広がる世界的デフレ懸念で株売られ、国債買われる
http://jp.reuters.com/article/wtInvesting/idJPJAPAN-34996720081119
2008年 11月 19日 17:29 JST
[東京 19日 ロイター]
グローバル・デフレへの懸念が、マーケットの重しとして意識され出した。株価下落に加えて、期間の長い国債現物が買われ出す現象が19日の東京市場で出現。2009年は厳冬の世界経済になると身構える市場参加者が増えてきた。
市場参加者に大きなショックを与えたのが、10月米卸売物価指数(PPI)のデータだ。総合指数が前月比2.8%の低下と過去最大の落ち込みを記録した。
この結果を受けて、円債市場では「欧米では、デフレ懸念が台頭してきた」(国内証券)との見方が広がった。「PPIの発表直後、米債はいったん利益確定などで売られる場面もあったが、インフレ圧力の減退は間違いなく、債券に買い材料」(邦銀関係者)との声が広がり、19日の東京市場では10年最長期国債利回り(長期金利)が一時、前日比1.5bp低い1.465%、あす20日に入札を控える20年超長期国債利回りは同3bp低い2.135%に低下した。
来年度の国債発行計画における超長期債の増発懸念などでスティープしたきたイールドカーブが、一転してフラット化したといえる。
18日にWTI先物が1バレル=53.96ドルと最高値の147.27ドルから3分の1近くの水準まで下落した。これまでインフレ懸念が強いみられていた英国でも10月CPIが前月比マイナス0.2%と低下に転じ、前年同月比でも9月のプラス5.2%から同4.5%と上昇率に急ブレーキがかかった。こうした点を背景にみずほ証券・チーフマーケットエコノミストの上野泰也氏は「各種物価指標が前年同月比でマイナスに沈むと予想される09年には、03年のようなグローバルデフレ懸念をテーマにした相場展開が債券をはじめとする各種市場で見られる可能性が出てきている」と指摘する。
バークレイズ・キャピタル証券・チーフストラテジストの森田長太郎氏は「米金利が景気下降の後のデフレ傾向を織り込み始めているのだとすると、円債市場においても同様なインプリケーションは今後出てくるとみるべきかもしれない」と指摘。「日本においても市場における成長率の下降は、相当程度織り込まれているはず。金利市場の焦点は、2009年におけるデフレの程度といったところに移って行く可能性がある」とみる。
市場の一部には、日銀の追加緩和の可能性を探る動きも出始めている。「長いゾーンはキャリー収益を確保できるだけに、グローバルデフレを背景にフラット化した2003年の相場を連想する参加者も出ている」(別の邦銀関係者)という。
<散発的に海外勢が株を換金売り>
株式市場で、日経平均は続落。朝方は米株高やシカゴ日経平均の上昇などを好感する声もあったが、コア30銘柄や先物にバスケット売りが出ると、買いが引いた状態になり弱含みで推移。「海外勢の換金売りのようだ。ピークは過ぎたが散発的には出てきた」(準大手証券エクイティ部)という。
ここでも、グローバルデフレの陰が株価を圧迫する構図になっている。野村証券・投資調査部チーフストラテジストの岩澤誠一郎氏は、景気悪化が進めばいずれ賃金も低下するとして、来年後半以降、世界的なデフレ懸念が強くなると予想している。「世界的に協調してリフレ政策を取り、膨らんだ債務を縮小させることで救済するしかない。一方で通貨価値の下落という副作用を伴うため、デフレ阻止に対し世論の同意が必要だ。来年後半以降はリフレ政策を取るための“産みの苦しみ”を味わうことになりそうだ」と先行きの険しい道のりを予想している。
ただ、短期的には、株の下値は限定的ではないかとの見方もある。大和住銀投信投資顧問・上席参事の小川耕一氏は「一定規模以上の株の空売りポジションの申告など、いわゆる空売り規制による人工的な要因も多分に作用している。一方、海外のヘッジファンドや投信などの売りが減ってきているという季節要因もあり、下値では公的年金の買いなども観測されている」と分析する。その上で「景気悪化や国内企業業績の3割程度の減益といった悪材料はかなりの部分を織り込んできているので、積極的な買いの動意はない半面、下を売り込むことも難しく、年内の日経平均は8000円─9000円のレンジ内で値固めの動き」とみている。
<意識される日米の政局リスク>
一方、ここにきて米国や日本で政策の空白がマーケットの関心事になりつつあるとの声も出てきている。東海東京証券・エクイティ部長の倉持宏朗氏は、米国でオバマ次期大統領が正式に就任する来年1月20日まで、本格的な財政出動は実施されないだろうとの観測が浮上していることに着目。「実体経済が日増しに悪くなっているのに対し、政策当局が手をこまねいている構造になってきており、政治面での空白リスクがマーケットに意識されてきている」とし、内外の景況感悪化と合わせ、日経平均は8000円割れも視野に入ってきていると懸念する。
ある外資系証券の関係者は、麻生太郎首相が第2次補正予算の国会提出を決めかねていることに関し「景気対策をまとめたのに、年内にその実施を担保する予算案が出ないのでは、拍子抜けだ。政府・与党は解散時期をめぐる駆け引きを優先して、景気対策がおろそかになっている」と述べる。さらに「政策への期待感がないので、きょうのように株式市場で買いが入らない展開が続く。政治的要素も売り材料になってきた」と述べている。
(ロイター日本語ニュース 田巻 一彦;編集 宮崎 大)