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93年 壁の穴から

 本日は、Doug Sahm Dayです。
 というわけで、今回はこちらのアルバムを聴きました。
 入手したばかりの、(小声で)ブートCDです。
 一応、複数のアーティストが参加しているライヴ盤で、誰がメインとか謳っているアルバムではありませんが、Doug Sahmの収録が目玉のブートといって間違いないでしょう。

 Doug Sahmの場合、かなりライヴ音源のソースが残っていると推察しますが、あまりブートの情報は聞きません。
 まあ、BeatlesやStones、Dylanとかと同じような期待をしても無理だとは思います。
 でも、もう少し出てもいいのでは…とファンとしては思ってしまうのです。
 ブートが一定以上流通すると、撲滅のためにオフィシャルが作られるという例がありますから。

doug sahm29.JPG

Holl In The Wall
20th Anniversary Live

1. Texas Tornado (Doug Sahm) : Texas Mavericks featuring Doug Sahm
2. We Uset to Fuss, We Used to Fight (J. Rymes) : Two Hoots & A Holler
3. Think It Over (K. James, L. James) : LeRoi Brothers
4. That's Life (Kay, Gordon, ) : Shoulders
5. Help Me Get Over You (M. Warden) : Wagoneers
6. You're The One (J. A. Lane) : Bizarros
7. I Just Do (Mitchael Hall) : Lollygaggers
8. Visions of Johana (Bob Dylan) : Texas Mavericks featuring Doug Sahm
9. I Got a Hole In My Pirogue (J. Horton, T. Franks) : Two Hoots & A Holler
10. Rumble (M. Grant, Link Wray) : Gary Dixon with LeRoi Brothers
11. Sometimes (Gene Thomassonn) : Teaxs Mavericks featuring Doug Sahm
12. Pointed Toe Shoes (Carl Perkins) : Johnathan Foose with the Bizarros
13. Pleas Don't Think I'm Guilty (M. Warden) : Wagoneers
14. Baby, You Scare Me (Michael Hall) : Lollygaggers
15. Chain of Love (Steve Doerr) : LeRoi Brothers
16. Chain Gang Woman (S. Coppinger) : Bizarros
17. Eldorado Boogie (Ike Ritter) : Bizarros

 本盤は、93年6月、オースティンの"Hole in the Wall"(ライヴハウス?)でのライヴ録音だということです。
 収録曲は17曲、ボリュームたっぷりで、しかもお目当て以外のアーティストも総じて良い感じです。

 例えば、LeRoi Brothers
 私は、昔から大好きなバンドです。
 どこがいいかと言いますと、何といってもサウンドです。 
 「コンパクト」、このバンドのサウンドの魅力は、この言葉に集約されると思います。
 ホーンはもちろん、キーボードもなしのスモール・コンボですが、音は決してスカスカに感じることのない、小気味のいいグルーヴが大変気持ちいいサウンドのバンドです。
 収録曲は3曲です。

3. Think It Over (K. James, L. James) : LeRoi Brothers
10. Rumble (M. Grant, Link Wray) : Gary Dixon with LeRoi Brothers
15. Chain of Love (Steve Doerr) : LeRoi Brothers

 そして、本盤収録の時点でのバンド編成は次のとおりです。

LeRoi Brothers
Steve Doerr : vocals, guitar
Mike Buck : drums
Casper Rawls : guitar
Mike Korpi : bass

 LeRoi Brothersは、本盤録音の前年92年にアルバム"Crown Royale"をリリースしていて、その中の1曲で、Doug Sahmがコーラスで参加しています。
 また、ドラムスのMike Buckは、90年のTexas Tornadosの1stにも参加していました。
 Doug Sahmとの関係も、なかなかなに親密なバンドなのでした。

 収録曲のひとつ"Think It Over"は、ご存知、Jimmy Donelyの代表作のひとつで、作者名にあるK. Jamesは、彼の本名(?)James Kenneth Donelyからきている署名です。
 LeRoi Brosは流石の演奏で、スワンプ・ポップの名作を彼らなりに、しかし素晴らしい王道の解釈でやっています。
 こういうところが愛すべきところだと、改めて思います。

 Bizarrosというバンドが収録されています。

6. You're The One (J. A. Lane) : Bizarros
12. Pointed Toe Shoes (Carl Perkins) : Johnathan Foose with the Bizarros
16. Chain Gang Woman (S. Coppinger) : Bizarros
17. Eldorado Boogie (Ike Ritter) : Bizarros

 メンツは以下のとおりです。

Bizarros
Moon Bellamy : vocals, harmonica
Bill Bentry : drums
Ike Ritter : guitar, vocals
John X. Reed : guitar
Brooks Brannon : guitar
Speedy Sparks : bass on track6,12
Stan Coppinger : basson track16,17, vocals 

 ギターのJohn X. Reed、ベースのSpeedy Sparksの名前が眼を惹きます。
 この二人は、Doug Sahmとの関係が深い人たちです。
 このBizarrosへの参加がレギュラーなものなのか、それとも臨時なのかが気になります。
 もしレギュラーなら、そしてアルバムがあるのなら聴いてみたいと思いました。
 (Ike Ritterというカッコイイ名前のギターリストも、それだけの理由ですが気になります。)

 1曲だけチョイスするなら、"You're The One"でしょうか。
 ブルージーなスタイルで、LeRoi Bros.にも通じるコンパクトなサウンドが魅力的です。
 小粋なフレーズを紡ぐギターと、ブルージーなハープがいい感じの佳曲です。

 Two Hoots & A Hollerというバンドにも注目です。

2. We Uset to Fuss, We Used to Fight (J. Rymes) : Two Hoots & A Holler
9. I Got a Hole In My Pirogue (J. Horton, T. Franks) : Two Hoots & A Holler

 メンツは、トリオということはなかったと思うのですが、本盤でのクレジットは以下のとおりです。

Two Hoots & A Holler
Ricky Broussard : vocals, guitar
Vic Gerard : bass, vocals
Chris Staples : drums

 "We Uset to Fuss, We Used to Fight"が、ファストかつトワンギーなナンバーで、かっこいいです。
 このバンドは、Doug Sahmが亡くなった時、Dougを偲ぶオリジナル曲を作って録音しています。
 その収録アルバムのことは、以前に当ブログに書きました。
 興味がある方は、下記のリンクからご覧ください。
 
 その他、Wagoneersは、カントリー・ロック系のバンドで、おだやかなサウンド、(ハイ)ロンサム調のボーカルが耳に残る、これまた気になるバンドです。
 やはり、ほとんど捨てバンドなし、そう言いたいライヴ・アルバムになっています。

 さて、お待たせむしました。
 本命のバンドを紹介します。
 なぜか、この名前で出演しています。

Texas Mavericks featuring Doug Sahm
Doug Sahm : vocals, guitar
John X. Reed : guitar
Speedy Sparks : bass
Mike Buck : Drums
Michael Sweetman : saxophone

 覆面バンド、Texas Mavericksが、唯一のアルバムをリリースしたのは86年でした。
 それからこの時点まで、既におよそ7年が経過しています。
 一回きりの匿名バンドだったはずですが、これ以外でもこの名前を使った出演はあるのでしょうか?
 気になります。

 本盤の編成で、何といっても気になるのは、キーボード系が不参加なことです。
 要は、Augie Meyers若しくはその代役の不在です。
 86年のアルバムでは、El Rochaという変名で(おそらくAugie)がオルガンやシンセを弾いていました、
 ギターのJohn X. Reed(当時の変名、Johnny X)、ベースのSpeedy Sparks(当時の変名、Miller V. Washington)はオリジナル・メンバーです。
 そして、ドラムスがErnie Durawa(当時の変名、Frosty)からMike Buckへ交替しているほかは、サイド・ギターのAlvin Crow(当時の変名、Rockin' Leon)が不参加です。
 わざわざ、Doug Sahm(当時の変名、Samm Dogg)をフューチャリング扱いにしたのは、名前を特記したかったのかも知れません。

1. Texas Tornado (Doug Sahm) : Texas Mavericks featuring Doug Sahm
8. Visions of Johana (Bob Dylan) : Texas Mavericks featuring Doug Sahm
11. Sometimes (Gene Thomassonn) : Teaxs Mavericks featuring Doug Sahm

 DylanとGene Thomasは、Dougのアイドルですね。
 両曲とも、ライヴ録音が聴けて感激しました。

 そして、"Texas Tornado"です。
 この曲は、予備知識なしに聴いて驚きました。
 皆さんは、ここで知ってしまいますので、知りたくない人はこの続きを読むのはやめましょう。

 この曲は、表記こそ単純に"Texas Tornado"となっていますが、実はメドレー仕立てで、オフィシャルでは聴けないレアな音源になっているのです。
 Doug Sahmの語りから入るところも素晴らしく、わくわくします。
 そして、肝心の中身はこうです。

Texas Tornado (2コーラス・プラス)
〜 Is Anybody Going to San Antone (サビ)
〜 Texas Tornado (サビ) 
〜 Lodi (1コーラス・プラス) 
〜 Texas Tornado (サビ)
〜 Is Anybody Going to San Antone (サビ〜終了)

 いやあ、書いていて、また嬉しくなってきました。
 こういう貴重なお遊び(?)が、ちゃんと記録され、繰り返し聴けることが素晴らしいです。
 レアなクリーデンスの"Lodi"の間奏の前で、Dougが「Aa〜 Johnny Reed !」、「Ah〜 CCR !」と呼びかけて、ギター・ソロを促しているところが、ばっちり記録されています。

 「神様、感謝します。」
 こういう、その場にしか存在しない至福の瞬間、それが切り取られて記録されている、そのことに感謝せずにはいられません。

 今晩は、このメドレーを繰り返し聴いて、Doug Sahmを偲びながら眠りにつきたいと思います。



Susie Q 〜 Born On The Bayou
(1994 Switzland Live)
by Sir Douglas Quintet


リード・ギターは、John Jorgenson (多分)


Green River  〜 Susie Q 〜 Land of 1000 Dances
(1994 Switzland Live)
by Sir Douglas Quintet





関連記事はこちら

Doug Sahm Day
本日は ダグ・サーム・デイ(2012年11月18日)
テキサス遥か (2011年11月18日)
白夜の国から (2010年11月18日)

Rick Broussard
悲しい知らせに空が泣いた



 

テキサス遠征 面影を追って 

 届いたパッケージを裏返して驚きました。
 若いBen Vaughnと、在りし日のDoug Sahmのツーショット写真が眼に飛び込んできたのです。

 "Texas Road Trip"という、アルバム・タイトルからして、何となく予感はありました。
 だって、Ben Vaughnは、ニュージャージーだかフィラデルフィアだかの出身のはずです。

 この人のテキサス好きは分かっていましたが、だからこそ期待していいんじゃないの?
 そんな密かな私の思いは、見事に当たっていたのです。
 「テキサス遠征」
 なんて素敵なタイトルなんだ。

 本盤は、Ben VaughnからDoug Sahmファンへの嬉しい贈り物になっています。

ben vaughn1.jpg

Texas Road Trip
Ben Vaughn

1. Boomerang (Ben Vaughn, Bill Lloyed)
2. Miss Me When I'm Gone (Ben Vaughn)
3. I'll Stand Alone (Ben Vaughn)
4. Fire in the Hole (Ben Vaughn)
5. Texas Rain (Ben Vaughn)
6. Sleepless Nights (Ben Vaughn)
7. She Fell Out the Window (Ben Vaughn)
8. Heavy Machinery (Dan Marcus)
9. Seven Days Without Love (Ben Vaughn, Bill Lloyed)
10. Six By Six (Ben Vaughn)

 本盤は、今年リリースされた、Ben Vaughnの最新作です。
 アマゾンのクレジットによれば6月24日発売となっていますが、私はつい最近まで、その存在に気付きませんでした。
 
 ルーツ・ロッカー、Ben Vaughnは、日本ではあまり話題にならない人ではないかと思います。
 この人には、"She's About A Mover"のカバーがあり、それで私もかろうじて知っていた人です。

 この人は、おそらくはエンジニア系の人ではないかと思われ、スタジオ大好きのオタっぽい匂いがします。
 私は、アーティストとしてより、プロデューサーとして先に知っていたのだと思います。

 この人は、ほぼ引退して、バスの運転手をしていた偉大な歌手をくどき、アルバム1枚分の録音をさせた人です。
 その歌手とは、Arthur Alexander
 それは結果的に、Arthurの最後のスタジオ録音になりました。
 最高の伴奏者をそろえ、素晴らしい演奏と歌唱を記録した、その功績は特筆すべきだと思います。
 Arthur Alexander最後のオリジナル・アルバム、"Lonely Just Like Me"、未聴の方はすぐ聴きましょう。

 さて、そんなBen Vaughnさんですが、今回、またも嬉しいお膳立てのうえ、本盤を創ってくれたのです。
 本盤の録音に参加したのは、以下のメンバーです。

Ben Vaughn : guitar, harmonica, vocals
Augie Meyers : vox organ, accordion, piano
Alvin Crow : fiddle
John X Reed : guitar
Speedy Sparks : bass
Mike Buck : drums
Scott Esbeck : background vocals

Produced by Ben Vaughn
Recorded at Wire Recording, Austin TX.

 思わず、「わかってるねえ Benさん!!」
 と、快哉を叫びたい、そんな仕事ぶりです。
 プロデューサーの仕事の大半は、資金繰り(調整)とキャスティングです。
 Arthurとの仕事がそうであったように、条件(場所と人とモチベーション)をそろえたら、後は自然な化学反応を待つ、ということでしょう。

 リスト最後のScott Esbeckさんは未知の人ですが、それ以外のメンツは、Doug Sahm人脈の主にリズム・セクションの常連たちで、この人たちを集めてアルバムを創ろうなんて、発想の段階で大成功ですね。
 おそらく、集められた人たちは、特別な気持ちでスタジオに入ったに違いなく、こみ上げてくる想いがあったろうと推察します。

ben vaughn-001.JPG


 Doug Sahmの盟友、Augie Meyersは、ついこの間、最新作"Santa Fe"をリリースしました。
 そして11月は、例年、Doug Sahmのメモリアル・イベントが開催されており、今年もJoe King Carrascoと一緒に出演する予定です。
 
 Alvin Crowは、久々の登場という印象です。
 Takoma時代(81〜83年)のSir Douglas Quintetで、ギター(とフィドル)を担当していた人で、自身がリーダーのバンドではウエスタン・スイングをやっていました。
 86年の覆面バンド、Texas Mavericksにも参加し、Rockin' Leonの変名でギターを弾き、ボーカルを担当した曲では、ヒーカップ唱法を聞かせていました。
 今作では、フィドルでの参加ということで、特定の曲のみの参加だったのかも知れませんが、きっと懐かしい面々と旧交を温めたことでしょう。

 ギターのJohn X Reedの近況はどうだったのでしょう。 
 少なくとも、昨年13年までは、Lucky Tomblin Bandでツアーをしていたと思われます。
 Louie Ortegaではなく、John X Reedが呼ばれたのは、特に理由はないと思いたいです。
 John X Reedは、(伝説の)Freda & The Firedogsのギターリストだった人で、おそらくDoug Sahmとの出会いはその頃だと思います。
 その後、John X Reedは、Sir Douglas Quintetの77年のアルマディロ・ヘッドクォーターの同窓会ライヴに参加したほか、80年のDougのソロ作、"Hell Of A Spell"、そして86年のTexas Mavericksでもギターを弾きました。

 ベースのSpeedy Sparksは、(存在さえ知らなかった、又は知られていなかった)97年のソロ・アルバムが、12年にMP3で配信されました。
 CDでのリイシューは、どうやらないようなので、私はしびれを切らせて購入しました。
 が、今からでも全然OKなので、出来ればCD化してほしいです。
 (実は、97年リリースというのは情報だけで、当時本当にリリースされたのか、確たることは不明です。)
 Speedy SparksとDoug Sahmとの出会いの時期はよく分かりませんが、Sparksは、81年の"Border Wave"に参加して以降、86年の"Texas Mavericks"、90年以降の"Texas Tornadosの全てのアルバムに参加しています。
 Doug Sahmのベーシストと言えば、Jack Barberか、この人という印象が強いので、Jackの近況も気になります。
 
 ドラムスのMike Buckは、Doug Sahmとの関係では、George RainsやErnie Durawa、John Perez(故人)ほどの常連ではないです。
 名前をあげた、かつての仲間たちも、当然ながら年齢を重ねているわけで、壮健でいてほしいです。
 Mike Buckは、T-Birdsの初期メンバーであり、LeRoi Brothersのメンツでもありました。
 90年のTexas Tornadosの1stでは、DurawaやRainsとともにドラムを叩いています。
 (LeRoi Brosの92年作"Crown Royale"では、Doug Sahmが逆にゲスト参加して、"Angeline"という曲でハーモニーをつけています。)

 そしてプロデュースは、当然、Ben Vaughn自身が行い、オースティンのスタジオで録音されています。

 さて、収録曲ですが、Benが最も強くイメージするDoug Sahm、ということなのでしょう。
 全曲、BenのペンによるDoug Sahm風のオリジナル曲で構成されています。
 Benは、ブラック・ミュージックにも造詣が深い人ですが、傾向としては、Doug Sahmのカオスな音楽性のうち、Tex-Mexの側面を中心にフォーカスしたアルバムになりました。

 アルバムは、Ben Vaughnの辛めの味付けを利かせた歌詞をのせ、Dougお得意のミディアム・テンポ曲でスタートし、Augieのピーピー・オルガン、のどかなアコーディオン、一転して哀愁の三連曲、ろうろうと歌い上げるバラード等々、さながらDoug Sahmのパブリック・イメージのショーケースのような展開を見せます。
 また、表面上はTex-Mex中心のようですが、ホーンレス、フィドルあり、スチール・ギターなしという制約の中で、実はDoug Sahmの多彩な音楽性を再現しようと試みた、考えた構成になっているのかも知れません。
 
 まあ、1曲くらいは、Doug Sahmのカバーがあっても良かったかも、などと思ったりしますが、きっとこれで正解なのでしょう。
 とにかく、Doug Sahmゆかりの老雄たちに囲まれ、Doug Sahmのポジションで歌い演奏したBen Vaughnは、きっと本盤の制作を心から楽しんだに違いない、そう思うのでした。



Boomerang
by Ben Vaughn Quintet


Ben Vaughn - guitar, lead vocals
Gus Cordovox - accordian
Mike Vogelmann - bass
C.C. Crabtree - sax
Seth Baer - drums



関連記事はこちら

Alvin Crow
可愛い七つの子はフィドル弾き
ロッキン・レオンのふるさと

John X Reed
おいらのいい人 完熟トマト
回想のファイアドッグス
テキサス遥か
テキサスのご婦人がた

Arthur Alexander (Ben Vaughn)
本家ヘタウマ

Augie Meyers
オーガスティンの聖なる信仰
オーギーに首ったけ
曲に歴史あり、メキシコへ旅して
曲に歴史あり、セルマからヴェルマ物語
曲に歴史あり、夜の正座ものがたり
曲に歴史あり、ケパソ物語 
三連符の調べで夢見心地
オーギー・マイヤースさん、気をつけて

パン屋の1ダース

 今回は、かなり以前に入手しながらも、その時々の理由から後回しにして聴いてこなかったアルバムを、やっと聴きました。
 多分、多くの人には馴染みのないアルバムであり、バンドだと思います。

 本盤は、テキサスのBig Shot、Lucky Tomblinがキャリアの最初に組んだバンド、Lucky 13の唯一のアルバムです。
 
 唐突ですが、ここで中身を紹介する前に、今回の警句を一言。
 「1ダースに1個おまけされると、うれしい。」

lucky tomblin3.jpg

Lucky Club Music
Lucky 13

1. Longline Locomotive (Lucky Tomblin)  
2. Halloween Blues (Lucky Tomblin)   
3. Survivor's Song (Lucky Tomblin)   
4. Strawberry Boots (Lucky Tomblin)  
5. Court of Kali (Lucky Tomblin)    
6. Hymn for Her (Lucky Tomblin)    
7. Funky Butt (Rocky Morales)   
8. Skylight (Lucky Tomblin)      
9. Russian Romance (Lucky Tomblin)   
10. Rock 'N' Roll Soul         
11. Mom and Dad Waltz (Lefty Frizzell)  
Secret Track
12. [Untitled]             
13. [Untitled]            

 本盤は、01年にTexas World Recordsからリリースされました。
 バンドの構成メンバー、というか録音参加メンバーを紹介します。
 以下のとおりです。
 
Musician
Billy Stull : Acoustic, Classical & Electric Guitars
Rocky Rodriguez : Acoustic Guitar
Mike Zeal : Bass
Max Baca : Bajo Sexto
Al 'Footsie' Catan : Drums
Heart Sterns : Percussion
Sauce Gonzales : Keyboards & Hammond Organ
Al Gomez : Trumpet
Rocky Morales : Tenor Saxophone
Spot Barnett : Tenor & Soprano Saxophone
Louis Bustos : Baritone Saxophone
Joe Hernandez : Trombone
Lucky Tomblin : Lead Vocals
Becky Tomblin, Tiffany Carnes, Illuminada : Buckground Vocals
Producer
Lucky Tomblin, Bobby Arnold, Billy Stull

 バンド・リーダーは、オースティン、サンアントニオの顔役(?)、Lucky Tomblin(vo.)です。
 実は、当ブログで、Lucky Tomblinに注目するのは2回目で、以前の回では、Lucky Tomblin Band名義の3rdアルバム、"Red Hot From Blue Rock"を取り上げました。
 本盤との関係を時系列で表すと、次のようになります。

Lucky 13
01年 Lucky Club Music(本盤)

Lucky Tomblin Band 
03年 Lucky Tomblin Band
06年 In a Honky-Tonk Mood
07年 Red Hot From Blue Rock
10年 Honky Tonk Merry Go Round

 ちなみに、Lucky Tomblin Bandのメンツは、

Lucky Tomblin : lead vocals
John Reed : lead guitar、vocals
Redd Volkaert : lead guitar、vocals
Bobby Arnold : guitar、vocals
Sarah Brown : bass、vocals
Jon Hahn : drums
Earl Poole Ball : piano、vocals

 であり、本盤のメンツとは一新されていることが分かります。
 ただ、本盤では、Doug Sahmの一派といいますか、ファミリー的なメンツがズラリと並んでいて壮観です。
 チョイスしてまとめて再掲しますと

Sauce Gonzales : Keyboards & Hammond Organ
Al Gomez : Trumpet
Rocky Morales : Tenor Saxophone
Spot Barnett : Tenor & Soprano Saxophone
Louis Bustos : Baritone Saxophone

 これは、そっくり、後のWest Side Hornsのメンバーですね。
 このメンツから、Lucky Tomblin Bandがカントリー系だったのに対して、Lucky 13はブルース、ソウル系であることが予想されます。

lucky tomblin4.jpg

 バンマスのLucky Tomblinは、Doug SahmやAugie Meyersと古くからの友人だとのことで、それは、この濃いメンバーを見ると納得できます。
 キーボードのSauce Gonzalesは、Arturo 'Sauce' Gonzalesという名で知られる人で、Doug Sahmの晩年の録音、ストックホルム・ライヴでも、Dougのバックをしっかり支えた人です。

 そしてここに、Max Baca(Bajo Sexto)も加えたいです。
 現在、Los Texmaniacsの主要メンバーであるMax Bacaは、Augie Meyersとの親交が深いバホ・プレイヤーです。

 さて、Lucky Tomblinが、ドキュメンタリー映画「ホーム・オブ・ブルース」の制作指揮を務めたという話は、以前の記事で書きました。
 さらにこの人は、Augie Meyersが70年代に立ち上げた最初のレーベル、Texas Re-Cord Companyの共同設立者でもあったようで、その関係の長さ、親密さを感じます。

 Lucky Tomblinは、アルバムのリーフレットに、こんなことを記しています。
 「ラッキー13は、時には一緒につるんだり、あるいは離れたりしながらも、結局、35年あまりも共に音楽を創り続けてきた、サンアントニオ以来の古い友人たちの集まりです。」
 また、
 「ダグ・サームの素晴らしい着想とオーギー・メイヤースの友情に感謝します。」
 とも記しています。

 ところで、Lucky 13とは何でしょう?
 ラッキーセブンは分かりますが、わざわざ13を名乗るなんて、特別な意味でもあるんでしょうか。
 メンバーの人数でしょうか。
 そういえば、バックコーラスを除けば13人です。(偶然かな?)
 案外、そういう何でもないことが真相である可能性は高いです。

 英語圏には、"パン屋の1ダース"というイディオムがあるそうで、その正しい成り立ちはともかく、要は結果的に忌み数である13を浄化(?)してしまう、そんな力技のこじつけが面白いです。
 このあたり、日本人向きの話のような気がしますが、いかがでしょうか?
 
 さて、ここまで内容に一切触れてきませんでした。
 本盤は、Lucky Tomblin Bandと比較すると、バンド・コンセプトが分かりにくいかも知れません。
 でも、実は同じコインの裏と表なのだと思います。

 本盤では、ブルージーなソウル・リビュー風の曲だったり、コットンクラブのようなキャブ・キャロウェイ風の曲だったり、さらに、サザン・ロック調のカントリー風味の曲などが散見して、とりわけ、オルガンのグルーヴィーなトーンをバックに、ホーンが短くても魅力的なフレーズを挟み込み続ける、そんなスタイルの曲に好感を持ちました。
 聴きどころは、やはり、SauceのオルガンとRocky Moralesほかのホーン陣の演奏でしょう。

 チャートとは無縁の音楽だと思います。
 しかし、そのグルーヴには不思議な魅力があるのでした。 

 ところで、1曲だけ普通にカバーが入っています。
 Lefty Frizzellの"Mom and Dad Waltz"です。
 Lefty Frizzellは、ご存知のとおり、Marle Haggardのヒーローであり、彼の憧れは何人かいましたが、歌い方まで影響を受けたのはLeftyだけです。
 
 また、Willie NelsonもLeftyが大好きで、"To Lefty Fron Willie"というタイトルのアルバムを創っているほどです。
 そのアルバムには、くだんの"Mom and Dad Waltz"も入っていました。
 聴きこむほど味わいが深まる佳曲ですね。

 本盤でのこの曲は、その後のキャリアである、Lucky Tomblin Bandへと続く伏線であるかのようです。



Illegal Man
by Lucky Tomblin Band


Lucky Tomblin Bandの1st(03)収録曲
アコーディオンはゲストのAugie Meyers


Mom and Dad Waltz
by Lefty Frizzell





関連記事はこちら

Lucky Tomblin
おいらのいい人 完熟トマト


オーガスティンの聖なる信仰

 
 赤字 追記しました。

 11月になって、初めての更新です。
 ぐずぐずしているうちに、あっという間に日が経ってしまいました。

 実は、今月はあるテーマに沿った記事で繋げられないか、と考えていたのです。
 自らしばりをかけるなんて無謀な気もしますが、出来るなら、なるべく更新回数もあまり減らさずに…。

 可能かどうか分かりませんが、まず今回は、その第一回にふさわしいアルバムを聴くことが出来ました。
 Augie Meyersの最新作、"Santa Fe"が先日届いたのです。
 (テーマについては、日々の更新からご想像ください。)


augie meyers2.jpg

Santa Fe
Augie Meyers

1. Santa Fe (Augie Meyers)
2. Something's Wrong (Augie Meyers)
3. Crazy Heart (Augie Meyers)
4. Borrow Me Some Money (Augie Meyers)
5. Dreaming On (Augie Meyers)
6. Counting Drops of Rain (Gene Jacoby)
7. Came Into My Life (Augie Meyers)
8. God Gave You to Me (Ralph Stanley)
9. Never Thought I'd Ever Fall in Love Again (Augie Meyers)
10. Joints Really Jumping (Augie Meyers)
11. I Did, You Did (Augie Meyers)

 本作は、Augie Meyersにとって、多分17枚目のオリジナル・アルバムになります。
 (完全なソロ名義及び"〜Western Head Band"名義(?)に加え、一部のDoug Sahmとの共作名義のうち、実質ソロ作である"Still Growin"を含めた数え方によります。…異論は認めます。)
 
 本作は、昨年の"Loves Lost and Found"に続くもので、快調なリリースだと思います。
 ただ、今作の収録曲は、81年から07年の間に録音した音源を元に、数曲に手を加えた作品だという説明がなされています。
 といっても、決して既発曲からの編集盤ではなく、実質新作であるのは間違いありません。
 ただ、説明の趣旨を素直に読めば、81年〜07年録音の未発表曲集という言い方も出来ます。
 それが正しければ、前作のタイトル、Lost and Foundは、今作にこそふさわしい名称なのかも知れません。

 さて、収録曲を見ていきましょう。
 録音クレジットの詳細は明らかにされてはいず、個別にどの曲が何年にどこで録音したというデータはありません。
 録音に参加したミュージシャンと4箇所のスタジオ名が、まとめて明かされているだけです。
 そこには、数年前に故人となった人も含まれていて、Rocky Morales(sax)の名前が眼をひきます。
 その他のDoug Sahm人脈では、Spot Bernet(sax)、Charlie McBurney(tp)(McBurnieと記載)、Al Gomez(tp)、Jack Barber(b)、Clay Meyers(dr)らの名前が確認できます。
 
 録音時期には、かなり幅がありますが、通して聴いても違和感は全くありません。
 一部を除き、アクースティックな印象を受ける録音が多く感じます。
 また、全体的にリラックスした雰囲気も受けます。

 まず次の3曲に注目です。
 
2. Something's Wrong (Augie Meyers)
3. Crazy Heart (Augie Meyers)
10. Joints Really Jumping (Augie Meyers)
 
 この3曲は、収録曲のうち、例外的に過去のアルバムで録音している曲です。(と、当初思いました。)
 聴き比べましたが、全て別の録音だと思います。

 まず、"Something's Wrong"ですが、10年のアルバム、"Trippin Out On Triplets"の収録曲に、"Something Wrong"という曲があります。
 ピアノの左手の伴奏が印象的な、完全にニューオリンズ・スタイルの3連バラードです。
 ファッツ・ドミノのリッチな歌声を連想する、ゆったりゆるいグルーヴがたまりません。
 しかし、今回の本盤での"Something's Wrong"は、驚いたことに全く別の曲のようです。
 スチール・ギターのイントロから始まる、調子のいい陶酔系の8ビート・ナンバー(昔の4ビート・カントリー風)です。
 どちらも自作ですので、こんな似た題名を付けたのは忘れてしまっていたのでしょうか?
 追記(14.11.8)
  何という勘違い!!  というか(本人としては)笑えない間違い。
 10年の"Something Wrong"(混乱しそうですが、実は"Something's Wrong"という表記が正解)は、自作ではなく、Fats Dominoのカバーでした。
 10年作を取り上げた過去の記事(三連譜の調べで夢見心地)を読み返したら、ちゃんとカバーだと書いていました。
 しかも、「クレジットがないので調べた」と経過まで書いているのに、すっかり忘れていました。
 今回、Fatsを連想するなどと書いていて、笑えます。
 当該記事は、下記の「関連記事はこちら」のリンクから参照出来ます。


 その点、"Crazy Heart"は、06年のアルバム、"My Freeholies Ain't Free Anymore"の同名の収録曲と同じ曲です。
 ただし、アレンジが全く違い、別の録音であるのは間違いありません。
 06年版が、アコーディオンの伴奏をメインにした、全面陽気なパーティ・ソングなのに対して、今作での同曲は、同じ陽気なナンバーでも、アコギ(ドブロ?)とフィドル、とりわけフィドルが印象に残る流麗なアレンジに仕上げています。 

 そして、"Joints Really Jumping"は、コンピ・アルバム、"Deep In The Heart Of Texas"で、"Joints Is Jumping"という表記になっていた曲だと思います。
(今、手元にないので気弱な表現ですが…。)
 "Joints Really Jumping"は、本作収録曲の中では、少し毛色が違う、タイトルどおりのホーンを強調したジャンプ・ナンバーです。
 基本的に雰囲気は同じだったと思いますが、"Joints Is Jumping"の方が、よりタイトでテンポが早いジャンプ・ナンバーだったと思います。
 今作でのそれは、ホーンこそ入っていますが、スラップ音も聴こえ、ロカビリーに近いスタイルと言えるかも知れません。

augie meyers3.jpg

 
 その他の曲は、私の知る限り、今回が初出の曲だと思います。
 ですが、決して残り物だとか、一旦没になっていた曲などといった印象を受ける曲はありません。
 いずれも、Augie Meyersらしい、「可愛らしい」曲だと思いました。
 例えが不似合かも知れませんが、私がここで思う「可愛い」とは、大きな熊のぬいぐるみのような無邪気な(?)可愛さです。
 (説明が余計に意味不明ですか?) 

 そして、今作でのカバー曲は次の2曲です。

6. Counting Drops of Rain (Gene Jacoby)
8. God Gave You to Me (Ralph Stanley)

 いずれも、私には初見の曲です。

 "Counting Drops of Rain"は、おそらく、テキサスのカントリー・シンガー、Wade Jacobyのカバーだと思います。
 美しいメロディを持った曲で、原曲は、一時期のナッシュビルのシュガー・コーティングから逃れることが出来た、オールド・タイミー、かつ時を超越したような佳曲だと思います。
 Augieの解釈は、よい曲を素直にやっていて好感が持てます。
 
 一方の"God Gave You to Me"は、作者名から、スタンリー・ブラザーズの作品だろうと思います。
 (ラルフのソロの可能性もありますが…。)
 ソリッドな定型のブルーグラスではなく、ヒルビリー・デュオ風のワルツで、とてもいい曲です。
 ドック・ワトソンやルーヴィン・ブラザーズ好きの私には、この手の曲は大好物なのでした。
 フィドル、マンドリンらのアンサンブルが見事な出来で、おすすめの曲です。

 本盤を、オール・アメリカン・ソング集などと言うと、オーギーは「大げさ過ぎる」と照れるでしょう。
 アカデミックな側面に注目したがるのは、日本人の(悪い)性癖でしょうか。
 オーギーなら、 楽しく歌える、談笑(バカ騒ぎ?)しながら軽く踊れる、そんな音楽集なのだと言うかも知れません。

 フォーキーな曲から、マウンテン・バラッド、ヒルビリー・ブルース、黒っぽいジャンプ、果てはメランコリックなジャグ風まで、聴き返すごとに様々な側面を見せ、新たな魅力に気付かせてくれる、良質のアルバムだと思います。




Dinero
by Texas Tornados




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Augie Meyers
オーギーに首ったけ
曲に歴史あり、メキシコへ旅して
曲に歴史あり、セルマからヴェルマ物語
曲に歴史あり、夜の正座ものがたり
曲に歴史あり、ケパソ物語 
三連符の調べで夢見心地
オーギー・マイヤースさん、気をつけて


ハラペーニョ 聖者にはならない

 今回は、ここ最近の流れをひと区切りしたいと思います。
 すなわち、「最近、ダブリ買いしてしまったCD」シリーズの、ひとまず最終回です。
 アイテムは、Louie Ortegaの2ndアルバム、97年作の"In My Heart"です。


louie ortega2.jpg

In My Heart
Louie Ortega
and the Wild Jalapenos

1. Today (Louie Ortega)
2. My Lucky Stars (Louie Ortega)
3. She's An Angel (Louie Ortega)
4. Never Be A Saint (Louie Ortega)
5. Georgie Baker (Louie Ortega)
6. I Believe In You (Louie Ortega)
7. Amor De Mi Vida (Louie Ortega, Max Baca)
8. Set Me Free (Louie Ortega)
9. Heaven On Earth (Louie Ortega)
10. Destiny (Louie Ortega)
11. Mi Casa Es Su Casa (Louie Ortega)
12. Llevame (Louie Ortega)
13. In My Heart (Louie Ortega)
Bonus Track
14. Ring Of Fire (J. Carter, M. Kilgore)
15. Llevame Jam (Louie Ortega)

 本作がリリースされた97年は、Louie Ortegaにとって、彼の音楽人生に深く関わり、大きな影響を与えた盟友Doug Sahmが、静かに天に召された時より、遡ること2年前のことです。
 Doug Sahmのアルバムの歴史で言いますと、Texas Tornados名義のラスト作、"4Aces"が96年で、Sir Douglas Quintet名義のラスト作、"Get A Life"(別題"SDQ 98")が98年ですので、その2枚の間に出された作品ということになります。

 とりあえず、本作の参加メンバー、担当楽器等をご紹介します。
 以下のとおりです。

Louie Ortega : Vocals, Electric Guitars, Acoustic Guitars, Bajo Sexto
Frank Paredes : Bass Guitar, Background Vocals
Don "Spike" Burr : Bass Guitar, Background Vocals
Bill Flores : Dobro, Accordion, Saxophone,
Rich Burr : Drums, Percussion
Jim Calire : Piano, Hammond Organ
Produced by Louie Ortega

 まず、ひとこと、結論から先に述べさせてください。

 本作は、粒よりの曲を取りそろえた、優れたアルバムだと思います。
 また、アクースティック系の楽器の響きが耳にやさしく、繰り返し聴きかえせるアルバムでもあります。

 ほとんど自作で占められた本作は、Ortegaの非凡なソング・ライティングの冴えを感じさせるアルバムになっています。
 ただ、おそらくは、長い期間の中で書き溜めた作品を吐き出したものだと思われ、はっきりわかるものだけでも、トラック1の"Today"、トラック4の"Never Be A Saint"、トラック5の"Georgie Baker"の3曲は、本作が初の録音ではなく、過去に発表した曲の新録音となっています。

 まず"Today"ですが、本作では題名がえらく短縮していますが、これは元は、"Tomorrow Just Might Change"の名前で、70年代に出されたシングルの新録音です。
 「今日は今日、明日は変わるかもしれない」と、歌われる曲で、メロディの美しさにのみ耳がいきがちですが、実は若干の説法くささ、もっと言えば宗教臭も漂う作品です。

 これは、トラック4の"Never Be A Saint"にも共通するスタイルかも知れず、Louieがやはり、伸びやかな声で、「聖者にはならない」と歌っています。
 "Never Be A Saint"は、元は84年にスウェーデンのレーベルSonetからリリースされた、Sir Douglas Quintetのアルバム、"Rio Medina"で披露された曲でした。
 "Rio Medina"は、未だにCD化されていませんが、そのバージョンは、Sonet音源から選曲した編集盤CD、"Scandinavian Years"で聴くことができます。
 
 そして、"Georgie Baker"です。
 この曲は、元は"Tomorrow Just Might Change"の裏面として、70年代に出されたもので、その際は"Little Georgie Baker"という表記が使われていたものです。
 80年代には、やはり、現在も未CD化のSir Douglas Quintetのアルバム、"Midnight Sun"(83年リリース、"Rio Medina"のひとつ前のアルバム)でQuintet盤が録音され、本作収録曲は、Louieにとって3度目の吹き込みになります。
 ところで、Georgieという名前は、Georgeの女性名ですかね?

 さて、ここで落穂拾い的なことをひとこと、ふたこと。
 
 トラック7の"Amor De Mi Vida"には、共作者としてMax Bacaの名前が記されていて興味深いです。
 Max Bacaは、ルーツ系チカーノ・バンド、Los Texmaniacsのメンバーで、マルチ・プレイヤーだと思いますが、主としてバホ・セストをプレイしている人です。
 最近では、完全なコンフント・スタイルで、フラーコ・ヒメネスとの共作アルバムを出しています。
 Ortegaとの接点は、あっても不思議ではありませんが、本作ではコンポーザーとしてのクレジットだけですので、共作するきっかけとなったような、共演盤があるのなら、ぜひ聴いてみたいです。
 
 そして、本作は、ジャケット表記では13曲入りとなっていますが、CDプレイヤーにディスクを入れると、トラック数が15と表示されます。
 13曲目が終了すると、しばしの無音のあと、2曲のシークレット・トラックが演奏されるのです。
 
 14曲目は、ジョニー・キャッシュとジューン・カーターのデュエット曲、"Ring Of Fire"のカバーです。
 原曲からして、メキシカン・トランペットの響きが印象的なボーダー・ソングですので、おそらくは、チカーノ・コミュニティで人気がある曲なんだと思います。
 (そういえば、Louie & The Lovers(60年代末〜70年代初期のLouieのバンド)には、マーティ・ロビンスのカウボーイ・ソング、「エルパソ」のカバーもありました。)
 
 ラストの15曲目は、12曲目のアウトテイクのような演目で、インスト・ナンバーです。

 近年のLouie Ortegaは、Shawn Sahm率いる新生Texas Tornadosのメンツであるとともに、どうもレコーディングこそ未だないようですが、Louie & The Loversの名前で、自らのバンドを組んで活動しているようなので、他人作のゲストばかりじゃなく、リーダー・アルバムを出してほしい、ファンとしては、そう切に願います。




Sir Douglas Quintetがスウェーデンのテレビに出演した際の映像です。
6分40秒あたりから、Ortegaが"Little Georgie Baker"を歌っています。


1. Every Breath You Take (ポリスの最高にイナたいカバー)
2. Everybody Gets Lonely Sometime(3分15秒〜)
3. Little Georgie Baker(6分40秒〜)



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ストックホルムで会おう
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彗星はアメリカの心に沈む
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Last Real Texas Blues Band
ストックホルムの贈り物

Los Texmaniacs
テックス・マニアのうたげ
ごきげんメックス・テックス
テキサス熱中時代
フェリース・ナビダ
オーガストとマクシミリアン
 

ママのホーム・オブ・ブルース

 今回も前回の流れを受け、「最近、ダブリ買いをしてしまったCD」を取り上げます。
 こうしてテーマを決めてのぞめば、「CDのチョイスにさほど悩まなくていい」ということもあります。
 でも、それだけでなく、結果的にダブリ買いをしてしまったということは、その音楽に強い関心があるということでもあり、取り上げる価値は充分以上にあるのでした。

angela strehli1.jpg

Deja Blue
Angela Strehli

1. Cut You Loose (M. London)
2. A Stand By Your Woman Man (Angela Strehli)
3. Deja Blue (Angela Strehli, Mike Schermer, Joe Kubek)
4. A Man I Can Love (angela Strehli)
5. Boogie Like You Wanna (Charlie Bradix)
6. Give Me Love (Angela Srehli)
7. Still A Fool (Angela Strehli) with Lou Ann Barton, Marcia Ball (vocals)
8. Close Together (Jimmy Reed)
9. Hey, Miss Tonya (Angela Strehli)
10. Too Late (Tarheel Slim & Little Anne) with Doug Sahm (vocals)
11. Where The Sun Never Goes Down (Willie Mae Williams)

 
 今回は、テキサスのブルース・ウーマン、Angela Strehliの98年作、"Deja Blue"です。

 本作には、Doug Sahmが2曲でゲスト参加しています。
 トラック8の"Close Together"では、Dougはギターを弾き、いつものDoug Sahmシンジケートのメンツたち、Jack Barber(bass)、George Rains(drums)のほか、ブルース・クラブ・アントンズのハウス・ミュージシャンで、Dougとも親交の深いDerek O'Brien(gt)が録音に参加しています。

 そしてもう1曲が、トラック10の"Too Late" (元曲の表記は"It's Too Late")で、ほとんどDougメインという感じでAngelaとデュエットしています。
 録音メンツでは、"Close Togethr"の面々に加え、あのGene Taylor(p)が加わっています。

 Doug亡きあと、未発表音源の発掘に期待し続ける日々ですが、こういったゲスト参加での限られた既発音源、とりわけボーカル参加曲は、やはり貴重です。
 (Dougは99年に天に召されたので、本曲の録音時期は不明ですが、晩年の収録と言っていいと思います。)

 というわけで、私がこの盤に愛着を持ち、よく確かめずにふらふらとダブリ買いしてしまった理由は、Doug Sahm参加盤で、しかも彼の声が聴けるからです。
 (まあ、だからこそ「きっと持っているはず、もっとよく探せ」、と今は自分自身に言いたいです。) 

 さて、くだんの"Too Late"のオリジナルは、Tarheel SlimとLittle Anneによるデュエツト曲で、Fireのレーベル・コンピなどで比較的容易に聴くことができます。
 今は、さわりだけなら、アマゾンのMP3で手軽に試聴出来るので便利ですね。
 余談ですが、私は、ターヒールという名前の響きが、以前から好きです。
 名前だけ聞いていると、あたかも戦前のブルースマンかのようなイメージを持ってしまいます。

 この男女デュエット曲、Doug、Angelaのどちらが選曲したのでしょう。
 Angelaの声はLittle Annほどの個性を感じませんが、私にとっては、Dougの声が聴けるだけで幸せです。
 今夜は、この盤のこのトラックを繰り返して聴いて、しばしば不定期に発症する、Doug Sahm欠乏症の頓服としたいです。
 薬効は、レア曲であるほど効き目が強いのでした。

angela strehli2.jpg


 さて、これで終わりでもいいのですが、その他の曲についても軽く触れたいと思います。

 まず、基本のバンドですが、バンマスのギター、Mike Schermerが地味ながら好プレイで全体の演奏をリードしています。
 マイク・シャーマーさんは、マイティ・マイクの二つ名を持つ、スタジオのエースで、多くのブルース、ソウル系のミュージシャンの録音でギターを弾いてる人です。
 また、自身のバンドを率い、メイン・アーティストのツアー・サポートをしたりもしています。

 私がまず注目したのは、"Cut You Loose"、"A Stand By Your Woman Man"、そしてアルバム・タイトル曲"Deja Blue"へと続く冒頭の3曲でした。

 "Cut You Loose"は、かっこいいテキサス・シャッフルで、線の細いレイ・ヴォーンなんて言葉が浮かびます。
 曲は、Ricky Allenというよく知らない人がオリジナルのようですが、作者のMel Londonは、マディ、ウルフ、エルモアなど、そうそうたる偉人に曲を書いている人です。
 マディの"Manish Boy"には、作者として、エラス・マクダニエル(ボ・ディドリー)、マディに加え、なぜか(?)このMel Londonの名前がクレジットされています。
 Londonの作品で、今の気分で私が好きなのは、Junior Wellsの"Messin with The Kid"です。

 そして、シャッフル・ブルースの後を受けるのが、ブルージー・バラードの"A Stand By Your Woman Man"です。
 がらっと曲調の変わる、このアルバムの流れが良いです。
 曲は、Angelaのオリジナルですが、タイトルが有名なタミー・ワイネットのカントリー・ヒット、"Stand By Your Man"を連想せずにはいられません。

 そんな中、真っ先に注目してしまうのは伴奏のアレンジで、とりわけ出だしのギターの退廃的なトーンに耳が惹きつけられます。
 これは、私の耳には、まるでAl Greenの"Love And Happiness"のイントロのデフォルメみたいに聴こえます。
 (私のまぶたの裏には、スロウにチークする男女の姿が映っています。)
 
 そして、"Deja Blue"です。
 再びレイ・ヴォーンを連想せずにはいられないファスト・ナンバーです。
 ここでは、マイティ・マイクがかなり弾きまくっていて本領発揮という感じです。

 その他、マイクのオブリガードを中心としたプレイが、メインのアンジェラを盛り立てていて、派手さこそありませんが、気持ちいい響きのブルース、ソウル風味の曲が楽しめる好盤だと思います。
 
 ちなみに、トラック7の"Still A Fool"には、Marcia Ball、Lou An Bartonの二人がボーカルで参加していて、特にルー・アンの声が、相変わらず魅力的です。



A Stand By Your Woman Manをどうぞ
(ただし、ライヴ音源です)




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ウイリー・ネルソンにダグ・サームの隠し味Part2
ウイリー・ネルソンにダグ・サームの隠し味

Mike Schermer
マイティ・マイク
マイティ・マイク 1st set

おまけ
曲に歴史あり、ケパソ物語

おいらのいい人 完熟トマト

 今回は、このバンドを聴きました。
 その名もラッキー・トンブリン・バンドです。
 7人編成のバンドですが、バンマスのLucky Tomblinは、ボーカルのみで楽器の担当がありません。
 本名は不明です。

 この人は、その辺にいそうな小柄な初老のおじさん(おじいさん?)なんですが、ただ、バンドのメンツには、なかなかのくせ者が含まれていて、それらを束ねていることから、謎のフィクサーぽい雰囲気を漂わせている人です。


 
Red Hot From Blue Rock
The Lucky Tomblin Band

1. Honky Tonk Song (Mel Tillis, Buck Peddy)
2. End of the Road (Jerry Lee Lewis)
3. Setting the Woods on Fire (Rose Nelson)
4. Howlin at the Moon (Hank Williams)
5. Don't Forget to Dip the Girl (Sarah Brown, Rosie Flores)
6. Sundown Blues (Moon Mullican)
7. I'll Keep on Loving You (Floyd Tillman)
8. Good Lookin' No Good (Sarah Brown)
9. A Fool Such As I (Bill Trader)
10. Party Doll (Jimmy Bowen, Buddy knox)
11. Play One More Song (Earl Poole Ball, Jo-El Sonnier)
12. Time Changes Everything (Tommy Duncan)
13. Red Hot (Billy Emerson)

 まずは、フィクサーっぽい話題から。
 Lucky Tomblinは、オースティンのブルース・クラブ、アントンズのドキュメンタリー・ビデオ、「ホーム・オブ・ブルース」のプロデューサーです。
 最後のスタッフ・ロールのところで、「プロデューサー」「エクスキューティブ・プロデューサー」として二度も名前が出てきます。

 本編には出演していないと思いますが、やはりオースティンの音楽シーンの影の顔役なんじゃないでしょうか。
 少なくとも、単なるビデオ製作の出資者ではないでしょう。
 
 The Lucky Tomblin Band名義では、現在までに4枚のアルバムをリリースしています。
 以下のとおりです。

03年 Lucky Tomblin Band
06年 In a Honky-Tonk Mood
07年 Red Hot From Blue Rock (本盤)
10年 Honky Tonk Merry Go Round

 メンバーは、結成当初から基本的に変わらず、以下のような編成です。

Lucky Tomblin : lead vocals
John Reed : lead guitar、vocals
Redd Volkaert : lead guitar、vocals
Bobby Arnold : guitar、vocals
Sarah Brown : bass、vocals
Jon Hahn : drums
Earl Poole Ball : piano、vocals



 03年の1stのみ、この7人に加えて、Asleep At The Wheelの元メンバー、女性スチール・ギターリストのCindy Cashdollerが参加していました。
 シンディの参加から、およその察しがつかれたかと思いますが、見かけはカントリー系のバンドです。
 やっているレパートリーも、特段予想を裏切ることなく、本盤を例にとれば、ホンキートンク、ウエスタン・スイングなどを嬉々としてやっています。

 しかし、単純にそれだけで語るべきバンドではありません。
 メンツを再度ご覧ください。

 女性ベーシストのSarah Brownは、テキサスの音楽シーンでは、比較的有名な女性ではないでしょうか。
 先ほどのアントンズのドキュメンタリーにも出演していて、そこでは、クラブのオーナー、クリフォード・アントンの人柄やブルースについて語るシーンが収録されていました。

 サラは、ドクター・ジョンがプロデュースしたアントンズ発の女性ボーカル・ユニット(アンジェラ、ルー・アン、マーシャ)のツアー・バンドのメンバーでもありました。
 (加えて、実質的な4人目のボーカリストでもあったようです。)
 また、私は未聴ですが、ソロ・アルバムもあるようです。
 
 さて、このバンドには、リード・ギターが二人います。
 まず、John Reedですが、しばしばJohn X Reedとクレジットされる人で、テレキャスのマスターです。
 世に知られるキャリアの初めは、テキサスのルーツ・ロック・バンド、Freda & The Firedogsのリード・ギターリストとしてでした。
  (あのFlatlandersのオリメンだったという話もあります。)
 Freda & The Firedogsからは、Marcia Ball、Bobby Earl Smithらが後にソロ・アーテストとしてデビューしました。

 Firedogsの解散後は、一時Doug Sahmと活動を共にしたり、Texana Damesという女性ファミリー・バンドでリードを弾いたりしていました。
 Doug Sahmとは、アルマディロ・ヘッドクォーターズでのライヴで共演しほか、覆面バンド、Texas Mavericksでは、Johnny Xの変名(?)でリード・ギターを弾きました。
 また、Joe King Carrasco、Alvin Crowのバンドへもゲスト参加したことがあったと思います。 
 
 もう一人のリード・ギター、Redd Volkaertについては、あまりキャリアを知らないのですが、多分ウエスタン・スイング系の音楽を好むテレキャス・マスターだと思います。
 John Reedが比較的痩身なのに対して、かなり恰幅のいい体型をオーバーオールに包んだおじさんです。

 本盤での演奏は、テキサス・ブレイボーイズ出身と言われれば信じそうなスタイルの人です。
 しかし、やはりこの人もまた、バックボーンはカントリーだけではなく、様々なスタイルを弾きこなすゴキゲンな人なのでした。
 ソロ・アルバムが数枚ある人ですが、私がこの人の存在を知ったのは、Bill Kirchenの(1回きり?の)プロジェクト、TwangBangersの参加メンバーとしてでした。
 (ちなみに、02年リリースのTwangBangersの唯一のアルバムには、Very Special Thanks to Dave Alvinという謝辞が記されています。)


26 Days On The Road : TwangBangers


(この盤収録の"Hot Rod Lincoln"は、クリス・スペディングのギター・ジャンボリーのビル・カーチェン版で、しかもギターだけでなくベースの物まねも登場します。)



 さて、他のメンバーについてはよく知らないのですが、きっとそれなりのキャリアを持った職人たちなのだろうと想像します。
 
 そして、興味深いのは、リード・ボーカルをとれる人が何人もいることです。
 (あるいは、歌いたい人と言うべきかも知れませんが…。)

 収録曲をリード・ボーカルで分けると以下のようになります。

Lucky Tomblin (band leader)
1. Honky Tonk Song (Mel Tillis, Buck Peddy)
4. Howlin at the Moon (Hank Williams)
9. A Fool Such As I (Bill Trader)
13. Red Hot (Billy Emerson)

Earl Poole Ball (piano)
2. End of the Road (Jerry Lee Lewis)
11. Play One More Song (Earl Poole Ball, Jo-El Sonnier)

Redd Volkaert (lead guitar)
3. Setting the Woods on Fire (Rose Nelson)
12. Time Changes Everything (Tommy Duncan)

Sarah Brown (bass)
5. Don't Forget to Dip the Girl (Sarah Brown, Rosie Flores)
8. Good Lookin' No Good (Sarah Brown)

John Reed (lead guitar)
6. Sundown Blues (Moon Mullican)
10. Party Doll (Jimmy Bowen, Buddy knox)

Bobby Arnold( rhythm guitar)
7. I'll Keep on Loving You (Floyd Tillman)

 うーん、この割り振りは民主的とでもいうべきでしょうか。
 ドラマー以外は、すべてリード・ボーカルをとる機会を得ているわけです。

 本盤では、ホンキートンク系のレパーリーを多くやっているため、全体的に受ける印象はカントリーっぽいです。
 Lucky Tomblinがリードをとった"Red Hot"は、Billy "The Kid" Emerson〜Billy Lee RileyのブルージーR&Bですが、黒っぽさはあまりないアレンジで、ほんわかロッキン・サウンドに料理しています。

 リード・ボーカル陣は、濃淡こそあれ、それぞれ黒っぽさを持っている人たちなのですが、本盤では、ほとんどその片鱗を見せていません。
 あえていうならSarah Brown、Earl Poole Ballあたりが小出しにしているでしょうか。
 さらに言えば、Earl Poole Ballからはモダンさを、John Reedの声からは若干線が細い印象を受けます。
 そして、本盤でのRedd Volkaertは、ウエスタン・スイング大好きおじさんになりきっています。

 本盤に限って言えば、カントリー・ロック、ルーツ・ロックなど、いずれも本バンドを例える表現として外れてはいないと思います。
 でも、私が彼らの音楽性から、自然に思い浮かんだ言葉は、グッドタイム・ミュージックでした。
 総じて弦楽器と鍵盤のアンサンブルが素晴らしく、とてもリラクゼーション効果の高い音楽だと思います。
 
 本盤は、様々な魅力を持ったメンバーが、絶妙なコンビネーションを披露している好アルバムです。
 さらに聴きこんでいきたい、そんな風に思わせるバンドです。
 (なお、本盤には、アルバム制作のメイキング映像を収録したDVDが同梱されています。)

 (トリビアの追加)
 Lucky Tomblinは、本バンドを結成するほんの少し前に、Doug Sahm人脈のホーン陣(ロッキー・モラレスをはじめとする後のWestside Hornsの面々)と一緒にバンドを組んで活動していたことがあります。


End Of The Line
by
Lucky Tomblin Band (lead vocals : Redd Volkeart)


Bob Willsのナンバーです


Jessica
by
Redd Volkeart


Allman Brothersのあの曲をやっています
上のBob Willsを演奏しているのと同じ人なんですよね これが



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Texana Dames
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回想のファイアドッグス
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Re-Union Of The Cosmic Brothers
宇宙牛追い人の回想
Rick Broussard's Two Hoots And A Holler
悲しい知らせに 空が泣いた

Sarah Brown Works
コンチネンタル・クラブへようこそ


本日は ダグ・サーム・デイ

 今日は、本ブログを始めてから3度目のあの日です。
 というわけで(?)、Doug Sahm関連の音源を聴きたいと思います。

 今回とりあげるのは、Kevin Kosubさん(Augie Meyersのいとこらしいです)制作のコンピです。

 この人は、Augieの親戚かつDoug Sahmの友人ということ(だけ)をうたい文句に、DougとAugieのレア音源に自身の録音を抱き合わせ、似たような内容の自主制作盤を何枚か作っている人です。



The Best Of San Antonio Texas
Doug Sahm & Friends

1. Will You Love Me Manana : Doug Sahm & Randy Garibay
2. Whiter Shade Of Pale : Doug Sahm
3. Little Fox : Augie Meyers
4. The Joint Is Jumping : Augie Meyers
5. Loco Vacquero : Flaco Jimenez
6. Mexico : Toby Torres
7. Mess With Taxas : Kevin Kosub
8. Tacoland Shuffle : Kevin Kosub
9. Deep In The Heart Of Texas 〜 Green Acres : Kevin Kosub
10. Hideaway : Charlie Beall
11. All Along The Watchtower : Charlie Beall
12. Black Cat : Charlie Beall
13. Mas Cerveza Y Dob Tacos : Steve Mallett
14. Stuck In The Middle Of Nowhere : Steve Mallett
15. Crazy : Steve Mallett
16. Give Me Power : The Rat Race Kid
17. Yonder Walls : Doug Sahm
18. Toghether Again 〜 I Love You A Thousand Ways : Doug Sahm 
 
 比較的知られているものでは、80年代のテキサスのローカル・ミュージシャンの音源をコンパイルした、"Deep In The Heart Of Texas"というコンピレーションがあります。

 そのディスクの「売り」がDoug Sahm(2曲)とAugie Meyers(1曲)のレア音源で、実は今回のディスクとは、それら3曲を含む7曲が重複しています。




 今回のディスクの売りは、Doug Sahmの2曲(トラック17と18)とAugie Meyersの1曲(トラック3)で、私の知る限りでは、レア音源ではないかと思います。
 (ただし、Kevinさんは、これら3曲を使いまわして同時期に別のコンピも作っているようで、本盤が初出かどうかは不明です。)

 なにか小金稼ぎの仕事にまんまと嵌っているみたいでいい感じはしませんが、バカなファン(私のような)は、ラヴ・イズ・ブラインドでのせられてしまいます。

 さてまず、Augie Meyersの"Little Fox"ですが、他の音源と同時期のものなら、80年代の録音となりますが、なかなか興味深いです。
 なぜなら、この曲は、その後、テックス・メックス・ビートルズと称される、The Krayolasに提供し、それだけでなくAugieが彼らのアルバムに参加して共演しているからです。
 Augie参加のKrayolas盤"Little Fox"は、彼らの08年リリースの"La Conquistadora"に収録されていて、確かシングル化もされていたように思います。
 ポップなTex-Mexで、いい曲です。

 "Deep In The Heart Of Texas"で既出の"The Joint Is Jumping"は、がらっと雰囲気の違うジャンプで、かのコンピのハイライト的な曲でした。
 久々に聴きましたが、やはりよいです。

 そして、Doug Sahmです。
 "Will You Love Me Manana"と"Whiter Shade Of Pale"の2曲は、やはり"Deep In The Heart Of Texas"に収録されていた曲です。

 "Whiter Shade Of Pale"は、ライヴ音源のようで、ほかのイリーガル(?)ライヴ盤にも入っていたバージョンかもしれません。
 "Deep In The Heart Of Texas"のクレジットによれば、バッハ風のオルガンを弾いているのは、Sauce (Arturo "Sauce" Gonzalesのこと …例のストックホルム・ライヴに参加していた人)となっています。

 今回、Doug Sahm & Randy Garibayとクレジットされた、"Will You Love Me Manana"は、先の"Deep In The Heart Of Texas"では、Sir Doug Saldana名義で収録されていました。
 曲はもちろん、ゴフィン&キング作のシレルズのカバー、"Will You Still Love Me Tomorrow"で、アコーディオンのイントロから、途中、スペイン語歌詞が入るバイリンガル・バージョンです。
 "Deep In The Heart Of Texas"のクレジットでは、アコ奏者がSantiago Jimenezとなっていますが、どうでしょうか?
 ボーカル、ギター担当のRandy Garibayは、Dougの古い友人で、晩年にソロ・アルバムを数枚出している、チカーノ・ブルースマンの異名を持つ素晴らしいシンガーです。
 (Doug Sahmの88年の名作ソロ、"Juke Box Music"で、"What's Your Name"をDougとデュエットしている人です。)
  
 さて、今回の目玉2曲です。
 "Yonder Walls"(原文のママ)は、古いブルースのカバーですね。
 私が最も親しんでいたのは、Elmore James盤ですが、DougはやはりJunior Parker盤がお手本でしょうか。
 他にも様々な人がやっている有名曲で、ハーピストが好んでやッていたというイメージがある曲です。
 ボーカルのバックでせわしないブルース・ギターが鳴っていますが、Doug自身のプレイでしょうか。
 ライヴのような歓声が曲の終わりに入っていて、次のメドレーに続きます。
 
 "Toghether Again 〜 I Love You A Thousand Ways"は、打って変ってカントリーの有名曲のメドレーです。
 バック・オーウェンス 〜 レフティ・フリーゼルのナンバーで、ベイカーズフィールド・カントリーとプリ・ペイカーズのコースト・ホンキートンクのリレーです。

 "I Love You A Thousand Ways"は、Augie Meyersが82年のソロ・アルバム、"Still Growin"(未CD化)でジャンプ・ブルース・アレンジでやっていて、大好きな曲です。
 ここでのDougのバージョンは、あまりひねらず、王道のホンキートンクですが、ロッキー・モラレスぽいサックス・ソロが入っていて、観客の口笛「ヒューヒュー」もかすかに記録されています。
 ろうろうと歌うDougの鋼のノドに萌えます。 

 いずれも絶対必聴とまでは言えませんが、埋もれさせるには惜しい演奏で、Doug、Augieのファンなら聴くほかないレア音源です。
 完成度だけで言うなら、Augieの"Little Fox"が一番の出来かも知れません。
 (Augieの自作でもありますので…。)
 でも、Dougのライヴ音源、とりわけカントリー・メドレーは、繰り返し聞くとじわじわと効いてきます。
 
 今夜は、引き続きDoug Sahm三昧で眠りにつきたい、そんな夜です。



Will You Still Love Me Tomorrow - (¿Me amaras mañana?)
by The Shirelles




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Doug Sahm Day
テキサス遥か (2011年11月18日)
白夜の国から (2010年11月18日)

The Krayolas
テックス・メックス・ビートルズ
マージーでフォーキー、そしてテキサス

Randy Garibay
チカーノ・ブルースマン


 

ストックホルムの贈り物

 北欧よ 白夜の国よ ありがとう
 ストックホルム、イエテボリ、マルメ、全ての美しいスウェーデンの街々を統べる神々よ
 今宵 サンアントニオ・レコードの製作スタッフに祝福を

 私は、あなたがたの素晴らしい仕事を 心から支持します。

 日の没さない国から 日出処の国へ届いた素晴らしい便り
 月の光のもと 贈り物を開き、震える手でディスクをセットすると 
 全能の魔神が現れて 私の願いを聞き入れてくれるのでした。

  (至福の時間) 

 そして…
 全私が泣きました 歓喜の涙です。

 1997年8月のストックホルム
 Doug Sahmの完全未発表ライヴ音源がCDリリースされたのです。


 
Live In Stockholm
Doug Sahm
Last Real Texas Blues Band

1. Farmer John (Don Harris, Dewey Terry)
2. Talk To Me (Joe Seneca)
3. Nitty Gritty (Doug Sahm)
4. Nuevo Laredo (Doug Sahm)
5. Dealer's Blues (Doug Sahm)
6. Bad Boy (Lilian Armstrong, Avon Long)
7. (Is Anybody Goin' To) San Antone (Dave Kirby, Glen Martin)
8. Pick Me Up On Your Way Down (Harlan Howard)
9. Adios Mexico (Doug Sahm)
10. (Hey Baby) Que Paso (Augie Meyers, Bill Sheffield)
11. Wasted Days & Wasted Nights (Freddy Fender, Wayne Duncan)
12. She's About A Mover (Doug Sahm)
13. Mendocino / Dynamite Woman (Doug Sahm)
14. Meet Me In Stockholm (Doug Sahm)
15. Treat Her Right (Roy Head, Gene Kurtz) 

 本盤は、スウェーデンのSan Antonio Recordsからリリースされました。
 私が入手したショップのインフォによれば、12年8月13日発売となっています。

 レーベルは、Soundcarrier / Gazell、番号はDOUGALIVE1です。
 Doug Alive 「ダグは生きている」ということでしょうか。
 いかにもブートっぽい番号ですが、ディスク、パッケージの作りともに、オフィシャルといっていいレベルです。

 単に大手からの販路がないだけで正規盤なんでしょうか。
 当初は、スウェーデンを中心にEU圏内の一部のショップのみで流通していたようです。
 
 それが、最近、各国アマゾンでも予約が開始されました。
 (MP3ダウンロード・アルバムは、8月11日から先行販売されていたようです。)

 本邦アマゾンのカタログ情報によれば、入荷するのはUS盤で、レーベルはGazellとなっています。
 (もしかすると、US盤と読むのではなく、単にアメリカから輸入という意味かも知れません。)

 パッケージは、三つ折りを畳んだデジパックで、中には署名のないライナーが掲載されています。
 ライナーは、音源の編集(長すぎるMCをカットした等の記述がある)に関することに加え、まるで当時現場にいたかのような、コンサート・レポ風の文章になっています。
 録音者とクレジットされている、Ad Koekkoekなる人物の文章なのかも知れません。

 以下は、ライナーの記述を参考に、私の感想をまじえてご紹介します。

 録音は、97年8月11日、ストックホルムのどこか、場所は明記されていません。
 MCは一部カットしたとありますが、コンサートのセットリストは完全に収録したと誇らしげにライナー氏が書いています。
 (収録時間は68分です。)

 ただし、最後のトラック15のみ、97年8月2日のベルギー、ローケレン(Lokeren)という街のどこかでの演奏となっています。

 当夜の参加メンバーは、以下の通りです。

Doug Sahm : guitar, lead vocals
Shawn Sahm : guitar, vocals
Jack Barber : bass
Fran Christina :drums
Al Gomez : trumpet
Rocky Morales : tenor saxophone
Arturo "Sauce" Gonzales : keyboads
Janne Lindgren : steel guitar

 既発のアントンズでのライヴ盤と比べると、基本的なメンツの揃え方は同じですが、北欧公演ということもあり、同行者は一部違っています。
 基本は、Augie Meyersが不参加ということで、それはアントンズ盤と変わりません。
 (アントンズ盤は、曲によって一部メンツにばらつきがあり、全て同一日ではなく、複数の公演の演奏が混ざっているのではと想像します。)

 オーギーがいれば、お呼びがかからなかったと思われる鍵盤奏者は、アントンズ盤と同じく、アルツロ・ソース(愛称)・ゴンザレスです。
 ソース・ゴンザレスは、ダグとは70年代からの付き合いで、タグの没後、ウエストサイド・ホーンズのリズム隊の一員となり、Rocky Moralesとともに、バンド・リーダー的な存在となった人です。
 (最近は、健康不安が伝えられています。) 

 そして、ドラムスは、Fabulous Thunderbirdsのフラン・クリスティーナです。
 この人は、テキサスの一流どころのセッションに多数参加していて、T-Birds以外では、Stevie Ray Vaughn、Jimmie Vaughn、Marcia Ballらのレコーディング、そして系統の違うところでは、Asleep At The Wheelとのセッション(79年"Served Live"、80年"Framed")にも参加しています。
 ダグとの共演は、ソフト化されたものでは、初めてかも知れません。
 ちなみに、アントンズ盤のドラムスは、George Rainsでした。

 ベースのJack barber、トランペットのAl Gomez、サックスのRocky Moralesは、アントンズ盤と同じです。
 ダグとの付き合いの長さでは、Rocky、Jack、Alの順でしょうか。

 そして、Dougの息子、Shawn Sahmがギターで参加しています。
 この人は、リード・ギターも弾く人ですが、80年代初めの、Sir Douglas QuintetのAustin City Limitsのライヴでは、まだリードの大半は親父のDougが弾いていました。
 しかし、本盤のライナー氏によれば、Dougは主にサイドを担当し、多くの曲でShawnがソロを弾いたとしています。
 また、多くの曲でコーラスをつけています。


Shawn Sahm


 ちなみに、アントンズ盤では、Derek O'BrienとDenny Freemanがギターで参加していました。
 Derek O'Brienは、Texas TornadosのAustin City Limitsにゲスト参加して、要所でソロを弾いている人です。
 一方、Denny Freemanは、ソロのギター・インスト・アルバムを2枚も出している人ですが、Derekと共演したアントンズ盤では、Dennyがサイドに回っていました。

 スチール・ギターのJanne Lindgrenは、おそらく唯一現地のアーティストではないかと思います。

 さて、本盤でのLast Real Texas Blues Bandは、アントンズ盤とは少し演奏の色合いが違います。
 基本のメンバー構成は同じにもかかわらず、セットリストを変えたため、結果として、とても興味深い演奏となっているのです。

 アントンズでは、ブルース、リズム&ブルースなどに特化したセトリでした。
 しかし、このストックホルム公演では、それに加え、アントンズではやらなかった、テックス・メックス、カントリーなどをやっています。
 このため、ゲストにスチール・ギターリストこそ迎えてはいますが、本来ならまだ足りません。
 オリジナルでは、フィドルやアコーディオンをフューチャーしていた曲を、ラップ・スチール、キーボード、ギターが代替しているのです。
 これが本盤を大変興味深く、希少なものにしています。

 まず、最初に結論めいたことを書かせてください。
 本盤に収められた演奏は、単に珍しいだけでなく、素晴らしい内容だと思います。
 録音の出力レベルが若干低いようですが、バランスは一定ですので問題ありません。
 少し音量を上げて聴き、別のディスクに替えるとき、元に戻してください。

 公演全体を通して、Doug Sahmの歌唱、バンドのパフォーマンスともに素晴らしいです。
 そして、曲間のDougの早口のしゃべりが絶好調で、これでもカットしたのなら、元は凄い量なんだろうなあ、と推察します。
 この2年後に急逝してしまうなんて、当日居合わせた幸福な人は、信じられない気持ちで当時の想い出を振り返ったことでしょう。

 

オールドウェイヴ ボーダーウェイヴ

 Sir Douglas Quintetが、80年代初期に所属していたTakama Records時代のスタジオ盤、"Border Wave"がCDリリースされました。
 私の知る限りでは、オリジナル仕様でのCD化は初めてだと思います。

 意外な気もしますよね。
 Doug Sahmで、CD化の遅れというと、この少し後のSonet時代が(ファンの間では)長年の懸案です。
 (近年になって、スウェーデン盤で、いくつか編集盤が出ました。)

 でも、Takoma音源は、何となく、とっくにソフト化されたような印象を持ってしまいがちです。
 Doug Sahmの他のTakoma音源はCD化済でしたが、実は本盤は(多分、おそらく、きっと)初CDなのでした。

 
Border Wave
Sir Douglas Quintet

1. Who'll Be the Next in Line (Ray Davies)
2. It Was Fun While It Lasted (Doug Sahm)
3. Down on the Border (Doug Sahm)
4. I Keep Wishing for You (Butch Hancock)
5. Revolutionary Ways (Doug Sahm)
6. Old Habits Die Hard (Doug Sahm)
7. You're Gonna Miss Me (Roky Rrickson)
8. Sheila Tequila (Doug Sahm)
9. Tonite, Tonite (Alvin Crow)
10. Border Wave (Doug Sahm)

 Doug SahmのTakama音源のディスコグラフィーは以下のとおりです。

LP
80年 Hell Of A Spell : Doug Sahm (TAK 7075) ソロ名義第一作
81年 The Beat Of Sir Douglas Quintet : Sir Douglas Quintet (TAK 7086) 既発曲の新録音ベスト
81年 Border Wave : Sir Douglas Quintet (TAK 7088) 本盤のオリジナル・アナログ盤
83年 Live Texas Tornado : Sir Douglas Quintet (TAK 7095) オースティンとL.A.でのライヴが混在
86年 The Collection : Sir Douglas Quintet (英Castle CCSLP-133) 2枚組(TAK 7086+TAK 7088)

CD
86年 The Collection : Sir Douglas Quintet (英Castle CCSCD 133)1枚もの(TAK 7086+TAK 7088のB面)
86年 Live Texas Tornado : Sir Douglas Quintet (TAKCD 7095)
87年 The Beat Of Sir Douglas Quintet : Sir Douglas Quintet (TAKAMA CDP-72786)
98年 Live Texas Tornado : Sir Douglas Quintet (Fantasy/CDTAK 6505)(ジャケ違い)
99年 Hell Of A Spell : Doug Sahm (Fantasy/TAKCD 6507-2)

 再発ものは、最初にリリースされた、代表的なもののみ記載しました。

 Takama時代は、Doug Sahmが、マーキュリー(69-73)でのサンフランシスコ時代を経て、アトランティック(73)で傑作を出しながらもセールスにつながらず、その後ワーナーで1枚、ABCで1枚を出したあと、次第にメジャー・レーベルから離れていった時期です。

 この頃、地元のAugieのレーベルからひっそり出していたアルバムを、スウェーデンのSonetから再発して、北欧とのつながりを深めています。
 そして、Takamaを離れたあとは、本格的にスウェーデンへと活動の拠点を広げ、Sonetから新作をリリースするようになります。

 本盤は、81年にオリジナルのLPが出されました。
 そして、86年には英Castleから、Takoma製ベスト盤(TAK 7086)とのカップリングで、2枚組LPが作られます。
 この時の2枚組は、AD面がTakama製ベスト、BC面が"Border Wave"という、変則的な構成になっていました。


 同じ年に出された同名のCDは、(まだ2枚組CDが珍しかったのでしょうか)2枚組LPをベースに、"Border Wave"のA面5曲をオミットした形で、1枚物のCDにまとめられました。
 これが、"Border Wave"の音源(の一部)を初めて使ったCDです。
 (なお、近年、スウェーデン発の編集盤CDに一部の曲が収録されました。)

 以降、私の知る範囲では、今回が、初めてオリジナル仕様でのCD化だと思います。

 さて、本盤でのSir Douglas Quintetのサウンドは、他の時期とは何となく違う雰囲気があります。
 ロック・コンボ的な側面を強く感じるサウンドで、曲によっては、Joe King Carrascoの初期を連想させるところもあります。

 最大の特徴は、サイド・ギターのAlvin Crowの存在でしょう。
 この人は、Doug Sahmの歴代サイドメンの中でも、特に個性的な一人だと思います。

 本盤でのメンツは以下のとおりです。

Doug Sahm : lead vocals, guitar
Augie Meyers : organ
Alvin Crow : vocals, guitar
Johnny Perez : drums
Speedy Sparks : bass
add.
Shawn Sham : vocals, guitar

 従来のQuintetは、パーソナルなサイド・ギターが決まっていませんでした。
 ギターは、Dougの1本だけのときが多く、時に応じてゲストが補助したりしていました。
 Alvinによってサイド・ギターの固定化が確立し、その後ゆっくりとLouie Ortegaへの交代が行われていきます。

 Alvinのメイン楽器はフィドルだと思いますが、本盤では一貫してギターを弾いています。
 そして、ボーカリストでもあり、メインで歌う出番もあるほか、多くの曲でハーモニーをつけています。
 実は、ウエスタン・スイング大好きという人なのですが、この頃は、しばしば初期のバディ・ホリーっぽいヒーカップを披露したりと、ロカビリー寄りの印象を受けます。

 Alvin CrowのQuintetでの在籍期間は、正確には分かりません。
 スタジオ盤への参加としては、本盤ないしは、同81年発売の"The Best Of Sir Douglas Quintet"からだと思います。
 それでは、バンドを離れたのはいつ頃でしよう。

 多分、Dougが北欧を活動の拠点にしだした頃から行動を別にして、オースティンに留まったのではないかと思います。
 ただ、86年リリースの覆面バンド、Texas Mavericksの"Who Are These Masked Men?"では、Rockin' Leonの変名で参加して、ギターをを弾きました。

 この時は、相変わらずの、バディ・ホリー風の唱法で、Johnny Cashの"Rock'n'Roll Ruby"を派手に決めて、ぶれない姿勢を見せています。
 (ちなみに、Texas Mavericksのリード・ギター、Johnny Xの正体は、Louie Ortegaではなく、元Freda & The FiredogsのJohn X. Reedです。この時は、珍しくも、ギター3本体制だったのでした。)

 さて、本盤のもうひとつの特徴は、ホーンレスだということです。
 Doug Sahmは、10代のころから、ホーンをバックにした録音を数多く行ってきました。
 Tribe時代のSir Douglas Quintetの頃から、それは自然に寄りそっていたのです
 初期Quintetのホーンは、テナー・サックスのFrank Morinで、彼はマーキュリー時代の終わり(70年頃)まで、Doug Sahmと密な関係を続けていました。

 Frank Morin(ts)の後は、お馴染みのRocky Morales(ts)、Louie Bostos(ts)、Charlie McBurney(tp)、Al Gomez(tp)らが頻繁に参加するようになりますが、中でもホーン一人体制の場合は、Rocky Moralesの参加率がダントツです。

 リズム・ギターのAlvin Crowの個性、そしてホーンレス、これこそが本盤を他のアルバムとは印象の違う存在にしている要因だと思います。

 アルバムは、Ray Daviesの作品、Kinksの"Who'll Be the Next in Line"の力強いカバーで始まります。
 これがまた、特異な例で、Doug Sahmがブリティッシュ・ロックのカバーをやるのは非常にまれなことです。
 他には、プロコム・ハルムの"Whiter Shade Of Pale"(青い影)くらいしか思いつきません。

 選曲の面でも、珍しいアルバムだったわけです。
 ホーンがないだけでなく、(Alvin Crowが参加しているにも関わらず)カントリー系の曲がないのも特徴です。

 さて、本盤のメンツの動く姿を見ることが出来るライヴ映像があります。
 CD、DVDともに出でいる、"Live From Austin TX"のSir Douglas Quintet盤です。
 (これは、TV番組のAustin City Limitsの81年収録の映像で、Doug Sahmは、ファンにとって幸せなことに、ソロ名義(70年代)、Quintet名義(80年代)、Texas Tornados名義(90年代)と、3つの異なった時代がソフト化されています。)


 映像を見ると、音だけでは気付かない、興味深い要素をいくつも発見します。
 本盤の収録曲のうち、Austin City Limitsでやっているのは、次の6曲です。
 (曲の並びは、ACLのセトリ順)

Down On The Border
I Keep Wishing For You
Who'll Be The Next In Line
Tonite, Tonite
Old Habits Die Hard
You're Gonna Miss Me

 これらの映像を見てから、再度本アルバムを聴き返すと、さらに楽しいです。

 まず、映像のAlvin Crowが若いです。
 Aivinのギターは、シングル・カッタウェイのセミアコ(グレッチ?)で、基本的にサイドのみのプレイです。
 そして、多くの曲でコーラスをつけています。
 Doug Sahmはテレキャスター、Shawn Sahm(Dougの息子)はレスポールです。
 Shawnは、ACLのセットリスト全17曲の内、7曲(上記6曲+1曲)に参加しています。

 全体的にレイドバックした雰囲気の曲が少なく、元気な曲、グルーヴィーな曲が多いです。
 Alvinの作品で、自身がリード・ボーカルを務める"Tonite, Tonite"は、やはりヒーカップ調、かつガッツ溢れる歌声で、元気一杯にかっ飛ばすファスト・ナンバーです。
 間奏のギター・ソロは、Dougです。

 Dougのオリジナルも、力強く躍動感のあるサウンドがほとんどで、若きAlvinの存在が、知らずのうちにバンド全体に影響を与えている気がします。
 (…近年のAlvin Crowは、二倍くらいの恰幅のいい体型になり、ゆったりとホンキートンクしています。)

 そんな中、フォーキーな"I Keep Wishing For You"が目立ちます。
 この曲は、(元)FlatlandersのButch Hancockの作品で、私は本人盤は未聴ですが、おそらく原曲は、ディランみたいなぶっきら棒なスタイルではないかと想像します。
 本盤では、Dougの手によってメロディの輪郭が明確にされ、美しいミディアム・バラードになっています。

 私が"I Keep Wishing For You"を初めて聴いたのは、Butchの盟友の一人、Joe Elyのバージョンで、確か、彼のライヴ盤"Live Shots"(のオマケの7インチ盤)で聴いたのでした。
 当時、「なかなかいい曲だな」とは思いましたが、Doug盤を聴くまでは、それほどの曲だとは思っていませんでした。

 Doug盤の仕上がりは、曲のポテンシャルを見事に引き出した、目が覚めるような素晴らしい仕事で、「ダグラス卿の魔法」とでも呼びたいです。
 この曲での間奏のソロは、Dougが弾いています。

 今回、本盤を久々にじっくり通して聴きました。
 そして、ACLの映像を合わせて見て、改めて強烈な魅力に惹きこまれ痺れました。

 やっぱり、Doug Sahmは、どの時代も最高です。



Who'll Be The Next In Line by Sir Douglas Quintet




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