2018年05月14日
いばら姫 / 慾鴉のパラディン
頑是なく泣いて最早言葉が通じぬ幼い娘に、私はとうとう白旗を上げざるを得なかった。一体何があったのかと問いかけても、舌足らずな声で要領を得ぬ単語の羅列が続くばかりである。
随分と時間は浪費したが、怪獣だとか翼があっただとか、いやはや巨大な鳥であっただとか。兎角得体の知れぬ異形に娘の首飾りが奪われてしまったらしい、ということは聞き出せた。
首飾りは娘にとっては亡き母の、私にとっては妻の形見であるが、畢竟、それが真に異形の仕業であるならば、むしろ娘の身の無事を喜ぶべきだと諭す私に対し、娘は泣いて首を振る。
でもまだ足りないって言うの、と娘が震えながら小さな指で上を差す。見上げた私は成程確かにまだ足りなかったのだと呟いた。眼前には私を飲み込まんと巨大な嘴が広がっていたのだ。
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