田中宇の国際ニュース解説 2008年2月6日
http://tanakanews.com/
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★アメリカ財政破綻への道
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http://tanakanews.com/080206USbudget.htm
からの引用。
▼史上最大の財政赤字を隠す手法
反常識的な「隠れ多極主義」を説明するため前置きが長くなってしまった。
今回の記事の本題は、2月4日にブッシュが発表した米政府の予算が「隠れ多
極主義」であるということだ。
今回の米政府予算は、総額3兆ドルを初めて突破した史上最大の規模である。
イラクの軍事費と、不況に陥りそうな米経済のテコ入れ減税策を盛り込んだた
め、大規模になった。財政赤字の額も、今年度予算(1630億ドル)の2倍
以上にふくらんだが、史上最大だったイラク侵攻直後の2004年度予算の赤
字額(4130億ドル)よりは若干少ない4100億ドルとなった、と発表さ
れている。しかし、実はこの赤字額はインチキである。
http://www.independent.co.uk/news/business/news/us-fiscal-plan-will-double-federal-deficit-778081.html
米軍は昨年度、イラクとアフガニスタンで1890億ドルの戦費を使ったが、
今回の来年度予算には、イラクとアフガンの戦費が700億ドルしか計上され
ていない。現在の米軍の毎月の派兵費用から考えて、この金額では半年分にも
ならない。今年イラクで比較的安定した状態が続いたとしても、アフガニスタ
ンの情勢は悪化している。米軍がアフガン増派しそうなので、来年度はイラク
とアフガンで1500億から2000億ドル以上の戦費がかかるのは確実である。
http://fairuse.100webcustomers.com/itsonlyfair/latimes0071.html
国防総省は「戦況が不確実なので、イラクとアフガンの戦費がどうなるかは
わからない」といっているが、すでに派兵開始から4−6年も経ち、経験を積
んでいるのだから、この説明はごまかしである。米議会は、開戦当初は戦費を
一部だけ計上しておく国防総省のやり方を容認していたが、昨年はそれをやめ
て、当初予算で全額が計上されていた(それでもあとから増額したが)。米政
府は、来年度の財政赤字が、過去最大にならないための帳尻合わせとして、戦
費を一部しか計上しなかったに違いない。実際には来年度、アメリカの財政赤
字は過去最大となる。
http://www.cdi.org/program/document.cfm?DocumentID=4199&StartRow=1&ListRows=10&appendURL=&Orderby=D.DateLastUpdated&ProgramID=37&from_page=index.cfm
米政府の予算は、ブッシュ政権の8年間で、2兆ドル以下から3兆ドル以上
にまで増大した。軍事費は8年間に70%増えた。国防総省の5150億ドル
に、それ以外の省庁に埋め込まれている事実上の軍事費を加えると1兆ドルを
超え、第二次大戦後の最大の水準だ。世界の他の国々のすべての軍事費の合計
よりも多い。半面、来年度予算では、戦争とテロ対策以外の政府事業の多くが、
予算削減もしくは増額凍結されている。
http://www.atimes.com/atimes/Middle_East/JA24Ak04.html
歴史を見ると、軍事費は80年代のレーガン政権下でも急増したが、来年度
予算はそれと同じパターンだ。レーガンは「小さな政府」を作るといって当選
したが、軍事費を聖域化して急増させ、財政赤字を急拡大させてドル安を招き、
アメリカの経済覇権を崩した。
http://weblogs.baltimoresun.com/news/politics/blog/2008/02/white_house_budget_deficit_upt.html
ブッシュも自分の任期後の2012年には年度の財政赤字がゼロになるよう
に計画しているというが、これは全く口だけである。これから述べる景気悪化
と、メディケア(高齢者など向けの政府健康保険)の赤字増を勘案すると、実
際には正反対に、2012年の米財政は今よりひどい大赤字になると予測される。
▼非現実的に甘い経済見通し
今回の来年度予算は、今年の米経済の成長を2・7%として税収を計算して
いる。これは昨年11月時点での米政府発表の予測成長率なのたが、その後、
米経済は急速に不況色を強めており、米議会の予算事務局(CBO)の最新の
予測では、米経済の今年の成長率は1・7%に落ちている。
http://www.reuters.com/article/topNews/idUSN0447547520080204
民間の投資銀行などは、米経済は不況(マイナス成長)に陥るとの予測を相
次いで出しており、来年度の法人税収入は大幅に落ち込む可能性が増している。
来年度の米財政は、成長率2・7%を前提にした予算より、さらに500億や
1000億ドルの赤字増となってもおかしくない。戦費と税収をめぐる意図的
な誤算を補正すると、来年度の米財政は史上ダントツの赤字となりそうだ。
アメリカでは、メディケアとメディケイドという政府健康保険や、公務員年
金が将来的に破綻しそうだと警告されている。最も危険なのがメディケアで、
昨年からの処方箋薬への保険適用拡大で赤字が急増しており、2018年まで
にメディケアは破綻し、米政府に巨額の財政支出を強いると予測されている。
http://www.wsws.org/articles/2006/may2006/ssme-m03.shtml
http://en.wikipedia.org/wiki/Medicare_%28United_States%29
もともとメディケアは、病院経営者の団体や製薬会社などからの強い政治圧
力を受け、薬品や診療報酬についての価格交渉が禁じられ、病院が取る事務手
続き費用も異様に高く設定されて、赤字増に拍車をかけている。ブッシュ政権
は、病院が取る事務手続き費用を切り詰め、メディケアの政府支出を来年度か
らの5年間で1780億ドル削減する前提で来年度予算を組んだ。
http://www.freep.com/apps/pbcs.dll/article?AID=/20080204/NEWS07/802040317/1009/NEWS07
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/02/04/AR2008020402490.html
しかしこのメディケアの効率化は、米議会の予算審議を通りそうもない。議
員たちは表向き「メディケアの切り詰めは貧しい老人を困らせる」と反対して
いるが、本当は、地元の病院団体から献金や選挙支援を裏づけとした大圧力を
かけられているためである。病院の利益を圧縮して国家財政を救うことは、米
議会には期待できない。ブッシュ政権は、そのあたりの事情を把握した上で、
メディケアの効率化を来年度予算に盛り込んでいる。メディケアの効率化を潰
したのは議会だと責任転嫁できるからだ。議会が否決した分だけ、財政赤字は
増える。
http://www.reuters.com/article/topNews/idUSN0459986820080204
米政府の財政赤字急増は、米国債に対する信用を潜在的に失墜させている。
債券格付け機関のムーディーズは「米政府が(メディケアなど)健康保険や社
会保障費への財政支出を削減する思い切った政策を採れなかった場合、米国債
は10年以内に最優良格(AAA)を失うかもしれない」という前代未聞の警
告を1月上旬に発表している。1917年の格付け開始以来ずっと最優良格だ
った米国債が格下げされたら、国債の売れ行きは一気に悪化し、利回りが急騰
して米政府は巨額の利払いを強いられ、最悪の場合、国債の元利を払えなくな
って、国家的な債務不履行に陥る。
http://www.ft.com/cms/s/0/40f3a2be-bfa9-11dc-8052-0000779fd2ac.html
世界最強のアメリカが債務不履行に陥るはずがない、と多くの人は考えるだ
ろう。だが最近まで、ムーディーズが米国債の格下げに言及すること自体、あ
り得ない話だった。ブッシュ政権が隠れ多極主義の戦略を採っているのなら、
米国債の債務不履行まで事態を悪化させていくことを狙っているはずだ。来年
1月までのブッシュの任期中か、もしくは次の政権になってから最悪の事態が
不可避的に訪れるような仕掛けが、来年度予算のまやかしの裏に設定されてい
ると疑われる。