本指標は過去に小売売上高と同時発表されたことが多くあります。同時発表されたときの反応への影響力は、小売売上高>PPI、の関係があります。よって、小売売上高と同時発表が行われるときは、本記事でなく、小売売上高の分析記事を参考にすべきです。
この分析の調査範囲は、2015年1月集計分〜2018年3月集計分(同年4月発表分)の39回分です。但し、反応方向に絡む分析では、前述の通り、小売売上高と同時発表された7回を除き、32回分の分析となります。
T.定性的傾向
【1. 指標概要】
PPI(生産者物価指数、Producer Price Index)は約10,000品目の販売価格(出荷時点価格)を調査・算出した物価指標です。1982年の平均物価を100として算出されています。PPIから、価格変動が大きい食糧・エネルギーを除いた指標がコアPPIです。
内訳には「品目別」「産業別」「製造段階別(原材料・中間財・完成財)」があり、「品目別」「産業別」を見て、結果(PPI・コアPPI)の解釈を行います。
本指標のイメージは、鉱工業・製造業企業の物価指数ですが、実際には輸送業・公益事業・金融業なども含まれています。CPIとの違いは、輸送費・税・補助金・小売業者粗利等が含まれていない点です。
本指標単独で発表されるときの反応程度はやや小さく、反応方向は(PPI前年比>コアPPI前月比>その他)の順に影響を受けます。
製造業原材料の仕入れ価格と連動しそうに思える輸入物価指数の推移は、単月毎に見比べる限り、本指標の推移と関係ありません。この結論は、一方の指標を前後3か月ずらして同じです。
ISM製造業景況指数の価格指数も同様です。単月毎に見比べる限り、本指標の推移とは関係ありません。この結論も、一方の指標を前後3か月ずらして同じです。
かつて、これら指標間には相関がある(一方が他方に対し先行性がある)と言われていました。がしかし、最近の傾向は異なる、ということです。
その理由は、@ 企業購買部門・販売部門の力量が上がり、以前のように商社などの中間業者の介在機会が減ったこと、A そのため、直材費(原材料費)に一定の利益を乗せて販売する時代ではなく、現在の市場価格を見ながら在庫期間が短くなるように売価が決まる時代へと変化してきたこと、B そして、米国製造業自体の退潮と、本指標に含まれて原価率がほぼ一定な輸送業・公益事業・金融業などの影響力が増したこと、が挙げられます。
【2. 反応概要】
過去の4本足チャートの各ローソク足平均値と、最も指標結果に素直に反応する直後1分足跳幅の分布を下表に纏めておきます。
指標結果に最も素直に反応しがちな直後1分足跳幅は、過去平均で13pipsです。この平均を超えて跳ねたことは34%しかなく、66%は平均以下しか跳ねていません。3回に2回程度は反応程度が平均を下回っています。
次に、2015年以降の反応平均値の推移を下図に示します。
2017年以降、本指標への反応が小さくなり、2018年になってからは、4回の発表のうち2回がCPIよりも後で発表が行なわれています。今後もPPIの発表がCPIよりも後で行われることが増えれば、本指標への反応は更に小さくなる可能性が高い、と思われます。
U.定量的傾向
分析には、事前差異(=市場予想ー前回結果)と事後差異(=発表結果ー市場予想)と実態差異(発表結果ー前回結果)を多用します。差異がプラスのとき陽線・マイナスのとき陰線と対応していれば、反応が素直だと言うことにします。
【3. 回数分析】
下図は発表結果と市場予想をプロットしています。市場予想は発表直前の値をプロットし、発表結果は後に修正値が発表されても定時発表値のままをプロットしています。
本指標発表値は前月分の集計データです。グラフ横軸は集計月基準となっています。データは集計月基準で整理しておかないと、他の同月集計の指標と対比するのが不便になるからです。
前年比は、PPI・コアPPIともに2015年10月集計分をボトム(底)に上昇基調に転じ、現在もそのトレンドが継続中です。
前月比は、PPIこそ市場予想が多少上下動しているものの、コアPPIの市場予想はほぼ一定のままです。PPI・コアPPIともに、市場予想を中心に発表結果が上下動を繰り返しており、これはこれで市場予想としてアテにできます。
ともあれ、このままでは見るべき項目が多いため、予め注目すべき点を絞り込みましょう。
事前差異は、1✕PPI前月比の事前差異+1✕PPI前年比の事前差異ー1✕コアPPI前月比の事前差異ー2✕コアPPI前年比の事前差異、という判別式の解の符号と、直前10-1分足の方向一致率が61%となっています。
市場予想が前回結果より良いか悪いかは、指標発表前の値動きとの相関が強くはありません。
事後差異は、1✕PPI前月比の事後差異+3✕PPI前年比の事後差異+1✕コアPPI前月比の事後差異+2✕コアPPI前年比の事後差異、という判別式の解の符号と、直後1分足の方向一致率が94%となっています。
発表結果が市場予想より良いか悪いかに、指標発表直後の反応方向は非常に素直です。
実態差異は、1✕PPI前月比の実態差異+1✕PPI前年比の実態差異+2✕コアPPI前月比の実態差異+2✕コアPPI前年比の実態差異、という判別式の解の符号と、直後11分足の方向一致率が68%となっています。
実態差異と直後11分足の方向一致率が、事後差異と直後1分足のそれより小さいときは、あまり取引に役立ちません。
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事後差異(横軸)に対する直後1分足(縦軸)の分布を下図に示します。
判別式通り、事後差異がマイナスならば直後1分足は陰線、プラスならば直後1分足は陽線になりがちなことがわかります。けれども、判別式の解の大きさと直後1分足の大きさの相関はあまり高くないようです。反応程度はさておき、反応方向だけでも当たるなら、判別式の意義はあります。
次に、直後1分足値幅と直後11分足値幅の分布を確認しておきましょう。
直後1分足値幅(x)に対する直後11分足値幅(y)は、回帰式(赤線)の傾きが1.40を上回っており、平均的にはかなり反応を伸ばす指標、と言えます。
つまり本指標は、発表結果の市場予想に対する良し悪しに最初から非常に素直に反応し、その素直な反応方向をそのまま伸ばしがち、と言えるでしょう。
(3.1 指標間時差分析)
その発表結果の良し悪しを予測するにも、残念ながら市場予想に対してどうかを予想する術はありません。先に発表されている他の指標結果から、今回の結果が前回より良さそうか悪そうかを予想するしかありません。それでも何も根拠がないよりはずっとマシです。
但し、問題はここで参照する他の指標がアテになるか否かです。
以前は、よく先に発表されていた輸入物価指数やISM製造業価格指数の実態差異を論拠に、PPIの実態差異を予想する記事を多く見かけたものでした。けれども、それら指標結果は本指標結果を予想する上でアテになりません。そのことを以下に示します。
さて、ふたつの指標間に関係があるかないかを調べるためには、両指標の実態指標を見比べなければいけません。そしてもし、それら指標間に先行性・遅行性の関係があるなら、一方の指標の実態差異を前後数か月ずらして他の一方の指標の実態差異と比べれば良いはずです。
但し、そのズラしはせいぜい2・3か月で、半年も1年も遡ったのでは意味がありません。その間に、両指標間の関係以外に多くの要素が影響して、指標間の先行性・遅行性といった関係は埋もれてしまうことでしょう。
まず、本指標と輸入物価指数との関係を確認しておきます。
輸入物価指数の実態差異を前後3か月ずらしても、本指標実態差異との方向一致率は50%以下となっています。むしろ、全体的には輸入物価指数が低下すれば本指標結果が上昇し、輸入物価指数が上昇すれば本指標結果は低下する、と言った方が良いぐらいです。この結論は、一方の指標を前後3か月ずらしても同じです。
つまり、輸入物価指数はPPIと逆相関がある可能性があります。事実がそうであれ、そうなってしまう理由はわかりません。
次に、ISM製造業景況指数の価格指数との関係を確認しておきます。
ISM製造業景気指数の価格指数の実態差異を前後3か月ずらしても、本指標実態差異との方向一致率は50%以下となっています。
よって、当月のPPI・コアPPIの発表結果が前回結果よりも良くなるか悪くなるか、少なくとも単月毎に見る限り、先行示唆している指標などありません。単月毎の一致率がこの数字では、例え、一致率を移動平均してみても、結論は同じです。
この項の目的は、先に発表された他の指標結果から本指標結果を予想する論拠を得ることでした。がしかし、かつてから相関があると言われていた輸入物価指数やISM製造業価格指数とは、本指標結果の予想に役立つ相関が見出せませんでした。
むしろ、それら指標の実態差異は、本指標実態差異との一致率が50%を下回っている以上、そんな話をアテにして本指標で取引を行うと、勝率50%に達しなくなってしまう、というのが結論です。
これはひどい話じゃないか。いかにも因果関係がありそうな話を論拠にすれば、初心者はそれを信じて全滅です。
(3.2 指標一致性分析)
指標一致性分析は、各差異と反応方向の一致率を調べています。
過去、市場予想は前回結果よりやや高めで、発表結果は前回結果や市場予想よりやや低めなっています。これは、2015年後半から長く続く指標結果の上昇基調が原因、と考えられます。
事後差異と直後1分足の方向一致率は94%とかなり高く、事前差異・実態差異と直後1分足の方向一致率も各61%・78%と高くなっています。
直後1分足の反応は小さくても、方向は指標結果に対して素直に反応していることがわかります。
(3.3 反応一致性分析)
反応一致性分析は、先に形成されたローソク足と後で形成されるローソク足の方向一致率を調べています。
直前1分足は陰線率が79%と、偏りが見受けられます。
また、直後1分足と直後11分足の方向一致率は68%と、意外に高くありません。
(3.4 反応性分析)
反応性分析では、過去発表後に反応を伸ばしたか否かを調べています。
直後1分足と直後11分足との方向一致率は68%です。その68%の方向一致時だけに注目したとき、直後1分足跳幅を直後11分足跳幅が超えて反応を伸ばしたことは86%です。そして全ての場合において、指標発表から1分を経過すると、直後1分足終値を超えて直後11分足終値が伸びていたことは48%です。
指標発表後の追撃を行っても良い数字ですが、ポジション長持ちには向いていません。様子を見ながら短期取引の繰り返して戦果を拡大する方が良いでしょう。
V.分析結論
以下に過去の直前10-1分足・直前1分足・直後1分足・直後11分足の始値基準ローソク足を示しておきます。
まず、小売売上高と同時発表だった7回を除いた直前10-1分足を下図に示します。
直前10-1分足は、過去平均跳幅が5pips、同値幅が3pipsです。陽線率は54%、事前差異との方向一致率は61%で、どちらに反応するかを事前に示唆する根拠はありません。ローソク足にはヒゲが目立っています。
直前10-1分足跳幅が過去平均の2倍の10pips以上だったことは過去3回あります(頻度9%)。
その3回の直後1分足跳幅は平均15pipsです。これは、直後1分足跳幅の過去全平均とほぼ同じです。そして、この3回の直後1分足の方向は、直前10-1分足の値幅方向と全て一致しています。
よって、直前10-1分足が10pips以上跳ねた場合は、まだ事例数こそ少ないものの、直後1分足の反応方向を示唆している可能性があります。
次に、直前1分足を下図に示します。
直前1分足は、過去平均跳幅が4pips、同値幅が2pipsです。陰線率は79%もあり、偏りがあります。ローソク足にはヒゲが目立っており、2017年後半からは陰線になりがちとは言えません。pipsも小さいので、無理に取引する必要はありません。
直前1分足跳幅が10pipsに達したことはありません。
よって、直前1分足が10pips以上跳ねたら、何か以前と異なる異常なことが起きている可能性があります。そういうときは危ないので、ポジションを取らずに様子を見た方が良いでしょう。
そして、直後1分足を下図に示します。
直後1分足は過去平均跳幅が13pips、同値幅が9pipsです。陽線率・陰線率は50%で、事後差異との方向一致率は94%と極めて高いことが特徴です。2017年以降は過去平均より反応が小さくなっているので、利確/損切は早めに行う方が良いでしょう。
前述の通り、直前10-1分足が10pips以上跳ねた場合は、直後1分足の反応方向を示唆している可能性があります。指標発表直前にポジションを取得し、発表直後の跳ねで利確/損切です。
指標発表後は、直後1分足と直後11分足との方向一致率が68%で、その68%の方向一致時だけに注目したとき、直後1分足跳幅を直後11分足跳幅が超えて反応を伸ばしたことが86%でした。がしかし、直後1分足終値よりも直後11分足終値が伸びていたことは48%でした。
指標発表直後に追撃を開始するなら、短期でなければいけません。
直後11分足を下図に示します。
直後11分足の過去平均跳幅は18pips、同値幅は12pipsです。直後11分足跳幅が20pipsを超えたことは2017年以降ありません。欲張りは禁物で、上下動を利用して2・3pips程度を繰り返し狙う方が良いでしょう。
一方、分布図を見る限り、発表結果の市場予想に対する良し悪しに最初から非常に素直に反応し、その素直な反応方向をそのまま伸ばしがち、でした。事例数こそ限られるものの、いわゆる抜けたら追うべき閾値は、直後1分値幅が陽線であれ陰線であれ15pips程度のように見受けられます。
けれども、本指標の影響力はあまり強くないので、1時間足チャートのレジスタンスやサポートを抜けることは滅多にありません。指標発表後は5分足チャートのレジスタンスやサポートを見ていれば十分でしょう。
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本指標の特徴は以下の通りです。
以下の特徴を踏まえた取引を行うか、その日の値動きが異常なら取引を止めるかがベターな選択肢と考えています。少なくとも過去の傾向に反した取引方法は、長い目で見ると勝率をさげてしまいがちです。
- 本指標単独で発表されるときの反応程度はやや小さく、直後1分足跳幅の3回に2回は15pips以下しか跳ねていません。反応方向は、PPI前年比>コアPPI前月比>その他、の順に影響を受けます。
製造業原材料の仕入れ価格と連動しそうに思える輸入物価指数や、ISM製造業景況指数の価格指数とは、本指標の発表結果が前回結果より良くなるか悪くなるかと関係ありません。単月毎に見比べる限り、一方の指標を前後3か月ずらしてもこの結論は同じです。
つまり、本指標結果を高い確率的再現性で予想する術はありません。 - 指標発表前に直前10-1分足跳幅が10pips以上だったことは過去3回あります(頻度9%)。1年に1回しか現れないサインですが、その3回の直後1分足は、過去、直前10-1分足値幅方向と全て一致しています。
まだ事例数が少ないものの、頭に入れておきましょう。 - 指標発表後は、直後1分足が陽線であれ陰線であれ終値が15pips程度に達すれば、直後11分足終値は直後1分足終値を超えて反応を伸ばしがちです。いわゆる「抜けたら追う」べき閾値(しきいち)は15pipsです。
但し、2017年以降は直後11分足跳幅が20pipsに達したことがありません。本指標は発表直後もその後10分も最終的に指標結果の良し悪しに素直に反応しがちなものの、反応が小さく影響持続時間が短いのです。よって、上下動を利用して2・3pipsずつ利確/損切を何回か繰り返し、その間の勝率で稼ぐ指標です。
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下表に、本ブログを始めてからの本指標シナリオでの取引成績を纏めておきます。
2017年は、本指標で8回の取引を行い、指標単位で7勝1敗(勝率86%)、シナリオ単位で11勝5敗(勝率69%)でした。1回の発表毎の平均取引時間は5分44秒で、損益は年間で+33pipsでした。
この指標ではこんなもんでしょう。
以上
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本記事は、同じ指標の発表がある度に更新を繰り返して精度向上を図り、過去の教訓を次の発表時の取引で活かせるように努めています。がしかし、それでも的中率は75%程度に留まり、100%ではありません。詳細は「1. FXは上達するのか」をご参照ください。
そして、本記事は筆者個人の見解に基づいています。本記事に含まれる価格・データ・その他情報等は、本記事に添付されたリンク先とは関係ありません。また、取引や売買における意思決定を、本記事の記載通りに行うことは適切ではありません。そして、本記事の内容が資格を持った投資専門家の助言ではないことを明記しておきます。記載内容のオリジナリティや信頼性確保には努めているものの、それでも万全のチェックは行えていない可能性があります。
ポジションを持つ最終的なご判断は読者ご自身の責任となります。その点を予めご了承の上、本記事がFXを楽しむ一助となれば幸いです。
ーーー注記ーーー
本記事における分析シート、一部乃至は一連の体系化された手順を、個人の取引以外の目的で使用・公開・二次利用を行う場合には、著作権者及びFX手法研究会に対し、連絡を取り何らかの合意を行う必要があります。
以上