます。
鍵穴からすーと中へ入ると、
「やあ、いい声だね。散歩にいかないかい」
「いいな。じゃあいこうか」
ふたりで出かけていきました。
 橋の下をあるいていると、みすぼらしいダンボールの小屋から、
 ガーガー、ムニュムニュ、ガーガー、ムニュムニュー
覗いて見ると、ホームレスの人が眠っています。
「きみも、散歩にいかないかい」
そのいびきくんもついてきました。
 次に行ったのは、キャンプ場でした。
テントの中から、いびきくんの声がきこえてきます。
覗いてみると、男の人が酔っぱらって眠っていました。まわりにはビール缶がたくさん転がっていました。
「散歩に行かないかい」
「いいよ。行こう」
別のテントにもいって、
「散歩に行こうよ」
みんなついてきました。
歩きながら、いきびくんたちは大声をはりあげて歌いました。
 駅の前を通ったときです。待合室からもいびきくんの声がしました。
「散歩にいかないかい」
「ああいいとも 行こう」
 みんなで大きな声で歌っていると、交番のお巡りさんが聞きつけてやってきました。
「すごい騒音だ。全員逮捕だ」
お巡りさんに追いかけられて、いびきくんたちがやってきたのは山の洞穴でした。
真っ暗な洞穴の中へ入って行くと、みんな走り疲れて眠くなってきました。みんな眠りはじめました。
ところが、洞穴の中では、びんびんといびきくんたちの声が跳ね返ってきます。
「うわあ、うるさくて眠れない」
いびきくんたちは、やっとわかったみたいです。みんな家に帰って行きました。
 それからは、夜はあまり大声で歌わなくなりました。


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(未発表童話です)

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2016年05月04日

(動画) ひろくん童謡集1


 私のオリジナル作品です。自作の詩にイラストを付けて動画にしました。



(2015年5月9日 アメーバブログ「ひろくんの趣味日記」で初公開)

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2016年04月27日

晩年のナポレオン

 一八十五年、宿敵イギリスに敗れたナポレオンは、祖国フランスから遠く離れた南大西洋に浮かぶ絶海の孤島、セント・ヘレナ島に流されてはや一年が過ぎようとしていた。この灼熱の島で、部下の数人の将軍たちと共に、イギリス兵の監視のもと、木造の小屋で毎日野菜を栽培したり、運動をしたり、夜は回想録の執筆とそれに大好きな読書などをして過ごしていた。
 ある時、将軍のひとりがベランダの椅子に腰掛けて、熱心に本を読んでいる姿を目撃したナポレオンはそばによって尋ねてみると、
「はい、陛下。子供の本を読んでおりました」と将軍は答えた。
 話によると祖国にいる彼の夫人が、今度、子供の本を出版したということで記念に贈ってきたとのことだった。大の本好きであり、遠征中の馬車の中でも時間さえあれば本を読んでいたナポレオンだったので、すぐにその本を借りると、自室に入って読んでみた。多読で有名であったナポレオンだったが、子供向きの本は読んだことがなかった。しかし、読み進めるうちに、意外と面白く興味が湧いてきた。同時に自分でも書いてみたい衝動にかられはじめた。
 翌日ナポレオンは、その事を昨日の将軍に打ち明けると、匿名により自作の原稿を彼の夫人に送り、批評を受けると共に、出来れば自分の書いた物語を祖国で出版して欲しい旨を伝えた。
 若い頃から自信家で、演説のときにはいつも、『余の辞書に不可能という文字はない』と堂々と公言したり、決断する時には、『じっくり考えろ。しかし、行動する時が来たなら、考えるのをやめて進め』と部下に対しても自分に対しても口癖のようにいっていたナポレオンだったので、子供の書物など書けぬわけがないといわんばかりに、翌日から、自室にこもって回想録の執筆と並行して子供の物語を書きはじめた。
 文章は闊達とした折り目正しい美しいフランス語を綴るナポレオンだったが、その意気込みとは反対にどうした訳か思うように筆が進まない。さすがにはじめて書く子どもの話はずいぶんとナポレオンを悩ませた。しかし、数週間後どうにか三十枚ばかりの短篇童話を一編書きあげると、何度も原稿を推敲し、ぶじに完成させることができた。
「やれやれ、ずいぶん骨を折ったがなんとか出来上がった」
 ナポレオンはほっと胸を撫で下ろすと、翌朝、さっそく原稿を将軍に手渡した。
 それから約二ヶ月後、作者宛てに夫人から手紙が届いた。手紙には夫人の批評のほかに、近所の奥さんたちと子供たちの感想も付けてあった。だがその手紙によると、どれも作品に対する反応は芳しくなかった。
 奥さんたちの批評によれば、貴殿の物語は、はなはだ教訓的で、文章も演説口調、説教口調で書かれてあるので、子供たちにはまったく受けないという批評であった。夫人からも、もっと夢のあるお話を期待していると書き加えてあった。
 手紙を読んでひどく失望したナポレオンは、数日間ろくに食事も取れなかった。
「余の物語が子供に受けないとはどういうことだ」
 悩み落ち込んだナポレオンだったが、根っからの負けず嫌いな性格でもあり、いつも困難に立ち向かう時は、『逆境には必ずそれよりも大きな報酬の種が隠されている』ことを思い出し、なんとかこの苦境を乗り切ろうと頑張ることにした。
 翌日から再び指摘されたことを思い出しながら、新しい物語を書きはじめた。だがすぐには直せなかった。子供のお話を書くことがこんなに骨が折れるとはまったく予想外であった。
 ナポレオンは疲れ果ててペンを置くと、部屋を出てベランダの椅子に腰かけた。庭を眺めると、将軍たちが自分たちの部屋に飾るための花の栽培をしている。熱帯地方に育つ、強い香りのする色鮮やかな花々である。鉄条網が張り巡らされた向こう側では、イギリス兵たちがその様子をじっと眺めている。
 ナポレオンは椅子に座りながら、憂鬱そうな様子でぼんやりとそれを見ていたが、やがて、疲労のためかいつの間にかうつらうつらと昼寝をはじめた。しばらくすると、過去の出来事が次々と夢となって現れてきた。それらの夢の多くは、ナポレオンの栄光の時代の思い出だった。
 今から遡る一七九六年、当時の総裁政府の総裁から遠征軍司令官に任命された時、大軍を引き連れてイタリア、エジプトに進撃して勝利を治めた。続く一八〇四年、フランス皇帝に即位した後、祖国フランスを治め、怒涛のようにオランダ、オーストリア、プロイセン(ドイツ)、スペイン、デンマークへ進撃して戦い、一時期イギリス、スウェーデンを除く全ヨーロッパを制圧した。彼にとって夢とは、敵を打ち負かし、世界を制覇することだった。
 その夢を題材にした物語がどうして子供に受けないのか彼には不思議であった。しかし、夢の中に現れたもうひとつの夢が、ナポレオンのそんな疑問を解決することになった。その夢は彼の幼年時代の思い出だった。
 コルシカ島の落ちぶれた貧乏貴族の屋敷に生まれたナポレオンは、幼少の頃から利発な子供だった。ある日、妹のブーリエンヌと一緒に砂浜で遊んでいたとき、突然の夕立にあった。
二人は近くの船小屋へ行って雨を避けた。やがて雨もあがり、二人がまた遊びはじめようとしたとき、砂浜の向こうに七色の美しい虹がかかっているのを見つけたのである。
 そのとき、虹をはじめて見た幼いナポレオンは、その虹をこの手で捕らえたいと思った。そして、その虹を家に持ち帰って、その鮮やかな糸で母親に新しい服をこしらえてもらおうと思った。
それよりも、あの大きな虹を捕まえたら、貧乏貴族の自分たちの暮らしだけでなく、この貧しい島の人々の暮らしをも助けられると思った。
 幼いナポレオンは、丘にかけあがり、虹をつかもうとしたが虹は向こうの丘に姿を移した。それでも幼いナポレオンは虹を追いかけた。しかし虹は、海の向こうに逃げてしまった。幼いナポレオンは、それを見ながらくやしがったが、夕日が沈みはじめたので妹をつれて屋敷へ帰っていった。
 そんな印象深い夢を見て目を覚ましたナポレオンは、これを物語にしようと思った。あのときの虹は捕まえることは出来なかったが、物語の中で虹を捕まえる子供を描こうと思った。
 ナポレオンは部屋に戻ると、すぐに原稿を書きはじめた。すると不思議なことに、筆は進み、あのくだくだしい演説口調、説教口調は影をひそめ、自然にやさしい言葉に変わっていった。
 数週間後、快作の百枚の原稿が完成すると、すぐにナポレオンは将軍の所へ行き、夫人のもとへ送ってもらった。
 それから二カ月後、夫人からの返事が送られてきた。その手紙の批評は、ナポレオンが思っていたよりもうれしいほどに良いものだった。親や子供たちの感想もよく、この作品であれば本国で出版しても国民に十分受けいれられると書いてあった。
 ナポレオンはぜひ出版を希望しますとの返事を書いた。ただし、作者名は必ずペンネームでお願いしたい旨を伝えた。現在囚われの身であり、この作者が本国のもと皇帝だと知られたくなかったからである。
 そのとき以来、ナポレオンは、これまでの権力への野心は少しずつ消えて行った。そして心の安らぎをも感じるようになっていった。
 それからもたびたびナポレオンは、子供の物語を書き、祖国へ送っていたが、六年後の一八二一年の五月、将軍たちに見守られながらこのセント・ヘレナ島でその五十二年の波乱に富んだ生涯を終えたのである。
 ナポレオンの出版した児童書は、「虹を追いかける子供」と題されてその後、フランス国内のたくさんの子供たちに読まれたが、その本はパリ近郊でひっそりと暮らす、最初の妻で、もと皇后だったジョゼフィーヌ・ボアルネの子供たちにも読まれた。
 しかし、その物語を書いた作者が、フランスのもと皇帝で、母親のもと夫だとは子供たちのだれも知らなかった。 

(この作品は架空の物語です)

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(自費出版童話集「びんぼうなサンタクロース」所収)


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2016年04月20日

人魚の子守唄

 その島は、本島からはずいぶん離れた島でした。砂浜は美しく、人々はしあわせに暮らしていました。
島の入り江に一軒の家がありました。その家には、漁師のおじいさんと小さな男の子が暮らしていました。
 ある日、おじいさんが漁から帰ってくると男の子にいいました。
「ぼうや、来てごらん。変わった魚を捕らえてきたよ」
 見ると、網の中に、けがをした幼い人魚の子どもがうずくまってふるえていました。
サメにでもおそわれたのか、からだのあちこちにはたくさんすり傷がありました。
「おじいちゃん、かわいそうだから家で介抱してあげようよ」
 何日かすると、人魚はすっかり元気になり、いつも男の子といっしょに遊びました。
 ある日、おじいさんが漁から帰ってくると、テーブルのうえに、たくさんの貝や魚が置いてありました。男の子にたずねてみると、人魚が海へ取りにいったことをはなしました。
 おじいさんは、それはありがたいことだと喜びました。けれども、おじいさんは、近いうちに人魚を沖へ返しに行こうと思いました。
「人魚はもうすっかり元気になったことだし、自分の家が恋しいだろう。きっと人魚のお母さんも、わが子が帰ってくるのをじっとまっているのにちがいない」
 ある晩、おじいさんは、男の子にそのことをはなしました。男の子はさみしい気持ちになりましたが仕方がないと諦めました。
 翌朝、おじいさんは人魚を船に乗せて沖へと向かいました。人魚はこれからこのおじいさんと男の子と永久に別れることになるとは知るよしもありません。
 やがて、おじいさんは、この人魚を捕らえた場所までやってくると人魚にいいました。
「お前のふるさとはこの海の底だから、気をつけてお帰り。そして、さみしく待っているお母さんの所へもどっていきなさい。もうお前とは会えないが、しあわせに暮らしなさい」
 人魚はそれをきいてとても悲しがりましたが、おじいさんのいうことをきいて、深い海の底へ消えていきました。
 何日かが過ぎました。男の子は、毎日さみしい思いでじっと海を見つめていました。もしかしたら、あの人魚がまたこの浜へもどってくるのではないだろうか。そしてまたいっしょに遊べるのではないか。
 けれども、生まれた海の底へ帰っていった人魚が、ここへもどってくることはなかったのです。
 月日が流れて、男の子はこの島の学校へ通うようになりました。
そして、いつも学校から帰ってくると、浜にきて、きょう習ってきた歌をうたっていました。
 そんなある日のことでした。男の子が浜でうたっていると、海の底から、あの幼い人魚が海面にそっと姿をあらわしたのです。
「あの子が歌っているんだわ。なんてすてきな歌だろう」
 人魚は、耳をすましてじっと聴いていましたが、そのうちに男の子にもう一度会いたいと思いました。けれども、ふと、お母さんのことばを思い出しました。
「お前を助けてくれた人たちは、ほんとうにまれな人なんだよ。大方の人間は大人になると冷酷になるから近づいてはいけない」
 そのことばを思い出すと、男の子のほうへ行くことができないのでした。しかし、人魚は男の子のやさしさを知っていましたから、お母さんのことばを振り切って浜へむかって泳いでいきました。
 海の中から、人魚のすがたを見つけた男の子が喜んだのはいうまでもありません。その日人魚は夕方になるまで、男の子とはなしをしたり、歌を教えてもらったり、たのしい時間を過ごしました。そして、潮が満ちる日には、いつもこの浜で遊ぶ約束をしました。けれども、幼い人魚との楽しい日々はそう長くは続きませんでした。
 ある日のことでした。本島からこの島へ、一隻の大きな貨物船がやってきました。
船が港についたとき、たくさんの船乗りたちが降りてきました。みんな夜になると、島の酒場で毎晩お酒を飲んでいました。そしてよっぱらっては宿へ帰っていきました。
 ある朝、数人の船乗りたちが散歩をしにこの浜へやってきたとき、浜の岩場でひとりで遊んでいる幼い子どもの人魚を見つけたのです。
船乗りたちは、あの人魚を捕らえて本島へ持って帰れば、いい金儲けができると思いました。そして慎重に近づいていくと、人魚を捕らえてしまいました。人魚は泣きながら、船乗りたちに連れて行かれてしまいました。
 しばらくして、男の子が浜へやってくると、悲しげな声が船の方から聞こえてくるので驚いて走っていくと、船に載せられる幼い人魚の姿をみつけました。
 夜になりました。男の子は、船乗りたちが船でお酒を飲んでいる隙をねらって船から人魚を救い出しました。
 そして、すっかり弱りきっている人魚を家へ連れて行きました。
おじいさんは、そんな人魚のすがたを見ると、こころを痛めながら介抱してやりました。そして男の子にいいました。
「お前にもこれでわかっただろう。人魚にとっては海の中が一番安全な場所なのだ。また船乗りたちがやってこないうちに、はやく沖へ返しに行こう」
 おじいさんは、翌朝早く、人魚をつれて海へ返しにいきました。そして男の子にはもう人魚のことは忘れるようにいいました。
 長い年月が過ぎました。
男の子は、りっぱな若者になると、仕事をさがしに島を出ていきました。おじいさんは、若者を見送りながら、本島で仕事をみつけてしあわせに暮らしてほしいと願っていました。
 それから何年かたち、仕事もみつけて、本島でまじめに暮らしていた若者が休暇をもらって島へ帰ってきました。
おじいさんは、久しぶりに若者の元気なすがたを見てたいへん喜びました。
 数日間、ふたりは、いろんなことを語り合いましたが、あしたは島を出て行く日でした。若者は夕焼けを見に、浜へ出てみました。この島で見る夕焼けの美しさは、むかしと少しも変わりません。若者は、ふと、子どもの頃に遊んだ幼い人魚のことを思い出しました。
「あしたはもう本島へ帰らなければいけない。だったら、もういちど子どものときに遊んだあの人魚が暮らす海の沖へ船で出てみよう。もしかしたら、人魚に会えるかもしれない。夜になるまでには時間があるから」
 そういうと、 船をこいで沖へ出てみました。風はなく、静かな波の上をゆっくりとこいでいくと、やがて沖へ出ました。若者は、船の床板に寝転びながら、こころの中でこの深い海のどこかで、あの人魚が元気に暮らしている様子を思い浮かべていました。
 そのうち、気持ちがいいので、うつらうつらと居眠りをはじめました。
やがて、夜空に白い月があらわれて、きらきらと星が美しく輝きはじめた頃、眠りの中で若者はすてきな夢を見ていました。それは、どこからか美しい歌声が聴こえてきて、目を覚ましてみると、むこうのしずかな海の上に、かわいい赤ん坊の人魚を抱いたあのときの幼かった人魚が、りっぱなお母さんの人魚になって、やさしい声で子守唄をうたっている情景でした。
その歌は、若者が子どものときに人魚に教えた歌でした。
 驚いたことはそればかりではありません。あちらの海の方からも、こちらの海の方からも聴き覚えのある歌声がきこえてくるのです。どの歌も、若者があの人魚に教えた歌ばかりでした。
若者は、しばらくそんなふしぎな夢を見ていましたが、やがて目が覚めると、夜も深くなっているのに気づき、浜へ帰ることにしました。
 船をこぎながら、若者はあの幼い人魚がりっぱな母親になっていることを思い浮かべながら、月明かりのしずかな波の上をゆっくりと帰っていきました。
 けれども、さっき若者が見ていたのは夢ではなかったのです。船が浜に近づきはじめた頃、海の底から、子どもの人魚を抱いた母親の人魚が、海の上に姿をあらわしました。そして、悲しげな様子でいつまでも若者がこいでいく船の方を見ていました。
 人魚は、あの若者が船の中で眠っていたとき、じっと船のそばにいて、なんども声をかけようとしたのですが、とうとういうことが出来ませんでした。人魚は船が沖へやって来たときから、すぐにあの若者が幼かった頃いっしょに浜で遊んだ男の子であることを覚えていたのです。
 母親になった人魚は、もう子どものときのように浜へ行ってあの若者と会うことも話すことは出来なくなりました。けれども、自分の子どもが大きくなって、人間のことを尋ねたときは、子どものときの楽しかった思い出を話してあげようと思いました。
  やがて、船は見えなくなりました。人魚の母親もまた海の底へ消えていきました。しずかな夜の海の上には、白い月とたくさんの明るい星がいつまでも美しく波の上に輝いていました。
 翌朝、若者は、おじいさんに見送られてこの島から出て行きました。


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(自費出版童話集「びんぼうなサンタクロース」所収)


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(記事の更新は随時行います)
       

2016年04月13日

あの花はどこへ行った

 野原に咲いている花が、みんなお日さまが大好きだとだれもが思っていますが、そんなことはないのです。
小川のほとりに咲いているタンポポの花なんか、一日中、お日さまの日差しが強いので、いつも文句をいっていました。
「やれやれ、きょうもこの日差しだ。もう喉がからからで仕方がない。はやくひと雨ほしいところだ」
近くの木陰では、なかまのスミレの花たちが涼しそうに咲いていました。
「あそこはいいな。おれもあんな場所で咲きたかったな」
強い日差しは、そのあともつづき、タンポポの花たちはみんなぐったりしていました。ときどき友達のモンシロチョウやミツバチがやってきて声をかけてくれます。
「みんな元気がないな。こんなに気持ちのいい日なのに」
「そんなこといったって雨が降らないからどうしようもないよ。もう一週間水を飲んでいないんだから」
暑さでぐったりしているタンポポの花たちは、そんな不平をいっていました。
 ある日、小川の向こうから人がやってきて、タンポポの花を何本か摘み取っていきました。
あるとき、目をさましたタンポポの花は、まわりの景色を見渡しておどろきました。
「ここはどこだろう」
そこはエアコンのよくきいた涼しい部屋の中でした。たんぽぽの花は、花瓶の中に入れられて眠っていたのです。茎の下から冷たい水があがってきて、ものすごく気持ちがいいのです。
「まるで天国だ」
タンポポの花はうれしそうに、きょろきょろと部屋の中を眺めてみました。
部屋の壁には、絵がたくさん飾ってあって、絵描きさんの家のようでした。部屋のすみには、イーゼル、絵の具箱、筆、ペインティングオイル、キャンバスなどが置いてありました。
しばらくすると、となりの部屋からピアノの音が聴こえてきました。
この家の人は絵描きでしたが、趣味でピアノも弾くのでした。タンポポの花は、毎日絵を眺めたり、ピアノの音を聴いたりしながらこの家で暮らすことになったのです。
 ある日、仲間のモンシロチョウとミツバチが、ピアノの音を聴きつけて、この家の開いた窓から部屋の中へ入ってきました。
花瓶に入れられたタンポポの花を見つけるとすぐに声をかけました。
「やあ、こんな所にいたのかい。みんな君のことを心配していたよ」
「そう、でもここはまるで天国だよ」
「じゃあ、みんなにそのことを話しておくからね」
モンシロチョウとミツバチはしばらくこの部屋に居ましたが、やがて帰って行きました。そして、その後もときどきこの家にやってくるようになりました。
タンポポの花がいうように、ここは日差しの強い原っぱとくらべて、ほんとうに居心地がいいのでした。
 夕方になると、いつも花瓶に冷たい水を入れてもらえるので、ぐったりすることもありません。
毎日午前中に、この家の人はこの部屋へ入ってきて絵を描きました。花の絵を好んで描きました。いま製作中の絵は、友達の娘さんにプレゼントする絵でした。
 絵を描き終わって午後になると、決まってピアノを弾きました。そのピアノの曲は、いつも楽しい空想をかきたててくれました。
「月の光」という曲を聴いたとき、ほんとうに原っぱで毎晩見ているような、美しい月の情景が心の中に見えてきました。キラキラと明るい月の光が野原や小川の水面にふりそそぎ、本当に幻想的な世界が感じられるのです。
「水の戯れ」という曲を聴いたときも、小川の淵をゆったりと流れている水の様子や、流れの早い場所で岩にぶつかりながら、勢いよく流れている水の様子などもよく描かれていました。
 ある日、そんな情景をこの絵描きさんは、大きなキャンバスで描き始めたのです。はじめに木炭でデッサンをすると、色を塗りつけていきました。それは美しい月夜を描いた絵でした。
 静かな野原には、透きとおった小川が流れ、そのほとりには、タンポポの花やスミレの花などが丹念に描かれました。絵描きさんは、花瓶に入れてあるタンポポの花を見ながら描いていきました。
 製作はひと月くらいかかりました。ようやく絵が完成しました。でも、タンポポの花はしだいにしおれていきました。
「ああ、おれの寿命もこれでおしまいか」
タンポポの花は、やせ細っていきましたが、絵の中には美しい花として描かれているのです。
 ある日、いつものモンシロチョウとミツバチが遊びにやってきました。でも、花瓶にはタンポポの花はいませんでした。
 けれども、部屋のすみに立ててあるイーゼルの上のキャンバスには、月の光を浴びて気持ち良く眠っているタンポポの花が美しく描かれていました。


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(未発表童話です)

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