2008年03月18日
田中宇・ドルの崩壊が近い・続き
▼見当違いな米連銀の利下げ
同時に、融資や債券発行で資金調達し、企業買収や金融投機によって儲けて
きたヘッジファンドも、従来は優良と思われてきたものが、投資家から危険視
され、債券価格の下落や、貸し手からの融資担保の積み増し要求を引き起こし
ている。これらはいずれも、以前は安全で価値が高いと評価されていた金融商
品が、危険で価値が低いと思われるようになったことから起きている。
問題になっている担保つき債券は種類が非常に多いので、一つずつの債券の
取引頻度が低く、取引相場で時価を決定できない。そのため理論値で時価を決
めるのだが、その理論値算定の根拠自体が投資家から疑われ、値段が確定でき
ない状態だ。無理に価格を決めようとすると、ベアースターンズ買収のように、
ものすごく安く買いたたかれる。
事態が危機から脱出するには、価格が決まらない底なしの状態が終わり、底
値が見える状態になることだ。アメリカの住宅価格の下落は今年から来年一杯
ぐらいまで続きそうで、住宅価格が落ちている間は、危機の出発点である住宅
ローン債券の底値も見えない。このような困難はあるものの、米政府の連銀や
財務省が工夫して底値が早く見えるような策を試みることはできるはずだ。底
値が見えたら、その値段だと債務超過で破綻する金融機関が出てくるので、そ
れを救済するか、倒産させるかという処理になる。
このように、事態は厳しいが対策がないわけではない。しかし、実際に米連
銀が対策として行っていることは、救済とは言えない全く頓珍漢な行為である。
連銀が昨年末から、緊急融資の額を急速に増やし、金利を大幅に下げることを、
金融危機への対策として行っている。
これは金融機関が資金難に陥ることを防ぐ政策として行われているのだが、
金融機関が陥っているのは資金難ではなく、担保割れなどの資産価値の下落で
あり、債務超過である。資金難は、資産は十分持っているのだがすぐに現金化
できない時に起きる。これは緊急融資や、融資を誘発する利下げが対策として
有効だ。しかし、資産そのものの価値が下がっているのだから、緊急融資や利
下げは解決策にならない。潰れる直前の延命策以上の意味はない。
3月16日にベアスターンズのたたき売り的身売りが決まり、その余波とし
ての危機悪化が週明け17日の世界の金融市場に広がらないように、米連銀は
17日のアジア市場が開く直前の時間帯に、貸出金利を0・25%引き下げる
発表をした。連銀は、3月18日の定例会議では、短期金利も大幅に再利下げ
すると予測されている。連銀は、銀行の資金難解消という、見当違いな対策に
こだわる道を突き進んでいる。
http://www.marketwatch.com/news/story/fed-acts-sunday-prevent-global/story.aspx?guid=%7B43265631-1656-4697-8377-55F05D859B76%7D
当然ながら、この方向の対策をいくらやっても、大した効き目はなく、金融
危機はひどくなり続けている。3月17日の英テレグラフ紙は、18日の利下
げを先取りして「害悪にしかならない連銀の利下げ」(Feds rate cuts are
worse than useless)と題する記事を出した。
http://www.telegraph.co.uk/money/main.jhtml?view=DETAILS&grid=A1YourView&xml=/money/2008/03/16/ccliam216.xml
▼日米欧協調介入は愚策
連銀による大幅利下げや巨額の緊急融資は、金融危機の対策になっていない
ばかりでなく、ドルという通貨の観点から見ると、ひどい害悪になっている。
連銀が金融界に巨額の短期資金を注入するほど、ドルの発行量が増加する。
米当局は、ドルを刷りすぎていることを十分自覚しており、2006年春か
らドルの通貨供給量を発表しなくなった。発表するとドルの過剰発行が人々に
わかり、ドルの価値はもっと早くから下がっていただろう。ドルの通貨供給は、
年率15%以上の早さで増えていると試算されている(望ましい増加率は5%)。
http://tanakanews.com/070918dollar.htm
ドルの通貨供給が増えるほど、世界はインフレになる。ドルを避けた投資資
金は商品相場に流れ込み、石油や金や穀物の相場(すべてドル建て)が上昇す
る。これに加えて連銀による利下げは、ドルに投資した場合の利回りの低下を
引き起こし、世界の投資家はドル建ての投資を避け、米金融市場への資金流入
が細る。アメリカの投資家は自国のドル建て金融商品を売って、ユーロや人民
元の資産を買う傾向を強める。連銀が、資金供給や利下げを加速するほど、ド
ル安とインフレ激化がひどくなる。
インフレ激化を受け、欧州や豪州、中国など、世界の多くの国々が、インフ
レ防止策として金利を引き上げている。ドルと他の通貨の金利差は広がり、ま
すますドル安になる。欧州や日本の中央銀行が、ドルの下落を食い止めるため
の協調介入を行うかもしれないという見方が出ているが、米連銀がドル安を誘
発する利下げや資金供給を加速しているときに、日欧の当局がドル安を止めよ
うと市場介入するとは、全く馬鹿げた話だ。やっても効果はない。
今の為替相場は1ユーロ=1・6ドル、1ドル=95円程度だが、先週から
のドル下落の速さからすると、今後1カ月ぐらいの間に1ユーロ=2ドル、
1ドル=80円という、今はほとんど非常識と思える水準までドル安が進んで
も不思議ではない。
ドル安が進む中で、米当局が日本の当局に対し、何らかの協力を要請してく
る可能性は大きい。世界の投資家が手放しそうな米国債を日本政府が買ってく
れとか、円売りドル買いの介入をやってくれとか、最終的にドルや米国債の価
値が大幅下落したまま元に戻らないとしたら、日本にとって大損失になる要請
である。
日本の政界では、日銀総裁人事をめぐって与野党が対立し、総裁が決まらず、
金融の政策決定に支障が出そうな事態になっている。これはひょっとすると、
日本に損をさせるアメリカからの要請を断るための芝居として、福田首相と小
沢民主党代表が事前に談合して演じていることではないかとも勘ぐれる。福田
と小沢は、従来の日本の基本戦略である対米従属には未来がないと思っている
点で意見が一致しており、日本を対米従属から引き剥がしていくための与野党
大連立を、以前に画策している。