世界同時景気減速でクロス円急落、ECBの担保引き上げも円買い誘発
9月5日16時29分配信 ロイター
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080905-00000126-reu-bus_all
9月5日、ユーロ/円など対ドル以外の円相場で円が数年ぶりの高値へ急伸。(2008年 ロイター/Brendan McDermid)
[東京 5日 ロイター] ユーロ/円など対ドル以外の円相場で、円が数年ぶりの高値へ急伸している。世界同時の景気減速を織り込むかたちでユーロや英ポンド、豪ドルなどが大きく下落していることに加え、世界的な株価や商品価格の調整入りで、投資家がリスク回避の円買いに動いていることも一因。
さらに欧州中央銀行(ECB)がオペの受け入れ担保のヘアカット(担保の掛け目)を引き上げたことも、参加者に金融システム不安再燃の可能性を想起させている。長期化していた円安の反動とも言える対クロス通貨での円高は当面続く可能性があり、一段の円高進展を想定する声も出ている。
<クロス円は軒並み数年ぶり安値、ユーロ圏や豪州などの景気減速感強まる>
5日の取引では早朝から円買いが活発化。ユーロ圏や豪州などの景気減速感を手掛かりに、個人投資家のストップロスを狙ったクロス円売り仕掛けが強まり、ユーロ/円は一時150.60円と2007年8月以来1年1カ月ぶり、豪ドル/円は85.84円と06年7月以来2年2カ月ぶり、英ポンド/円は186.13円と03年12月以来4年9カ月ぶり安値をそれぞれつけた。月初からきょうまでのわずか5日間でユーロ/円の下落幅は9円、ポンド/円は12円、豪ドル/円は7.5円と大幅。円高ピッチは強烈だ。
急速な円高が進んだ主因は、ユーロや豪ドルなどの大幅な下落にある。特にインフレ高進が根強かったユーロ圏や英国、資源国の代表格である豪州などで足元景気の急速な鈍化が目立ち始めるのと同時に各国通貨が売られ「グローバル・リセッションを織り込む動き」(ある都銀のチーフディーラー)が進んでいる。
実際、ユーロや豪ドル売りの一方で、景気減速と大幅利下げを背景に先んじて売られたドルを買い戻す動きも活発化しており、対ドルでユーロはきょう早朝までに一時1.4212ドルと昨年10月以来11カ月ぶり、ポンドは1.7555ドルと06年4月以来2年5カ月ぶり、豪ドルは0.8100ドルと昨年9月以来1年ぶりの安値を付けた。
世界同時景気減速の流れは、始まったばかりだ。前日に政策金利を据え置いたECBは、ユーロ圏15カ国の域内総生産(GDP)見通しを08年中間値で1.4%、09年1.2%と、6月時点の08年1.8%、09年1.5%から下方修正。2日には利上げを続けてきた豪準備銀行(中央銀行)が7年ぶりに利下げに転じたほか、英国ではダーリング財務相が後に一部メディアの誤解だとしたものの、英景気は過去「60年間で最悪」と発言したと伝わるなど、各国・地域の景況感悪化は著しい。市場でもきょうにかけての円高で「セリングクライマックスに達したとは言いがたい」(在京外銀のチーフディーラー)といい、クロス円には一段の下値不安が残っている。
前日に市場予想通り0.25%の利上げを行ったスウェーデン中央銀行が当面金利を据え置くとの見方を示し、スタンスを「タカ派路線から修正」(在欧外銀ストラテジスト)したことで、世界の主要国・地域の金融政策は軒並み「政策金利は横ばい、もしくは下向き見通し」(先の都銀ディーラー)となった。市場の世界同時景気減速見通しは、さらに強まっている。
<マネー逆流が円買い誘発、円投取引巻き戻しならクロス円一段安へ>
マネーフローの逆流から今回の円高を読み解く参加者も多い。7月半ばにかけて、金融市場では低金利のドルや円を調達する一方、景況感が堅調だったユーロや豪ドル、値動きのよかった米原油先物などの商品市況にマネーが集中したが、最近の景気減速と株安、原油消費量の減少見通しによる原油価格の下落などを背景に「投資家がリスク削減の動きを強め、ドルと円でファンディングされたマネーが巻き戻されている」(バンク・オブ・アメリカの日本チーフエコノミスト兼ストラテジスト、藤井知子氏)との切り口だ。
先の在京外銀チーフディーラーも、各国・地域の利下げ期待が徐々に強まったことで「広がり過ぎたマネーサプライが縮まる過程に入り、(調達通貨だった)円やスイスフランなどにフローが逆行し始めている。日本のファンダメンタルズが各国と比較して大きく悪化してないことも、消去法的に円に資金が戻りやすい一因だ」と話している。
みずほ総合研究所・シニアエコノミスト、武内浩二氏は「長期にわたって積み上げられた円売りポジションに巻き戻しが起きているが、世界中に積み上がった円売りポジションの『岩盤部分』はまだ崩れていないことに留意すべき」と、一段の円高に警鐘を鳴らしている。
<投資家の「恐怖指数」は1日で1割超の急上昇、ファンドのポジション圧縮も活発>
さらに市場では、ECBが4日に発表したヘアカットの引き上げが、リスク回避の円買いを強めた一因とする声も出ている。ECBは流動性供給オペの受け入れ担保をめぐり、金融機関が短期資金を借りる際に差し入れるすべての資産担保証券(ABS)について、2009年2月1日から12%のヘアカットを適用すると発表した。現在2%のヘアカットの適用を受ける1年以内に償還を迎えるABSが、ルール変更により最も大きな影響を受ける。「ECB貸し出しを受けている欧州系銀に打撃は大きい。通貨的には特にユーロにネガティブ」(別の外銀ストラテジスト)という。
今年3月のベアー・スターンズ救済時ほどではないものの、ドル高が進む中でも、サブプライムモーゲージ(信用度の低い借り手向け住宅融資)問題をきっかけとする金融機関の経営悪化、金融システム不安への懸念は、依然として市場にくすぶり続けている。その中で行われたECBのヘアカットの引き上げ、月末に向けて米大手証券を皮切りに始まる大手金融機関の決算発表の行方には、大きな関心が寄せられている。
商品相場やクロス円の急落と急速なドルの買い戻し――。各市場の値動きが激しくなっていることで、市場ではファンドの運用が苦戦しているとの観測も高まってきた。米国の資産運用会社、オスプレー・マネジメントが傘下の旗艦ファンドの閉鎖を明らかにした翌日の取引では「大手ヘッジファンドから、ポジションの手仕舞いと見られるドル買いが殺到」(市場筋)したという。
投資家の不安心理を反映するシカゴ・オプション取引所(CBOE)のボラティリティ・インデックス(VIX指数)は前日の取引で12%超上昇し、今年7月以来の高水準にほぼ並んだ。
(ロイター日本語ニュース 基太村 真司)
最終更新:9月5日16時29分